• 作成日 : 2025年7月23日

看護師の起業アイデア12選!資金調達や注意点も解説

少子高齢化が進む日本において、医療・介護のニーズは多様化し、看護師の専門性が発揮できる領域は病院だけにとどまりません。訪問看護ステーションの開設はもちろん、これまでの経験を活かしたセミナー講師やヘルスケア商品の開発、あるいは全く新しい形のコミュニティ運営など、その可能性は無限大です。

この記事では、看護師の皆さんが起業を検討する際に役立つ12のアイデアを、資金調達の方法や開業の注意点などと併せて解説します。

看護師の資格を直接活かせる起業アイデア4選

看護師免許や関連資格が事業運営の法的・実務的な要件となる分野は、専門性を最も直接的に発揮できる領域です。これらの事業は初期投資や規制のハードルが高い傾向にありますが、公的保険制度の活用が見込めるため、安定した収益と大きな社会的貢献が期待できます。

訪問看護ステーション

在宅医療の需要増加を背景に、看護師の起業アイデアとして中心的な選択肢となるのが訪問看護ステーションの設立です。利用者の自宅へ赴き、主治医の指示のもとで医療処置や療養上のケアを提供します。

事業を開始するには、法人を設立し、人員や設備基準を満たした上で、自治体から事業者としての指定を受ける必要があります。管理者には看護師または保健師の資格が求められるため、看護師が自ら経営者兼管理者となるケースは多いです。開業資金は事業規模によりますが、1,000万円前後が一つの目安とされています。

デイサービス施設

介護保険分野での起業を考えるなら、通所介護(デイサービス)も有力な選択肢です。利用者の健康管理、機能訓練、レクリエーションなどを日帰りで提供します。

施設の管理者になるために看護師資格は必須ではありませんが、利用者が10名を超えるデイサービスでは看護師を1名以上配置するよう定められており、看護師が創業者となることで基準をクリアしやすくなります。こちらも法人格の取得と自治体からの指定が必要です。病院のような夜勤がなく、日中のみの稼働である点は、働き方の改善を目指す看護師にとって大きな魅力となるでしょう。

助産院

看護師資格に加えて助産師資格を持つ場合、助産院の開業という専門性の高い道が開かれます。助産院では、妊娠から出産、産後のケアまでを包括的にサポートします。開業には、助産師としての5年以上の実務経験や200件以上の分娩介助経験といった厳しい要件が課せられることが一般的です。

また、医療行為は行えないため、緊急時に連携する嘱託医を定めておくことが義務付けられています。命の誕生というかけがえのない瞬間に寄り添い、地域社会に深く貢献できる、非常にやりがいのある事業です。

病児保育サービス

共働き世帯の増加に伴い、子どもが病気で保育園や学校に行けない場合に、保護者に代わってケアを提供する病児保育の需要が高まっています。

看護師が運営する病児保育施設は、医療知識に基づいた的確な健康管理と緊急時対応能力を備えている点で、保護者から絶大な信頼を得られます。これが他のサービスとの明確な差別化要因となります。比較的小規模から始めることが可能で、訪問看護ステーションやデイサービスに比べて初期投資を抑えやすい点も特徴です。

看護師の臨床経験が強みになる起業アイデア4選

運営に際して看護師免許が法的に必須ではないものの、臨床で培った知識、技術、コミュニケーション能力が強力な競争優位性となる事業も数多く存在します。これらの分野では、看護師ならではの視点が独自の価値を生み出します。

美容サロン

美容皮膚科などでの勤務経験がある看護師にとって、美容サロンの開業は親和性の高い選択肢です。メディカルエステ、専門的なフットケア、あるいは医療知識に基づいたリラクゼーションなど、付加価値の高いサービスを提供できます。

解剖生理学や衛生管理に関する深い知識は、施術の安全性と効果を高め、顧客からの信頼を獲得する上で大きな武器となります。これにより、一般的なサロンとの明確な差別化を図ることが可能です。自宅の一部を改装して始めるなど、個人事業主として小さくスタートできる点も魅力です。

コミュニティカフェ

地域住民が気軽に集えるカフェと、健康相談の場を融合させたユニークな事業モデルです。プロの看護師に、病院に行くほどではないけれど少し気になる健康上の不安を相談したい、という潜在的なニーズは大きいと考えられます。

健康志向のメニューを提供したり、バリアフリー設計を取り入れたり、定期的に健康セミナーを開催したりすることで、地域住民の健康増進と交流の拠点としての役割を担うことができます。地域に根差した信頼関係を構築するこの事業は、将来的に他のヘルスケアサービスへ展開する基盤ともなり得ます。

医療専門ライター

正確で信頼性の高い医療・健康情報への需要は、インターネットの普及とともに飛躍的に高まっています。看護師としての専門知識と臨床経験を活かし、医療系ウェブサイトや企業のオウンドメディア、出版物などの記事を執筆・監修する仕事です。

看護師という国家資格は、情報の信頼性を担保する強力な証明となり、高単価な案件の受注につながりやすいです。パソコンとインターネット環境があれば始められ、働く場所や時間を自由に調整できるため、副業や家庭との両立を目指す場合にも適しています。

健康・医療コンサルタント

看護師のコアスキルであるアセスメント能力、計画立案能力、コミュニケーション能力を活かし、個人や組織に対して専門的なアドバイスを提供する仕事です。

個人向けには、生活習慣病予防やメンタルヘルスケアを支援するヘルスコーチやカウンセラーとして活動できます。法人向けには、介護施設の運営改善や、企業の健康経営に関するコンサルティングなどが考えられます。特定の診療科や患者層(高齢者、精神疾患など)での豊富な経験は、専門特化したコンサルティングサービスの提供を可能にします。オンラインでのサービス提供も可能で、柔軟な働き方を実現できます。

看護師が小資本から始められるプチ起業アイデア4選

「起業」と聞くと多額の資金や大規模な事業を想像しがちですが、まずは小さな一歩を踏み出す「プチ起業」という形もあります。

フリーランス看護師

特定の医療機関に常勤で雇用されるのではなく、個人事業主として様々なクライアントと業務契約を結ぶ働き方です。企業の健康診断、イベントでの救護待機(イベントナース)、旅行添乗(ツアーナース)、クリニックの短期的な人材補充など、活躍の場は多岐にわたります。

自分の裁量で仕事を選び、スケジュールを組めるため、ワークライフバランスを重視する看護師に適しています。ただし、即戦力としての高いスキルと幅広い経験が求められる働き方でもあります。

オンライン健康相談

インターネットとビデオ通話ツールを活用し、個人からの健康に関する相談に応じるサービスです。メンタルヘルスの悩みに寄り添う「カウンセリングナース」や、食事・運動を含めた生活全体の改善を支援する「ヘルスコーチング」といった形で専門性を発揮できます。

このモデルの最大の利点は、必要な初期投資がパソコンと通信環境程度と極めて少ないことです。物理的な制約なく全国のクライアントを対象にできるため、ニッチな専門分野でも市場を見つけやすいというメリットがあります。

セミナーや研修の講師

企業や自治体、地域のコミュニティなどを対象に、健康や医療に関するセミナーや研修を提供する仕事です。テーマは、職場のメンタルヘルス対策、一般市民向けの救命救急講座、介護職員向けの感染症対策研修など、自身の得意分野に応じて設定できます。

看護師という信頼性の高い専門家が講師を務めることで、研修の価値は大きく高まります。本業の傍ら、週末だけ活動するといった形で始めることも可能です。

看護ブログ

自身の専門知識や臨床での経験をブログやSNSで発信し、専門家としての認知度を高めていく方法です。すぐに収益に結びつくわけではありませんが、広告収入やアフィリエイト、企業からの記事執筆依頼など、将来的な収益化の可能性があります。

より重要なのは、この活動を通じて自身の専門分野における「権威性」を構築し、見込み客となる読者との関係を築ける点です。将来、オンライン講座やコンサルティングサービスを販売する際の強力な集客チャネルとなり得ます。

看護師の起業準備

優れたアイデアだけでは事業の成功はおぼつきません。情熱を具体的な成果へと結びつけるためには、冷静な分析と緻密な計画に基づいた周到な準備が不可欠です。この段階を丁寧に行うことが、将来の事業の安定性を左右します。

事業目的を明確化する

まず自問すべきは「なぜ、この事業を始めたいのか」という根源的な問いです。収入のためか、理想の看護を実現するためか、社会課題を解決するためか。事業目的を文章として書き出し、具体化することで、事業の核となる理念が定まります。この明確な目的意識は、事業運営で困難に直面した際の判断基準となり、モチベーションを維持するための支えとなります。

詳細な事業計画を策定する

事業計画書は、起業という航海における海図のような役割を果たします。提供するサービスの内容、ターゲットとする顧客層、価格設定、集客方法、そして最も重要な収支計画(売上予測、経費見積もり、資金繰り)などを具体的かつ客観的な数値で示します。事業計画書は、自己資金でまかなえない場合の資金調達において、金融機関や投資家に対して事業の将来性と返済能力を説得するための極めて重要な書類となります。

徹底した市場調査を行う

「自分がやりたいこと」という自分軸の発想だけでなく、「市場が求めていること」といった俯瞰した視点が求められます。競合となるサービスは何か、その強みと弱みは何か、ターゲット顧客はどのような課題(ペイン)を抱えているのか、これらを徹底的に調査します。机上の空論で終わらせず、実際に潜在顧客に話を聞き、「生の声」からニーズを把握することが、市場に受け入れられるサービスを設計する上で欠かせません。

専門家や支援機関へ相談する

一人で全ての課題を抱え込む必要はありません。地域の商工会議所や自治体が設置する起業支援センター、よろず支援拠点など、無料で相談できる公的機関が数多く存在します。また、税理士や行政書士、中小企業診断士といった専門家の意見を聞くことで、自分では気づかなかった事業計画の穴や、法務・税務上のリスクを発見できます。客観的な視点を取り入れることは、計画の精度を高める上で非常に有効です。

看護師の起業資金の調達方法

事業を始める上で最も大きなハードルの一つが資金の確保です。特に訪問看護ステーションやデイサービスのように設備投資や人件費がかさむ事業では、計画的な資金調達は事業を継続する生命線となります。利用可能なさまざまな制度を正しく理解し、戦略的に活用することが求められます。

自己資金と融資を検討する

資金調達の基本は、自身で準備した自己資金と、金融機関からの融資(借入)です。特に、政府系金融機関である日本政策金融公庫は、これから事業を始める創業者向けの融資制度を設けており、民間の銀行に比べて金利が低く、審査のハードルも比較的低いとされています。多くの場合、融資を受けるには開業資金総額の2割程度の自己資金を用意していることが一つの目安となります。

国や自治体の補助金・助成金を活用する

国や地方自治体は、特定の政策目的(雇用創出、IT化推進など)に合致する事業活動に対して、補助金や助成金といった形で資金を支援しています。これらの制度の最大のメリットは、原則として返済が不要である点です。これにより、事業の財務的なリスクを大幅に軽減できます。ただし、申請すれば必ず受給できるわけではなく、申請期限の定めと審査があり、補助金の多くが経費を支払った後に支給される「後払い(精算払い)」方式です。補助金・助成金を当てにしすぎず、堅実な資金計画を立てることが大前提です。

助成金制度の種類を把握する

重要なのは、どのような事業活動が助成金の対象となるかを事前に把握し、事業計画の段階からその活用を織り込んでおくことです。例えば、スタッフの雇用を考える際には「キャリアアップ助成金」を、ITシステムの導入を計画する際には「IT導入補助金」を視野に入れる、といった戦略的な思考が有効です。以下に、看護師の起業で活用しやすい主な制度をまとめます。

制度名目的対象となる活動ポイント
キャリアアップ助成金非正規雇用労働者の処遇改善パートタイマー等の正社員化、賃金規定の改定、社会保険の適用拡大などスタッフを雇用する際に、将来的な正社員転換を計画することで活用できる。人材の定着にもつながる。
IT導入補助金中小企業のITツール導入支援電子カルテ、勤怠管理システム、予約システム等のソフトウェア導入費用業務効率化は必須。オンライン相談事業などではプラットフォーム構築費用も対象になり得る。
業務改善助成金生産性向上と事業場内最低賃金の引上げ支援設備投資(により業務効率化を図り、従業員の賃金を引き上げる場合設備投資と従業員の待遇改善をセットで行う際に活用できる。
両立支援等助成金仕事と家庭(育児・介護)の両立支援従業員の育児休業や介護休業の取得、職場復帰を支援する制度の導入・実施働きやすい職場環境を整備することで、優秀な人材の確保・定着に役立つ。
創業支援制度新規開業の促進各自治体が独自に設ける制度。創業時の経費(事務所賃料、設備費など)の一部を補助自治体によって内容が大きく異なるため、事業所の所在地を管轄する役所への確認が必須。

看護師が起業で失敗しないための注意点

起業は、大きな可能性を秘めている一方で、相応のリスクも伴います。看護師としての優秀さが、そのまま経営者としての成功を保証するわけではありません。事業を継続させていくためには、臨床現場とは異なる視点と覚悟が必要です。

収益の不安定さを理解する

会社員時代の安定した給与とは異なり、起業後の収入は事業の成果に直結します。特に事業開始直後は、売上が立たず収入がゼロ、あるいは赤字が続く期間があることを覚悟しなくてはなりません。このような不安定な時期を乗り越えるため、事業が軌道に乗るまでの数ヶ月分(最低でも6ヶ月程度)の運転資金と、自身の生活費をあらかじめ確保しておくことが極めて重要です。

集客の仕組みを構築する

どれだけ質の高いサービスを用意しても、その存在が顧客に知られなければ事業を継続できません。病院のように患者が自然に訪れる環境とは違い、自ら積極的に顧客を獲得しにいく必要があります。ウェブサイトやSNSでの情報発信、チラシの配布、地域のケアマネジャーやクリニックへの営業活動など、ターゲット顧客に合わせたマーケティング戦略を立て、地道に実行し続けることが求められます。

経営に関する知識を習得する

起業すると、看護業務の専門家であると同時に、経営者としての役割も担うことになります。経理・財務、人事・労務管理、マーケティング、法務など、これまで馴染みのなかった分野の知識が不可欠です。書籍やセミナー、起業家仲間との交流などを通じて、常に学び続ける姿勢が求められます。すべての業務を一人で完璧にこなすのは不可能ですから、必要に応じて専門家の力を借りる判断も重要です。

保険や税金の義務を果たす

これまで勤務先が行っていた税金(所得税、住民税)の申告・納付や、社会保険(健康保険、厚生年金)の手続きを、すべて自分で行う責任が生じます。これらの手続きを怠ると、ペナルティが課されるだけでなく、事業の信用問題にも発展しかねません。開業当初から税理士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながら、コンプライアンスを遵守する体制を整えることが、事業を長く続けるためのリスク管理となります。

看護師としてのキャリアを活かし起業を成功させよう

看護師としてのキャリアを活かした起業は、働き方の選択肢を広げ、理想のケアを追求し、社会に新たな価値を提供する大きな可能性を秘めています。訪問看護ステーションのような資格を直接活かす道から、医療ライターやコミュニティカフェといった臨床経験が強みとなる道まで、その選択肢は多岐にわたります。

この記事で紹介した12のアイデアと成功への道筋が、新たな一歩を踏み出そうとするすべての看護師にとって、具体的な行動計画を立てるための一助となれば幸いです。


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