• 作成日 : 2025年4月24日

漁業を法人化するタイミングは?法人形態の選び方や手続きの流れを解説

漁業の仕事をする際は、個人事業主となるか会社を設立するか、乗組員として働くかといった選択肢があります。また、個人事業主として漁業を行っていた方が、規模の拡大などで法人化を目指す場合もあるでしょう。

本記事では、法人化を検討すべきタイミングや個人事業主との違い、法人形態の選び方、法人化の流れ、注意点などを解説します。

漁業の法人化を検討すべきタイミングは?

漁業の法人化は、事業拡大を目指すタイミングなどで検討するとよいでしょう。

漁業の仕事をする際は、個人事業主となる場合と法人として会社を設立する場合、乗組員として働く場合などがあります。「漁業の法人化」とは、個人事業主として漁業に携わっていた方が会社を設立して、法人として事業を行うことです。

法人化を検討すべきタイミングの例は、以下のようなときです。

売上高が1,000万円を超えたタイミング

基準期間における課税売上高が1,000万円を超えると、課税事業者(消費税の納税義務者)に該当します。法人化をするメリットのひとつに、支払う税金を抑える効果が期待できることが挙げられます。そのため、消費税の納税義務が発生したタイミングで、節税効果が期待できる法人化を検討してみるとよいでしょう。

課税売上高が1,000万円を超えた場合に消費税を納税する義務が発生するのは、個人事業主であれば2年後、法人であれば2事業年度後です。

つまり、個人事業主として課税売上高が1,000万円を超えたとしても、2年後までは消費税の免税事業者でいられます。さらに課税事業者になるタイミングにあわせて資本金1,000万円未満で法人化すれば、今度は法人に対する判定基準に変更されるため、最大2年間は免税事業者となります。

とはいえ、2023年10月に開始されたインボイス制度に登録した場合には、課税売上高が1,000万円以下であっても課税事業者です。この場合には法人化を検討すべきタイミングが異なることに注意が必要です。

年間の収益が800万円を超えそうなタイミング

個人事業主として漁業を行う場合と法人として行う場合とでは、課税方法が異なります。もしも年間の課税所得が800万円を超える場合、法人化したほうが税負担を軽減できる可能性が高くなります。そのため、年間の収益が800万円を超えそうなタイミングで、節税効果を期待して法人化することを検討してみるのも一案です。

ただし、税金が安くなるかどうかは、計算する際の前提条件によって異なるものです。法人化した場合の役員報酬社会保険料なども計算に入れると、適切なタイミングは状況によって異なる可能性があることに注意しましょう。

従業員を雇って事業拡大を目指すタイミング

従業員を雇用するなどして事業を拡大させたいときにも、法人化を検討するタイミングといえます。

法人は個人事業主に比べ社会的信用が高まります。法人化することによって資金調達方法の選択肢が増えるため、調達資金によって事業の発展につなげやすくなります。また、社会的な信用を得やすくなることで、採用活動をする際に求職者が集まりやすくなるのもメリットです。

法人向けの事業をメインでやっていこうと決めたタイミング

企業によっては、取引する相手を法人のみ(BtoB)に限定している場合があります。法人向けの事業をメインでやっていこうと考えているならば、法人化によって仕事の受注範囲を広げることを検討してみるとよいでしょう。

先述のように、法人化することで社会的信用の向上が期待され、新たな取引先を開拓する際にも営業しやすくなる可能性が高まります。

法人と個人事業主の違い

法人と個人事業主の違いを簡単に説明すると、以下のとおりです。

個人事業主法人
設立費用0円株式会社:約17万円〜

合同会社:約6万円〜

税金所得税

個人住民税

個人事業税など

法人税

法人住民税

法人事業税など

社会保険国民健康保険

国民年金

介護保険

健康保険

厚生年金

介護保険

子ども・子育て拠出金

社会的な信用度比較的低い比較的高い
経費の範囲比較的狭い比較的広い
資金調達の方法融資

補助金や助成金

クラウドファンディングなど

融資

補助金や助成金

クラウドファンディング

株式の発行

社債の発行など

責任の範囲無限責任株式会社:有限責任

合同会社:有限責任

合資会社:有限責任と無限責任が各1人以上

合名会社:無限責任

個人事業主と法人それぞれのメリット・デメリットは、以下のようなものが挙げられます。

<個人事業主のメリット>

開業しやすい。設立の際に費用が発生しない。事業の収益をほとんど個人収入にできる。必要な手続きが少ない。

<個人事業主のデメリット>

所得が増えると税金の負担が重くなる。社会的信用を低く見られやすい。

<法人のメリット>

節税対策になる。社会的信用度が高まる。赤字の繰り越し期間が長い。後継者問題の解消が期待できる。

<法人のデメリット>

基本的に役員報酬を超える金額は受け取れない。社会保険料の負担や税務申告時の事務負担が増える。

先述のとおり、従業員を雇って事業拡大を目指したいときにも法人化が向いています。法人化した漁業経営体があると、従業員を雇いやすくなって新規で漁業に就業したい方の受け皿となれる点も、メリットだと考えられるでしょう。

漁業の仕事を法人化する際の注意点の詳細は、後述します。

漁業に適した法人形態の選び方

法人形態には、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」などがあります。

株式会社以外の3つ(合同会社・合資会社・合名会社)はまとめて「持分会社」とも呼ばれます。株式会社とそれ以外の3つで大きく異なる点が、出資者の位置づけです。

株式会社の出資者は「株主」と、持分会社の出資者は「社員」と呼ばれます。

株式会社は、所有(出資者)と経営が分離しています。一方で、持分会社では出資者が経営者でもあるのが特徴です。

また、株式会社と合同会社における出資者の責任は「間接有限責任」です。対して、合名会社の出資者は「直接無限責任」となります。

合資会社の場合は、「直接有限責任」となる出資者と「直接無限責任」となる出資者の双方で構成されます。そのため、他3つの法人形態の最低出資者数が1人であるのに対して、合資会社の最低出資者数は2人です。

直接無限責任があると、もしも会社が負債を負ったときに、私財を投げ打ってでも弁済する義務を負うことに注意が必要です。一方で、間接有限責任の場合は弁済する責任が出資額に限定されるため、直接無限責任よりはリスクが低いといえます。

近年は、株式会社か合同会社の形態を選択する場合が多いです。これらの会社形態では出資者の責任が間接有限責任であるため、どちらの法人形態にするかは「出資者と経営の分離」を基準に判断するとよいでしょう。

株式会社の場合は、出資者とは別の経営者が事業を運営して、発生した利益を出資者に配分します。合同会社にした場合は、出資者の意思で運営し、会社の利益配分も自由です。

漁業を法人化する際の流れ

漁業を法人化する際のおおよその流れは、以下のとおりです。

  • 会社の基本的事項を決め、定款を作成
  • 定款の認証を受ける
  • 資本金の払い込み
  • 会社の設立登記をする
  • 税務署・都道府県税事務所に各種届出をする
  • 年金事務所に各種届出をする
  • 労働基準監督署・ハローワークに各種届出をする
  • 個人事業主の廃業届を提出する
  • 資産、債権・債務を引き継ぐ

なお、もしもこれから漁師として仕事を始める場合には、「漁業権」や「小型船舶操縦士免許」「海上特殊無線技士免許」などの免許が必要です。

個人事業主から法人化する際の手続きの詳細は、以下の記事を参考にしてください。

漁業を法人化する際の支援制度

法人化の際に利用できる支援制度には、たとえば以下のようなものがあります。

<小規模事業者持続化補助金>

小規模事業者を対象にした制度です。幅広い事業で利用でき、比較的審査のハードルが低めのため、法人化の際に利用できないかを確認してみるとよいでしょう。

<ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金>

中小企業・小規模事業者などを対象にした補助金制度です。ものづくりや新事業のための設備投資、サービス開発などに使えます。

事業承継・引継ぎ補助金>

事業承継を契機に新しく取り組むことや、事業統合・事業再編にともなって経営資源の引継ぎをする中小企業に対する支援制度です。事業承継・引継ぎ補助金には3つのタイプがあります。

<IT導入補助金>

法人化にともなってITツールの導入を検討する場合に利用可能な補助金制度です。

詳しくは、国・都道府県・商工会議所などが設置した窓口(支援センター)に行き、専門家に相談するとよいでしょう。

漁業を法人化する際の注意点

漁業の法人化を検討しているならば、以下のポイントに注意が必要です。

  • 起業時や会計など、事務手続きに手間がかかる
  • 法人設立のための費用がかかる
  • 赤字の年度でも税金の支払い義務が生じる
  • 社会保険に加入しなければならない
  • 会社の収益が伸びた場合でも、個人事業主のときほど自由に報酬額を増やせない

このように、事務手続きが増えることや法人設立のコストがかかることなど、理解しておくべき点があります。

一方、漁業を法人化することで節税効果が期待できたり社会的信用を得やすかったりなどのメリットもあるため、メリットとデメリットの両面を比較して、総合的に判断しましょう。

漁業の法人化を検討してみよう

法人化には、節税効果や社会的な信用度の向上など、さまざまなメリットがあります。漁業を法人化することで漁業関連の仕事に憧れている方の受け皿になれる可能性があることにも、社会的な意義があるといえるでしょう。

一方、漁業を法人化することで、事務手続きが増えることや法人設立のコストがかかることなどの注意すべきポイントもあります。

今回ご紹介した法人化を検討したいタイミングや個人事業主との違い、法人形態の種類、流れなども参考にして、今後の事業運営を検討してみるとよいでしょう。


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