- 更新日 : 2025年10月21日
発電事業の許認可とは?種類や手続き流れを完全解説
発電事業を始めるには、電気事業法などに基づく複数の許認可や届出が必要です。事業の規模や種類によって手続きは大きく異なり、これを怠ると事業を開始できないだけでなく、罰則の対象となる可能性もあります。
この記事では、複雑な発電事業の許認可について、全体像から具体的な手続きの流れ、費用、注意点までをわかりやすく解説します。
目次
発電事業の許認可とは?
発電事業とは、
「自らが維持し、及び運用する発電等用電気工作物を用いて小売電気事業、一般送配電事業、配電事業又は特定送配電事業の用に供するための電気を発電し、又は放電する事業であつて、その事業の用に供する発電等用電気工作物が経済産業省令で定める要件に該当するものをいう」
と電気事業法で定義されています。
また、発電事業者となるには電気事業法に基づき経済産業大臣に所定の届出が義務付けられています。
発電事業の定義と種類
電気事業法では、電気を発電する事業や送配電する事業、販売する事業(小売事業)を「電気事業」と定義し、その中で電気を発電する役割を担うのが「発電事業」です。ただし、自家消費を目的とする発電(例:自宅屋根の太陽光など)は発電事業には該当しません。
発電事業は、その発電方法や規模によって、様々な種類に分けられます。
- 発電方法による分類:太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス、火力、原子力など
- 電圧による分類:低圧(600V以下/主に家庭や小規模施設)、高圧(600V超〜7,000V以下/主に工場・ビル)、特別高圧(7,000V超/主に大規模施設や発電所)
なぜ許認可が必要なのか?
発電事業に関する手続きの多くは、電気事業法およびその関連法令に基づいています。届出や認定、許認可が設けられている主な理由は電力の安定供給や安全の確保、環境への配慮などにも関係しています。
発電事業の許認可にはどんな種類がある?
発電事業の許認可は、大きく分けて「電気事業法に基づく届出」「再生可能エネルギー制度に関する認定」「土地利用に関する許認可」の3つに分類されます。事業内容によって、これらのうち複数の手続きが必要となります。
電気事業法に基づく届出
電力の安定供給と安定確保のための中核的な枠組みです。
発電事業の届出
電気事業法上の「発電事業」に該当する場合、経済産業大臣への届出が必要です。発電した電気を小売事業者などへ供給する接続最大電力の合計が1万kWを超える場合など、一定の規模・供給条件を満たす事業が対象となります。届出手続きの際には、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の加入申込書写しを添付することが求められます。
保安体制の届出
発電設備が「自家用電気工作物」に該当する場合(一般的に出力50kW以上)、主任技術者の選任と保安規程の届出が必要です。また、太陽光10kW以上50kW未満や風力20kW未満などの小規模設備でも、基礎情報の届出および使用前自己確認が義務化されています。
工事計画届出(着工前審査)
出力が2,000kW以上の発電設備を設置する場合、工事計画が技術基準に適合しているかを確認するため、着工の30日前までに工事計画届出を提出します。提出先は設備設置地を管轄する産業保安監督部です。
再生可能エネルギー制度に関する認定
太陽光・風力・水力・バイオマスなど、再生可能エネルギーによる発電でFIT(固定価格買取制度)やFIP(フィードインプレミアム制度)を利用して売電を行う場合、国の事業計画認定を受ける必要があります。
この認定を取得しなければ、国が定める買取価格・プレミアムを受けての売電はできません。申請は原則として「再生可能エネルギー電子申請サイト」から行い、設備仕様・土地利用権限・保守点検体制などが審査されます。
また、運転開始後は発電量や運転費用の定期報告が義務づけられており、報告を怠ると認定取消の対象となることがあります。
土地利用に関する許認可
発電設備を設置する「場所」そのものに関する法律上の手続きです。
農地法による農地転用許可
農地を発電設備用地として使用する場合は、原則として転用許可が必要です。特に農用地区域内の優良農地は許可が厳格で、営農を継続しながら発電する「営農型太陽光(ソーラーシェアリング)」などに限り一部で認められるケースがあります。
森林法による林地開発許可
森林の形質を変更する場合、太陽光発電を目的とする開発は0.5ヘクタール(5,000㎡)を超えると許可が必要です。土砂災害防止・水源保全などの観点から、審査には時間を要します。
自然公園法・都市計画法等
国立・国定公園などの指定区域内では自然公園法の行為許可が必要です。また、市街化調整区域などでは都市計画法や宅地造成等規制法の許可が必要になる場合があります。これらは自治体の運用によって異なるため、事前に管轄行政との協議が重要です。
発電事業を開始するまでの手続きの流れ
発電事業を開始するまでの大まかな手続きの流れは以下のようになります。特に土地関連の許認可や系統連系(接続)は時間を要するため、早期着手・並行作業が重要です。
- 事業計画の策定・資金調達(想定出力・電源種・スケジュール・資金計画)
- 設置場所の選定・権利確保(所有・賃借・使用権限の整理)
- 土地利用に関する許認可の着手(農地転用、林地開発、自然公園・都市計画 等)
- 系統連系の申込み(送配電事業者) → 接続検討回答 → 工事費負担等の協議・接続契約
- FIT/FIPの事業計画認定(売電する場合)(電子申請、権利関係・仕様・体制を確認)
- 電気事業法に基づく保安手続
- 発電事業の届出+OCCTO手続
- 設置工事・安全管理審査・使用前確認
- 運転開始(運転・費用等の定期報告、保安維持、事故報告 等)
【早見表】発電規模(出力)別で必要な手続き一覧
事業計画を立てる上で最も重要なのが、「自分の事業規模で、どの手続きが必要か」を把握することです。以下の表を参考にしてください。
発電設備の規模・区分 | 主な手続(電気事業法) | 補足 |
---|---|---|
太陽光 10kW未満(一般用に多い帯) | (基礎情報届出の対象外)/技術基準適合の維持 | 「基礎情報届出」は10kW未満は不要。ただし技術基準の遵守は必要。 |
太陽光 10kW以上50kW未満、風力 20kW未満(小規模事業用) | 基礎情報の届出+使用前自己確認 | 電子申請が原則。既設の変更工事時も対象になり得ます。 |
50kW以上~2,000kW未満(多くが自家用) | 主任技術者選任+保安規程届出+使用前自己確認 | 自家用電気工作物として保安体制の整備が必要。 |
2,000kW以上 | 上記に加え工事計画届出(着工30日前) | 対象は施行規則別表第2。地域監督部へ届出。 |
電気事業法に基づく発電事業の許認可とは?
電気事業法では、事業の開始を国に知らせる「発電事業届出」や、設備の安全を確保するための「保安規程の届出」「工事計画届出」などが、発電設備の出力に応じて定められています。
発電事業届出
発電事業届出は、経済産業大臣に「発電事業を営む旨」を届け出る手続きです。
- 対象:電気事業法上の「発電事業」に該当する場合が対象で、要件の例として、各設備1,000kW以上で、小売等に供する接続最大電力の合計が1万kW超と見込まれるケース等が該当します。
- 目的:国内の発電力の把握と需給の安定運用のため。
- 提出先:経済産業大臣(設備の設置態様により資エネ庁または各経済産業局)。
- 手続の流れ:電力広域的運営推進機関(OCCTO)への加入申込→申込書の写しを添付して届出。無届で発電事業を行った場合は法令違反となり得ます。
保安規程の届出(自家用電気工作物)
自家用電気工作物(事業用の発電設備など)を設置する者は、工事・維持・運用の保安体制を定めた保安規程を作成し、産業保安監督部へ届け出ます。
- 対象:一般に出力50kW以上の多くの発電設備が該当(自家用)。小規模事業用は除外。
- 目的:安全な運用・保守体制の確立と事故未然防止。
- 提出先:事業所所在地を管轄する産業保安監督部。
- ポイント:電気主任技術者の選任・届出が必要です。
なお、太陽光10~50kW未満、風力20kW未満は小規模事業用電気工作物に区分され、基礎情報の届出と使用前自己確認が義務化されています。
工事計画届出
大規模な発電設備について、工事計画が技術基準に適合しているかを着工前に審査します。
- 対象:出力2,000kW以上の発電設備など。
- 目的:構造・強度・安全機能の技術基準適合を事前段階で確認するため。
- 提出先:設備設置場所を管轄する産業保安監督部。着工30日前までに届出が必要。
再生可能エネルギーの発電事業に必要な許認可とは?
太陽光や風力などで発電した電気をFIT(固定価格買取制度)やFIP制度を使って売電するには、国の「事業計画認定」が必要です。申請は「再生可能エネルギー電子申請(FITポータル)」からオンラインで行います。認定がなければ、制度に基づく売電は開始できません。
FIT制度・FIP制度とは
FIT/FIP制度は、再生可能エネルギーの導入を促進するための国の支援制度です。
FIT制度(固定価格買取)
国が定めた単価・期間で電力会社が買い取る仕組み。収入が安定し計画を立てやすいのが特徴。対象の電源・規模区分や入札の要否は毎年度の制度設計で決まるため、「小規模のみ」とは限りません。
FIP制度(フィードインプレミアム)
卸電力市場や相対で自ら売電し、市場価格にプレミアム(一定額)を上乗せして収益化する仕組み。市場価格変動やインバランスへの対応、発電予測・蓄電池活用等の工夫が求められます。中長期的に市場統合を促す制度で、対象区分は年度ごとに設計されます。
事業計画認定の申請手続き
この制度を利用するためには、経済的利益を得る事業として、国の認定を受ける必要があります。
- 対象者:FIT/FIP制度を利用して売電を行う全ての発電事業者。
- 申請方法:「再生可能エネルギー電子申請サイト」からのオンライン申請が原則
- 認定のポイント:設備仕様、系統連系の見込み、土地・権利関係、保守点検体制、関係法令・条例遵守の誓約など。認定の対象は事業計画であり、関係許認可の取得証そのものを申請段階で必須としていないが、遵守が前提です。
- 注意点:この認定を受けなければ、売電は開始できません。
出典:再生可能エネルギーFIT・FIP制度ガイドブック|資源エネルギー庁
発電所を建設する土地に関する許認可とは?
発電所を設置する土地が農地や森林、自然公園内などである場合、電気事業法とは別に、それぞれの土地利用を規制する法律に基づく個別の許認可・協議(農地転用許可、林地開発許可、行為許可、開発許可の要否確認 など)が必要です。自治体条例等が追加で適用されることもあるため、計画初期から管轄部局へ事前相談しましょう。
農地法に基づく農地転用許可
田や畑などの農地は食料生産の基盤であるため、発電設備の設置を含む農地以外の目的での利用(転用)は原則許可制です。
- 対象:農地に太陽光発電設備等を設置する場合(営農型含む)。
- 申請先:設置場所の市町村農業委員会を経由して、都道府県知事または農林水産大臣に申請。
- ポイント:農用地区域等の優良農地は原則転用不可。営農型太陽光(ソーラーシェアリング)は、令和6年4月1日施行の制度整備によりガイドラインが明確化され、適切な営農継続が要件となります。
森林法に基づく林地開発許可
森林の多面的機能(水源涵養、土砂災害防止など)を維持するため、一定規模以上の開発は許可制です。
- 対象:太陽光発電を目的とする開発は 0.5ヘクタール超で許可が必要です(地域森林計画対象民有林、保安林等を除く)。
- 申請先:開発する場所の都道府県知事。
- ポイント:防災措置に必要な資力・信用・能力を示す書類の提出など、要件が強化されています。自治体の審査に時間を要するのが通例です。
その他関連する法律
上記のほか、設置場所によっては以下のような法律に基づく手続きが必要になる場合があります。
- 自然公園法:国立・国定公園の特別地域等に太陽光発電施設を設置する場合、自然公園法の行為許可が必要です。
- 都市計画法:太陽光発電設備が建築物に該当しない場合、原則として都市計画法の「開発許可」は不要とされています。ただし、造成(土地の区画形質の変更)や付帯建築物の有無、区域指定(市街化調整区域 等)によっては、宅地造成等規制法や自治体要綱の対象になり得ます。
- 河川法:河川区域や河川管理施設を利用する場合は、河川法に基づく許可が必要です。
発電事業の許認可でよくあるQ&A
費用や期間は、電源種別・規模・立地・自治体運用で大きく変わります。以下は一般的な目安です。疑義があれば、計画初期から経済産業局/産業保安監督部や自治体窓口へ事前相談しましょう。
Q1. 許認可の取得にかかる費用は?
手続自体の手数料は限定的ですが、測量・図面、各種調査、専門家報酬などの実費が発生します。
- 申請手数料等:自治体手数料(例:農地転用・林地開発)で数万円規模が目安。
- 測量・図面作成費:数万円~数十万円
- 専門家への報酬:数十万円~(行政書士、土地家屋調査士など。依頼する範囲による)
Q2. 全ての手続きが完了するまでの期間は?
出力・立地・造成有無・環境配慮・系統状況で大きくぶれます。太陽光(例:50kW以上)のモデルケースでも、計画開始から運転開始まで概ね1年〜1年半は見込みます。農地転用や林地開発は審査や調整で半年超かかるケースがあり、系統連系の検討・工事も期間要因です。
Q3. 誰に相談・依頼すればよい?
手続きが複雑で多岐にわたるため、専門家の活用が有効です。
- 相談窓口(無料):
- 経済産業局、産業保安監督部:電気事業法に関する手続き
- 自治体(農政・林務・都市計画・河川 等)など:土地・造成・行為許可の要否や手続き
- 依頼できる専門家(有料):
- 行政書士:許認可申請、書類作成・代理
- 開発コンサルタント:計画立案、関係機関連携、環境配慮・アセス、系統・土木の論点整理
Q4. 許認可取得後に必要なことは?
許認可を取得して運転を開始した後も、事業者には様々な義務が課せられます。
- 保守点検・メンテナンス:策定した保安規程に基づき、定期的な点検が必要です。
- 国への定期報告:FIT/FIP認定を受けた事業者は、設置費用と運転費用等の定期報告が必要があります。
- 事故報告:感電・火災・設備損壊等が発生した場合は、速やかに事故報告が必要です。
発電事業の許認可は事業計画の要
発電事業を成功させるためには、計画段階で必要な許認可を正確に把握し、スケジュールに組み込むことが不可欠です。本記事で解説した通り、許認可は「電気事業法」「FIT/FIP制度」「土地関連法規」の3つが軸となり、事業の規模や場所によって手続きが異なります。
特に、土地に関する許認可や電力会社との接続契約には時間がかかる場合が多いため、早めに確認し、着手することが重要です。専門家の力も借りながら、一つ一つの手続きを確実に行い、円滑な発電事業のスタートを目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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