- 更新日 : 2025年1月30日
デイトレーダーが法人化するタイミングは?メリット・デメリットや手続きを解説
デイトレーダーとして取引規模が大きくなると、法人化を検討される方もいることでしょう。本記事では、デイトレーダーが法人化を検討するタイミングや法人化のメリット・デメリットについて解説します。
目次
デイトレーダーが法人化を検討するタイミング
デイトレーダーとは、1日に何度も株やFXなどの取引を繰り返すことで、利益を獲得しようとする投資家のことです。デイトレードで安定した利益を得られるようになると、専業で売買を行うこともあります。
デイトレーダーが法人化を検討するタイミングとして考えられるのが、所得税が法人税額を上回るようなタイミングです。原則として、所得税は所得によって税率が上がる超過累進課税であるのに対して、法人税は税率が変わりません。そのため、所得税率が法人税率を上回るタイミングが、法人化を検討する時期のひとつと考えられます
以下の表は、所得税率と法人税率を比較したものです。
所得 | 所得税率 | 法人税率 |
---|---|---|
1,000円以上195万円未満 | 5% | 23.2% ※一部を除く中小企業は、所得800万円以下の部分については15% |
195万円以上330万円未満 | 10% | |
330万円以上695万円未満 | 20% | |
695万円以上900万円未満 | 23% | |
900万円以上1,800万円未満 | 33% | |
1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | |
4,000万円以上 | 45% |
出典元:国税庁|No.2260 所得税の税率 、法人税率の軽減|中小企業庁 をもとに作成
例えば、年間の所得が900万円を超えた場合、所得税率が33%となるため、法人税率(23.2%)より高くなるため、このタイミングで法人化するのも一つの選択肢と言えるでしょう。ただし、他の税金や社会保険なども関係してくるため、詳細な試算を求めている場合、税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。
なお、先に所得税は超過累進税率と説明しましたが、一部の所得については、他の所得とは分離して、一律の税率をかけるものもあります。株やFX、先物取引・オプション取引は申告分離課税で、適用される税率は所得税15%と地方税5%の合計20%(復興特別所得税を含めると20.315%)です(※2024年1月14日自邸)。申告分離課税が適用される取引のデイトレーダーの場合、法人化しないほうが税制面では有利というケースもあるため、必ずしも法人化に踏み込むことが最適な選択肢とは言えません。
超過累進課税が適用される暗号資産のデイトレーダーについては、法人税率などと比較して、法人化を検討するとよいでしょう。
デイトレーダーが法人化するメリット
デイトレーダーの法人化の主なメリットを紹介します。
節税効果がある
デイトレーダーの法人化のメリットは、節税効果が期待できることです。先述の通り、所得税と法人税では構造的な違いがあります。暗号資産のデイトレードは総合課税の対象となるため、所得税率が法人税率を上回るような場合には、法人化による節税効果が期待できるでしょう。
また、将来の相続税においても、法人化したほうが相続税効果は見込まれます。法人として役員報酬を親族に支給することで、将来の相続財産を分散できるためです。結果として、相続税を軽減できるケースもあります。
損失の繰越期間が長くなる
個人で青色申告を選択している場合、その年の赤字を3年にわたって繰り越し、翌年以降の所得と相殺できます。しかし、3年間しか繰り越しができないため、デイトレードで巨額の損失が出た場合に、赤字が繰り越せずに余ってしまうこともあります。
法人化するメリットは、赤字を繰り越せる期間を延ばせることです。法人については、最大10年の赤字の繰り越しが認められています。
損益通算の範囲が広がるのも法人化のメリットと言えるでしょう。個人事業主の場合、申告分離課税に分類される株の譲渡取引については、上場株式同士の赤字と黒字の相殺、非上場株式同士の赤字と黒字の相殺しか認められません。他の所得との損益通算(黒字と赤字を相殺すること)が認められないため、巨額の損失がデイトレードで生じているときは、法人化にしたほうが税制面で有利になることがあります。
経費として計上できる範囲が広がる
個人事業主から法人化することで、経費計上の範囲が広がります。例えば、法人化後に支給される代表者の役員報酬は、法人の経費として計上できるようになるでしょう。一方、法人扱いになると会社の役員となるため、役員報酬として代表者には給与が支払われることになり、法人での経費(費用)として扱うことができます。
融資の審査が通りやすい
個人事業主と比べて法人に属しているほうが、社会的信用が得やすいというメリットがあります。毎月一定の役員報酬を支払っている場合、安定した収入とみなされることがあるため、融資審査が通りやすくなる可能性があります。
デイトレーダーが法人化するデメリット
デイトレーダーが法人化する主なデメリットを紹介します。
事務作業の工数が負担になる
法人化することで、個人事業主のときと比べ、事務作業が増え、企業の会計処理に適した方法で仕訳や記帳も行わなくてはなりません。会計の知識が乏しい方は、それが重荷と感じるでしょう。
また、法人化の場合、各種税金の申告の手続きが複雑となり、法人としての税務申告においては提出を要する書類が増えます。記載内容や記載方法も一般的な個人の確定申告とは異なるため、税理士に申告手続きを依頼するなどの対策が必要です。
ランニングコストが発生する
法人化することで、個人事業主では支払いが不要だったランニングコストが発生するデメリットもあります。例えば、社会保険料は法人化することで、代表者は社会保険に加入できるメリットがありますが、会社負担分も含めた納付が必要になります。役員報酬の設定額次第では、社会保険料の負担が個人事業主のときよりも増加する可能性があるでしょう。
また、法人の場合、赤字でも法人住民税の均等割を支払わなければなりません。法人住民税の均等割とは、資本金や従業員数に応じて課される部分であり、所得がなくても発生します。
デイトレーダーが法人化する流れ
個人事業主から法人化する場合は、以下の流れで法人設立を進めていきます。
- 会社の基本事項を決める
- 会社の印鑑を作成する
- 定款を作成する
- 資本金または出資金を払い込む
- 法人設立の登記を申請する
- 法人の口座を開設する
- 個人の資産を移転する
法人化した後は、法人の管理する口座で取引をするのが一般的です。法人の証券口座などを開設し、個人の資産を移転させます。資産の移転方法として、資産の売却、資産の貸し出し、贈与、現物出資があります。資産を法人に売却するのが一般的です。
デイトレーダーを法人化するかどうかは状況で判断しよう
デイトレーダーといっても、取引の対象は多岐にわたります。そのため、法人化すべきかどうかも、取引する金融商品や規模など、そのときの個人の状況で異なるでしょう。例えば、申告分離課税で一律の税率が適用される株の取引では、法人化しないほうが税制面では有利に働きます。そのため、個別の状況に合わせて法人化するかしないかを判断をしたい場合は、専門家に相談することが適切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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