• 更新日 : 2025年7月3日

整形外科を開業するには?必要な許認可や開業の流れを解説

高齢化社会の進展や健康志向の高まりにより、運動器疾患の患者数は増加傾向にあり、整形外科へのニーズはますます高まっています。しかし、クリニック経営を成功させるためには、高い臨床能力だけでなく、経営に関する知識、法規・制度への理解、そして周到な準備が不可欠です。

この記事では、その診療範囲から開業に必要な資格・許認可、資金計画、具体的な手続きの流れ、メリット・デメリット、そして成功を持続させるための重要な注意点までを解説していきます。

整形外科の範囲

整形外科は、身体の運動に関わる器官、すなわち運動器を構成する全ての組織(骨、軟骨、関節、筋肉、靭帯、腱、神経、脊髄)の疾患や外傷(ケガ)を対象とする診療科です。

主な対象疾患・症状

  • 脊椎疾患
    腰痛、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、頚部痛、むちうちなど
  • 関節疾患
    変形性関節症(膝、股関節など)、肩関節周囲炎(五十肩)、関節リウマチ、痛風など
  • 外傷
    骨折、脱臼、捻挫、打撲、靭帯損傷、肉離れなど
  • スポーツ障害
    テニス肘、野球肘、アキレス腱炎、半月板損傷など
  • 末梢神経障害
    手根管症候群、肘部管症候群など
  • 骨粗鬆症
  • 小児整形外科疾患(先天性股関節脱臼、側弯症など)
  • 骨・軟部腫瘍(診断・初期対応)
  • 労働災害、交通事故による外傷

新生児から高齢者まで、幅広い年齢層の患者さんが対象となります。診断には、問診、視診、触診に加え、レントゲン(X線)検査が基本となり、必要に応じて超音波(エコー)検査、MRI、CT、骨密度測定などが行われます。治療は、投薬、注射(関節内注射、神経ブロックなど)、リハビリテーション(理学療法、運動療法)、装具療法、そして手術療法(クリニックでは小手術が中心となる場合が多い)など多岐にわたります。

多くの整形外科クリニックでは特にリハビリテーションに力を入れており、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)と連携して、患者さんの機能回復と社会復帰をサポートします。

整形外科の開業に必要な資格・許認可

クリニックを開設し、保険診療を行うためには、法的な資格要件を満たし、必要な許認可を取得する必要があります。

1. 医師としての資格要件

  • 医師免許
    日本の医師免許を有していることが絶対条件です。
  • 整形外科専門医資格(強く推奨)
    法的に必須ではありませんが、「整形外科」を標榜(看板や広告でうたうこと)する場合、日本整形外科学会などが認定する専門医資格を有していることが、患者さんからの信頼を得る上で極めて重要であり、一般的です。
  • 管理者(院長)としての要件
    開設者自身が管理者(院長)となる場合、医師法で定められた欠格事由(罰金以上の刑に処せられた場合など)に該当しないことが必要です。

2. クリニック開設に関する許認可

  • 診療所開設許可(管轄の保健所へ申請)
    医療法に基づき、クリニックを開設するための許可です。建物の構造設備(診察室、処置室、X線室、リハビリ室、待合室、トイレなど)が基準を満たしているか、衛生管理体制などが審査されます。
  • 保険医療機関指定(管轄の地方厚生局へ申請)
    健康保険を使った診療(保険診療)を行い、診療報酬を受け取るために必要な指定です。開設許可を受けた後に申請します。
  • 消防署への届出(管轄の消防署へ申請)
    消防法に基づき防火管理者の選任や消防設備の設置状況を届け出る必要があります。規模や用途に応じた消防計画の作成、避難経路の確認などを行い、開業前に管轄の消防署へ届出を提出します。
  • (必要な場合)労災保険指定診療所申請
    労働災害の患者さんを診療する場合。
  • (必要な場合)生活保護法等指定医療機関申請
    生活保護を受けている患者さんを診療する場合。
  • (必要な場合)結核指定医療機関申請
    結核の公費負担医療を行う場合。
  • (必要な場合)被爆者一般疾病医療機関申請
    被爆者の医療を行う場合。

3. 放射線関連の届出

X線装置備付届(管轄の保健所へ届出)

レントゲン装置を設置する場合に必要です。設置後10日以内に届け出る必要があります。放射線漏洩線量測定結果報告書なども求められます。

整形外科の開業に必要な資金

整形外科クリニックの開業には、特に医療機器やリハビリテーション設備への投資が大きくなるため、十分な資金計画が必要です。

主な初期投資

  1. 不動産関連費
    • 土地購入費 または 物件取得費(購入の場合)
    • 敷金・礼金・保証金・仲介手数料・前家賃(賃貸の場合)
  2. 建築・内装工事費
    • 設計・監理費
    • 建築工事費(新築の場合)または 内装工事費(賃貸・改修の場合)
      ※X線室の放射線防護工事、リハビリ室のスペース確保などがポイント。
  3. 医療機器・設備費
    • X線撮影装置(レントゲン)
      デジタル方式(CR/DR)が主流。
    • 画像管理システム(PACS)
      撮影画像の保存・閲覧用。
    • 超音波診断装置(エコー)
      軟部組織の評価に有用。
    • 骨密度測定装置
      骨粗鬆症診断に。
    • リハビリテーション機器
      物理療法機器(低周波、温熱、牽引など)、運動療法機器(トレーニングマシン、平行棒など)。投資額が大きくなりやすい部分。
      診察台、処置台、基本的な診療器具、滅菌器など。
  4. 什器・備品費
    • 待合室の椅子・ソファ、受付カウンター、デスク、椅子、書棚、ロッカーなど。
    • PC、プリンター複合機、電話、FAXなど。
  5. ITシステム導入費
    • 電子カルテシステム
    • レセプトコンピューター(レセコン)
    • 予約システム(Web予約など)
    • ネットワーク構築費
  6. 開業前費用
    • 広告宣伝費(ウェブサイト制作、看板設置、チラシ作成、内覧会費用など)
    • 許認可申請関連費用(申請手数料、専門家への報酬など)
    • 採用関連費用(求人広告費など)
    • 開業前の人件費・研修費
    • 医薬品・消耗品(初期在庫)

初期投資総額の目安

立地、規模、新築か賃貸か、導入する医療機器(特にリハビリ機器)のグレードや種類によって大きく変動しますが、一般的に数千万円後半から1億円を超えるケースが多いです。特にリハビリテーションに力を入れる場合は、設備投資とスペース確保で費用がかさむ傾向があります。

主な運転資金

開業後、経営が安定し、診療報酬の入金サイクル(通常、診療月の約2ヶ月後)が確立するまでの運転資金を確保しておくことが極めて重要です(最低でも半年分程度が望ましい)。

  • 人件費: 医師(複数いる場合)、看護師、診療放射線技師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、医療事務などの給与、賞与、法定福利費。最も大きな割合を占めます。
  • 賃料(賃貸の場合)
  • 医薬品・診療材料費
  • 医療機器・ITシステムのリース料・保守料
  • 水道光熱費通信費
  • 広告宣伝費
  • 学会・研修参加費
  • 税金・社会保険
  • ローン返済(融資を受けている場合)

整形外科開業の流れ

資金調達方法

  • 自己資金
    開業資金の一部は自己資金で準備することが、融資審査においても有利になります。
  • 融資
    • 民間金融機関
      銀行、信用金庫など。医師向けの開業ローンが用意されていることが多いです。事業計画の実現可能性、担保、保証人などが審査されます。
    • 日本政策金融公庫
      創業者向けの融資制度があります。
    • 福祉医療機構(WAM)
      医療機関向けの融資制度があります。
    • 医師信用組合
      医師会員向けの金融機関で、医療機関向けの低金利融資や診療報酬のつなぎ融資などのサービスを提供しています。ただし、都道府県によっては医師信用組合が存在しない場合もあるため、利用を検討する際には近隣の医師信用組合の有無を確認することが重要です。
  • リース
    高額な医療機器(X線装置、リハビリ機器など)はリース契約を利用することで、初期投資を抑えることができます。

開業準備は多岐にわたり、時間も要するため、計画的なスケジュール管理が不可欠です。

  1. 構想・コンセプト策定
    どのようなクリニックにするか(診療方針、ターゲット、強み)を明確にします。
  2. 事業計画作成
    市場調査、収支計画、資金計画などを具体的に策定します。
  3. 資金調達
    金融機関等に相談し、融資の内定などを取り付けます。
  4. 開業地選定と物件契約
    コンセプトと事業計画に基づき、立地を決定し、不動産契約(購入または賃貸)を結びます。
  5. クリニック設計と施工業者選定
    設計事務所を選定し、基本設計・実施設計を行います。施工業者を選定します。
  6. 保健所・厚生局への事前相談
    設計図面などを持参し、開設許可や保険指定の要件について事前に相談・確認します。
  7. 建築・内装工事
    設計に基づき工事を開始します。X線室の防護工事、リハビリ室のスペース確保などが重要です。
  8. 医療機器・設備の選定と発注
    必要な機器・設備を選定し、発注します。納期を確認し、工事スケジュールと調整します。
  9. スタッフ採用と研修
    開業時期に合わせて、看護師、理学療法士、医療事務などを採用し、必要な研修を開始します。
  10. 許認可申請
    • 工事完了後、診療所開設許可申請(保健所)
    • 開設許可後、保険医療機関指定申請(地方厚生局)
    • X線装置設置後、X線装置備付届(保健所)
    • その他必要な届出(消防署、税務署など)
  11. 開業準備
    • 医療機器・設備の搬入・設置・動作確認
    • 電子カルテ・レセコンの設定・研修
    • 医薬品・消耗品の発注・納品
    • 広告宣伝活動(ウェブサイト公開、内覧会告知など)
    • 最終的なオペレーション確認
  12. 許認可証の受領と診療開始
    開設許可証、保険医療機関指定通知書などを受領し、いよいよ診療開始です。

ポイント

全体のプロセスには通常1年〜1年半程度かかります。特に許認可申請は時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールを立て、専門家(開業コンサルタント、行政書士、税理士など)のサポートを適宜活用することが推奨されます。

整形外科の開業に必要な書類

クリニックの開設許可、保険医療機関指定などには、多数の書類提出が必要です。様式や必要書類は自治体や地方厚生局によって異なるため、必ず事前に管轄の窓口で確認し、指示に従ってください。

1. 診療所開設許可申請(保健所)

  • 診療所開設許可申請書
  • 開設者・管理者の医師免許証の写し、職歴書
  • 従事する医師、看護師等の免許証の写し
  • 土地・建物の登記事項証明書または賃貸借契約書の写し
  • 敷地周辺の見取り図、敷地の概要図、建物の平面図(各室の用途・面積明記)
  • (法人の場合)定款または寄付行為、登記事項証明書
  • (X線装置設置の場合)エックス線診療室放射線防護図、漏洩線量測定結果報告書に関する書類など

2. 保険医療機関指定申請(地方厚生局)

  • 保険医療機関指定申請書
  • 診療所開設許可証の写し
  • 開設者・管理者の保険医登録票の写し
  • 勤務する保険医の保険医登録票の写し
  • (開設者が法人の場合)定款及び登記事項証明書
  • オンライン資格確認の導入計画書
  • その他、診療科目、診療時間、人員配置、施設基準の届出などに関する書類

3. X線装置備付届(保健所)

  • 診療用エックス線装置備付届
  • エックス線診療室の平面図及び側面図(防護状況を明記)
  • 漏洩放射線量測定結果報告書の写し

4. その他

  • 労災保険指定診療所申請書
  • 生活保護法等指定医療機関申請書
  • 税務署への各種届出書(開業届、法人設立届など)
  • 社会保険・労働保険関係の届出書
  • 消防署への各種届出書(防火管理者選任届、消防計画の作成・届出、消防設備設置届、防火対象物使用開始届など)

ポイント: 書類作成は煩雑で専門知識も要するため、行政書士などの専門家に依頼することも有効です。

整形外科開業のメリット・デメリット

整形外科クリニックの開業には、多くの魅力がある一方で、乗り越えるべき課題もあります。

メリット

  • 高い専門性の発揮と理想の医療追求
    自身の知識・技術を活かし、理想とする診療スタイルや治療方針を追求できます。
  • 地域医療への貢献と患者との関係構築
    地域住民の健康維持・増進に直接貢献でき、患者さんと長期的な信頼関係を築けます。
  • 比較的安定した需要
    高齢化やスポーツ人口の増加により、運動器疾患の患者数は多く、需要が安定しています。
  • 収入増の可能性
    経営努力次第で、勤務医時代以上の収入を得られる可能性があります。
  • ワークライフバランスの調整可能性
    診療時間などを自身で設定できるため、比較的ワークライフバランスを保ちやすい側面もあります(ただし、経営者としての業務負担は増えます)。

デメリット

    • 高額な初期投資と財務リスク
      特にリハビリ設備等への投資が大きく、経営が軌道に乗らない場合の財務的リスクは高いです。
    • 経営者としての重責
      診療だけでなく、資金繰り、人事労務、集患、法規遵守など、経営全般の責任を負います。
    • 人材確保・マネジメントの難しさ
      特に理学療法士など専門職の採用・定着は容易ではなく、スタッフマネジメントは重要な経営課題です。
    • 集患競争
      開業エリアによっては競合クリニックが多く、患者さんに選ばれるための努力が必要です。
    • 診療報酬改定の影響
      保険診療が主体となるため、診療報酬の改定が経営に直接影響します。
    • 医療訴訟のリスク
      医療行為には常に訴訟リスクが伴います。

整形外科開業・成功のための注意点

開業後のクリニック経営を成功させ、地域に根ざした医療を提供し続けるためには、以下の点に留意することが重要です。

1. 明確なコンセプトと差別化戦略

「どのような患者さんに、どのような医療を提供したいのか」を明確にし、近隣の競合との差別化を図ります。専門分野(スポーツ整形、脊椎、リウマチなど)、充実したリハビリテーション、最新の治療機器、アクセスの良さ、丁寧な説明とコミュニケーションなど、独自の強みを打ち出しましょう。

2. 立地選定の重要性

ターゲット患者層が多く、アクセスが良い(駅近、駐車場完備など)場所を選ぶことが基本です。競合の状況、将来性、賃料などを総合的に判断します。高齢者が多い地域、スポーツ施設が近い地域なども考慮点です。

3. リハビリテーション体制の充実

整形外科クリニックにとってリハビリテーションは非常に重要です。十分なスペースの確保、効果的なリハビリ機器の選定、そして何よりも優秀な理学療法士・作業療法士の確保と連携体制の構築が、患者満足度と治療効果を高める鍵となります。

4. 効率的な診療体制と待ち時間対策

電子カルテやWeb予約システムの導入による業務効率化、スタッフ間のスムーズな連携、わかりやすい動線設計などで、患者さんの待ち時間を短縮し、ストレスを軽減する工夫が必要です。

5. 効果的な集患・マーケティング戦略

クリニックの認知度を高め、患者さんに選ばれるための戦略を実行します。

  • ウェブサイト
    わかりやすく、信頼感のあるウェブサイトを作成し、診療内容、医師紹介、アクセスなどを掲載。SEO対策も重要。
  • Web予約システム
    利便性向上に不可欠。
  • 地域への情報発信
    看板、地域情報誌への掲載、内覧会の開催、近隣医療機関との連携。
  • 口コミ・評判
    質の高い医療と丁寧な対応が、良い口コミにつながります。

6. スタッフマネジメントとチーム医療の推進

スタッフが働きがいを感じ、能力を発揮できる環境づくりが重要です。明確な役割分担、良好なコミュニケーション、適切な評価、教育・研修機会の提供により、チームとして質の高い医療を提供できる体制を目指します。

7. コンプライアンスと安全管理の徹底

医療法、医師法、個人情報保護法、医療広告ガイドラインなどの法令遵守は当然のこと、院内感染対策、医療安全管理(ヒヤリ・ハット報告など)、放射線管理などを徹底し、患者さんとスタッフの安全を守ります。

整形外科の開業には明確なビジョンや専門知識が必要

整形外科クリニックの開業は、専門医としての知識と技術を地域社会に還元し、多くの患者さんの痛みや悩みを解決できる、非常に意義深い挑戦です。その成功には、卓越した臨床能力に加え、経営者としての視点、周到な計画性、そして変化に対応する柔軟性が求められます。

明確なビジョンを描き、事業計画を練り上げ、必要な手続きを確実にこなし、開業後も常に医療の質と経営の改善に努めること。そして、患者さんやスタッフと真摯に向き合う姿勢が、地域から信頼され、長く必要とされるクリニックを築くための礎となるでしょう。


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