- 作成日 : 2025年8月19日
創業時に活用できる補助金は?申請の流れや採択のポイントを解説
創業を検討している方にとって、資金の確保は課題の一つです。自己資金や融資だけでなく、国や自治体が提供する補助金制度を活用することで、初期費用の負担を軽減し、事業の立ち上げをより安定して進めることが可能になります。
本記事では、補助金の基本的な仕組みから、創業時に活用する場合の申請の流れ、審査で重視されるポイントを解説します。
目次
補助金とは
補助金は、創業や事業拡大など一定の目的のための事業に対して、国や自治体が事業にかかる経費の一部を支援する制度です。返済不要で活用できる一方、申請には審査があり、採択されなければ受給できません。ここでは、補助金の基本的な仕組みと、助成金との違いについて解説します。
補助金の仕組み
補助金は、経済産業省や中小企業庁などが所管し、政策目的に沿った事業を後押しするために支給されます。主に設備投資や販路拡大、創業支援などが対象で、あらかじめ設定された補助率と上限額の範囲で、事業者の支出の一部が補填されます。補助金は公募形式で、申請書類や事業計画の内容が審査され、採択された事業者のみが受給できます。交付は後払い方式が一般的で、事業完了後に実績報告を行い、問題がなければ指定口座に振り込まれます。
助成金との違い
助成金は主に厚生労働省が所管し、雇用環境の整備や人材育成などを目的として支給されます。補助金と異なり、要件を満たしていれば基本的に受給できる点が特徴です。たとえば従業員の採用や育成に関する制度の導入などが対象で、創業期の人材確保にも活用できます。一方、補助金は採択制で競争があるため、制度の性質や申請方法を正確に理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。
創業時に補助金を活用するメリット
創業補助金は、資金面の支援にとどまらず、事業の立ち上げ全体において多面的な効果をもたらします。ここでは、創業補助金を活用することで得られるメリットを解説します。
資金繰りの負担を軽くし、自己資金を節約できる
創業補助金の最大のメリットは、初期費用の一部を公的資金でカバーできる点です。創業時には設備投資や広告宣伝費、販促費など、想像以上に多くの費用がかかります。補助金に採択されれば、それらの支出を軽減でき、自己資金や融資に過度に頼らずに事業をスタートできます。補助金は原則返済の必要がないため、資金調達後の返済負担を抱えることもありません。
たとえば、小規模事業者持続化補助金を活用すれば、補助率2/3で最大50万円の支援を受けられます。この場合、総事業費が75万円であれば補助金で50万円が支援され、自己負担は25万円で75万円分の販路拡大策を実行できます。
このように、限られた資金を効率的に使い、創業初期のスピード感を維持したまま事業を成長軌道に乗せることが可能です。公的支援があることで、他の資金を別の経営資源や施策に活用する余地も広がります。
信用力を高め、事業計画の質を磨ける
補助金に採択されることは、その事業が公的に評価された証とも言えます。この事実は、取引先や金融機関との関係構築においても有効に働きます。「補助金採択実績」があることで、信頼性が高まり、追加の融資交渉でもプラスに作用することがあります。実際に、補助金の交付決定通知を提示して金融機関から融資を受けやすくなった例もあります。
さらに、補助金申請のプロセス自体が経営者にとって学びとなります。申請書や事業計画書を作成する中で、ビジネスの目的、ターゲット市場、競合優位性、資金繰り計画などを明確に整理し直すことになります。この作業を通じて、創業者自身が自己の事業への理解を深め、今後の方針を具体的に描けるようになることは大きなメリットです。採択後も成果目標の達成に向けた進捗管理を意識するようになるため、結果として事業運営の精度が高まり、経営力そのものの底上げにもつながります。
創業時に利用できる主な補助金
創業初期には資金の確保が経営の大きな課題となりますが、公的な補助金制度を活用すれば、自己資金の負担を軽減しながら事業を軌道に乗せられます。ここでは、創業期に利用しやすい補助金制度を紹介します。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、中小企業庁が実施する補助金で、販路開拓や業務効率化を支援する目的で創設されました。創業間もない段階でも申請が可能で、開業届を提出していれば対象となります。一般型通常枠と呼ばれるケースでは補助対象経費の2/3以内(上限50万円)となっており、賃金引上げ枠や創業枠など、条件により上限200万円まで拡大する枠もあります。対象経費には広告費、チラシ制作費、店舗改装費などが含まれ、商工会や商工会議所の支援を受けながら申請を進めます。採択率は時期や枠により異なりますが、直近の公募回である令和5年度補正予算事業・第16回公募では約37%と発表されており、創業者にも活用されやすい制度です。
参考:小規模事業者持続化補助金|小規模事業者持続化補助金事務局
IT導入補助金
IT導入補助金は、業務効率化を目的としたITツール導入費用の一部を支援する制度です。創業初期の段階からクラウド会計ソフトや業務管理システム、EC機能を導入したい場合に有効です。申請は、登録されたIT導入支援事業者を通じて行う必要があり、補助率は1/2以内が基本ですが、条件によっては2/3や5/4になるケースもあります。補助上限は数十万円〜450万円ですが、複数社連携IT導入枠では合計で最大3,000万円まで拡大します。
ものづくり補助金
正式には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と呼ばれる制度で、革新的な商品やサービス開発、業務プロセス改善に伴う設備投資を支援します。創業後間もない企業でも、新規性のある事業内容であれば申請が可能です。補助額は750万円から最大4,000万円と類型によって異なり、補助率は1/2〜2/3とされています。要件に応じて加点措置もあります。申請にはGビズIDプライムを取得し、電子申請システムの利用が必要で、審査は書面中心に行われます。採択率は公募回によって異なりますが、30〜40%前後で推移しています。
参考:ものづくり補助金|全国中小企業団体中央会、ものづくり申請システムログイン|全国中小企業団体中央会
事業承継・M&A補助金
この補助金は、親族外承継やM&Aによる創業に対して交付される制度です。既存の事業を引き継ぎ、新たに会社を設立するケースや、譲渡を受けて新規開業する場合などが対象です。事業承継等に伴う経営資源の引継ぎや引継ぎ後の経営統合に係る費用の補助を受けられ、補助上限や補助率は公募時期によって異なります。申請にはGビズIDが必要で、電子申請(jGrants)が基本です。承継前後の財務資料や事業計画の精緻さも評価対象になるため、事前準備が重要です。
参考:事業承継・M&A補助金(11次公募以降)|事業承継・M&A補助金事務局
自治体の創業支援補助金
地方自治体も独自に創業支援を行っており、創業地に応じて活用できる制度があります。東京都では創業5年以内の企業を対象に、賃借料や人件費、広告宣伝費などに対し、補助率2/3・上限400万円の「創業助成事業」を実施しています。名古屋市では「名古屋市スタートアップ企業支援補助金」として最大100万円(条件により500万円)の補助制度があり、大阪市では新規性の高い取り組みを対象に助成する「大阪市イノベーション創出支援補助金」などがあります。また、地方創生の一環として「起業支援金」も全国で展開されており、東京圏以外*の地域で社会的意義のある事業を立ち上げる創業者に対し、最大200万円・補助率1/2以内で支援が受けられます。
*2025年度は、東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府以外の43道府県となっています。
参考:令和7年度「創業助成事業」|東京都、令和7年度名古屋市スタートアップ企業支援補助金|名古屋市、大阪市イノベーション創出支援補助金(令和7年度)|大阪市、起業支援金|内閣府
補助金の申請方法と交付までの流れ
創業補助金を活用するには、計画的に申請準備を進め、公募期間中に正確に書類を提出することが必要です。ここでは、創業に関する補助金の一般的な流れを解説します。
ステップ1:事業計画書と申請書類を準備・提出する
補助金の申請を始めるには、まず公募要領を確認し、制度の趣旨や応募条件、提出書類を把握することが重要です。創業補助金では、事業計画書や収支計画、誓約書などの書類が求められます。とりわけ事業計画書は、審査の根拠となるため、事業の背景、目的、具体的な取り組み内容、収益見通しなどを論理的にまとめて作成する必要があります。
現在は多くの補助金が電子申請方式を採用しており、中小企業庁関連の補助金のいくつかは「jGrants」というオンライン申請システムを利用します。この際、申請者はGビズIDプライムアカウントを取得しておく必要があります。また、jGrantsを利用しない申請システムにおいても、GビズIDプライムアカウントの取得が必要な場合があります。自治体独自の補助金では、郵送等による書類提出を求められるケースもあるため、募集要項に従って方法を選びましょう。
ステップ2:審査・採択結果を確認する
申請締切後、提出された書類は事務局によって応募要件の確認を受けたうえで、外部の専門家や有識者による審査が行われます。審査では、事業の独自性や社会的意義、地域経済への波及効果、計画の実行性、資金計画の妥当性などが評価されます。
この審査期間は補助金の種類や公募回、申請件数によって異なり、数ヶ月程度かかることも少なくありません。結果は事務局から通知されます。通知方法は補助金によって異なりますが、多くの場合は公式サイト上で採択事業者が発表されるか、応募者にメールで通知が届きます。採択された事業者にはその後、交付申請に関する案内が届き、再度予算内容や計画の詳細を調整する機会が設けられます。なお、不採択の場合でも通知はありますが、詳細な不採択理由までは開示されないことが一般的です。
ステップ3:補助事業を実施し、実績報告を行う
交付決定を受けたら、定められた実施期間内に事業計画に沿った取り組みを進めます。この期間中に発生した経費のうち、補助対象となるものについては、領収書や契約書、振込記録などをきちんと保存しておくことが求められます。補助金は原則「事後精算方式」で支払われるため、補助事業の開始時点では全額自己資金または借入による立て替えが必要となります。一部の補助金では概算払い(前払い)が可能なケースもあります。
事業完了後には、実績報告書を提出します。報告書には、事業実施内容、達成状況、支出明細などを記載し、証拠資料を添付します。計画からの変更がある場合は、必ず事前に承認を得なければならず、無断変更は補助金返還や取消の対象になることがあります。報告内容に問題がなければ、最終的な補助金額が確定します。
ステップ4:補助金を受け取る
実績報告が審査・承認されると、補助金が指定した銀行口座に振り込まれます。ただし、交付までには申請から数ヶ月かかるケースも多く、資金繰りに余裕を持って対応することが求められます。また、補助金が振り込まれた後も、一定期間は事業の経過報告を求められたり、帳簿の保存義務が課されたりすることがあります。制度によっては、事業終了後3年間の年次報告が義務付けられていることもあります。
創業時の補助金審査で採択されるためのポイント
補助金は申請すれば必ず受給できる制度ではなく、限られた予算の中で採択者が選ばれる競争型の仕組みです。ここでは、審査を通過するために押さえておきたいポイントを解説します。
事業計画書を明確で説得力のある内容にする
補助金審査の中心となるのが事業計画書です。読み手である審査員が短時間で事業の全体像と収益性を理解できるよう、構成を整理し、わかりやすい表現を心がけましょう。事業の目的、社会的意義、ニーズ、差別化要素、将来の収支見通しなどを、一貫性を持って記載することが重要です。加えて、売上や利益、従業員数の予測などには、市場調査や根拠データをもとにした現実的な数字を用いることで、信頼性が高まります。専門用語の多用は避け、誰が読んでも意図が伝わるよう丁寧に作成しましょう。
補助金の目的と加点要素に合わせて申請する
多くの補助金にはその設計意図に基づいた「評価項目」や「加点条件」があります。申請前に公募要領を熟読し、評価軸と合致する内容を事業計画に反映させましょう。たとえば、地域貢献型の補助金であれば、地域課題の解決や地元雇用の創出にどうつながるかを明記することが評価につながります。加点対象となる条件(賃上げの実施、新規雇用、認定取得など)も可能な限り満たし、その証明となる資料を添付することで、審査の加点につながる可能性が高くなります。
専門家のアドバイスを受けて仕上げる
初めて補助金に挑戦する場合は、専門家の支援を受けるのが効果的です。中小企業診断士や行政書士など、補助金申請の経験が豊富なプロに依頼することで、申請書類の完成度を高められます。商工会議所や支援センターでも無料相談やセミナーが開催されており、積極的に活用しましょう。第三者の客観的な視点でアドバイスをもらうことで、自身では見落としがちな点を補強でき、採択率向上につながります。
支援センターとは、「都道府県等中小企業支援センター」と呼ばれる公的な中小企業支援機関であり、全国に61機関あります。
創業時に補助金を利用する注意点
創業補助金は創業期の資金面を支える有効な手段ですが、メリットばかりに目を向けるのではなく、制度の性質や利用に伴うリスクも理解しておく必要があります。ここでは押さえておくべき注意点を解説します。
手続きや事務対応に労力がかかる
補助金申請から交付までのプロセスは長期にわたります。申請書類の作成や事業計画書の準備から始まり、申請手続き、審査、採択通知、交付申請、事業実施、実績報告、精算、そして交付まで、すべてを終えるのに半年から1年程度かかるケースもあります。さらに採択後も、経費証憑の整理や定期的な進捗報告、帳簿保管義務など、事務負担が続くことになります。
創業初期は営業や商品開発、販促など本業に専念したい時期ですが、補助金対応に多くの時間と労力を取られてしまう可能性があるため、業務リソースに余裕がない場合は負担になることもあります。
自己資金の準備が不可欠である
多くの創業補助金は補助率が1/2〜2/3程度と設定されており、すべての経費を補助金でまかなうことはできません。また、補助金は後払いが基本のため、いったんは補助対象経費の全額を自己資金や借入で立て替える必要があります。補助金を活用するには一定の資金的余裕が求められます。自己資金が不足している段階で補助金に依存すると、資金繰りが不安定になり、事業が停滞するおそれもあります。
採択されないリスクがある
補助金は申請すれば必ず受け取れるものではなく、予算枠の中で審査を通過した事業のみが対象となります。事業内容に優れていても、競争率が高ければ不採択となることもあり、また、記載ミスや不備が原因で申請が無効となることもあります。このような不確実性を踏まえ、補助金を前提とした事業計画を立ててしまうのは危険です。補助金がなくても事業を継続できるよう、あくまで「得られたら資金に余裕が出る」という補完的な位置づけで活用することが望まれます。
また、複数の補助金に応募しておくことで、採択されないリスクを分散することも一つの戦略ですが、同一の事業内容や対象経費に対しては、複数の補助金を重複して受給することは原則認められません。事前に各制度の取り扱いを確認しておくことが大切です。
補助金を活用して創業を成功につなげよう
創業時に利用できる補助金は、創業初期の資金負担を軽減し、事業計画の明確化や信用力の向上にもつながる心強い制度です。小規模事業者持続化補助金やIT導入補助金、ものづくり補助金など、目的に応じて活用できる支援策が多く存在します。ただし、申請準備や事務作業、資金繰り、審査への対応などに時間と手間がかかるため、制度の特徴を十分に理解し、事業計画全体の中で無理のない形で位置づけることが重要です。補助金はあくまで事業の“追い風”と捉え、堅実な創業を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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