- 作成日 : 2025年5月1日
虚偽の法人登記の罰則は?変更を怠った場合はどうなる?不正な申請の対策も解説
虚偽の内容で登記申請した法人登記には、罰則が科せられます。これまで、会社を乗っ取る目的で虚偽の役員解任登記を行った事例があります。
法務省では、役員全員の解任を内容とする変更の登記申請により登記をした場合に通知を行っており、通知を受けたら仮処分の対応が必要です。
本記事では、虚偽の法人登記について解説します。
目次
法人登記の申請内容に虚偽があった場合の罰則は?
会社を設立する際は、法人登記が必要です。法人登記により会社の信用度が高まり、取引安全にもつながります。
法人登記が虚偽であった場合には、罰則が設けられています。
5年以下の懲役または50万円以下の罰金
虚偽の法人登記は公正証書原本不実記載罪に該当し、刑法第157条第1項により5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
また、不実の登記を信頼した第三者には、登記の記載が虚偽であることを主張できません。例えば、第三者が会社の代表者でない者を代表者とする虚偽の登記を信頼し、偽の代表者を本当の代表者と信じて取引を行った場合、会社は第三者に対して契約責任を負うことになります。
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虚偽の法人登記はどのように発覚する?
虚偽の登記は、法務局からの通知によって発覚します。法務局では、役員全員の解任を内容とする変更登記の申請があった場合、登記完了後速やかに会社への通知を行うものとされているためです。
ここでは、法務局の対応について解説します。
登記完了後に法務局からの通知がある
役員変更の登記申請には株主総会議事録や就任承諾書などの添付書類が必要ですが、これらを偽造して登記申請されることもあります。法務局では、基本的に登記に必要な書類が提出され、定められた書類が揃っている限り登記を行うため、審査で虚偽の登記を防ぐことは難しいでしょう。
そのため、商業登記規則では、虚偽の登記を防ぐための規定が設けられています。法務局に会社の役員全員を解任する内容の登記申請がなされた場合、登記完了後に法務局から会社の本店宛にその旨の通知をするというものです。
これは、役員全員の解任登記がなされる場合、会社内部で争いがあると考えられ、乗っ取りなどの目的で不実の登記が行われることを防止することを目的としています。
登記完了前から登記完了後に変更
2020年までは申請があった時点で通知が行われ、それまで変更登記の処理はいったん保留されていました。しかし、2020年3月より、登記完了後の通知に変更されています。
変更の理由は、登記完了前の通知を行っていると、実際には争いがなく役員を全員入れ替える目的の場合にも通知を行わなければならず、登記の処理が遅れることになるためです。
虚偽の登記は、法務局からの通知のほか、役員交代を目的とする株主総会が招集されたり、株主から指摘されたりすることで発覚するケースもあるでしょう。
虚偽の法人登記が発覚した事例
虚偽の法人登記が行われ、発覚したケースとして、次の2つの事例があります。
- 会社の社長が交代する虚偽の登記申請を行い、会社の乗っ取りを図った事例
- 役員全員を解任し、自身が取締役に就任した旨の商業登記をした事例
1の事例は、男女6人が共謀して不動産会社の社長が交代したとする株主総会議事録を法務局に提出し、虚偽の登記申請をしたという事例です。実際には株主総会を開催した事実はなく、虚偽の議事録が作成されていました。交代させられた社長に法務局から通知が届いたため、事件が発覚しています。犯行グループのメンバーが新しい経営者や役員となる登記が行われており、会社の乗っ取りを計画したものとされています。
2の事例は、会社経営権を奪う目的で役員全員を解任し、自身が取締役に就任したという虚偽の登記をした事例です。会社を乗っ取り、会社が所有する商業ビルを売却しようと考えて行った犯行だとされています。
変更登記を行わないと、虚偽登記とみなされる?
虚偽登記だけでなく、変更登記の申請を怠った場合にもペナルティが科せられます。
ここでは、変更登記を怠った場合の取り扱いについて解説します。
変更登記が必要な場合
登記事項に変更があった場合、変更登記が必要です。
登記変更が必要になるのは、主に次のようなケースです。
- 社名の変更
- 所在地の移転
- 役員の変更
- 役員の住所変更
- 事業目的の変更
- 新規事業の開始
- 法人の解散
登記変更は、変更から2週間以内に行わなければなりません。2週間以上変更しない状態にしておくことは登記の懈怠とされ、制裁の対象となります。
100万円以下の過料
2週間の期限を過ぎても登記は受理されますが、期限内に変更登記を行わなかった場合は会社の代表者に対して100万円以下の罰金(過料)が科せられます。
実際には、期限が過ぎても直ちに罰金が科せられるわけではありません。次に変更登記を申請する際、同じように相当期間にわたる登記の放置が確認された場合、裁判所が過料決定を下す例が多いとされています。登記の放置期間が長期にわたれば、過料の金額も増える傾向にあります。
不正な変更登記申請があった場合の対応策
役員全員の解任をする登記の申請により登記をした場合、法務局では登記完了後速やかに当該会社の本店または法人の主たる事務所に宛て、通知を行うこととされています。
ただし、役員全員解任の登記申請の申請権限等に疑義がある場合は、登記完了前に連絡をすることもあるとしています。
登記前に通知を受けて解任されたことを知った役員は、裁判所に対して現在もその地位にあることを仮に定める仮処分(仮の地位を定める仮処分)の申し立てが可能です。
仮処分は、勝訴の見込みがあり、一定の緊急性が認められる事案について、あらかじめ現状を保全しておく処分のことです。
登記完了前に仮処分決定書が提出されたときは、登記申請の審査の資料にできます。また、登記完了前に仮処分申立書を添付した上申書が提出されたときには、一定期間、登記が留保することができるとされています。
いずれにせよ、不正な変更登記に気づいたときは、専門家に相談するなど、速やかな対処が必要です。
法人登記の代表取締役等住所非表示措置とは
虚偽の法人登記に関連し、法人登記の代表取締役等住所非表示措置について確認していきましょう。法人登記の代表取締役等住所非表示措置とは、2024年10月から施行された新しい制度です。
ここでは、制度の詳細を解説します。
申し出により、登記事項証明書等上の住所の一部を非表示にできる
法人登記の代表取締役等住所非表示措置は、株式会社の代表取締役などの住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする制度です。非表示は、申し出により認められます。
株式会社の登記事項証明書には代表取締役等の住所が番地まですべて記載されており、手数料を払えば誰でも取得できることから、プライバシーの保護に欠けることが問題とされていました。プライバシーを守るため、実際に住んでいない場所にマンション等を借りて登記するケースもありましたが、そのような行為は虚偽登記になるリスクがあります。
このような問題を受けて、商業登記規則等の一部が改正されて制度が創設され、代表取締役等の住所の一部を非表示とすることを選択できるようになりました。
非表示措置の手続き
非表示措置の手続きは、所定の書面を添付し、登記申請と同時に申し出ることが必要です。申出先は、登記申請と同じく会社を管轄する法務局になります。
非表示措置の申し出が認められる登記は、以下のような代表取締役等の住所が登記されることとなる登記です。
- 設立の登記
- 代表取締役等の就任の登記
- 代表取締役等の住所移転による変更の登記
申出をする場合は登記の申請書に、非表示措置を希望する旨と対象となる者の資格、氏名、住所、添付する書面を記載します。
非表示措置が終了するケース
非表示措置が終了するのは、次に該当する場合です。
- 株式会社から措置を希望しないことの申し出があった場合
- 株式会社が本店所在地に実在しない場合
- 上場会社でなくなった場合
- 閉鎖された登記記録を再び表示すべき事由がある場合
虚偽の法人登記には罰則あり
虚偽の法人登記は会社乗っ取りなどの目的で行われることがあり、罰則が科せられます。役員全員の解任をする登記申請があった場合は登記完了後に、あるいは申請権限等に疑義がある場合は登記完了前に、会社宛てに通知が届きます。通知が届いて虚偽の登記が発覚したら、速やかな対応が必要です。
登記内容に変更が生じたにもかかわらず、2週間以上登記をしない場合も罰則があるため、注意しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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