- 作成日 : 2025年10月21日
3500万円以上の創業融資はどこで受けられる?条件・特徴を徹底比較
創業時に3,500万円規模のまとまった資金を確保するには、日本政策金融公庫(JFC)の融資や、自治体が支援する制度融資が主な選択肢です。特に中小企業庁のスタートアップ創出促進保証は、経営者の個人保証を不要とする制度です。
本記事では3,500万円もしくはそれ以上の創業融資を受けられる主な公的サービスを中心に、上限額・対象・返済期間・自己資金要件などをわかりやすく解説します。
目次
3500万の創業融資はどの制度で狙える?
3,500万円クラスの創業融資を検討する際、主に国の機関である「日本政策金融公庫」と、信用保証協会が関わる「スタートアップ創出促進保証」や「自治体の制度融資」が候補となります。それぞれに異なる特徴があり、事業内容や創業者の状況に応じて最適な選択肢は変わります。
スタートアップ創出促進保証
「スタートアップ創出促進保証」は、金融機関から融資を受ける際に、経営者個人の連帯保証(経営者保証)を原則として不要とする、国(中小企業庁)が創設した信用保証制度です。
この制度は、これまで創業時の大きなハードルであった経営者個人のリスクを大幅に軽減し、起業への挑戦を後押しするために作られました。万が一事業が想定通りに進まなかった場合でも、経営者が私財で直接返済責任を負うリスクを軽減でき、事業の再建に専念しやすくなる点が最大のメリットです。
融資の条件
- 融資上限額:3,500万円
- 資金使途:創業時、または創業後に必要となる運転資金および設備資金
- 返済期間:10年以内(据置期間は1年以内が基本)
対象となる創業者
- これから事業を開始する具体的な計画を持つ個人・法人
- 事業を開始してから5年未満の中小企業者
自己資金の要件
税務申告を1期終えていない創業者の場合、創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できることが必要です。これは、事業への準備性と計画性を示すための重要な要件となります。
利用の流れ
- 金融機関への相談:まずは取引を希望する銀行や信用金庫などの金融機関に相談します。
- 信用保証協会への保証申込:金融機関を通じて、所在地を管轄する信用保証協会へ保証の申し込みを行います。
- 創業計画書の提出:申し込みにあたり、事業内容や資金計画をまとめた「創業計画書」の提出が求められます。
- 審査・融資実行:金融機関と信用保証協会の両方で審査が行われ、承認されれば融資が実行されます。
制度利用上の注意点
- 事業状況の報告:融資実行後、年に一度、信用保証協会に対して事業状況を報告(情報開示)する必要があります。
- 法人と個人の資産分離:経営者保証は不要ですが、法人の資産と代表者個人の資産は明確に分離し、適切に管理・経理処理を行うことが求められます。
新規開業・スタートアップ支援資金(日本政策金融公庫)
日本政策金融公庫が提供する「新規開業・スタートアップ支援資金」は、国の機関が直接融資を行うため、全国どこでも利用できる創業融資の基本制度です。最大7,200万円という高額な融資枠を持ち、大規模な設備投資などを計画している創業者にとって第一の選択肢となります。
- 融資上限額:7,200万円(うち運転資金は4,800万円まで)
- 対象者:新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方
- 返済期間:設備資金20年以内/運転資金10年以内(それぞれ据置期間も設定可能)
金利などが優遇される関連制度
「新規開業・スタートアップ支援資金」をベースに、一定要件を満たすことで、さらに有利な条件で融資を受けられる制度も用意されています。
- 女性、若者/シニア起業家支援資金:
女性(年齢不問)、35歳未満の若者、55歳以上のシニアを対象に、通常よりも低い特別利率が適用されます。 - 中小企業経営力強化資金:
税理士や中小企業診断士といった認定経営革新等支援機関のサポートを受けながら事業を進める場合に利用でき、自己資金要件が問われないなどのメリットがあります。 - 再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資):
過去に事業の廃業歴がある方が再度起業する際に利用できる制度で、過去の経験を踏まえた改善策を事業計画に反映していることが評価されます。
3500万円の創業融資に対応する自治体の制度融資
自治体の制度融資は、「自治体」「金融機関」「信用保証協会」の三者が連携し、地域の中小企業を支援する仕組みです。自治体が利子や保証料の一部を補助してくれるため、創業者にとっては日本政策金融公庫の融資よりも低い実質コストで資金を調達できる可能性があります。ここでは主要都市の代表的な制度を紹介します。
東京都「中小企業制度融資『創業』」
融資限度額3,500万円。都が信用保証料の大部分を補助するため事業者の負担が軽い。指定の創業支援事業を利用すれば利率優遇も受けられます。
神奈川県「創業支援融資」
融資限度額3,500万円。商工会議所などの支援機関による経営指導を受けることで、信用保証料がゼロになる「創業特例」制度があります。
横浜市「創業おうえん資金」
融資限度額3,500万円。横浜市による保証料の助成があり、事業者の負担が軽減されます。
参照: 創業おうえん資金|横浜市
大阪府「開業・スタートアップ応援資金」
融資限度額3,500万円。女性や若者、シニア、UIJターン者などを対象とした金利優遇措置が特徴です。
名古屋市「新事業創出資金」
融資限度額3,500万円。市内で開業する方を対象としており、日本政策金融公庫との協調融資も可能です。
参照:新事業創出資金|名古屋市
福岡市「スタートアップ資金」
融資限度額3,500万円(創業前は2,000万円)。低金利に加え、返済期間が10年(据置2年)と長く設定されており、キャッシュフローに余裕を持たせられます。
3500万円以上の創業融資を狙う協調融資とは?
日本政策金融公庫と自治体の制度融資を組み合わせて資金調達を行う方法が「協調融資」です。この方法では、単独の融資枠では難しい5,000万円以上の高額な資金調達も視野に入ります。また、一方の機関で事業計画が評価されると、もう一方の審査にも良い影響を与える相乗効果が期待できるほか、創業期から民間金融機関との取引実績を作ることで、将来の追加融資につながりやすくなる側面もあります。
一方で、申込先が2つになるため、書類準備の手間が増え、審査期間も長くなる傾向がある点には注意が必要です。金利や返済期間といった両機関の条件をすり合わせる必要や、片方の審査が通過しても、もう一方が減額または否決されるリスクも考慮しなければなりません。
協調融資は、特に大規模な資金が必要な場合に有効な選択肢ですが、時間的な余裕を持ち、より精緻な事業計画を準備した上で臨むことが重要です。
3500万円の創業融資審査で必須となる4つの準備
高額な創業融資の審査を通過するためには、事業計画の優劣だけでなく、事前の準備が整っているかが厳しく評価されます。特に以下の4点は、事業を始めるための前提条件として不可欠です。
事業の設計図となる「事業計画書」
事業計画書は、事業の内容、戦略、将来性を融資担当者に伝えるための最重要書類です。なぜこの事業で利益を出し、着実に返済できるのかを客観的な数字と具体例で示す必要があります。融資担当者はこの書類を通して、事業の実現可能性と経営者の能力を判断します。
計画性と本気度を示す「自己資金」
自己資金は、事業に対する本気度と計画性を示す大切な指標です。一般的に創業資金総額の3分の1程度を自己資金で用意できるのが望ましいとされ、毎月コツコツ貯めてきた経緯を預金通帳などで示すことで、計画性が高く評価されます。単に金額の多寡だけでなく、準備してきたプロセスそのものが審査対象となります。
事業の前提条件となる「許認可」
中古品販売における「古物商許可」のように、事業に特定の許認可が必要な場合、融資申込時点で取得済みか申請中であることが必須です。許認可がなければそもそも事業を開始できないため、無許可での計画は事業の実現性を根本から疑われ、審査の土台にすら乗らない可能性があります。
個人の信頼性を証明する「信用情報」
創業融資では、事業計画だけでなく事業主個人の信用情報も必ず確認されます。過去のクレジットカードやローンの返済履歴、延滞の有無などは、返済に対する姿勢や信頼性を判断する材料となり、審査に大きく影響します。事業計画とは別に、個人としての信頼性が問われる重要なポイントです。
3500万円の創業融資を引き出す事業計画書の書き方
事業計画書で最も重要なのは、「なぜこの事業で利益を出し、着実に返済できるのか」という論理的なストーリーです。融資担当者は、夢や情熱だけでなく、その裏付けとなる市場分析や収益予測といった客観的な根拠を求めています。
創業の動機と自身の経験を結びつける
なぜこの事業を始めたいのか、という創業動機は重要です。さらに、ご自身のこれまでの経験やスキルが、その事業にどのように活かせるのかを具体的に記載することで、事業計画の説得力が増します。単なる思いつきではない、必然性のある起業であることを示します。
ビジネスモデルを具体的に示す
「何を」「どこから仕入れ」「誰に」「どこで売るのか」という事業の核となる部分を明確にします。例えば、仕入先や販売先の候補を具体的に挙げることで、計画が机上の空論ではなく、現実的なものであることをアピールできます。
収支計画は客観的な根拠で示す
売上や利益の予測は、希望的観測ではなく客観的な根拠に基づいて作成します。過去の実績(副業など)、市場調査データ、競合の状況などを基に、「なぜその売上が見込めるのか」を説明します。現実的な利益計画と、それに基づく無理のない返済計画が不可欠です。
資金使途と投資効果を明確にする
融資金を何に使うのか(商品の仕入れ、設備投資、広告費など)、内訳を具体的に示します。そして、その投資がどのように売上や利益の増加につながるのか、投資対効果を説明することで、資金の必要性を合理的に伝えることができます。
3500万円の創業融資で審査に落ちる原因は?
3,500万円の創業融資の審査に落ちるケースには、事業計画の不備や信用情報の問題、自己資金の不足などがあります。ご自身の計画が下記に当てはまらないか厳しくチェックしましょう。
事業計画や返済計画が曖昧
売上予測に具体的な根拠がなく、「こうなったらいいな」という希望的観測で記載されていると、計画の実現性が低いと判断されます。なぜその売上が達成できるのか、そのためにどう行動するのか、そして得られた利益からどうやって返済していくのか、一貫したストーリーで説明できなければなりません。
個人の信用情報に問題がある
事業計画がどんなに素晴らしくても、申込者個人の信用情報に問題があると、融資はほぼ実行されません。クレジットカードの支払いや携帯電話の分割払いの延滞など、過去の金融取引における約束を守れなかった事実は、返済能力への信頼を著しく損ないます。
自己資金が不足、または出所が不明
創業に向けて計画的に準備してきた証である自己資金がまったくない、あるいは極端に少ない場合、事業への本気度を疑われます。また、融資の直前に親族から一時的に借り入れたお金などは「見せ金」と判断され、自己資金とは見なされません。自身の給与などから計画的に貯めてきた経緯がわかる預金通帳の提出が求められます。
3500万円の創業融資はまずは相談から
3,500万円の創業融資は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」や、経営者保証が不要な「スタートアップ創出促進保証」、利子や保証料の一部を自治体が補助する「制度融資」などが活用できます。
審査通過の要となるのは、客観的データに基づいた精緻な事業計画書と、計画的に準備した自己資金です。この記事で解説した制度の特徴を比較し、自身の事業に最適な選択肢を見極め、まずは各機関の窓口や専門家に相談してみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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