- 作成日 : 2025年7月18日
50代から始めるプチ起業ガイド|準備・おすすめ業種・支援制度を解説
50代は、定年や退職を見据えながら、これからの人生をどう過ごすかを考える大きな転機です。スキルや趣味を活かして小さく始める「プチ起業」を選ぶ人もいます。大きな資金や設備を必要とせず、自宅やオンラインで無理なく始められるスタイルは、家庭との両立や体力面にも配慮しやすく、セカンドキャリアとして現実的です。本記事では、50代でプチ起業に挑戦するための業種の選び方、必要な準備、リスク対策、支援制度を解説します。
目次
50代でのプチ起業について
定年後の働き方やセカンドキャリアを模索する中で、50代から「プチ起業」を始める方も一定います。大きな資金や設備を必要とせず、スキルや趣味を活かして小さく始めるこのスタイルは、現代の多様な働き方とフィットし、注目を集めています。
プチ起業とは
プチ起業とは、小規模かつ低リスクで始める個人レベルのビジネスを指します。副業や自宅開業、ネットショップ、教室運営など、初期投資が少なく、ひとりまたは夫婦など少人数で行う点が特徴です。一方、通常の起業は法人設立や店舗開業、従業員の雇用などを伴い、資金や準備も大きくなる傾向があります。プチ起業は生活の一部として無理なく始められるため、50代のセカンドキャリアや定年後の働き方として注目されており、自分のペースで事業を育てたい人に適しています。
シニア層の起業をめぐる実態
日本政策金融公庫が2024年11月に発表した「2024年度新規開業実態調査」によると、開業者の平均年齢は43.6歳に達しています。また、同調査では、開業者の年齢構成において50代が20.8%を占めており、40代・30代に次いで高い割合です。
さらに、帝国データバンクが2025年5月に発表した「2024年の『新設法人』動向調査」でも、新設法人の代表者の年齢別割合において、50代が25.2%を占め、20年ぶりの高水準を記録しました。60代は13.2%、70代は4.7%と、いずれも2000年以降で最高値を更新しており、シニア層による起業が着実に増加していることが分かります。
出典:2024年「新設法人」動向調査|株式会社 帝国データバンク[TDB]
50代は、豊富な社会経験や人脈、培ってきた専門スキルを活かせる世代です。自身のペースで事業を立ち上げるという選択肢も、多くの50代に選ばれています。
プチ起業に適した業種やビジネスアイデア
50代からのプチ起業では、これまでの仕事で培ってきたスキルや知識、趣味や特技など、自分の持ち味を活かせる業種を選ぶことが成功のポイントになります。初期費用を抑えられる分野を選べば、体力・資金面の不安があっても無理なく始められます。ここでは50代に適した代表的な業種やビジネスアイデアを紹介します。
経験・専門性を活かせるサービス業
長年の仕事で培ってきたスキルを活かせるサービス業は、50代にとって取り組みやすい分野です。たとえば、マネジメントや業界知識が豊富な人には、コンサルティング業や人材紹介業が適しています。人材紹介は、求人を探す人と企業をマッチングさせるビジネスで、過去の人脈や業界理解が強みになります。さらに、キャリアコーチングやライフカウンセリングなども、人生経験を活かしやすい分野です。
また、弁護士・税理士・行政書士などの資格を持つ士業の方は、専門性をそのまま活かして独立するケースも多く見られます。これらの業種は自宅や小規模な事務所でも始められるため、初期費用を抑えてスタートできます。顧客先へ出向く形にすれば、固定の事務所すら不要になる場合もあり、コスト面でも柔軟に対応できる点が魅力です。
IT・デジタル分野やクリエイティブな仕事
ITスキルやデジタル知識をお持ちの方には、デジタル分野の起業が向いています。ウェブサイト制作、アプリ開発、ネットワーク構築などは、パソコンとインターネット環境があれば自宅でも始められるため、開業のハードルが低く抑えられます。企業のIT化が進む中、外部に業務を委託するケースも多く、過去にIT関連業務に従事していた方には好機といえるでしょう。
また、グラフィックデザインや動画編集、ライティングなどのクリエイティブ業務も、インターネットを介して受注しやすく、働く場所や時間に縛られない点が特徴です。これらの仕事は在宅で完結することが多く、50代のライフスタイルに合わせた働き方が実現しやすいという利点があります。設備投資も最低限で済むため、リスクを抑えながらスタートできます。
趣味や特技を活かしたプチ起業
50代のプチ起業で近年注目されているのが、趣味や特技を仕事に変えるスタイルです。たとえば、ハンドメイド作品やアクセサリー制作が得意な方は、ネットショップでの販売に挑戦することができます。BASEやCreemaなどのオンラインマーケットプレイスを利用すれば、自宅にいながら全国に商品を届けることが可能です。
また、料理や茶道、音楽、語学などのスキルを持っている方は、オンライン講座や自宅教室で知識を共有することで収益を得ることができます。コロナ禍以降、オンラインで完結するビジネスへのニーズは高まり、ネットを活用した起業スタイルは50代にも広がりを見せています。
オンライン料理教室や写真販売など、自分の得意分野をデジタルと組み合わせることで、新たな市場を開拓するチャンスにもなります。これらは自分のペースで取り組めるため、体力に不安がある方や家庭との両立を希望する方にとっても、続けやすい点が魅力です。
50代のプチ起業に必要な準備や資金・初期コストの目安
50代でプチ起業を目指す際には、事前の準備と現実的な資金計画が欠かせません。収入が不安定になる可能性もあるため、無理のないスタートと堅実な経営が求められます。ここでは、起業に向けた準備と必要資金の目安について解説します。
起業に向けた準備とスモールスタート
まず重要なのは、事業計画の作成と情報収集です。市場のニーズや競合を分析し、自身の強みを活かせるビジネスモデルを考えましょう。また、収支の見通しを立てる資金計画も不可欠です。50代の起業では老後資金とのバランスを意識する必要があるため、退職金や貯金をすべて事業につぎ込まず、生活費や万一の備えを確保することが大切です。
さらに、必要なスキルの見直しもポイントです。特にITやSNSの活用は、集客や業務効率化に欠かせないため、デジタルスキルに不安がある方は起業前に学んでおくと安心です。シニア起業家の中には、デジタル対応が遅れたことで事業が伸び悩むケースもあるため、今のうちに慣れておくことが推奨されます。
また、スモールスタートを心がけることでリスクを抑えられます。たとえば、まずは個人事業主として始めてみて、事業が軌道に乗ってから法人化や人材採用を検討するという段階的な展開が現実的です。初期投資を抑えつつ実績を積み上げることで、余計な出費を回避しながら成長できます。
必要な資金と初期コストの目安
起業に必要な資金は事業の種類によって異なりますが、日本政策金融公庫の調査によると、起業資金の平均は985万円である一方、実際には約4割の人が500万円未満で開業しています。中央値は580万円で、比較的少額での開業も十分可能です。
ネットショップ運営やオンライン教室、ハンドメイド商品の販売などは、数万円〜数十万円から始められる場合もあり、設備投資が少なく済む点が強みです。一方、店舗型の事業やフランチャイズは数百万円以上の資金が必要となることもあります。
プチ起業では、初期投資を抑えつつ、必要に応じて公的融資や補助金を活用することで資金面の負担を軽減できます。無理のない資金計画と身の丈に合った事業設計が、50代からの安定した起業成功への第一歩となります。
50代のプチ起業に伴うリスクや注意点
50代でプチ起業を目指す際は、夢や目標だけでなく、リスクとその備えについても冷静に把握しておくことが大切です。若い世代と異なり、再就職が難しい年齢での起業は、失敗の影響が生活全体に及ぶ可能性があります。ここでは主な3つのリスクとその対策について解説します。
失敗した場合の経済的リスク
起業には常に失敗のリスクがあります。50代で起業に失敗した場合、再就職のハードルは高く、収入の見通しが立たなくなるおそれがあります。また、投下資金が回収できず、老後資金が大幅に減ることもリスクの一つです。こうした状況に備えるには、生活に支障が出ない範囲の資金で始めることが前提となります。退職金や貯蓄を全額使わず、融資や補助金をうまく活用し、自己資産の保全を意識することが重要です。さらに、収入が安定するまでの生活費を別途準備しておくことで、精神的な余裕も生まれます。
税金・社会保険の手続きへの対応
会社を辞めて独立すると、税務と社会保険の手続きが一変します。所得税は会社員時代の年末調整ではなく、自分で確定申告を行う必要があり、帳簿管理や書類作成が求められます。青色申告を選択すれば節税のメリットも得られますが、適切な記帳と手続きが欠かせません。
また、社会保険についても会社の健康保険や厚生年金から、国民健康保険・国民年金への切り替えが必要になることがあります。国民健康保険には原則として傷病手当金はありません。。ただし、退職前に加入していた健康保険において、被保険者期間中に傷病が発生し、かつ所定の条件を満たしている場合には、退職後も引き続き傷病手当金の継続給付を受給できる場合があります。退職前の健康保険を任意継続した場合に傷病手当金が支給される制度とは異なりますので、ご自身の加入していた健康保険組合や協会けんぽ等にご確認ください。病気やケガで働けなくなったときの補償については、退職前に制度を確認し、必要に応じて民間の保険で備えることも検討しましょう。
なお、役員として役員報酬を受け取る場合、その法人は原則として社会保険(厚生年金・健康保険)の強制適用事業所となります。これにより、役員は厚生年金と健康保険に加入することが原則義務付けられます。この場合、国民年金や国民健康保険から、被用者保険(厚生年金・健康保険)への切り替えとなります。退職前に制度の違いや手続きを確認しておくと安心です。
家族への影響
起業は本人だけでなく家族の生活にも影響します。収入が不安定になったり、仕事に時間を取られて家庭とのバランスが崩れたりすることもあります。配偶者がいる場合は、家計への影響や起業による生活の変化について十分に話し合い、協力体制を築くことが不可欠です。
家族が起業に理解を示し、応援してくれることで、精神的な支えにもなります。たとえば夫婦で役割を分担して起業すれば、互いの得意分野を活かした効率的な運営も可能です。反対に、家族の同意がないまま起業を進めると、後々のトラブルにつながる可能性もあるため注意が必要です。
人生経験が豊富な50代だからこそ、家族や周囲への配慮を忘れず、バランスを保ちながら起業に臨むことが成功への鍵になります。
50代のプチ起業に利用できる支援制度
50代でプチ起業に挑戦する際は、資金や経営に対する不安を軽減するために、各種支援制度を積極的に活用することが有効です。国の融資や補助金制度、自治体の地域密着型支援、さらには民間の起業サポートなど、利用できる支援は多岐にわたります。ここでは、主な支援策を「国・自治体・民間」に分けて紹介します。
国の融資・補助制度
政府系金融機関である日本政策金融公庫は、創業支援に力を入れており、シニア起業家向けの「女性、若者/シニア起業家支援資金」を提供しています。この制度では、55歳以上の方が低利・無担保で融資を受けられるため、自己資金に不安がある場合でもスタートの資金を確保しやすくなります。
また、補助金制度としては「小規模事業者持続化補助金(創業型)」が代表的です。これは、販路開拓や業務効率化のための費用(広告、改装、IT導入など)に対し、一定の割合で補助金が支給される制度です。補助金は返済不要である反面、申請には事業計画書の作成と審査が必要なため、専門家の支援を受けながら準備するのが効果的です。そのほか、各種創業補助金やIT導入補助金など、事業の内容に応じて使える制度もあります。
自治体の創業支援策
各自治体でも、地域経済の活性化を目的に多様な創業支援を展開しています。
東京都では「女性・若者・シニア創業サポート2.0」を実施しており、シニアについては55歳以上を対象に信用金庫・信用組合を通じた無担保・低金利の融資に加え、創業アドバイザーによる経営支援を提供しています。融資限度額は1,500万円(女性は2,000万円)までで、金利は固定金利年1%以内と優遇されています。
出典:事業概要 | 女性・若者・シニア創業サポート事業2.0
大阪府では、新規開業や創業後5年未満の事業者を対象にした融資制度があり、55歳以上のシニア向けに利率が特に優遇されています。最大3,500万円まで融資可能で、女性・若者・シニアの場合、金利が通常より0.2%低く設定されます。さらに無保証人対応、信用保証協会や商工会議所などのフォローアップも手厚い内容です 。
出典:新たに事業を始める方、事業開始後まもない方を支援しています(大阪府制度融資「開業・スタートアップ応援資金」)
福岡市が運営する「Fukuoka Growth Next」は、スタートアップ支援の拠点で、起業相談、資金面や事業計画のサポートを無料で提供しています。起業者向けにオンライン相談やセミナー、ピッチイベントも開催されています 。同施設には「スタートアップカフェ」も併設されており、曜日限定で税理士・弁護士などに相談もできます 。
出典:Fukuoka Growth Next – 福岡のスタートアップ支援施設
このように自治体によるサポートはオフィス賃料の補助、創業コンテストの開催、相談窓口の設置などがあり、起業予定地の支援制度を事前に調べておくとよいでしょう。
民間のサポートやネットワーク
公的支援だけでなく、民間企業やNPOによる起業支援も活発です。たとえば「銀座セカンドライフ株式会社」は、50代・60代を中心とした起業支援に特化し、事業計画の作成、融資申請サポート、レンタルオフィスの提供まで一貫した支援を行っています。起業セミナーや交流会も多く開催されており、先輩起業家とのネットワーキングを通じて実践的な学びも得られます。
民間支援の多くは有料ですが、初回相談が無料のケースもあります。費用はかかるものの、年齢や経験に応じたきめ細やかな対応を受けられる点が強みです。公的制度とあわせて利用することで、より安心してプチ起業に踏み出すことができるでしょう。
自分らしい働き方を見つけるために、プチ起業という選択肢に目を向けてみよう
定年後やセカンドキャリアとして、50代でのプチ起業を選ぶ人も一定います。これまで培ったスキルや趣味を活かし、自分のペースで事業を育てられるスタイルが、今の時代に合っているからです。特別な資格がなくても始められる業種は多く、初期投資が少なくて済む点も魅力です。起業にはリスクも伴いますが、事前準備や家族との協力、公的支援制度の活用でリスクを抑えたスタートが可能です。再雇用に頼らず、自分らしい生き方を実現したいと考える50代にとって、プチ起業は現実的で前向きな選択肢といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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