- 作成日 : 2025年7月3日
動物病院を開業するには?必要な許認可や資金、手続きの流れを解説
近年、日本ではペットの高齢化や飼い主のペットに対する健康意識の高まりから、獣医療へのニーズは多様化・高度化しています。ペットにかける費用も増加傾向にあり、市場としては成長が見込まれます。
しかし、開業には周到な準備と専門的な知識が不可欠です。この市場の成長は開業の追い風となる一方で、獣医療技術の進歩は高性能な医療設備の導入を促し、結果として初期投資の増大という課題も生んでいます。この記事では、必要な基礎知識から具体的なステップ、許認可などを解説します。
目次
動物病院を開業するには?
動物病院の開業を成功させるためには、まず明確なビジョンと計画が必要です。
病院のコンセプトとミッションの明確化
どのような動物病院にしたいのか、具体的なコンセプトとミッションを定めることが最初のステップです。たとえば、「地域密着型で予防医療に重点を置く」「高度医療を提供する専門病院を目指す」「エキゾチックアニマルにも対応する」など、特色を明確にすることで、ターゲットとする飼い主層や提供すべきサービスが具体化します。実際に、「動物を家族として真剣に考えている方に真摯に向き合う病院」や「それぞれの家族にとって、最適な治療を提案する」といった理念は、飼い主の共感を呼び、信頼関係構築の基盤となり得ます。
事業形態の選択
動物病院の開業形態には、個人事業主と法人(主に株式会社や合同会社)の2つがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、事業規模や将来の展望に応じて慎重に選択する必要があります。
動物病院を開業するのに必要な資格
動物病院を開業し、運営するためには特定の資格が必須となります。
獣医師免許
動物病院で診療行為を行うためには、獣医師免許が不可欠です。開設者自身が獣医師であるか、または管理者として獣医師を雇用する必要があります。この免許がなければ、動物に対する診断、治療、手術などの医療行為は一切行えません。
動物取扱責任者
動物の愛護及び管理に関する法律に基づき、動物の保管(入院動物の管理など)、訓練、展示、販売、譲受飼養といった特定の業を行う場合、「動物取扱責任者」を選任し、事業所を管轄する都道府県知事または政令指定都市の長への登録(第一種動物取扱業の場合)または届出(第二種動物取扱業の場合)が必要です。動物病院においては、入院施設を設ける場合や、ペットホテルを併設する場合などが該当します。
動物取扱責任者となるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 獣医師免許を取得していること。
- 愛玩動物看護師免許を取得していること。
- 営もうとする動物取扱業の種別に係る半年以上の実務経験があり、かつ、国が認める学校その他の教育機関を卒業していること。
- 営もうとする動物取扱業の種別に係る半年以上の実務経験があり、かつ、公平性及び専門性を持った団体が行う客観的な試験によって、知識及び技術を習得していることの証明を得ていること。
小規模な動物病院では、院長である獣医師が動物取扱責任者を兼任することが一般的です。しかし、事業規模が拡大したり、ペットホテルやトリミングサロンなど、動物取扱業としてのサービスを本格的に展開する場合には、それぞれの業務内容や動物福祉に関する専門的な知識を持つスタッフを動物取扱責任者として配置することも検討すべきです。
動物病院を開業するのに必要な許認可
動物病院を開業するには、法律に基づきいくつかの許認可申請や届出が必要です。主な手続きは以下の通りです。
- 診療施設開設届
動物病院を開設した場合、10日以内に管轄の自治体(保健所など)へ届け出る必要があります(獣医療法)。獣医師免許証の写しや施設の平面図などが必要です。 - 第一種動物取扱業の登録
診療以外の目的(ペットホテル、美容目的の一時預かりなど)で動物を保管(預かる)サービスを行う場合、動物愛護管理法に基づき、管轄の保健所などへの登録が必要です。事業所ごとに「動物取扱責任者」の選任も必須です。 - エックス線装置備付届
レントゲン装置を設置する「前」に、管轄の自治体(保健所など)へ該当する装置について届け出る必要があります(獣医療法施行規則)。 - 動物用医薬品販売業許可
診察を伴わずに継続的に医薬品(療法食、予防薬など)を販売する場合、薬機法等に基づき「動物用医薬品販売業」の許可が別途必要になります。 - 医療廃棄物処理に関する手続き
注射針などの医療廃棄物は、法律に基づき専門業者に委託して適正に処理する必要があります。業者との委託契約に加え、自治体によっては排出状況等の届出が求められる場合があります。
動物病院を開業するのに必要な資金
動物病院の開業には多額の資金が必要で、主に開業時の「初期投資」と、継続的に発生する「運転資金」に分けられます。事前の綿密な資金計画が安定経営の鍵となります。
1. 初期投資
開業時にかかる一時的な費用で、物件の規模や導入する医療機器のグレードなどにより大きく変動し、一般的に数千万円規模になります。
- 物件取得費・内装工事費
テナントの場合、保証金・礼金・仲介手数料などがかかります。動物病院特有の設計(診察室、手術室、入院室など)や衛生設備が求められる内装工事は高額になりがちで、小規模な病院でも数百万円から1,000万円以上かかることもあります。 - 医療機器購入費
X線装置、超音波診断装置、手術関連機器、血液検査機器など、基本的なものだけでも数百万円から数千万円の費用が見込まれます。より高度な医療機器はさらに高額です。中古品の選定やリース契約も初期費用を抑える選択肢となります。 - 什器・備品費
レセコン(診療報酬請求用コンピューター)を含むパソコンシステム、待合室や診察室の家具、事務用品などで数百万円程度かかることがあります。 - 広告宣伝費
開業を周知するためのホームページ作成、チラシ、看板設置などで数十万円から数百万円程度が目安です。 - その他
許認可申請費用、コンサルタント料(依頼する場合)、開業当初の医薬品や消耗品の仕入れ費用なども考慮に入れる必要があります。
一般的に、新規開業の小~中規模テナントの場合、これら初期投資の合計目安は2,000万円~5,000万円以上とされていますが、条件により大きく変動します。
2. 運転資金
開業後、毎月継続的に必要となる運営費用です。開業当初は売上が不安定な可能性もあるため、最低でも数ヶ月分、理想的には6ヶ月分程度の運転資金を初期投資とは別に確保しておくことが強く推奨されます。
これらの費用を正確に把握し、余裕を持った資金計画を立てることが、動物病院の安定した経営には不可欠です。
動物病院を開業する流れ
動物病院の開業は計画的に進める必要があり、個人事業主としての一般的な手順は以下の通りです。
1. コンセプト策定と事業計画
病院の理念、診療方針、ターゲット、提供サービスを具体的に定めます。これを基に、市場分析、資金計画、収支計画などを盛り込んだ詳細な「事業計画書」を作成します。これは経営の指針となり、融資申請などにも不可欠です。
2. 診療圏調査と物件選定
開業候補地の市場(ペット飼育数、競合状況、地域特性など)を調査(診療圏調査)し、集患が見込める立地を選びます。必要な広さや構造、賃料などの条件を検討し、最適な物件を決定します。
3. 資金調達
作成した事業計画に基づき、必要な開業資金(初期投資と数ヶ月分の運転資金)を確保します。自己資金のほか、日本政策金融公庫や民間金融機関からの融資、補助金などを検討し、手続きを進めます。
4. 設計・内装工事と医療機器導入
選定した物件について、動物病院としての機能性やコンセプトを反映した設計を行い、内装工事に着手します。並行して、レントゲン装置、超音波診断装置、検査機器、手術機器などの医療機器を選定し、購入やリースの手配を進めます。
5. 各種許認可申請・届出
法律に基づき、診療施設開設届、動物取扱業登録(入院施設やペットホテルを設ける場合など)、X線装置備付届など、必要な申請や届出を、管轄の行政機関(保健所など)へ計画的に行います。労働保険や税務関連の届出も、従業員を雇う場合は必要です。
6. スタッフ採用と研修
病院の規模に応じて、獣医師、動物看護師、受付スタッフなどを採用します。開業前に、病院の理念共有、業務内容の確認、医療機器の操作、接遇マナーなどの研修を実施します。
7. 集患・広報活動
開業に向けて、ホームページやSNSでの情報発信、チラシ配布、看板設置などで地域への認知度を高めます。信頼構築のために内覧会を開催するのも有効です。
8. 開業準備最終チェックと開業
開業日前に、院内の清掃・整備、医療機器や備品の動作確認、医薬品・消耗品の在庫確認、予約システムやスタッフ体制の最終チェックを行い、万全の状態で開業を迎えます。
動物病院を開業するのに必要な書類
動物病院の開業には、多岐にわたる書類の準備と提出が求められます。
これらは開業地の自治体によって様式や添付書類が若干異なる場合があるため、必ず事前に管轄の行政機関に確認が必要です。
診療施設開設届関連
- 飼育動物診療施設開設届出書
- 診療施設の構造設備の概要及び平面図
- 開設者及び管理者の獣医師免許証の写し
- (開設者が法人の場合)法人の定款または寄付行為の写し、及び登記事項証明書
- (X線装置を設置する場合)エックス線装置備付届、エックス線装置に関する構造設備の概要、遮蔽計算書など
動物取扱業登録関連(該当する場合)
- 第一種動物取扱業登録申請書
- 飼養施設の平面図及び付近の見取り図
- 動物取扱責任者が要件を満たすことを証明する書類(獣医師免許証の写し、愛玩動物看護師免許証の写し、所定の実務経験証明書、指定学校の卒業証明書、資格認定証など)
- (申請者が法人の場合)登記事項証明書、役員の氏名及び住所を記載した書類
- 事業所の土地及び建物について事業の実施に必要な権原を有することを示す書類
- 申請者(法人役員等含む)、動物取扱責任者が動物愛護管理法の欠格事由に該当しないことを示す書類(誓約書など)
その他、業態により必要なもの
- (動物用医薬品を診療以外で販売する場合)動物用医薬品販売業許可申請書、店舗の構造設備に関する書類など
- 医療廃棄物処理委託契約書の写し、産業廃棄物管理票の準備、自治体への関連届出書
動物病院を開業するメリット・デメリット
自身の動物病院を持つことは、獣医師にとって大きな魅力がある一方、相応の責任とリスクも伴います。
メリット
- 自身の診療方針や理念に基づき、理想とする動物医療を追求できます。
- 勤務時間や院内環境を自分で決定し、自身やスタッフにとって快適で効率的な職場を作れます。
- 経営努力が収益に反映されれば、勤務医時代よりも高い収入を得られる可能性があります。
- 地域に根ざした医療提供を通じて、ペットと飼い主を支え、社会貢献を強く感じられます。
- 診療技術の研鑽に加え、経営者としての知識やスキルも習得し、人間として大きく成長できます。
デメリット
- 多額の初期投資や運転資金が自己責任となり、赤字や廃業のリスク、収入不安定の可能性があります。
- 診療業務に加え、経営戦略、資金繰り、人事、マーケティングなど、経営者としての業務が多岐にわたります。
- 経営上のあらゆる判断やその結果に対する全責任を負うため、精神的なプレッシャーが大きいです。
- 優秀なスタッフの採用と、その後の教育・育成は容易ではありません。
- 特に開業当初などは長時間労働になりやすく、プライベートな時間を確保しにくい場合があります。
動物病院開業の注意点とポイント
動物病院を開業し、地域に信頼され継続的に発展させていくためには、以下の点が重要です。
徹底した情報収集と入念な事業計画
詳細な市場調査(診療圏調査)を行い、競合状況や地域のニーズを正確に把握します。これに基づき、リスクも考慮した実現可能な事業計画(特に資金計画と収支計画)を策定することが成功の基盤です。
適切な立地選定
飼い主がペットを連れて来院しやすい場所(駅からのアクセスが良い、駐車場が確保しやすいなど)を選ぶことが集患の基本です。ただし、賃料と想定売上のバランスを考慮し、長期的な視点で選定します。
効果的な集患戦略とマーケティング
SEO(検索エンジン最適化)を意識した質の高いホームページの作成・運営は必須です。Googleビジネスプロフィールへの登録・充実や、SNSを活用した情報発信、顧客とのコミュニケーションも重要になります。
質の高い医療サービスと顧客満足度の向上
丁寧で分かりやすい説明(インフォームドコンセント)、ペットと飼い主双方に寄り添った対応、清潔で快適な院内環境を維持します。常に最新の獣医学的知見・技術の習得に努め、透明性の高い料金提示で信頼関係を築きます。
スタッフマネジメントと働きやすい環境づくり
優秀な人材を確保・育成し、定着してもらうことが不可欠です。適切な給与水準、良好なコミュニケーション、スキルアップ支援など、スタッフが働きがいを感じられる環境を整備します(国家資格である愛玩動物看護師の適切な活用も重要です)。
財務管理と経営数値の把握
毎月の売上、経費、利益などの経営数値を正確に把握・分析します。損益分岐点や原価率、人件費率といった主要な経営指標を常に意識し、健全な財務体質を維持します。
専門家への相談
開業準備から日々の経営に至るまで、税務(税理士)、人事労務(社会保険労務士)、法務(弁護士)、経営戦略(経営コンサルタント)など、各分野の専門家の助言やサポートを積極的に活用しましょう。
地域連携と貢献活動
地域の獣医師会や他の動物病院、動物愛護団体、自治体などと連携を図ります。飼い主向けの教室開催や動物愛護活動への協力など、さまざまな形での地域貢献活動を通じて、地域社会からの信頼を築き、病院の存在意義を高めます。
動物病院を開業するには入念な準備が必要
動物病院の開業は、コンセプトの策定から、必要な資格の確認、許認可手続き、具体的な開業プロセスとそれに伴う書類の準備など多岐にわたる項目を一つずつクリアしていく必要があります。
特に、開業後の経営においては、質の高い、心のこもった医療サービスを提供し続けることは当然の前提として、飼い主との間に長期的な信頼関係をいかに構築できるか、そして共に働くスタッフのモチベーションを高め、働きがいのある環境を提供できるか、さらには日々の経営数値を的確に把握し、健全な財務運営を維持できるかが、成功の鍵を握ります。
獣医療を取り巻く環境や飼い主のニーズは常に変化しています。その変化に柔軟に対応し、新しい知識や技術をどん欲に吸収し、常に学び続ける謙虚な姿勢も、地域になくてはならない動物病院として成長していくためには不可欠です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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