• 作成日 : 2024年12月5日

美容室を法人化するタイミングは?メリット・デメリットや手続きの流れを解説

美容室の法人化とは、個人事業主として経営している美容室を法人経営に変更することです。法人化は、節税などの観点から、売上が伸びてきたタイミングで検討することもあります。美容室が法人化するメリット・デメリットや手続きなどについて解説します。

美容室が法人化を検討するタイミング

美容室が法人化を検討するタイミングとして、売上高が伸びた時期や多店舗経営を計画している段階などが挙げられます。ここでは主なケースについて具体的に紹介します。

売上高が伸びた

自店の売上高が伸びてきたタイミングは、美容室の法人化を検討する理由の一つです。例えば、消費税の課税売上高が1,000万円を超えるタイミングです。消費税の免税事業者でいられなくなるため、消費税の申告が増えて税務申告が複雑化するタイミングで法人化することが考えられます。

年間所得(年収から必要経費を控除した金額)がある程度増えてきたタイミングも法人化の検討時期といえるでしょう。法人にかかる法人税が原則として一律であるのに対し、個人にかかる所得税は超過累進課税で所得に応じて税率が上がる仕組みになっているためです。法人税率と所得税率には、以下のような相違点があります。

所得所得税率法人税率(普通法人)
195万円以下5%23.2%

※中小法人は課税所得800万円以下の部分については、15%または19%

195万円超330万円以下10%
330万円超695万円以下20%
695万円超900万円以下23%
900万円超1800万円以下33%
1800万円超4000万円以下40%
4000万円超45%

出典:No.2260 所得税の税率|国税庁No.5759 法人税の税率|国税庁をもとに作成

法人税や所得税などの税金のほかにも社会保険なども考慮する必要があるため、どのくらいの金額で法人化すべきかは、個別のケースで異なります。しかし、年間所得が上昇するほど法人税率と所得税率の差が開いていくため、所得が高額になる場合は法人化したほうが、税負担などの面でメリットが多い可能性があります。

多店舗経営を計画している

多店舗経営により事業を拡大したいタイミングでも法人化が考えられます。法人になることで、個人事業主のときと比べて、社会的信用を得やすくなるためです。

法人は、会社の名称や役員の名称などを登記する必要があります。公的な機関で存在が証明されるため、個人事業主と比べて信用されやすい面があります。多店舗経営を展開するには、新たな店舗への投資が必要です。融資を受ける際に社会的信用が高いと、スムーズに事業資金を調達しやすいというメリットがあります。

設備投資や移転のために融資を受けたい

設備投資で資金が必要になるタイミングや店舗の移転で資金が必要になるタイミングも法人化を検討する時期といえるでしょう。多店舗経営での資金調達と同様に、融資を受けるには信用が重要であるためです。

美容業における法人の割合は?

「令和3年経済センサス」によると、美容業の事業所数の総数は162,431でした。内訳は、個人130,241、法人32,173(会社32,122、会社以外の法人51)、法人でない団体17です。

事業所数の総数に対する法人全体の割合は約19.81%、会社だけに限定すると約19.78%でした。個人事業主の割合は全体の約8割であるのに対して、法人は約2割であることがわかります。

出典:令和3年経済センサス-活動調査 調査の結果|総務省統計局

美容室が法人化するメリット

なぜ美容室を法人化するのでしょうか。法人化による主なメリットを紹介します。

節税効果がある

売上が伸びて利益が拡大した場合、法人化は税金面でのメリットが期待できます。個人事業主では美容室経営での収入から必要経費を差し引いた全額が所得税の対象になるのに対して、法人は経営者の役員報酬を費用に計上できるためです。

役員報酬は所得税に、会社の利益(正確には課税所得)は法人税に振り分けることができ、所得を分散させることができます。先述したように、法人税と所得税では仕組みが異なり、所得額が増えるほど超過累進課税の所得税は不利です。所得を法人と経営者個人に分散できる法人のほうが、所得税の負担を軽減しやすいというメリットがあります。

融資を受けやすい

個人事業主と比べて法人の方が融資を受けやすいのも法人化のメリットです。先述したように、会社の商号(会社名)や役員名などが登記されます。存在を証明できることなどから社会的な信用を得やすく、個人事業主よりも融資を受けやすかったり、融資が受けられる金額が多額であったりするメリットがあります。

事業拡大や採用を強化しやすい

事業拡大や採用にプラスになるのも法人化のメリットです。法人は個人事業主と比べて社会的信用を得やすいため、スムーズな資金調達による事業拡大がしやすい傾向です。また、個人と比べて人が集まりやすいため、採用にもメリットがあります。

欠損金の繰越控除可能期間が延びる

設備投資などにより赤字経営が続く場合も、法人化することで得られるメリットがあります。税金の計算において、赤字を繰り越せる期間が個人よりも法人の方が長くなるためです。

個人事業主の場合、青色申告をしていれば、事業による赤字(損失)について3年(特定非常災害の指定を受けた災害で生じた損失は5年)を限度に、所得税の繰越控除ができます。

一方、青色申告を提出する法人であれば赤字(欠損金)を最大10年にわたって、法人税から繰越控除することが可能です。赤字の繰越控除ができる期間が延長されることで、税金の負担を軽減できるメリットがあります。

美容室が法人化するデメリット

美容室の法人化にはメリットがある一方で、デメリットもあります。主なデメリットを紹介します。

事務作業の負担が増える

美容室を法人化すると、事務作業が増えるデメリットがあります。まず、会計関連の事務作業です。法人化する際に資産の引き継ぎに伴う会計処理が必要になります。

また、個人事業主では簡易的な帳簿の記帳も認められますが、法人は適切な方法で会計処理をしなければなりません。税務処理も複雑になるため、経営者自ら処理する場合は会計に関するある程度の知識が必要です。

ほかにも、法人化により経営者自らも社会保険に加入する必要があるため、社会保険関係の手続きも行わなければならなくなります。また、法人は登記を行うため、会社の住所や取締役などを変更する際は変更の手続きも必要です。

赤字でも法人税の支払いが発生する

個人事業主の場合、所得税や住民税などは所得に対して課税されます。そのため、美容室の経営が赤字で所得がない場合は、所得税や住民税は課税されません。

しかし、法人の場合、赤字であっても負担しなければならない税金があります。法人住民税です。法人住民税は、法人税割(法人税に対する一定割合を乗じた税額)と均等割で構成されます。法人住民税の均等割は、資本金等の額と従業員数によって決まります。均等割は、赤字であっても少なくとも7万円を負担しなければなりません。

社会保険料の負担が重くなる

法人の場合、社会保険の加入は義務です。社会保険の加入義務は、個人事業主の場合では常時5人以上を雇用しているときに限られます(適用除外業種を除く)。

そのため、従業員を雇用した場合は、社会保険に加入して、会社負担分の社会保険料を納めなければなりません。従業員だけでなく、経営者個人も社会保険の加入対象になります。法人化することにより社会保険料の負担が重くなる可能性があります。

美容室を法人化する手続き

美容室が個人事業主から法人になる場合、以下の流れで必要な手続きを進めます。

  1. 法人の形態を決める
  2. 定款を作成する(合同会社を除く)
  3. 資本金(または出資金)を払い込む
  4. 法人設立登記を行う
  5. 税務署に法人設立の届出を行う
  6. 都道府県税事務所に法人設立の届出を行う
  7. 年金事務所で社会保険の加入手続きなどを行う
  8. 従業員を雇用する場合は労働基準監督署などで手続きを行う
  9. 税務署に個人事業主の廃業届を提出する
  10. 個人の資産や負債を法人に引き継ぐ
  11. 法人の銀行口座を開設する

法人化により複数の手続きが必要になるため、法人化したい時期を決定し、計画的に手続きを進めていくことをおすすめします。

法人成りの手続きの詳細については、こちらの記事をご覧ください。

美容室を法人化する際の相談先

美容室を法人化するにあたって、頼れる専門家を紹介します。

税理士

税理士は、税務の専門家です。税務申告の手続きや税務相談などに対応しています。法人化を検討する際、どの程度の所得になったら法人化するべきか悩むケースもあるかと思います。税金の負担の面で法人化を考えている場合は、税理士への相談がおすすめです。個別の状況に応じて、法人化のタイミングについてアドバイスをもらえます。

ほかにも、税務手続きに加え、資金調達計画の助言を受けられる場合があります。

司法書士

司法書士は、登記申請の代行ができる専門家です。美容室を法人化する場合、会社設立登記が必須となります。司法書士であれば、手続きの面でどのように法人化を進めていけばよいか、定款の記載内容や登記に必要な書類の準備についての相談が可能です。

また、法人化する際に定款作成や登記申請の代行を依頼できます。

美容室の法人化は資金調達の必要性なども考慮して

美容室の法人化を検討するタイミングとして挙げられるのが、売上が伸びてきたタイミングや、多店舗展開や設備投資で資金調達が必要になったときです。法人化には、個人事業主と比べて信用を得やすいことや、個人事業主よりも法人のほうが税負担の面でメリットがあるケースなどがあるため、法人化するかどうか検討されている方は、専門家への相談も検討してみましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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