- 作成日 : 2025年5月1日
創業融資に協調融資は利用できる?メリットや進め方・利用できる制度を解説
協調融資とは2つ以上の金融機関から融資を受けることで、日本政策金融公庫の創業融資でも利用できます。協調融資の利用により高額な融資が可能になり、事務手続きの手間やコストを削減できることがメリットです。
本記事では、創業融資で利用できる協調融資のメリット・デメリットや進め方、事例などを紹介します。
目次
協調融資とは
協調融資とは、2つ以上の金融機関から融資を受けることです。主要取引銀行となる金融機関が幹事となって貸出金額や分担割合・利用条件などを協定し、実際の貸付けはそれぞれの銀行が行います。
もともとは、中堅・大企業などが高額の資金調達をする際、ひとつの金融機関からでは希望の金額を借りられない場合に利用されていました。近年は、日本政策金融公庫を中心に、民間金融機関と連携して中小事業者を対象にした協調融資を行うケースが増えています。
企業は希望金額を借りることができ、手続き等の負担が軽減されることがメリットです。金融機関は万が一貸倒れが発生したときのリスクを分散できるため、双方にとってメリットの多い制度です。
創業融資に協調融資は利用できる?
日本政策金融公庫では複数の金融機関と業務連携しているため、創業融資にも協調融資を利用できます。創業時に協調融資を利用することで、より高額な融資を受けることが可能です。
ここでは、日本政策金融公庫の創業融資と協調融資できるケースを解説します。
日本政策金融公庫と民間金融機関の協調融資なら利用しやすい
日本政策金融公庫は、一般の金融機関が行う金融を補完する政策金融機関です。民間金融機関と連携し、協調融資にも積極的に取り組んでいます。融資にあたっては、顧客の同意を得た上で連携する民間金融機関と情報交換を行い、各企業の資金ニーズに応じて融資を実施しています。
民間金融機関は、地域に密着したきめ細やかな対応や多様な資金調達手段の提供が強みです。一方、日本政策金融公庫は全国152支店のネットワークや政策性の高い分野の専門性が強みであり、協調融資で両者を組み合わせることで、資金調達の多様化・安定化につながることがメリットです。
協調融資の利用がおすすめのケース
協調融資は、単独融資では難しい多額の融資を必要としている場合におすすめです。事業を開始するため、高額な設備投資が必要な場合などがあげられます。
飲食店の場合であれば、店舗の敷金・礼金、仲介料のほかに内装工事や調理設備、備品の購入が必要です。建設業では、事務所を賃貸する費用のほか、トラックや重機など車両購入費もかかるでしょう。いずれも高額な資金が必要になり、創業時に自己資金や単独融資で賄うのは大変です。協調融資を利用すれば、十分な額の融資を受けて、スムーズな開業が期待できます。
協調融資の審査に通るためには、事業計画書に具体的なビジネスプランや詳細な資金計画を記載し、事業の将来性をアピールすることが大切です。
創業融資に協調融資を利用するメリット
創業融資で協調融資を利用することで、高額でも融資を受けやすくなるなど、さまざまなメリットがあります。
詳しくみていきましょう。
希望額が高額でも調達しやすくなる
協調融資を利用すれば、希望額が高額の場合でも、資金を調達しやすくなります。必要な資金が高額になると、ひとつの金融機関で全額の融資を受けるのは難しくなりますが、協調融資であれば借入れが可能です。
複数の金融機関が共同で融資することで、金融機関にとっても貸倒れのリスクを軽減できます。そのため、単独の申し込みであれば審査に通らない場合でも、協調融資であれば可能となるケースもあります。
個別の申し込みに比べて手間・コストを削減できる
協調融資は手続きの手間やコストを削減し、負担を減らせることもメリットです。単独融資を複数申し込む場合、各金融機関に相談をして、それぞれに必要な書類を用意しなければなりません。
協調融資であればひとつの銀行とやり取りをすればよく、提出する書類も統一されていることが多いため、効率的に手続きを進められます。
再融資を希望する際に資金調達先の幅が広がる
複数の金融機関に申し込み、融資を受けて実績を作ることで、将来的に資金調達の幅が広がることもメリットです。
事業を進めていく過程では、事業拡大や設備投資などで高額な資金が必要になることもあるでしょう。複数の金融機関とつながりがあれば、資金調達の選択肢が広がり、結果として融資を受けられる可能性が高まります。
創業融資に協調融資を利用するデメリット
創業融資で協調融資を利用する場合、デメリットもあります。単独融資よりも手続きに時間がかかり、融資が成立しない可能性もある点です。
デメリットについて、詳しく解説します。
時間がかかる
協調融資は、時間がかかることがデメリットです。単独融資であれば1〜1ヶ月半程度の期間で融資を受けられるところ、協調融資は2〜3ヶ月程度になる傾向にあります。
時間がかかるのは、それぞれの金融機関の要件が異なるためです。日本政策金融公庫の要件を満たしているか検討するとともに、別の金融機関の要件も確認しなければなりません。
民間の金融機関では信用保証協会付きの対応になることも多く、信用保証協会の面談があることも、融資を受ける期間が長くなる理由です。
早く融資を受けたい場合、時間がかかることは大きなデメリットといえるでしょう。
一機関の審査が下りないと成立しない可能性がある
協調融資は成立しない可能性もあることがデメリットです。参加している金融機関のひとつが了承しなければ、希望額の調達ができない場合があり、協調融資自体が成立しない可能性もあります。
例えば、日本政策金融公庫に担保を入れる必要がある場合は、協調融資を受けるのは難しくなります。国の抵当権が最上位になるため、民間金融機関にとっては貸倒れのリスクが高くなるためです。民間金融機関は協調融資に消極的になる可能性が高まるでしょう。
あくまで、すべての金融機関の審査が通らなければ希望の融資は受けられないということを把握しておいてください。
協調融資の進め方
創業融資で協調融資を利用したいときは、次の手順で進めます。
- 日本政策金融公庫または取引先金融機関に相談する
- 取りまとめるメイン銀行が連携する金融機関と案件を共有する
- 金融機関ごとに貸出条件を決めて、情報を共有して融資を実行する
- 取りまとめるメイン銀行に手数料を支払う
日本政策金融公庫と取引があれば、日本政策金融公庫に、相談します。取引先の民間金融機関があれば、そちらに相談してもかまいません。
協調融資を利用する場合の融資額は高額になるケースが多く、しっかりとした事業計画書の作成が求められます。自分で対応が難しい場合は、専門家への相談も必要になるでしょう。
創業者が利用できる協調融資制度
日本政策金融公庫は多くの民間金融機関と連携して協調融資を行っており、地方銀行や信用金庫など、各地域で創業者向けの協調融資が提供されています。
ここでは、創業者向けの協調融資を3つ紹介します。
創業・起業者向け協調融資「Approach」
「Approach」は、日本政策金融公庫と城南信用金庫が連携して提供する創業者向け協調融資です。城南信用金庫は東京都品川区を本店所在地とし、東京都全域と神奈川県の一部で展開しています。
創業より3年以内の法人または個人事業主を対象にしており、5,000万円を上限に、運転資金・設備資金および借り換えに利用できます。
原則として、法人の場合は代表者、個人事業者の場合は1名の連帯保証が必要です。
じゅうろく創業応援ローン「チャレンジサポート」(協調口)
「チャレンジサポート」は、日本政策金融公庫と十六銀行が連携して行う創業者向け協調融資です。十六銀行は岐阜県岐阜市に本店を置く地方銀行で、岐阜県・愛知県を中心に展開しています。融資の対象になるのは、岐阜・愛知・三重の3県下に本社を置き、一定の要件を満たす法人・個人事業主です。
創業前後に必要な運転・設備資金について、1,000万円を上限に融資を行います。
創業者向け協調融資「ベストアシストα(アルファ)」
「ベストアシストα(アルファ)は、日本政策金融公庫と鶴岡信用金庫が連携して行う創業者向け協調融資です。鶴岡信用金庫は山形県鶴岡市に本店を置き、庄内地方に支店を展開しています。
鶴岡信用金庫の営業地区内で新たに事業を始める方、もしくは事業開始後7年以内の方が対象です。運転資金・設備資金について融資を行い、融資金額・融資期間などは相談の上決定します。
創業支援の協調融資が実施された事例
ここでは、創業支援のために協調融資が実施された事例を紹介します。
調剤薬局の開業を支援
日本政策金融公庫と筑波銀行が、在宅医療に特化した調剤薬局の開業を支援した事例です。薬剤師としてキャリアを積んできた事業主は、市内の調剤薬局より事業譲渡を受け、独立・起業を決断しました。
創業する調剤薬局では、在宅医療サービスを提供します。薬剤師が自宅や高齢者施設等で療養する患者を直接訪問し、薬剤の配達や服薬の指導、薬剤の効果・副作用の確認などを行うサービスです。
協調融資の支援を受け、地域住民に品質の高い医療環境を提供するとしています。
スタートアップへの支援
日本政策金融公庫と東日本銀行は、スタートアップ企業の株式会社インフキュリオンに協調融資を実施しました。
株式会社インフキュリオンは、オリジナルPay やクレジットカードなど、次世代決済サービスを提供するプラットフォームを展開する会社です。
今回の協調融資は、サービス事業の拡大に必要な運転資金の供給を目的としています。
創業時は協調融資で高額の資金調達が可能
協調融資は複数の金融機関から融資を受けるもので、創業時の利用も可能です。日本政策金融公庫では幅広く民間金融機関と提携し、協調融資にも積極的に取り組んでいます。
協調融資の利用により、単独融資では難しい高額の資金調達が可能になり、事務手続きの手間も省けます。
ただし、融資を受けるまでには時間がかかり、必ず審査に通るとは限りません。協調融資を利用する際は、デメリットの把握も必要です。
融資の通るためには、説得力のある事業計画書の作成がポイントになります。専門家の意見も聞きながら、協調融資を成功させましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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