• 作成日 : 2025年7月24日

代表取締役の法人登記ガイド|手続き、変更登記申請書などの必要書類、費用を徹底解説

代表取締役に何らかの変更が生じた場合、法務局への法人登記(変更登記)が法律で義務付けられています。しかし、いざ登記手続きを進めようとしても、「何から手をつければ良いのか分からない」「どんな書類が必要なの?」「費用はどれくらいかかるの?」といった疑問や不安を抱える方は少なくありません。

この記事では、そんな代表取締役の法人登記に関するあらゆる疑問を解消し、スムーズな手続きをサポートするための情報を分かりやすく解説します。

代表取締役に関する法人登記とは

会社の情報は、法務局に備えられた登記簿に記録され、一般に公開されています。これを法人登記と呼びます。法人登記は、会社の信用を維持し、取引の安全を確保するために非常に重要な制度です。誰でも会社の登記事項証明書(登記簿謄本)を取得することで、その会社の基本的な情報を確認できます。

代表取締役に関する登記事項には、その氏名や住所などがあり、これらの情報に変更が生じた場合は、その変更を登記簿に反映させるための変更登記手続きが必要となります。

代表取締役の変更登記が必要な理由

代表取締役の変更登記は、単なる事務手続きではありません。会社の根幹に関わる重要な手続きであり、それには明確な理由があります。

会社の信用の維持と取引の安全性

代表取締役は、会社を代表して業務を執行し、契約を締結するなど、極めて重要な権限を持っています。そのため、誰が代表取締役であるのかを公示し、取引の相手方などが安心して取引できるようにする必要があります。

法律上の義務

代表取締役に変更があった場合、その変更が生じた日から2週間以内に管轄の法務局へ変更登記を申請することが会社法で義務付けられています。この期限は意外と短いため、変更が決まったら速やかに準備を進める必要があります。

登記を怠った場合のリスク

正当な理由なく登記申請を怠った場合、代表取締役が100万円以下の過料に処せられることがあります。これは「登記懈怠(とうきけたい)」と呼ばれる状態です。過料の制裁だけでなく、取引上の不利益や、許認可の更新時に問題が生じるなど、事業運営にも支障をきたす可能性があります。

代表取締役の変更登記が必要となる主なケース

代表取締役に関する変更登記が必要となるのは、具体的にどのような場合でしょうか。ここでは、主なケースをいくつかご紹介します。

新たに代表取締役が就任する場合

会社の設立時はもちろんのこと、既存の代表取締役が退任し、新たに別の人物が代表取締役に就任する場合に変更登記が必要です。この手続きは「代表取締役の就任登記」とも呼ばれます。新しい代表者の選任方法や、その前提となる定款の規定などを確認し、適切な手続きを踏むことが重要です。

代表取締役が退任・辞任する場合

代表取締役が任期満了、辞任、解任、死亡などの理由でその職を辞する場合も変更登記が必要です。代表取締役が欠けてしまうと会社運営に支障をきたすため、後任の選任と併せて速やかに手続きを行う必要があります。退任する代表取締役の意思確認や、場合によっては取締役会、株主総会の決議などが必要です。

代表取締役が再任(重任)する場合

株式会社の取締役の任期は、原則として選任から2年以内の事業年度に係る定時株主総会終結時までです。ただし、非公開会社では定款で最長10年まで延長できます。任期が満了し、同じ人物が引き続き代表取締役に就任する場合を「再任(重任)」といい、この場合も変更登記が必要です。自動的に更新されるわけではないため、定時株主総会での再任決議と登記手続きを忘れないようにしましょう。

代表取締役の氏名・住所に変更があった場合

代表取締役の氏名や住所は登記事項です。そのため、結婚や養子縁組などで氏名が変わった場合や、引っ越しで住所が変わった場合にも変更登記が必要です。個人の変更事項ではありますが、会社の代表者としての公示情報であるため、忘れずに手続きを行いましょう。

代表取締役の変更登記手続きの流れ

それでは、実際に代表取締役の変更登記を行う際の手続きの流れを解説します。ここでは、最も一般的な株式会社のケースを想定しています。

1. 株主総会または取締役会の決議

代表取締役の選定方法は、会社法や会社の定款の規定によって異なります。

  • 取締役会設置会社の場合
    原則として取締役会の決議で代表取締役を選定します。
  • 取締役会非設置会社の場合
    株主総会の決議で取締役を選任し、定款の定めに従い、以下のいずれかの方法で選定します。

    1. 株主総会で代表取締役を選定する
    2. 定款で代表取締役を定める
    3. 取締役の互選で代表取締役を選定する

まずは自社の定款を確認し、適切な機関で必要な決議を行ってください。決議後は、その内容を証明するために議事録を必ず作成し、適切に保管します。議事録には、決議が行われた日時、場所、出席者、議案、決議の結果などを正確に記載する必要があります。

2. 就任承諾書などの必要書類の準備

決議に続いて、新たに代表取締役に就任する者から「就任承諾書」を取得します。この書類は、本人が代表取締役に就任することを承諾したことを証明するものです。その他、ケースに応じて印鑑証明書や本人確認書類などが必要になります。

3. 登記申請書の作成

法務局に提出するための「役員変更登記申請書」を作成します。申請書には、主に以下の情報を記載します。

  • 会社の商号
  • 本店所在地
  • 登記の事由
  • 登記すべき事項(新しい代表取締役の氏名・住所、就任・退任年月日など)
  • 登録免許税の額
  • 添付書類の一覧
  • 申請年月日
  • 申請人(会社名、本店所在地、代表取締役の氏名・住所)
  • 連絡先の電話番号

役員変更登記申請書は法務局のウェブサイトでテンプレートや記載例が公開されていますので、これらを参考にしながら正確に作成しましょう。

参考:商業・法人登記の申請書様式|法務局

また、マネーフォワード クラウドでも、役員変更登記申請書のテンプレート・ひな形を無料で提供しています。下記リンクからご確認ください。

4. 法務局への登記申請

作成した登記申請書と必要書類一式を、会社の本店所在地を管轄する法務局に提出します。申請方法には、以下の3つがあります。

  1. 法務局の窓口に直接持参する方法
  2. 郵送する方法
  3. オンラインで申請する方法

申請時には、後述する登録免許税の納付が必要です。オンライン申請の場合は、電子署名や電子証明書の準備が必要になるため、事前に確認しておきましょう。

5. 登記完了と登記完了後の手続き

登記申請後、法務局での審査が行われ、不備がなければ1週間〜2週間程度で登記が完了します。登記が完了すると、法務局から登記完了証が交付されます。

登記完了後は、まず新しい登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、内容に誤りがないか必ず確認しましょう。

その後、必要に応じて以下の関係各所への代表者変更の届出を行います。

  • 税務署(法人税消費税など)
  • 都道府県税事務所、市町村役場(法人住民税、法人事業税など)
  • 年金事務所(健康保険、厚生年金保険など)
  • ハローワーク(雇用保険など)
  • 労働基準監督署(労災保険など)
  • 金融機関(銀行口座の名義変更など)
  • 許認可を受けている官公庁

これらの届出にも期限が設けられている場合があるため、速やかに行うことが大切です。

代表取締役の変更登記の必要書類一覧

代表取締役の変更登記を申請する際には、様々な書類が必要となります。具体的にどのようなものが求められるのか、主なものを以下にまとめました。

すべてケースで必要な書類

  • 変更登記申請書
    法務局指定の様式で作成します。
  • 登録免許税納付用の収入印紙貼付台紙
    登録免許税分の収入印紙を貼り付けます。申請書に直接貼付するスペースがあれば不要な場合もあります。
  • 磁気ディスク(FD又はCD)
    登記すべき事項を記載した磁気ディスク(FD又はCD)。オンライン申請の場合は不要となります。

代表取締役の就任・再任の場合に必要な書類

  • 株主総会議事録または取締役会議事録
    代表取締役を選定したことを証明する書類です。
  • 就任承諾書
    新たに就任する代表取締役が作成します。
  • 印鑑証明書
    就任承諾書に押印した印鑑が実印である場合に添付します。発行から3ヶ月以内のもの。取締役会設置会社で代表取締役を取締役会の決議で選定した場合、出席した取締役及び監査役(監査役設置会社の場合)が取締役会議事録に実印を押印し、その印鑑証明書を添付します。
  • 本人確認書類
    代表取締役に就任する者の運転免許証コピー、住民票の写しなど。
    印鑑証明書を提出する場合は不要なケースもあります。
  • 定款
    代表取締役の選任方法や資格に関する定めを確認するために必要となる場合があります。
  • 辞任届
    前任者がいる場合、その辞任を証する書面が必要です。

代表取締役が辞任・退任する場合に必要な書類

  • 辞任届
    辞任する代表取締役が作成します。
  • 株主総会議事録または取締役会議事録
    代表取締役の解任や、後任者の選任に関する議事録が必要です。

その他、死亡による退任の場合は死亡の事実を証する書面(死亡届や戸籍謄本、戸籍抄本など死亡の事実がわかるもの)、任期満了による退任の場合はその旨を記載した書面などが必要となります。

代表取締役の氏名変更の場合に必要な書類

  • 戸籍謄本または抄本 ※必要に応じて
    氏名の変更の事実が確認できるもの。
  • 委任状
    司法書士等に依頼する場合に必要です。

代表取締役の住所変更の場合に必要な書類

  • 住民票の写し ※必要に応じて
    住所の変更の事実と新しい住所が確認できるもの。
  • 委任状
    司法書士等に依頼する場合に必要です。

代表取締役の変更登記にかかる費用

代表取締役の変更登記には、いくつかの費用が発生します。主な内訳を理解しておきましょう。

登録免許税

法務局に登記を申請する際に納付する税金です。代表取締役の変更登記に関する登録免許税は、資本金の額に関わらず、申請1件につき1万円です。ただし、資本金が1億円を超える会社の場合は3万円となります。収入印紙を購入し、申請書または収入印紙貼付台紙に貼付して納付します。

書類取得費用

登記申請に必要な印鑑証明書や住民票の写しなどを取得するための実費がかかります。これらの書類は、市区町村役場や法務局で取得でき、1通あたり数百円程度です。

司法書士への依頼費用

登記手続きを司法書士に依頼する場合は、司法書士への報酬が発生します。報酬額は、依頼する司法書士や案件の複雑さによって異なりますが、数万円から十数万円程度が一般的です。書類作成から申請代行まで全てを任せることができるため、時間と手間を大幅に削減できます。

小さな会社における代表取締役変更のポイント

小さな会社や一人社長の会社の場合、代表取締役の変更手続きはどのように進めればよいのでしょうか。基本的な流れは他の株式会社と同様ですが、いくつか注意しておきたいポイントがあります。

株主が経営者自身や親族のみの場合

小さな会社では、株主が経営者自身やその家族・親族のみであるケースが多く見られます。この場合、株主総会の招集や開催は比較的スムーズに行えるでしょう。しかし、形式的な手続きであっても、法律に則った議事録の作成は必須です。後々のトラブルを避けるためにも、議事録は正確に記録し、適切に保管してください。

取締役会を設置していない場合

取締役会を設置していない小さな会社の場合、代表取締役の選定方法は定款の定めに従います。主な選定方法は以下の通りです。

  1. 株主総会で直接代表取締役を選定する
  2. 定款で特定の取締役を代表取締役と定める
  3. 取締役の互選によって代表取締役を選定する

自社の定款を改めて確認し、適切な手続きを踏むことが重要です。特に取締役の互選の場合、互選書への各取締役の押印(取締役会非設置会社で互選により代表取締役を選定する場合は、原則として就任する代表取締役の実印と印鑑証明書が必要)や印鑑証明書の添付が必要になることがあります。

社長一人のみの会社の場合

取締役が社長一人のみの「一人会社」の場合、その一人の取締役が当然に会社を代表する代表取締役となります。この場合、その取締役が辞任・死亡などで欠けた場合や、新たに取締役が就任する場合には、その変更登記が必要です。

もし、社長(取締役)が交代する場合、新しい取締役を選任する株主総会の決議が必要となり、その新しい取締役が代表取締役となります。

代表取締役の変更登記は、会社の未来を守る重要な手続き

代表取締役の変更は、会社にとって大きな節目であり、法的に正確な登記手続きは、会社の信用と円滑な運営の基盤となります。手続きには期限があり、怠るとペナルティのリスクもあります。

この記事で解説した手続き一覧、必要書類、費用などを参考に、計画的に準備を進めてください。手続きに不安を感じる場合は、無理にご自身で対応しようとせず、早めに司法書士などの専門家へ相談されることをおすすめします。

今回の情報が、皆様のスムーズな代表取締役の変更登記の一助となることを願っています。会社の重要な情報を適切に管理し、信頼される企業運営を目指しましょう。


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