- 作成日 : 2025年8月19日
女性起業家が日本政策金融公庫の制度を活用するには?融資や支援窓口について解説
日本政策金融公庫は、女性の起業を力強く後押しするための融資制度や支援策を多数展開しています。本記事では、女性起業家が活用できる主な制度や優遇措置の内容、申請時のポイントなどを解説します。
目次
日本政策金融公庫と女性起業家支援の背景
日本政策金融公庫総合研究所が2024年に公表した「新規開業実態調査」によると、創業者全体に占める女性の割合は、調査開始時の1991年には12.4%でしたが、その後増加傾向にあり、2024年度には25.5%と過去最高を記録しています。こうした状況を踏まえ、日本政府は女性の起業を後押しするため様々な支援策を展開しており、日本政策金融公庫(日本公庫)による融資制度もその一つです。
日本政策金融公庫は政府系金融機関として、中小企業や創業予定者への資金支援を行っています。民間金融機関だけでは資金調達が難しい創業期の事業者に対し、低利で長期の融資を提供する役割を担っています。特に女性を含む若者やシニアの起業家を支援する制度を設けることで、ビジネスの世界で女性の活躍を促進し、経済の活性化や雇用創出につなげる狙いがあります。
女性が優遇される新規開業・スタートアップ支援資金
これまで「新規開業資金」の優遇措置の一つであった「女性、若者/シニア起業家支援資金」の対象者向け優遇は、2024年4月から「新創業融資制度」などと共に「新規開業・スタートアップ支援資金」へ統合・再編されました。
「新創業融資制度」の廃止と制度名称の変更
長年、創業者向けの定番制度であった「新創業融資制度」は、2024年3月末をもって取り扱いが終了しました。これは制度の打ち切りではなく、複数の融資制度を整理・再構成する形で、新たに「新規開業・スタートアップ支援資金」として再編されたものです。これにより、より明確で分かりやすい制度設計となり、創業希望者のニーズに応じた柔軟な対応が可能になりました。名称は変更されましたが、従来の支援内容や方針は継続されており、引き続き安心して利用できる内容となっています。
女性・若者・シニア向け優遇は継続
再編後の制度でも、女性や35歳未満の若者、55歳以上のシニアといった層に向けた優遇措置はそのまま継続しています。融資制度全体の対象は、創業予定または創業後おおむね7年以内の方です。ただし、女性・若者・シニアなどが特別利率の優遇を受けるためには、原則として「新たに事業を始める方」である必要があります。
女性に関しては年齢の制限がなく、幅広いライフステージにある女性起業家が利用対象となります。たとえば、出産・育児を終えて社会復帰する50代女性や、スキルを活かして独立を目指す若年層の女性などにも使いやすい制度です。
なお、事業開始後税務申告を2期終えていない方は、新たに事業を始める方とともに、無担保・無保証人融資や利率の一律引下げ(0.65%)などがあります。
参考:新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融公庫、創業融資のご案内|日本政策金融公庫
融資内容・要件
「新規開業・スタートアップ支援資金」では、最大7,200万円の融資が可能です。そのうち運転資金は、最大4,800万円まで利用できます。融資対象となる費用は、店舗やオフィスの取得費・改装費、機械設備の導入費、パソコン・備品などの購入費用、広告宣伝費、人件費や仕入資金まで幅広くカバーされます。返済期間は設備資金で最長20年(うち据置期間5年以内)、運転資金で原則最長10年(うち据置期間5年以内)と長く設定できます。これにより、創業初期の収支が安定しない時期でも返済の負担を軽減できます。
また、女性、35歳未満の若者、55歳以上のシニアなどが特定の要件を満たす場合、基準利率よりも低い特別利率が適用されます。
なお、海外展開などを考えている場合には、日本政策金融公庫が海外展開支援機関と連携して支援する「海外展開ゼロイチ+」などの取組もあります。
担保・保証人の取り扱い
「新規開業・スタートアップ支援資金」では、希望に応じて無担保・無保証人での融資も相談可能です。その場合、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が確認できることなどが一つの目安となります。また、法人代表者の個人保証についても『経営者保証免除特例制度』が用意されており、資産管理の分離や財務要件などの条件を満たせば、保証が不要になる場合があります。
日本政策金融公庫の女性向け融資制度を利用する際のポイント
日本政策金融公庫の女性起業家向け融資制度を利用する際は、制度内容の正確な理解と十分な準備が不可欠です。ここでは、申請時に押さえておきたい要点を紹介します。
綿密な事業計画書を準備する
日本公庫で融資を受けるには、事業計画書の提出が必要です。これは単なる提出書類ではなく、創業の目的や提供するサービスの特徴、対象とする市場、競合との差別化、収支計画などを記載する重要な資料です。創業初期には過去の業績がないため、事業計画の信頼性が審査の軸になります。
自社の強みや市場での実現可能性を、自分の言葉で説明できるように整理しておきましょう。数字の根拠や調査データも盛り込んだ計画にすることで、説得力が高まります。作成に不安があれば、自治体や商工会議所の専門相談を活用するのも有効です。また、面談では計画書に基づいた質問がされるため、返済の見通しや将来像を冷静かつ論理的に説明できるよう準備を整えておきましょう。
自己資金や経験が少なくても工夫次第で対応できる
女性起業家には、自己資金や業界経験が少ない方も少なくありません。日本政策金融公庫の「中小企業経営力強化資金」では特例措置が設けられており、新たに事業を始める一定の中小企業などは、自己資金要件を満たさない場合でも有利な条件での融資が検討可能です。
ただし、より大きな金額を希望する場合は、ある程度の自己資金や関連業界での経験がプラスに働きます。日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」によると、開業費用に占める自己資金の割合は平均で24.5%ですが、一定の自己資金がある方が審査上の信頼を得やすい傾向があります。
経験が不足している場合は、資格の取得や専門家の協力を得るなどして、事業の実現可能性を高める努力も効果的です。
融資後の返済計画まで見据えた準備をする
女性向け融資は比較的柔軟とされる面もありますが、必ずしも希望額通りに借りられるとは限りません。申請者の信用情報や資産状況、事業の見通しなどを総合的に評価されるため、減額のうえで可決されるケースもあります。公庫側から「自己資金を◯万円増やせば(融資額が)満額に近づく」といった提案を受けることもあるため、柔軟に資金計画を見直す姿勢も大切です。
また、融資を受けた後は返済義務が発生します。無理な借入を避け、据置期間や返済期間を活用して、毎月の返済額が負担にならないような設計を行うことが必要です。仮に返済が厳しくなった場合は、早めに日本政策金融公庫へ相談すれば条件の変更が検討されることもあります。
女性起業家が活用できる日本政策金融公庫の支援制度
日本政策金融公庫では、女性起業家を多方面から支援する制度が整備されています。女性に特化した制度ではありませんが、「再挑戦支援資金」と「生活衛生新企業育成資金」は、状況に応じて活用できる有効な選択肢です。それぞれの制度内容と活用条件について解説します。
再挑戦支援資金:事業再起を支える制度
「再挑戦支援資金」は、過去に廃業や経営の失敗を経験した方が再び起業を目指す際に活用できる制度です。廃業後に一定の準備を経て、再び事業に取り組む意志が明確な方を対象に、日本政策金融公庫が設備資金や運転資金を支援します。
対象となるのは、廃業や法的整理などで一度事業を終えた経験があり、再起に向けて事業計画を持つ方です。融資限度額は最大7億2千万円です。過去の失敗を前向きに捉え、再挑戦を後押しする制度として評価されています。女性起業家にとっても、「一度失敗したら終わりではない」という希望を形にする選択肢となります。
参考:再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)|日本政策金融公庫
生活衛生新企業育成資金:衛生業種の創業を後押し
「生活衛生新企業育成資金」は、飲食業や美容業、理容業、クリーニング業などの生活衛生関連事業を新たに始める方を対象とした融資制度です。対象業種で創業して7年以内、またはこれから開業する方が利用できます。
女性起業家の多くが参入する分野でもあり、申請件数も多く、身近な制度として認知されています。この融資を利用するには、原則として、居住する都道府県の生活衛生営業指導センターを通じて、知事の推薦書を取得することが必要です。組合の振興事業などに係る場合は推薦書がなくても利用できることがあります。
返済条件は通常の創業支援資金と同等であり、衛生的な施設整備や設備購入及び運転資金などに幅広く使えます。日常生活と直結する事業に対し、資金面から安定的な運営を支援する制度です。
参考:生活衛生新企業育成資金(新企業育成・事業安定等貸付)<特例貸付>|日本政策金融公庫
日本政策金融公庫の女性向けセミナー・相談窓口の活用法
日本政策金融公庫では、融資制度だけでなく、創業準備や経営に役立つ「女性向けのセミナー」や「相談窓口」も充実しています。制度の利用前に積極的に活用することで、スムーズな融資申請と実践的な学びが得られます。
創業前の不安を解消する女性向けセミナー
日本政策金融公庫が主催・共催するセミナーには、女性起業家を対象とした内容が多数あります。テーマは「創業計画書の作り方」「融資申請の流れ」「女性起業家の体験談紹介」など、実務に即したものが多く、創業前に必要な知識を効率的に学べます。
女性特有のライフスタイルや価値観に配慮した内容が特徴で、「子育てと起業の両立」や「未経験分野での創業チャレンジ」といった現場感のあるテーマも取り上げられています。オンラインでの参加も可能な場合があり、地方在住や時間的制約のある方にも参加しやすくなっています。
専門アドバイザーに無料で相談できる窓口支援
日本政策金融公庫の各支店には、創業支援の専門担当者が常駐しており、創業計画の立て方や融資の申請方法について個別相談を受け付けています。女性起業家向けに配慮された相談対応も多く、初めてでも安心して問い合わせることができます。
また、地域によっては女性創業支援に特化した「専門アドバイザー」や「女性創業応援デスク」などを設けている自治体や公庫の支店もあります。こうした窓口では、資金面だけでなく経営や集客、業種選定などの相談にも応じており、総合的なサポートが期待できます。
支援制度を最大限に活かして起業を実現しよう
日本政策金融公庫では、女性が創業に踏み出す際のハードルを下げるために、多様な制度や支援策を展開しています。特別利率による優遇融資、無担保・無保証制度、再挑戦支援、業種別特例、さらには相談窓口やセミナーの活用まで、活用できる選択肢は幅広く揃っています。各制度の特徴を理解し、自身の事業内容や段階に合った支援を選ぶことで、安定した起業スタートと将来の事業成長につなげていくことができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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