- 作成日 : 2025年5月15日
デットファイナンスとエクイティファイナンスの資金調達方法の違いは?
ファイナンスは、企業や個人が資金を調達・運用し、最適な資本構成を決定する活動を指します。デットファイナンスやエクイティファイナンスといった資金調達、投資判断、リスク管理などが含まれます。
本記事では、デットファイナンスとエクイティファイナンスの違いや、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
目次
そもそもファイナンスとは
ファイナンスとは、企業や個人事業者が必要な資金を調達し、運用・管理する一連の活動を指します。最終的には「企業価値の最大化」を目指し、将来のキャッシュ・フローの現在価値を最適化することが必要です。
資金の借入や株式発行などを通じて事業に必要な原資を得るだけでなく、調達した資金を適切に運用し、リスクを管理しながら成長を図ることが求められるでしょう。
ファイナンス戦略にもとづく資金調達の方法
ファイナンス戦略にもとづく資金調達とは、事業の成長や財務状況に応じて最適な手段を選択することです。安定収益があればデットファイナンス、成長投資が必要ならエクイティファイナンスが有力となります。
近年はアセットファイナンスやクラウドファンディングなど、選択肢も多様化しています。以下で、代表的な資金調達方法を解説します。
デットファイナンス
デットファイナンスとは、銀行融資や社債発行など、負債を増やすことで資金を調達する方法です。借入金は将来返済しなければならないため、毎月や半年ごとなど、決まったタイミングで元金と利息を返済する義務が生じます。
返済義務がある一方、株式を譲渡しないため経営権への影響は少なく、既存経営陣が主導権を握りながら資金を活用できるというメリットがあります。ただし、借入額や金利次第では財務リスクが高まり、キャッシュ・フローに大きな負担がかかる点には注意が必要です。
エクイティファイナンス
エクイティファイナンスは、株式の発行や増資によって資金を調達する方法です。調達した資金に対して返済義務はありませんが、企業の所有権を一部譲渡しなくてはなりません。
株主への配当や、議決権・経営参加権を含むさまざまな権利が付与される可能性があるため、経営方針に影響が及ぶケースもあります。しかし、急速に事業を拡大したいスタートアップや、既存事業を革新してさらなる飛躍を目指す企業などにとっては、返済負担がない点や大口の資金調達ができる点が大きな魅力です。
株式の発行手続きや種類株式の活用など、多様な手段が認められており、企業の成長フェーズに応じた柔軟な戦略が可能です。
アセットファイナンス
アセットファイナンスは、自社が保有する資産を活用して資金を調達する方法です。一般的な例としては、不動産のリースバックや、売掛債権の流動化・ファクタリングなどが挙げられます。
資産を担保に入れて融資を受ける方式とは異なり、アセットそのものを売却し、一定の条件で再び使用する仕組み(リースバック)を採用することで、バランスシート上の負債負担を軽減できる場合があります。
また、売掛債権のファクタリングでは、取引先への請求権を売却することによって早期に資金化が可能となり、キャッシュ・フローを改善しやすいメリットがある点も無視できません。
その他の方法
その他の資金調達方法として、クラウドファンディングや補助金・助成金の活用が挙げられます。
近年注目を集めているクラウドファンディングは、事業の社会的意義や新規性をアピールすることで、不特定多数の個人から資金を募る方法です。返済義務はありませんが、出資者に対してリターンを提供するリワード型や、株式を発行する株式型など、仕組みによって契約形態が異なります。
また、経済産業省や地方自治体が実施する補助金や助成金を活用すれば、研究開発費や設備投資費などを部分的に補填できる可能性があります。補助金や助成金は返済の必要がなく、銀行からの借入に頼らず資金を確保できる点がメリットです。
ただし、公募要件を満たす必要があり、申請や審査の手続きも煩雑になることがあるため、活用の際には最新の情報を入手して準備を進めることが大切です。
デットファイナンスとエクイティファイナンスの違い
デットファイナンスとエクイティファイナンスの主な違いは、返済義務の有無と経営権への影響度合いです。また資金提供者のリスクなども変わってきます。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
返済義務
デットファイナンスは銀行借入や社債などの形をとるため、後日元本を返済する義務が生じます。返済が滞れば債務不履行となり、場合によっては経営に深刻な影響を及ぼす可能性も否定できません。一方、エクイティファイナンスで調達した資金は返済不要ですが、新たな株主が登場することによって配当負担や経営方針への要望が高まる場合があります。
資金提供者の位置付けとリスク
デットファイナンスにおける資金提供者は、債権者です。企業は決まった利息を支払う義務を負いますが、債権者は企業が好調であっても追加的なリターンを得られないのが一般的です。
対してエクイティファイナンスでは、資金提供者は株主(出資者)として企業の成長による株価上昇や配当を受け取る可能性がありますが、そのぶん企業の業績が伸び悩めば投資額を回収できなくなるリスクも抱えます。
経営権への影響
デットファイナンスでは、原則として融資や社債を提供する金融機関や投資家が経営に口出しすることは多くありません。ただし、大口融資の場合、財務諸表や経営計画の定期的な開示、財務制限条項などが設定されるケースがあります。
一方、エクイティファイナンスでは、新たな株主を迎え入れるため、株主総会での議決権行使などを通じて経営に直接的・間接的な影響を与える可能性があります。特にスタートアップ企業の場合、経営支援を行うベンチャーキャピタル(VC)などが株主になることで、経営ノウハウやネットワークを活用できる半面、株主としての権限を行使される場面もあるでしょう。
デットファイナンスによる資金調達のメリット
デットファイナンスは、企業にとって一般的な資金調達手段といえます。ここでは、デットファイナンスを活用するメリットを解説します。
経営権が守られる
デットファイナンスの大きなメリットは、融資元が経営に関与することは基本的にない点です。融資元が経営に直接的に関与するケースは少なく、あくまで「貸し手と借り手」の関係にとどまります。
そのため、創業者やオーナー経営者が意思決定権を維持しやすい点が特徴です。ただし、大口の融資を受ける場合には、銀行側から経営改善計画の提出やモニタリングの要請が入る場合もあるため、いかなる場合でもまったく介入がない、というわけではありません。
一定の節税効果が期待できる
税務上、デットファイナンスによって支払う利息は損金(費用)として計上できるため、課税所得の圧縮につながります。
エクイティファイナンスでは配当金に対して税務上の損金算入が認められないのが一般的であり、この点で違いがあります。ただし、過剰な借入は財務リスクを高めるため、節税効果だけを狙うのは得策とはいえません。
スピーディーな資金調達ができる
銀行などと既存の取引履歴や信用関係がある場合、比較的短期間で融資の審査が進むケースがあります。特に、創業からある程度の年数が経過して営業実績がある企業や、担保として差し入れられる資産を保有している場合は、金融機関からの評価が得やすいでしょう。
日本政策金融公庫の融資制度など公的な支援を活用すれば、信用力が比較的低い個人事業主や会社設立直後の企業でも、有利な条件で資金を確保できる可能性があります。
エクイティファイナンスによる資金調達のメリット
エクイティファイナンスは、成長期の企業や研究開発を重視するベンチャー企業などにとって魅力的な手段です。資本を投入することで企業価値の向上や長期的な視点からの支援が期待できる一方、経営の自由度に影響が及ぶこともあります。
ここでは、エクイティファイナンス特有のメリットを紹介します。
返済義務がない
エクイティファイナンスは株式を発行し、新たな出資を受ける仕組みのため、原則として借入金のような返済義務がありません。元本返済や利息負担がないことで、キャッシュ・フローにゆとりが生まれやすくなります。
特に成長投資が必要な時期には、資金が返済に回ることを心配せずに事業拡大に注力できる点が強みです。
赤字であっても資金調達ができる
エクイティファイナンスでは、企業が赤字であっても将来の成長可能性や事業モデルの独自性が投資家に評価されれば、資金を調達できる可能性があります。
銀行融資の場合、過去の財務実績や現在の返済能力が厳しく審査されるため、赤字企業は資金調達が難しいといわざるを得ません。しかし、株主として参加する投資家は、企業の将来的な収益拡大や株価上昇を見込んで投資を行うことが多いため、赤字であっても魅力的なビジネスモデルを展開する企業であれば、検討に値すると考えるためです。
自己資本比率が上がる
エクイティファイナンスで得た資金は自己資本扱いになるため、自己資本比率が高まり財務面が強化されるメリットがあります。
自己資本比率が高い企業ほど倒産リスクが低いと見なされることが多く、銀行融資など他の資金調達手段を利用するときの信用力アップにもつながります。中長期的に事業を継続し、大きく成長していくビジョンがある企業にとって、この自己資本の充実は大きなアドバンテージとなるでしょう。
資金調達方法を選択するときのポイント
デットファイナンスとエクイティファイナンスは、それぞれにメリット・デメリットがあります。企業や事業者が適切な資金調達方法を選択するには、以下の観点を総合的に検討することが重要です。
企業の成長フェーズ
企業が置かれている成長フェーズによって、必要な資金額やリスク許容度は異なります。スタートアップ期には、プロダクト開発や市場開拓のためにまとまった資金が必要になる場合が多く、返済義務のないエクイティファイナンスが有利に働くケースもあります。
一方、ある程度安定した収益構造が整っている企業であれば、融資を受けて事業を拡大するデットファイナンスも視野に入ってくるでしょう。成長段階に応じて戦略的にファイナンス手段を使い分けることで、過度な負債リスクや株主構成の変化を回避できるでしょう。
資金の用途
運転資金や設備投資、研究開発、M&Aなど、資金をどのように使うのかによって最適な調達手段は変わります。たとえば、機械設備の更新など確実なリターンが見込める場合や、毎月のキャッシュ・フローで十分に返済ができる見込みがある場合は、デットファイナンスでも問題ないでしょう。
しかし、リスクの高い新規事業や長期的な回収が想定される研究開発などには、返済負担がないエクイティファイナンスのほうが資金繰りの安定を得やすいといえます。事前に資金用途を明確化し、それに応じた手段を選択することが大切です。
意思決定の自由度
経営の意思決定を完全にコントロールしたい場合は、デットファイナンスのほうが相性は良い場合が多いでしょう。株主を増やすエクイティファイナンスでは、出資者が経営に関与する可能性があるため、意思決定のスピードや方向性が変わる可能性があります。
一方で、新たな株主が持つネットワークや知見を活かして事業を飛躍させたい場合には、エクイティファイナンスによるパートナーシップ構築が有効に働くでしょう。
企業の財務状況
企業の自己資本比率やキャッシュ・フロー、債務償還年数などの指標は、利用できる資金調達手段を大きく左右します。すでに多額の借入金がある場合は、新規のデットファイナンスを行うと財務リスクが高まり、金融機関の審査でも不利になる可能性が否定できません。
また、純資産が小さい場合や赤字が続いている場合は、エクイティファイナンスで投資家からの出資を募るほうが得策となるケースもあります。財務諸表を分析して、自社の強みと弱みを把握し、無理のない資金調達計画を立てることが重要です。
違いを理解して適切な資金調達を
デットファイナンスとエクイティファイナンスは、それぞれに一長一短があります。返済義務の有無や経営権への影響など、企業の状況や成長戦略によってファイナンスの最適解は異なるため、キャッシュ・フローの安定や将来の資金需要を見据えながら、複数の選択肢を冷静に比較検討することが大切です。自社のビジョンと合致する資金調達方法を選び、持続的な成長につなげていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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