- 更新日 : 2023年8月23日
ランチェスター戦略を経営に活かすポイント!第二法則の計算方法も
ランチェスター戦略というのをご存じでしょうか?簡単に言うと、ランチェスター戦略とは企業間の競争に勝つための経営戦略の1つです。戦争やビジネスのような「競争」において使われるこの戦略は、日本ではオイルショック後に普及した考え方です。この記事ではランチェスター戦略の2つの方法やその計算方法についても説明します。
目次
ランチェスター経営とは?
ランチェスター経営とは、一般にランチェスター戦略を用いた経営手法のことを言います。
ランチェスター戦略を経営に取り入れるための支援をしているコンサルティング会社は種々あります。
「ランチェスターマネジメント株式会社」という企業がありますが、この会社もその中の一つと言えるため、ランチェスター経営の概念そのものとはまた別物ですのでご注意ください。
ランチェスター戦略とは?
戦略とは「ある目的を達成するために全体的な方針や計画を立てること」というのは周知のとおりです。ここでは、その戦略を考えるヒントの1つとしてランチェスター法則による戦略を取り上げてみます。
ランチェスター戦略(Lanchester Strategy)とは、第1次世界大戦の頃にイギリス人のランチェスター氏(Frederick William Lanchester、1868-1946)が考えた「ランチェスターの法則」が元になっています。
ランチェスターの法則とは、「集団同士の戦闘の経緯を数式を用いた数理モデルによって説明しようとする試み」で、後にビジネスの分野に応用され、経営戦略やマーケティング戦略で使われるようになりました。
引用:応用数理|国立研究開発法人科学技術振興機構、
大山達雄 応用数理の遊歩道(96)応用数理を遊歩道から眺める
ビジネスの分野で使われるランチェスター戦略は、市場での競争力を「数学的に」分析し、優位に立つための戦略を導く考え方です。経営戦略については種々の研究がなされている中、ランチェスター戦略は世界中で広く利用されている考え方の1つです。
ランチェスター戦略の根本的な着眼点は、自社と競合他社の相対的な強さを数値で評価し、自社に有利な状況を作り出すことと言えます。以下、ランチェスター戦略における2つの基本法則を見ていきましょう。
ランチェスター戦略の基本法則
戦略とは、戦う相手があってこそ成り立つものであり、その相手がどのようなものかを事前に知る必要があります。そして、相手も戦略を持っているでしょう。その場合にはどんなルールが成り立つのでしょうか?
ランチェスター戦略には2つの法則があります。これらの法則はいずれも、規模や戦闘能力が異なる2つの集団が競う場合の勝敗についてを説明するものです。つまり、どちらの戦闘力が大きいのか、勝ち負けのルールを説明したものです。
第一法則の計算例
ランチェスター第一法則とは、戦う相手が特定される「一騎討ち」である場合を想定しています。第一法則は、「戦闘力 = 武器性能 × 兵力数」となります。
武器性能とは、ビジネスにおいてはその企業のブランド力、社員のモチベーション、品質、文化など定性的なものになり、また、兵力数とは営業員の数など、定量的なものです。もちろん、戦闘力の大きいほうが勝つため、この第一法則において大雑把に言えば「戦闘力は兵力数に比例する」と言えます。
例えば、同じ業界のA社とB社があり、武器性能に値するものが同じだったとします。
A社には50名の営業員がおり、B社には30名の営業員がいる場合、武器性能は同じです。したがって、ある商品において2社が一騎討ちの戦いになると、戦闘力の比は以下のとおりとなります。
B社がA社に勝つには、あと20名(=50-30)以上、つまり営業員を1.7倍(=50 ÷ 30)以上にすることであり、これが第一法則による戦略となります。
第二法則の計算例
ランチェスター第二法則とは、集団戦闘となる場合を想定し、互いに多数の敵と向き合うような状況で利用します。第二法則は、「戦闘力 = 武器性能 × 兵力数の2乗」となります。
第一法則との違いは、兵力数が2乗となっている点です。兵力数は、勝率に対して指数的に大きな変化をもたらすというのが第二法則です。したがって、同じ武器性能なら「戦闘力は兵力数の2乗に比例する」と言えます。
例えば、同じ業界のC社とD社があり、武器性能は同じだったとします。一騎討ちではなく、集団乱闘のようなケースを想定します。
C社には50名の営業員がおり、D社には30名の営業員がいる場合、武器性能は同じです。したがって、ある商品において2社が集団乱闘になると、戦闘力の比はそれぞれの兵力数の2乗ですから、以下のとおりとなります。
この場合は、集団乱闘でD社がC社に勝つには、あと1,600名(=2,500-900)以上、つまり営業員を2.8倍(=2,500 ÷ 900)以上にしなければならないというのがこの戦略です。
ところが、仮にA社の営業員50名が20名、20名、10名の3グループに別れたとしたら、戦闘力は900(=202+202+102)となってB社の900と互角になってしまいます。
このことから、集団戦闘となるような広域戦においては、兵力数の多いほうが圧倒的に有利であると言えます。また同時に、相手の兵力が集中せず分散してしまえば弱者でも勝てる可能性があるということを示しています。ここで集中の大切さも重要となります。
ランチェスター戦略を経営に活かすポイント
ランチェスターの法則を大雑把に説明しましたが、それぞれの法則は弱者の立場および強者の立場から見た戦略の考え方とも言えます。
強者とは、競合している場合における圧倒的な市場シェアを持つ第1位の企業を言います。そして、弱者とは上記の強者以外、すなわち市場シェア1位以外のすべての企業を言います。
ランチェスター戦略においては、強者、弱者はその規模とは関係ありません。また、市場をどのように区切るかによって強者、弱者も変わってきます。競合する場面ごとに強者と弱者があるわけです。
ここでは強者と弱者、それぞれの戦略について簡単に説明しましょう。
強者の戦略の場合
ランチェスター戦略で強者の取るべき戦略としては、圧倒的に有利となる第二法則に適した環境で戦うべきでしょう。したがって、次のような戦略が有利になります。
- 広域戦となるようにする
広い戦場において大軍を活かすような戦い方を広域戦と言います。ビジネスにおける広域戦とは、死角をなくして戦うことです。つまり、営業のテリトリーを絞らず、大きなステージでの戦いをすべきでしょう。 - 確率戦で戦える手段を作る
確率戦とは、同時に複数の敵を攻撃することのできる兵器(確率兵器という)を利用して戦うことを言います。一騎討ちよりも相手を倒す確率は高まります。 - 遠隔戦に徹する
たとえ拠点のない地域でも競争ができるようにします。離れた顧客でも獲得できる仕組みを作り上げます。
弱者の戦略の場合
ランチェスター戦略で弱者の取るべき戦略としては、極力、第二法則に乗らないようにするべきでしょう。したがって、第一法則で戦える次の考え方が基本戦略になります。
- 局地的な戦いを重視する
ターゲットとする地域や業種を絞り込んでできるだけ狭いところでの戦いになるようにします。強者の死角や盲点を狙い、そこに集中して重点的に兵力を投入して突破する方法をとります。 - 一騎討ちできる条件を探す
確率戦の中から、できるだけ一騎討ちができるステージを作ります。確率戦とは逆で、1対1の戦いになるようにし、その局面で五分五分の戦いに持ち込んで勝負に挑みます。 - 接近戦に徹する
顧客との距離は、遠隔戦を避けて接近戦に徹します。顧客の心をつかむための訪問、面談、架電、ダイレクトメールなど接近戦ならではの強みを活かします。
弱者の戦略としては、これら(局地戦、一騎討ち、接近戦)を踏まえた上でその個々の戦いでは兵力を集中させ、さらに武器性能をアップさせることと言えます。
マイケル・ポーターの基本戦略とは?
企業が他社との差別化を図るための競争戦略には、他にもいろいろな考え方があります。経営戦略論の研究者であるマイケル・ポーター(Michael Porter、1947-)氏が提唱した「差別化戦略」や「集中戦略」が有名です。マイケル・ポーター氏の基本戦略はどのようなものなのかを探ってみましょう。
弱者の戦略=差別化集中戦略?
マイケル・ポーター氏によると、市場には5つの競争要因があり、それに対応するための基礎戦略が3つあるとのこと。ここではその戦略のうち、2つを紹介します。
1.差別化戦略(Differentiation Strategy)
自社独自の価値を増加させることにフォーカスする戦略です。例えば、高品質な製品のデザイン、操作性、環境に配慮して独自の価値を提供するなど、製品やサービスだけでなく、企業のあらゆる活動において差別化する戦略を言います。
2.集中戦略(Focus Strategy)
特定の市場セグメント、ニッチ市場に特化して競争優位性を築く戦略です。一部の顧客や一定の地域を選択し、その需要に特化した商品やサービスを提供し、少ないリソースであっても、限られた中で専門性を発揮する戦略を言います。
マイケル・ポーターの差別化・集中戦略は、その企業が自分自身の競争優位性を築くための戦略としています。一方、ランチェスター戦略の弱者の戦略は、強者がいる局面における弱者側の戦略であり、それぞれの考え方は異なります。
しかしながら、マイケル・ポーター氏の集中戦略における「特定の市場」とは、弱者の戦略でいう「局地戦」の考え方に似ています。また、マイケル・ポーターの差別化戦略における「独自の価値の提供」とは、弱者の戦略においては「武器性能のアップ」に近いと言えます。弱者は独自性や優位性を高める場合、戦うべき相手の姿をよくとらえるほど、差別化を考えやすいと言えます。
このように考えると発想の異なる戦略の中にも、弱者の取るべき共通の戦略が見えてくるようです。
経営戦略と現実のビジネスとのギャップを埋める
経営戦略を学ぶ上で大切なことは、まずは自社の外部環境(市場、競合、顧客、技術など)や内部環境(資源、能力、組織など)を十分に理解することです。特に競合他社の行動や戦略を理解することは重要であり、自社が今どのような位置にいるのかを明らかにするのが基本です。
その上で、自社によいと思われる戦略を当てはめてみましょう。その際、一度に多くのことを実行せず、適切な戦略に絞り込み、社内のリソースを集中的に投入するようにしましょう。また、経営環境は常に変化するものです。戦略の実践にあたっては、柔軟に考え戦略の調整や修正が必要になることを心得ておきましょう。
経営戦略の真の難しさは、理論の理解でなく現実のビジネス状況にどう適用するかを考えることです。ランチェスター戦略を適用し、それを自社の強力な戦略とするために現実とのギャップを見極めましょう。
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