• 作成日 : 2025年8月19日

日本政策金融公庫の融資の流れは?時間・費用・準備について解説

創業時の資金調達は、多くの起業家にとって大きな課題です。その中でも、日本政策金融公庫の創業融資は、無担保・無保証でも利用できる公的な融資制度として、はじめての創業者に広く活用されています。

本記事では、日本政策金融公庫の創業融資の概要から、申し込みの流れ、審査にかかる時間や必要書類、面談でよく聞かれる質問を解説します。

日本政策金融公庫の創業融資とは

創業時の資金調達において、日本政策金融公庫の創業者への融資は多くの起業家にとって頼りになる制度です。日本政策金融公庫では、2024年4月から創業者への融資制度について、従来の「新創業融資制度」を「新規開業資金」に統合し、さらに2025年3月から「新規開業・スタートアップ支援資金」に名称が変更されました。

政府100%出資の公的金融機関である日本公庫は、民間金融機関では借りにくい創業初期でも利用しやすく、法人・個人事業主を問わず幅広く対応しています。

無担保・無保証で利用できる融資制度

日本政策金融公庫の創業融資の特徴の一つは、担保や保証人が不要でも利用可能な場合がある点です。たとえば「新規開業・スタートアップ支援資金」などの制度では、自己責任で事業を立ち上げる方も利用しやすい仕組みとなっており、新たに事業を始める場合や事業開始後税務申告を2期終えていない場合には、経営者本人の連帯保証さえ原則免除となる特例制度も整っています。これは、創業時に資産が乏しい方にとって、大きな支援材料となります。

低利融資と利率優遇措置

金利面でも、日本公庫の創業融資は有利です。一般的な金融機関よりも低い金利が設定されており、さらに創業支援の一環として基準金利から一律0.65%が引き下げられる「特別利率」が適用される場合もあります。返済期間も柔軟で、設備資金なら最長20年、運転資金なら最長10年と長期返済が可能です。据置期間の設定も可能で、事業が安定するまでの資金繰りにゆとりをもたせられます。

創業期に利用できる具体的な制度内容

公庫は次のような、創業期に活用できる融資制度を幅広く提供しています。

資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)

資本性ローンは、創業期に限らず、新事業の展開や再建を目指す企業向けの制度です。無担保・無保証人で利用でき、返済は最終回にまとめて行う形になります。期間中は利息のみの支払いで済み、一定の場合には利率が0.5%と低く抑えられます。会計上は負債ですが、金融機関が融資先の資産査定を行う際に自己資本とみなせるため、他の金融機関からの追加融資が受けやすくなるなど、財務体質の改善効果が見込まれます。

参考:挑戦支援資本強化特例制度|日本政策金融公庫

新規開業・スタートアップ支援資金

創業者支援としてのこの制度は、女性・若者・シニア起業家や、地方創業、再チャレンジ起業など幅広く支援しています。さらに、中小会計を適用して創業する人も含めて通常よりも有利な条件で支援が受けられます。特定属性の起業家に対する有利な利率等が適用されます。

参考:新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫
新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融公庫

スタートアップ支援資金

ベンチャーキャピタル協会に所属する会社から出資を受けるなどの要件を満たし、事業計画書を策定している企業向けの支援として「スタートアップ支援資金」があります。

融資限度額が20億円と大型の貸付制度であり、設備資金・運転資金とも20年以内(うち据置期間10年以内)となっています。

参考:スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫

日本政策金融公庫の融資の流れ

日本政策金融公庫から創業融資を受けるには、いくつかのステップを踏む必要があります。ここでは、事前相談から申請、審査、融資実行、そして返済開始までの流れを解説します。

(1) 事前相談と準備

まずは、融資に向けた準備段階として、日本公庫の支店や電話相談窓口で事前相談を受けることが可能です。事業内容に応じて適切な制度の案内や、申請時に必要となる書類、資金計画の目安などを確認できます。準備段階での要となるのが「創業計画書」の作成です。事業の概要、収支予測、資金使途などを明確にまとめておく必要があります。また、飲食業や建設業など、開業にあたって許認可が必要な場合は、その取得も事前に済ませておきましょう。

(2) 融資申込(オンライン申し込み)

融資申込については日本公庫のオンライン申請システムが推奨されています。インターネット経由で24時間いつでも受付が可能で、スマートフォンやパソコンから申し込みできます。法人の場合は「本店所在地」、個人事業主の場合は「開業予定地」を管轄する支店が基本的な申込先となりますが、必要に応じて居住地の支店での対応も可能です。郵送で提出することもできますが、オンラインのほうが手続きが早く進む傾向があります。

(3) 必要書類の準備・提出

申請には、創業計画書や本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)をはじめ、法人であれば登記事項証明書(登記簿謄本)、個人事業主であれば開業届などが必要です。その他、設備資金を借りる場合は見積書、許認可が必要な業種では許可証の写し、通帳コピーなども求められます。電子申請では、すべての書類をスキャンしてアップロードする形式となるため、事前にデータ化しておくとスムーズです。

(4) 融資面談と審査

書類提出後は、日本公庫の担当者との面談が行われます。ここでは創業計画書の内容をもとに、事業の実現可能性や返済能力についてヒアリングが行われます。創業の動機、経営者の略歴などから、売上見込み、仕入先、取引先、資金使途、自己資金の蓄積状況など、実務的な質問に対して、具体的かつ説得力ある回答が求められます。面談では商品見本や広告資料、契約予定の書類、通帳コピーなどを持参すると、説明の裏付けとなり有効です。近年では、ビデオ会議システムを用いたオンライン面談に対応している支店も増えています。

(5) 融資内定と契約手続き

面談後、数週間程度の審査期間を経て、融資が内定すれば日本公庫から書面または電話で連絡が入ります。内定後は、契約書類の取り交わしに進みます。電子契約サービスを利用すれば、インターネット上で手続きが完結するため、郵送よりも迅速に融資実行へ進むことが可能です。電子契約を利用しない場合は、契約書への署名・押印、必要書類の同封と返送を行うことで契約が成立します。

(6) 融資金の受け取りと返済開始

契約が成立すると、指定の口座に融資金が振り込まれます。振込日はあらかじめ担当者から連絡があり、通常は数営業日以内です。返済は月ごとの定額支払いで行われる「元利均等返済」方式が一般的に選ばれています。他にも、元金部分が均等な「元金均等返済」や、当初は軽く、徐々に増える「ステップ返済」なども選択可能です。契約時に相談しながら適切な返済方法を決定します。

事業が軌道に乗る前に返済が厳しくなる場合も想定されるため、もし支払いが困難になりそうな場合には早めに日本公庫へ相談することが大切です。柔軟に返済計画の見直しに応じてもらえるケースもあります。

創業の融資審査にかかる時間・費用・必要書類

日本政策金融公庫の創業者への融資を利用するには、審査に要する時間や提出書類、費用負担などを事前に理解しておくことが大切です。ここでは、実際の申し込みに向けて準備すべきポイントを解説します。

審査にかかる時間の目安

日本政策金融公庫の創業融資では、申請から融資実行までにおおよそ2〜3週間程度が目安とされています。これは、書類審査と担当者との面談、そして本部での最終審査と融資決定までの一連の流れにかかる標準的な日数です。

面談や追加資料の提出などで1ヶ月〜1.5ヶ月程度かかることも珍しくなく、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

さらに、繁忙期(年度末や年度初め)や提出書類に不備がある場合、または確認事項が多い業種での申請などではさらに時間を要するケースもあります。

また、融資決定後の契約・振込手続きにさらに数日〜1週間程度を見込んでおくとよいでしょう。創業日や設備の導入タイミングに合わせてスケジュールを立てる際は、少なくとも1か月前には申請を開始しておくと安心です。

申請時に発生する費用

日本政策金融公庫の創業融資では、原則として申込時に手数料はかかりません。ただし、融資が実行される際には「印紙税」が発生します。印紙税は融資額に応じて変動します。たとえば、融資額が100万円超500万円以下の場合は2,000円、500万円超1,000万円以下の場合は10,000円の印紙税が必要です。

印紙は紙の契約書に貼付するもので、電子契約においては不要です。

また、担保を提供する場合には登記手数料や登録免許税が別途必要になることがあります。ただし、創業に係る融資の多くは無担保・無保証であるため、こうした費用が発生しないケースも多いです。

このほか、創業支援の専門家に依頼して書類作成をサポートしてもらう場合には、5万~20万円程度の費用が発生することもありますが、これは任意です。

必要書類

創業者への融資を申し込む際に必要となる書類は、申請者の事業形態(法人か個人事業主か)や資金の用途によって異なります。ただし、すべての申請者に共通して求められるのが「創業計画書」と「本人確認書類」です。

創業計画書には、事業の概要、資金の使い道、売上見通し、仕入先、販売方法などを具体的に記載します。これが審査における最重要資料となるため、説得力のある内容を作成する必要があります。

加えて、法人の場合は登記事項証明書(登記簿謄本)や法人印鑑証明書、個人事業主の場合は開業届や直近の確定申告書などが必要となります。さらに、設備資金を申し込む場合には見積書、店舗や事務所の賃貸契約書、必要に応じて営業許可証のコピーなども求められます。

提出書類に不備があると審査が遅れる原因になるため、申請前に必要書類リストを確認し、早めに準備を進めておきましょう。日本政策金融公庫のホームページの書式ダウンロードサイトにも詳細が掲載されています。

参考:各種書式ダウンロード(国民生活事項)|日本政策金融公庫
各種書式ダウンロード(中小企業事業)|日本政策金融公庫

日本政策金融公庫の融資審査を通過するためのポイント

創業融資を成功させるには、単に書類を整えるだけではなく、審査担当者に「信頼できる」と思ってもらえる内容と姿勢を備えることが大切です。ここでは、融資審査を通過するために重視すべき要素を3つの観点から解説します。

計画書を具体化する

創業計画書は、金融機関が事業の実現可能性を判断するための基礎資料です。そのため、記載内容があいまいだったり、数字の根拠が乏しかったりすると、評価が下がる原因になります。「売上は〇万円の予定」と書くだけでなく、「ターゲット層は〇人で、そのうち〇%が月に〇回利用する」というように、予測の根拠を具体的に示すことが大切です。また、仕入れルートや販路、競合との差別化、支出の見込みとも整合性を持って記載すると、説得力が高まります。

自己資金を正確に示す

日本政策金融公庫では、自己資金がどれだけ用意されているかを「創業者の本気度」として見ています。「新規開業・スタートアップ支援資金」においては、自己資金要件は撤廃されているものの、審査を有利に進めるためには、一般的に2〜3割程度の自己資金を用意することが望ましいでしょう。ここで大切なのは、事業用に貯めた通帳などにきちんと履歴が残っている自己資金を用意することです。融資申込の前に他人から借りて一時的に預けたような資金は「見せ金」と判断され、審査に大きな悪影響を与えます。通帳や貯蓄計画も含めて「どのように貯めたか」を説明できるようにしておきましょう。

面談で信頼を得る

融資審査の最終段階では、担当者との面談があります。この面談では、計画書に記載された内容をもとに、実際の考えや準備状況について質問されます。緊張する場面ではありますが、「落ち着いて、誠実に答える」ことが何よりも大切です。わからないことを聞かれても、その場しのぎで答えず、「調査中です」「○月に取得予定です」と正直に伝えることで、信頼を失わずに済みます。また、服装や言葉遣いといった基本的なマナーも評価の一部となります。

創業融資の面談でよくある質問内容

日本政策金融公庫の創業融資の面談では、創業計画書に基づいた質問が行われ、申込者の姿勢や理解度も評価されます。ここでは、よく聞かれる質問と審査担当者が重視するポイントを紹介します。

売上予測の根拠

面談で特によく聞かれるのが、「売上の根拠は何ですか?」という質問です。創業計画書に月商や年商の見込みを記載していても、その数字がどのように算出されたかが明確でなければ説得力がありません。担当者は、「どの市場に」「どのくらいの客数がいて」「単価はいくらか」といった数値の積み上げを確認したいのです。すでに予約がある、テスト販売で実績がある、同業の統計をもとにしているなど、根拠が具体的であれば評価されやすくなります。

事業の継続性

創業者の熱意や事業の継続性も審査において重視されます。たとえば、「なぜこの事業を選んだのか」「どのような経験やスキルがあるのか」といった質問を通じて、事業に対する理解度や準備の深さを測ろうとします。計画書に書かれた内容と回答が一貫しているか、質問に対して落ち着いて答えられるかがポイントです。事業への本気度が伝われば、担当者の信頼を得やすくなります。

自己資金や支出計画

面談では自己資金の金額や貯め方についても質問されます。たとえば、「この自己資金はどのように準備しましたか?」「資金の使い道は具体的に決まっていますか?」といった形です。通帳の履歴や、見積書・契約書などの裏付けがあると、計画の実現可能性が高いと判断されます。見せ金と誤解されないよう、事前に説明できる準備をしておくことが大切です。審査では、書類と本人の説明の整合性が問われます。

流れをつかんで日本政策金融公庫の創業融資を成功させよう

日本政策金融公庫の創業融資は、無担保・低利で利用できるケースも多いことから、多くの起業家に選ばれている資金調達手段です。創業計画書や自己資金、信用情報など、事前に整えておくべき要素は多岐にわたりますが、丁寧に準備し、面談にも誠実に対応することで審査通過の可能性は大きく高まります。融資の流れを理解し、正しいステップで準備を進めましょう。


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