- 作成日 : 2025年10月21日
法人登記の原本還付とは?メリットや手続き、できない書類を解説
法人登記を申請するとき、「提出した定款や契約書の原本を、他の手続きでも使いたい」と考えたことはありませんか。実は、登記申請時に提出した添付書類の原本は、「原本還付」という手続きをすることで返却してもらえます。
この記事では、原本還付の基本的な仕組みから、対象となる書類、そして具体的な手続き方法までをわかりやすく解説します。
目次
法人登記の原本還付とは?
原本還付(げんぽんかんぷ)とは、登記申請時に法務局へ提出した添付書類の原本を、申請と同時に請求した場合に限り、手続き完了後に返却してもらえる制度です。これは、定款や契約書など会社で保管が必要な書類や、他の手続きで再利用したい書類を手元に戻すために行います。
なぜ書類を返却してもらうのか
原本還付を行う主な目的は、一度しか発行されない、あるいは再取得に手間や費用がかかる重要書類の原本を、会社の手元に確保することです。 たとえば、公証役場で認証を受けた会社の定款の原本は一つしかありません。これを法務局に提出したままにしてしまうと、その後の銀行口座開設や許認可申請などで原本の提示を求められた際に、対応できなくなる可能性があります。こうした事態を避けるために、原本還付の手続きが必要となるのです。
どんな場面で利用する手続き?
原本還付は、法人登記にかかわる会社設立や役員変更、本店移転など登記をすべきさまざまな場面で利用されます。
- 会社設立登記:公証役場で認証を受けた「定款」の原本を返却してもらう。
- 役員変更登記:「株主総会議事録」や「取締役会議事録」の原本を返却してもらう。
- 本店移転登記:新しいオフィスの「賃貸借契約書」の原本を返却してもらう。
法人登記で原本還付するメリット
原本還付の手続きを行うことで、書類の再取得にかかる費用や手間を省けるメリットがあります。一度提出しただけの書類を、その都度、役所や作成元に請求する手間がなくなるため、会社運営の効率化につながります。
書類の再取得にかかる費用と手間を削減
書類を再度取得するには、費用と時間がかかります。 たとえば、株主総会議事録を紛失した場合は、再度作成し、必要に応じて出席役員から署名または押印を得る必要があります。関係者が遠方にいる場合は、さらに手間がかかるでしょう。原本還付を利用すれば、こうしたコストや手間を未然に防ぐことができます。
他の手続きで原本をスムーズに再利用
会社の運営では、登記以外にもさまざまな場面で書類の原本の提示を求められます。 たとえば、以下のような手続きでは、定款や議事録の原本が必要になることがあります。
- 法人名義の銀行口座の開設
- 官公署での許認可(建設業、飲食業など)の申請
- 金融機関への融資の申し込み
- 税務署や社会保険事務所への各種届出
原本還付で書類を手元に残しておくことで、これらの手続きにスムーズに対応できるようになります。
法人登記で原本還付できる・できない書類とは?
原本還付ができるかどうかは、その登記専用に作成された書類かどうかで判断されるのが一般的ですが、最終的には法務局の判断によります。
原本還付ができる主な書類
原本還付ができる主な書類は、会社法で保管が義務付けられている、あるいは契約の証拠として会社で原本を保管しておく必要のある書類が中心です。
書類の種類 | 説明 |
---|---|
定款 | 会社の基本的なルールを定めた書類。公証役場の認証印がある原本。 |
株主総会議事録 | 株主総会での決議を証明する書類。 |
取締役会議事録 | 取締役会での決議を証明する書類。 |
就任承諾書 | 役員が就任を承諾したことを示す書類。 |
賃貸借契約書 | 本店移転の際に、新しいオフィスの契約を証明する書類。 |
譲渡契約書 | 株式譲渡など、契約の事実を証明する書類。 |
原本還付を請求しないことが多い書類
その登記申請のためだけに作成・取得された性質の強い書類が中心です。
書類の種類 | 還付できない理由 |
---|---|
印鑑証明書 | 登記申請書に押された印鑑が本物であることを、その申請のために証明する書類。 |
住民票の写し・戸籍謄本 | 氏名や住所の変更を証明する書類。 |
委任状 | 代理人が、その申請を代行する権限があることを証明する書類。 |
株主リスト | 登記申請の際に、株主構成を証明するために作成する書類。 |
原本還付の扱いは、実務上の合理性や慣習に基づいて判断される側面もありますので、不明な点は事前に法務局や依頼する司法書士に相談してみることをおすすめします。
法人登記で原本還付をする手続き方法は?
原本還付の手続きは、申請者自身が「原本と相違ない」ことを証明したコピーを作成し、登記申請と同時に請求することが基本です。ここでは、具体的な手順を解説します。
STEP1:原本のコピーを作成する
まず、還付を受けたい原本の全てのページをコピーします。 A4サイズの用紙で、鮮明にコピーしましょう。複数ページにわたる書類(定款など)の場合は、ホチキスで左側2箇所を留めて、冊子状にしておくと丁寧です。
STEP2:コピーに「原本に相違ありません」と記載・押印する
作成したコピーが、原本と全く同じ内容であることを証明するための記載と押印を行います。 コピーの最終ページの余白などに、以下の文言を記載します。
これは原本の写しに相違ありません。 (日付) (会社名) 代表取締役 (代表取締役の氏名) (会社代表印) |
複数ページのコピーをホチキスで綴じた場合は、各ページのつなぎ目に会社代表印で「割印」を押します。
STEP3:申請書とセットで提出し、還付を請求する
登記申請書、添付書類の原本、そしてSTEP2で作成したコピーの3点をセットにして、法務局に提出します。 この「原本」と「証明付きのコピー」をセットで提出する行為自体が、「原本還付を請求します」という意思表示になります。申請書にチェック欄などがあるわけではありません。登記官が原本とコピーを照合し、問題がなければ、手続き完了後に原本が返却されます。
郵送申請の場合の手順
郵送で登記申請を行う場合は、上記一式に加えて、切手を貼った返信用封筒を同封します。 宛先にはご自身の住所・氏名を記載しておきます。簡易書留など、追跡可能な方法で返送してもらうのが安心でしょう。この返信用封筒がないと、原本を返送してもらえないため、忘れないように注意が必要です。
電子定款やオンライン申請の場合、原本還付はどうなる?
電子定款やオンライン申請を利用した場合、そもそも紙の原本が存在しないため、定款の原本還付という手続き自体が不要になります。
電子定款を利用するメリットと原本の扱い
電子定款は、収入印紙代4万円が不要になる大きなメリットに加え、紙の原本が存在しないため、還付手続きの手間なく、会社と公証役場にデータとして保管されます。 認証を受けた電子定款のデータ(PDFファイル)が、法的な原本となります。
銀行などへ提出する際は、このデータを印刷したものや、公証役場で発行される「同一情報の提供」という証明書面を提出することになります。還付の手間や紛失のリスクがない点は、電子定款の利点といえるでしょう。
オンライン(電子)申請での原本還付手続き
オンラインで登記申請する場合でも、一部の添付書類は原本還付を請求できます。その際は、申請データとは別に、原本と証明付きコピーなどを法務局へ郵送または持参する必要があります。
オンライン申請システム上で、添付書類を別途郵送する旨を入力し、申請データとは別に、還付を受けたい書類の原本と証明付きコピー、そして返信用封筒を法務局に送付します。オンライン申請と物理的な書類の郵送を組み合わせる形で手続きを進めます。
法人登記で原本還付の請求を忘れたら?
原本還付は登記申請と同時に請求するのが原則であり、後から請求することはできません。ただし、申請時に原本還付の請求を忘れた場合でも、登記手続きが完了していなければ、書類を返却してもらえる可能性があります。登記が完了すると原本は返却されなくなるため、気づいた時点ですぐに申請先の法務局へ連絡することが大切です。
まずは、申請した法務局の「商業・法人登記担当」の部署に電話で問い合わせましょう。会社の商号や申請日を伝え、原本還付の請求を忘れてしまった旨を説明します。担当者の指示に従い、場合によっては法務局の窓口へ出向き、証明付きのコピーを提出することで、還付に応じてもらえることがあります。
法人登記で原本還付をする際の注意点は?
原本還付をスムーズに行うためには、いくつか事前に知っておくべき注意点があります。とくに、請求のタイミングと、コピーの事前準備は重要なポイントです。
請求は登記申請と同時に行う
原本還付は、必ず登記申請と同時に請求しなくてはなりません。後日、「あの時の書類を返してください」と申し出ても、原則として応じてもらえません。申請書類を提出する前に、還付を受けたい書類がないかを必ず確認しましょう。
法務局にコピー機はない
法務局の庁舎内には、基本的に申請者用のコピー機は設置されていません。コピーは、必ず事前に準備してから法務局へ向かう必要があります。万が一、不備があった場合に備え、会社の代表印を持参しておくと、その場で訂正できる場合もあります。
代理人が申請する場合の注意点
司法書士などの代理人が手続きを行う場合は、コピーへの証明記載・押印は、その代理人が行います。また、代理人に手続きを依頼する際の「委任状」に、「原本還付の請求及び受領に関する件」といった一文を加えておくと、手続きがよりスムーズに進むでしょう。
原本還付は法人登記と同時に還付請求を行う
法人登記で提出した添付書類の原本は、適切な手続きを踏むことで返却してもらえます。そのためには、原本のコピーに「原本に相違ありません」と記載・押印したものを準備し、登記申請と同時に還付請求を行うことが不可欠です。
この記事で解説した、還付できる書類・できない書類の違いや、具体的な手順を参考に、大切な書類を手元に残せるよう、正しく手続きを進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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