- 作成日 : 2025年8月19日
日本政策金融公庫の融資担当者に「厳しい」と言われたら?主な理由や審査対策を解説
日本政策金融公庫の融資は、創業者や中小企業にとって心強い資金調達手段です。制度が柔軟である一方で、審査では自己資金の割合や事業計画の精度、信用情報、経営者の経験など多面的に判断されます。
本記事では、融資審査で担当者から厳しいと言われた場合の主な背景を整理し、審査通過のための準備や改善ポイントを解説します。
目次
日本政策金融公庫の融資審査とは
日本政策金融公庫は、政府が100%出資する金融機関であり、原資は国民の税金です。そのため、融資判断においては「公的資金の適正な運用」という観点が強く求められています。事業性や返済能力に加え、計画の実現可能性や経営者の姿勢なども総合的に評価されます。一般の銀行より柔軟に見える制度でも、基準を満たさなければ融資は実行されません。
審査基準・通過率は非公開
日本政策金融公庫は、審査基準や通過率を公式には公開していません。担当者に確認しても「詳細は非公開」と明言されており、他の金融機関との難易度比較も難しいのが現状です。一部の創業支援専門家によると「通過率は50%前後」と推測されていますが、これは裏を返せば半数は審査に通らないということです。一般の銀行より高い通過率とも言われますが、決して楽観できる水準ではありません。申込者側が独自に判断せず、慎重な準備が求められます。
制度変更後も実質的な審査は厳格に続いている
2024年4月、日本政策金融公庫は「新創業融資制度」を廃止し、新たに「新規開業・スタートアップ支援資金」に制度を一本化しました。この変更により、形式的には自己資金要件(従来は創業資金総額の1割以上)が撤廃され、創業時でも無担保・無保証人で融資を受けやすくなりました。ただし、要件の緩和がそのまま審査通過のしやすさに直結するわけではありません。現場の審査では、今でも自己資金の有無や金額、資金の準備方法などを重視する傾向にあります。
融資の担当者から「厳しい」と言われた場合の意味
日本政策金融公庫の担当者から「今回の融資審査は厳しいですね」と伝えられるとき、一般論として審査基準が高いという意味だけでなく、申込内容に何らかの懸念点があることを示唆している可能性があります。担当者は審査のプロセスや基準に照らし、融資可否の見込みをある程度把握しています。その上で「厳しい」と表現する場合、たとえば自己資金が不足している、事業計画に不備がある、借入希望額が大きすぎる等、審査上の課題があることを遠回しに示しているケースが多いです。
融資の担当者から「厳しい」と言われる主な原因
日本政策金融公庫の融資審査では、複数の観点から事業者の状況が評価されます。その中で、担当者から「今回は厳しいかもしれません」と言われる場合、どこに問題があるのかを把握しておくことが大切です。ここでは、代表的な原因を4つ取り上げて解説します。
自己資金の割合が不足している
日本政策金融公庫の創業融資では、自己資金の有無とその比率が重視されます。2024年の制度改正により、形式的な「自己資金1割以上」という要件は撤廃されましたが、審査現場では今でも自己資金の割合が審査通過に影響を与える傾向が続いています。自己資金が少ないと「資金繰りに余裕がない」「事業への本気度が足りない」と見なされ、審査に不利になることがあります。
公的な基準はありませんが、多くの専門家が経験則上の目安として『融資希望額は自己資金の2〜3倍程度までが堅実』と指摘しています。事業計画の質が高ければ5倍程度の融資事例も見られますが、それ以上を希望する場合は審査の難易度が上がると考えられています。
事業計画書に説得力が欠けている
創業融資において、事業計画書(創業計画書)の内容は重要な審査資料です。面談ではこの計画書に基づいて、売上予測や利益計画、運転資金の使途などが細かく確認されます。もし売上や客数の見積もりが過度に楽観的であったり、原価や経費の積算に根拠がなかったりすると、「計画に信頼性がない」と判断され、融資を見送られることがあります。また、収支の整合性に矛盾がある場合も同様です。計画書は、数字の羅列ではなく、「なぜこの数字なのか」「どうしてその見込みがあるのか」を説明できる内容にしておく必要があります。
信用情報や返済能力に懸念がある
日本政策金融公庫は審査にあたり、申込者の個人信用情報を確認しています。クレジットカードの支払い遅延、携帯料金の未納、ローンの延滞などがあった場合、それが履歴に残っていると審査に不利となる可能性があります。また、現在の借入状況も見られるため、他社借入が多かったり、総返済負担が高かったりすると、「返済能力に疑問がある」と判断されかねません。担当者から「返済計画が厳しい」と伝えられた場合は、希望融資額に対して収支や返済負担が過剰であると判断された可能性があります。まずは、借入の整理や計画の見直しが必要です。
経験やスキルに不安があると見なされている
創業者本人の業務経験や資格、スキルも日本政策金融公庫の審査においては注目されるポイントです。過去に同じ業種での実務経験がある場合、事業運営に必要な知識や人脈を有していると評価されます。一方で、まったく未経験の分野での創業や、業界の知識が乏しいと見なされる場合は、計画自体の信頼性が損なわれることがあります。「この分野で本当にやっていけるのか」と疑問を持たれた際には、事業の準備状況や補完するパートナーの存在、研修・学習の履歴などを補足資料として提示することが有効です。
融資審査で「厳しい」と言われた場合の対処法
日本政策金融公庫の面談や打ち合わせの場で、担当者から「今回は審査が厳しいです」と告げられたら、焦らず冷静に対話を進めることが大切です。ここでは、その場で取れる対応と、万が一不承認になった場合の次の一手を紹介します。
担当者に懸念点を確認して即座に対応する
「厳しい」と言われた時点で、何が課題なのかを明確にしましょう。面談中であれば、「具体的にどのあたりを懸念されていますか」と率直に質問して構いません。自己資金が不足している場合は、「準備済みの資金を自己資本に組み入れたい」「親族からの支援予定がある」など、自己資金を補強する意向を伝えることで、印象が変わる可能性があります。
また、借入希望額が高すぎると判断された場合には、「この金額まで減額しても事業は成立します」と柔軟に条件を見直すことも一つの方法です。融資額を減額したことで承認されたケースは多くあります。重要なのは、担当者の言葉を否定的に受け止めるのではなく、「改善できる余地がある」という前向きなサインと捉えることです。
不承認になった場合に備えて再申請の準備を整える
万が一、融資が不承認となった場合でも、それが終わりではありません。日本政策金融公庫では、条件を改めて整えることで再申請が可能です。ただし、まったく同じ内容で短期間に再申込を行うことはできず、通常は半年以上の期間を空ける必要があります。
この間に行うべきは、事業計画の見直しと自己資金の増強、実績の積み上げです。たとえば、実際の売上や契約実績を増やして信用力を高めることで、次の申請時にはより確かな計画として評価される可能性が高まります。前回指摘された課題点を明確にし、それを一つずつ潰していく意識で準備を進めましょう。
他の資金調達手段を柔軟に検討する
日本政策金融公庫の融資に固執するあまり、事業開始のタイミングを逃してしまうのは本末転倒です。不承認となった場合は、他の資金調達手段も積極的に視野に入れてください。たとえば、信用保証協会が保証人となる制度融資や、地方自治体の創業支援融資、民間金融機関のビジネスローンなどがあります。
また、補助金や助成金を組み合わせることで、資金負担を抑えた創業も可能です。近年では、スタートアップ向けのベンチャー投資やエンジェル投資家からの資金提供も徐々に拡がっています。自社の成長ステージや資金用途に合わせて、複数の調達手段を組み合わせることが、安定した経営基盤の構築につながります。
専門家のサポートを受けて再挑戦に備える
融資審査で不安がある場合や、一度断られてしまった場合は、創業融資に強い専門家に相談するのも有効です。税理士、中小企業診断士、公認会計士など、融資申請の支援実績を持つ専門家は、事業計画書のブラッシュアップや面談対策のノウハウを持っています。
専門家の力を借りることで、融資審査に通るための具体的な改善点が明確になり、再申請の成功率も高まります。費用はかかりますが、希望額の融資を確実に引き出せれば、結果的に費用対効果の高い投資になるでしょう。
日本政策金融公庫の審査に通るためのポイント
日本政策金融公庫の創業融資は、申請のハードルが低い反面、「思ったより審査が厳しかった」と感じる方も少なくありません。審査通過のためには、審査の流れと評価される観点を正しく理解した上で、準備を整えることが欠かせません。ここでは、主な3段階である信用審査・書類審査・面談審査ごとの対策を解説します。
【信用審査】信用情報と自己資金を整える
日本政策金融公庫の審査では、まず申込者の信用情報がチェックされます。過去のクレジットカード利用履歴やローンの返済状況、税金や公共料金の滞納がないかといった点が対象です。もし現在進行中の支払い遅延や未納がある場合は、融資申請の前に速やかに清算し、信用情報を健全に保っておくことが求められます。
また、自己資金の額も審査における評価ポイントです。形式上の自己資金要件は撤廃されましたが、現場の審査では今なお自己資金の比率が重視される傾向にあります。創業準備で使った費用については、領収書などを提出することで「みなし自己資金」としてカウントしてもらえる場合があります。さらに、親族からの支援や不要資産の売却などで資金を追加できる見込みがあれば、事前に整理しておくとプラス評価につながる可能性があります。
【書類審査】説得力ある事業計画書を作成する
信用審査を通過すると、次は提出書類、特に創業計画書の中身が審査されます。計画書に記載する数字や事業の見通しに説得力があるかどうかが判断されるため、しっかりと準備を進める必要があります。
まず、売上や利益の予測は、業界の平均や地域の市場規模を参考に、現実的な範囲で設定します。楽観的すぎる予測はかえってマイナスに評価されるため、最悪のケースでも返済が可能なシナリオを意識しましょう。次に、費用計画では毎月の経費や必要な運転資金を正確に算出し、最低でも3~6か月分の余裕を持つことが望ましいとされています。
また、申請額が大きすぎると「過大な借入」と見なされる可能性があるため、適切な希望額に見直すことも審査通過の一因になります。数字全体に整合性があるかを確認し、収支のバランスやキャッシュフローの流れが矛盾していないようにチェックしておくことが大切です。
最後に、自身の業務経験や事業に対する強みも計画書に盛り込むことで、計画の実現性を補強できます。業界経験や資格、顧客ネットワーク、開業予定地の選定理由など、融資担当者が「この事業は成功する」と感じる材料を積極的に提示しましょう。
【面談審査】一貫性と信頼感を持って臨む
書類審査を通過した後は、融資担当者との面談が行われます。ここでは、計画書の内容をもとに、事業の詳細、創業動機、起業後の見通しなどについて質問されます。面談の目的は、計画書と実際の認識にズレがないかを確認し、事業主としての信頼性を判断することにあります。
質問にはすべて自分の言葉で答えるように心がけましょう。数字に関する内容はスムーズに説明できるように準備し、想定される質問にはあらかじめ回答を考えておくと安心です。また、無理に取り繕わず、分からないことは「確認して後日ご連絡します」と誠実に対応する方が好印象につながります。
さらに、服装や態度といった第一印象も軽視できません。身だしなみを整え、丁寧で明快な受け答えを意識することで、担当者からの信頼を得やすくなります。面談では、事業への熱意や責任感も大きな評価対象です。真摯な姿勢で面談に臨むことが、融資実行への後押しとなるでしょう。
審査を厳しいと感じたときこそ、準備と姿勢を見直そう
日本政策金融公庫の融資審査は、制度の柔軟さに反して厳格な判断が行われます。担当者から今回は融資が厳しいと言われるのは珍しいことではありません。背景には自己資金、事業計画、信用情報、経験など、審査上の明確な評価軸が存在します。だからこそ、原因を正しく理解し、必要な改善を施すことで、再チャレンジの可能性は十分に広がります。焦らず冷静に、改善と対話を重ねながら、戦略的に審査突破を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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