- 作成日 : 2025年9月16日
創業融資に賃貸借契約書は必須?審査通過のタイミングと物件選びの注意点を解説
新たに事業を始めるにあたり、オフィスの賃貸借契約と創業融資は多くの創業者にとって大きな課題です。「融資が決まる前に高額な賃貸借契約を結んで大丈夫だろうか」「そもそも契約書がないと融資は申し込めないのか」といった不安を抱える方は少なくありません。
この記事では、創業融資と賃貸借契約の適切な順序、融資審査で評価される物件の条件、契約費用が融資対象になるのかといった疑問に答え、融資の申し込みから賃貸借契約まで円滑に進めるための具体的な手順を解説します。
目次
創業融資の申し込みと賃貸借契約の関係性
創業融資を申し込む際、事業を行う場所を確保していることは、計画の具体性を示す上で重要な要素です。金融機関は、しっかりとした事業基盤があるかを評価するため、物件の情報を求めます。
原則として物件の契約書は必要
日本政策金融公庫の創業融資の申し込みでは、原則として事業所の賃貸借契約書の提出が求められます。これは、事業計画の信憑性を裏付ける重要な書類となるためです。契約書によって、創業者が計画通りに事業を開始する意思と準備があることを客観的に示せます。特に店舗型のビジネスのように、事業所の存在が売上に直結する業態では、物件が確保されている事実が審査担当者に安心感を与え、評価につながります。
契約前の見積書や申込書で対応可能な場合も
融資が実行される前に賃貸借契約を結ぶことには、万が一審査に落ちた場合に費用が無駄になるリスクが伴います。そのため、一部の金融機関では、賃貸借契約書の提出に代えて、不動産会社が発行する「入居申込書」や「物件の見積書」での申し込みを受け付けています。これにより、申込者はリスクを抑えつつ融資手続きを進められます。ただし、この場合でも融資実行までには契約書の提出が条件となる場合があるため、注意が必要です。
日本政策金融公庫と制度融資の取り扱いの違い
日本政策金融公庫の創業融資制度と、信用保証協会を利用する制度融資とでは、必要書類の取り扱いに違いが見られます。
- 日本政策金融公庫
見積書など契約前の書類でも柔軟に審査を進めてくれる傾向があります。 - 制度融資
自治体や取扱金融機関によって対応が異なり、より厳格に契約書の提出を求める場合があります。
どちらを利用するにせよ、手続きをスムーズに進めるためには、事前に担当窓口へ必要書類について詳しく確認しておくことが不可欠です。
創業融資と賃貸借契約の最適なタイミング
最も安全で推奨される手順は、まず物件の目星をつけ、見積書などを取得して創業融資を申し込み、融資の内定を得た後に賃貸借契約を締結するという流れです。この方法であれば、融資が下りないかもしれないという不安を抱えながら、高額な初期費用を支払う必要がありません。金融機関の担当者には、この進め方を希望していることを率直に伝えることで、理解を得やすくなります。
創業融資の申し込み前に賃貸借契約を締結するリスク
もし融資の申し込み前に賃貸借契約を締結してしまうと、いくつかのリスクが生じます。最大の危険は、期待していた融資が受けられなかった場合です。その場合でも、契約した物件の家賃や初期費用は支払わなければならず、事業開始前に大きな経済的負担を背負うことになります。
また、自己資金が大幅に減ってしまうことで、たとえ融資が受けられても、その後の運転資金が不足する事態に陥る可能性もあります。
不動産会社によっては融資特約を付けられることも
賃貸借契約を進める際には、不動産会社や大家に対して「融資特約」を付けられないか相談してみるのも一つの方法です。「融資が承認されなかった場合には、この契約を白紙撤回できる」という内容の特約です。
すべての物件で認められるわけではありませんが、交渉の余地はあります。特に、創業支援に理解のある不動産会社であれば、相談に応じてくれる可能性が高まります。この特約があれば、安心して契約と融資手続きを同時並行で進められます。
融資審査で評価される賃貸物件のポイント
融資審査では、事業計画書の内容だけでなく、事業を行う物件そのものも評価の対象です。事業内容と整合性のとれた適切な物件を選ぶことが、審査通過の可能性を高めます。
事業計画との整合性
金融機関は、事業計画書に記載された売上予測や事業内容と、選んだ物件の立地や広さ、賃料に矛盾がないかを確認します。例えば、一般商材を扱う店舗なのに人通りの少ない裏路地にある、あるいは少人数で運営するIT企業なのに不相応に広いオフィスを借りている、といったケースは計画の妥当性を疑われる原因になります。事業内容に見合った、現実的な物件を選ぶことが大切です。
資金と物件取得費のバランス
賃貸物件の初期費用(敷金、礼金、保証金、前家賃など)は、創業時の資金において大きな割合を占めます。この物件取得費が高すぎると、資金の多くがそれに消えてしまい、事業の運転資金が不足すると判断されかねません。資金に対して、物件取得費が妥当な範囲に収まっているか、金融機関は厳しくチェックします。
自宅兼事務所で創業する場合の注意点
自宅の一部を事務所として利用して創業する場合、賃料の負担を抑えられるため資金計画上有利に働くことがあります。ただし、その物件が事業での使用を許可しているかは必ず確認が必要です。
- 規約の確認
賃貸マンションなどでは、規約で事業目的の利用や法人の住所登録を禁止している場合があります。事前に大家や管理会社に確認しましょう。 - スペースの明確化
融資審査においては、事業用スペースと生活スペースが明確に区分されているかどうかも見られます。間取り図を提出し、事業に使う範囲を具体的に説明できるように準備しておきましょう。 - 費用の按分
家賃や水道光熱費などの経費は、事業で使用する面積の割合に応じて按分し、経費計上します。この按分基準も説明できるようにしておくと良いでしょう。
融資申込時に提出する資金計画の具体性
融資を申し込む際は、物件取得にかかる費用をできるだけ具体的に、そして正確に資金計画書へ記載する必要があります。「事務所等費用」として大雑把にまとめるのではなく、「敷金」「礼金」「仲介手数料」「前家賃」のように項目を分けて金額を明記しましょう。不動産会社から取得した見積書を添付することで、計画の信頼性が増し、審査担当者の理解を得やすくなります。
賃貸借契約の費用は創業融資の対象になるか
事務所や店舗を借りる際の初期費用は高額になりがちです。これらの費用を創業融資でどこまで賄えるのかを正確に把握しておくことは、資金計画を立てる上で非常に重要です。
敷金・保証金の取り扱い
創業融資における資金の使途は、大きく「設備資金」と「運転資金」に分かれます。このうち、敷金や保証金は、退去時に返還される可能性があるため資産として見なされ、事業に必要な設備への投資である「設備資金」の対象となります。融資申込時の事業計画書には、これらの費用を設備資金として明確に計上することが可能です。これにより、自己資金を運転資金に多く充当できるようになります。
礼金の取り扱い
礼金は、一度支払うと返還されない費用であり、金融機関によって取り扱いが異なります。これらは「繰延資産」として扱われ、設備資金の対象に含めることが認められる場合もあれば、対象外とされることもあります。申し込み前に、利用する金融機関の担当者に確認しておくのが確実です。
創業融資と賃貸借契約の順序に注意しましょう
創業融資と賃貸借契約は、どちらも事業の成功に重要な手続きです。基本的には、物件の目星をつけた上で金融機関に融資を申し込み、内定を得てから正式に賃貸借契約を結ぶという流れが、不要な金銭的リスクを避けるための賢明な選択と言えます。
また、事業計画と整合性のとれた物件を選び、自己資金とのバランスを考慮することも、融資審査を通過するための大切な視点です。敷金や保証金は融資対象となる一方、礼金などは対象外となる場合があるため、詳細な資金計画の作成が求められます。
この記事で解説したポイントを踏まえ、不動産会社や金融機関の担当者と密に連携を取りながら、着実に準備を進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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