• 作成日 : 2025年2月20日

資金調達で使われるシリーズやラウンドとは?わかりやすく解説

「シリーズ」や「ラウンド」とは、スタートアップ企業が成長段階ごとに行う資金調達の分類を指します。本記事では、各段階の特徴や資金調達の方法、注意すべきポイントについて、詳しく解説します。

資金調達で使われるシリーズやラウンドとは?

「シリーズ」や「ラウンド」は、スタートアップ企業が成長段階ごとに行う資金調達を表す枠組みです。1970年代のシリコンバレーで、スタートアップと投資家の間の資金調達プロセスを効率化するために確立されたこの仕組みは、現在では企業の成長状況を示す共通言語として広く採用されています。

例えば、2024年4月にIoTソリューションを提供するMODE社は、シリーズBラウンドで約12.8億円の資金調達を実現しました。この資金は、生成AIを活用したプロダクト開発や海外展開の加速に活用される予定です。(この報道の「シリーズBラウンド」とは、企業の成長段階Bにおける具体的な資金調達を指します。)

この仕組みにおいて「ラウンド」は1回の資金調達を指し、「シリーズ」は成長段階を分類する名称として使用されます。また「シリーズAラウンド1」「シリーズAラウンド2」というように、シリーズ内で複数のラウンドを実施することもあるなど、各段階で必要な資金を柔軟に調達できる仕組みとなっています。

出典:MODE(モード) シリーズBファーストクローズとして約12.8億円の資金を調達

企業と投資家のメリット

このフレームワークには、企業と投資家それぞれにとって重要なメリットがあります。

企業側のメリット

  • 成長段階に応じた明確な目標設定が可能
  • 段階的な資金調達によるリスク軽減
  • 各段階での成長指標の明確化

このフレームワークによって、企業側は効率的に成長を進めるための指針を得られます。

投資家側のメリット

  • 企業の成長段階に基づく投資判断が可能
  • リスクとリターンの評価が容易
  • 投資ポートフォリオの効率的な構築

投資家は、ラウンドやシリーズに応じ、リスクを抑えつつ収益性の高い投資機会を見極めることが可能です。

シリーズごとの企業の成長段階

スタートアップ企業の成長段階では、シード、アーリー、シリーズA、B、Cと進む中で、それぞれ異なる資金調達の目的や課題に直面します。各段階において調達した資金の使い道が異なると同時に、企業の成長目標や戦略に密接に関係しています。

以下の表は、各成長段階の特徴と資金使途の概要をまとめたものです。

シリーズ成長段階の特徴調達資金額の目安主な投資家
シードビジネスアイデアの初期段階。製品の試作や市場調査を実施数百万~数千万円創業者、エンジェル投資家
アーリー製品開発が完了し、市場投入を目指す段階数千万~数億円ベンチャーキャピタル
シリーズA収益化基盤を整え、顧客基盤を拡大する段階数億~十数億円ベンチャーキャピタル
シリーズB事業が軌道に乗り、さらに規模を拡大する段階数十億円大手ベンチャーキャピタル
シリーズC成熟フェーズ。新市場進出やIPO準備を実施数十億~数百億円機関投資家、PEファンド

各段階の資金使途

スタートアップの資金調達では、各段階で資金の使途が異なります。シードラウンドでは、プロトタイプ開発や市場調査に少額の資金を投じ、事業の実現可能性を探ることに重点を置くことが特徴です。次のアーリーラウンドでは、製品開発を完成させ、市場投入や顧客獲得戦略に資金を充当します。

シリーズAでは、収益化を目指して基盤を整える段階であるため、マーケティングや新規顧客獲得に資金を活用します。事業拡大フェーズであるシリーズBでは、広告や人材採用、新市場進出などに資金を使用するのが一般的です。

成熟段階のシリーズCでは、M&AやIPO関連コストを中心に資金を投入し、企業の成長を加速させ、より安定した経営基盤を築くための資金調達が行われます。

シードラウンドの資金調達方法

シードラウンドは、スタートアップ企業が事業を始めるための最初の資金調達段階です。この段階では、事業アイデアを形にし、初期の基盤を整えるために資金を確保します。

資金調達手法

このラウンドにおける主な資金調達手法は、次の4つの方法を中心に検討することが一般的です。

まず、個人投資家からの支援を得るエンジェル投資では、単なる資金提供にとどまらず、投資家の経験やネットワークを活用した事業支援も期待できます。また、国や自治体が提供する助成金・補助金は返済不要の資金として活用できます。

次に、アクセラレータープログラムへの参加も有効な選択肢の1つです。例えば、中小企業基盤整備機構が運営する「FASTAR」では、資金調達の機会に加えて、事業計画の改善や専門家による支援、ネットワークの拡大といった包括的なサポートを受けられます。

最後に、クラウドファンディングは、製品やサービスのアイデアを広く公開することで多くの支援者から資金を募る手法であると共に、マーケティング効果や初期顧客の獲得にもつながるという特徴があります。

注意点

シードラウンドでの資金調達には、いくつかの重要な注意点があります。

まず、資本構成への注意です。この段階で株式を過剰に放出すると、資本構成がいびつになり、将来の資金調達や経営権に悪影響を及ぼす可能性があるためです。また、投資契約などの契約内容を詳細に確認し、不明点があれば専門家に相談することをおすすめします。条件の見落としは後に大きなリスクとなり得ます。

さらに、資金用途の透明性を確保することが信頼構築の鍵となります。具体的な計画を提示し、投資家や支援者の信頼を得る努力が必要です。最後に、目標未達時に備えた代替案やリスク管理体制を整えることで、不測の事態にも柔軟に対応できる準備をしておきましょう。

シードラウンドは、事業の基盤を築く重要なステージです。これらの注意点をふまえ、次の成長フェーズへスムーズに進む準備を整えてください。

アーリーラウンドの資金調達方法

アーリーラウンドは、スタートアップ企業が市場投入や事業拡大を目指す重要な資金調達段階です。このフェーズでは、製品やサービスの完成度を高め、事業の成長基盤を整えるための資金を確保します。

資金調達手法

ここでの資金調達は、製品やサービスを市場に投入し、成長を加速させるための重要な手段で、主に以下の方法があります。

まずは、ベンチャーキャピタル(VC)からの投資です。この段階では、製品やサービスの市場適合性(Product-Market Fit)が重視され、適合性を示すことでVCからの資金調達がスムーズになります。

次に、このラウンドでも、アクセラレータープログラムへの参加が有効です。このプログラムは成長戦略の支援や専門家からのアドバイスを受ける機会を提供し、事業のスケールアップに役立ちます。ここでの専門家の人脈や実践的なサポートは魅力的です。

また、事業提携を通じた資金調達も効果的です。提携を通じて資金提供や技術支援だけでなく、販売チャネルの拡大やブランド力の向上といった副次的なメリットも得られます。

さらに、この段階でのクラウドファンディングでは、「株式型」が注目されています。支援者との関係構築や知名度向上に加え、新しい市場への進出や消費者認知の拡大にも有効です。

注意点

アーリーラウンドでの資金調達で注意すべき点として、まず、企業価値(バリュエーション)の適切な設定が必要です。過大評価は後続ラウンドでの資金調達に悪影響を及ぼすため、慎重に評価を行いましょう。次に、VCや事業会社との契約条件を明確にすることが重要です。特に出資比率や経営権に関する条件は、慎重な交渉が求められます。

また、具体的な成長戦略を立案し、投資家に事業の成長可能性を示すことが資金調達成功の鍵です。マーケティング費用や人材採用の優先順位を明確にするなど、シードラウンドと同様に調達資金の使途を明確に示すことで、投資家からの信頼を得やすくなります。

最後に、市場投入段階のリスクに備え、競合の動きや顧客の反応に対応できる柔軟な体制を整えることも重要です。これらの注意点をふまえ、次のシリーズAラウンドに向けた基盤を構築しましょう。

シリーズAラウンドの資金調達方法

シリーズAラウンドは、スタートアップ企業が事業の収益化を目指し、基盤を整えるための重要な資金調達段階です。このフェーズでは、顧客基盤の拡大や市場適合性の実証を通じて、さらなる成長に向けた資金を確保します。

資金調達手法

このラウンドでは、収益モデルや市場での成果が評価され、次の成長フェーズに向けた資金調達が行われます。この段階で活用される主な手法は以下の通りです。

まず、VCからの投資です。この段階では、収益モデルやユーザー増加率といった成果が評価され、複数のVCが投資に参加します。調達額は数億円から十数億円が一般的で、事業拡大の基盤を整えるための資金を確保します。

次に、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)との提携も有力な選択肢です。CVCは大企業が運営する投資機関で、資金提供だけでなく、技術支援や販路拡大のサポートも行う場合があり、企業に付加価値をもたらします。

また、事業提携型の資金調達では、資金提供に加え、販売チャネルや市場アクセスの強化など事業拡大も見込めます。

さらに、株式型クラウドファンディングもシリーズAラウンドで活用されます。広く一般の投資家から資金を得るため、事業の認知度向上や潜在顧客との関係構築につながる点も魅力です。

注意点

このラウンドは、事業を本格的に成長させるための重要な段階として、いくつかの注意点があります。

まず、重要な点が自社の収益モデルの明確化です。顧客獲得コスト(CAC)や顧客生涯価値(LTV)といった指標を具体的に示すことで、収益性や成長可能性を投資家にアピールします。

次に、適切な投資家の選定が重要です。事業戦略に合致したVCやCVCを見極め、長期的な協力関係を築くことで、後続ラウンドにも良い影響を与えます。

また、バリュエーションの適正化にも注意が必要です。この段階でも企業価値を過大設定すると後続ラウンドでの資金調達が困難になるため、現実的な評価獲得を心がけましょう。

さらに、資金使途の具体化によって調達資金の活用計画を明確に示し、一層の信頼を投資家から得ることも不可欠です。

最後に、このラウンドは競争優位性の強化を図り、市場競争が激化するフェーズであるため、差別化戦略や知的財産権の保護に取り組み、持続的な成長を支える基盤を築きます。

シリーズBラウンドの資金調達方法

シリーズBラウンドは、スタートアップ企業がさらに成長を加速させ、事業の規模を拡大するための資金調達段階です。このフェーズでは、収益モデルを強化し、次の成長フェーズへの基盤を整えるための資金を確保します。

資金調達手法

シリーズBラウンドでも、VCからの投資が引き続き重要です。シリーズAに続き、収益性やスケーラビリティ(拡張性)が評価され、成長資金を提供するVCがさらに参加します。

次に、プライベートエクイティ(PE)ファンドの活用が選択肢です。PEファンドは大規模な資金提供に加え、ネットワークを活用した業界特化型の支援や成長戦略の実行をサポートするため、規模拡大や市場シェア獲得に効果的です。

また、シリーズAと同様にCVCを通じた資金調達では、大企業との提携によって販路拡大やブランド力向上が期待できるなど、資金提供だけでなく実務支援も伴います。

さらに、メザニンファイナンスは、資本と負債の中間に位置する資金調達手法で、企業の資金ニーズに応じてリスクとリターンを調整できる柔軟性があります。シリーズBでは、成長資金の補完手段や追加投資の一環として活用されることが多いです。

注意点

このラウンドでの注意点として、まず、自社の成長戦略が実現可能であることを明確にし、現実的で具体的な拡大戦略をロードマップとして提示することで、投資家の信頼を得ることが重要です。

次に、このラウンドでも資金使途の妥当性を明確にし、どの領域に資金を投入し、どのような成果を目指すのかを示すことで、調達資金の効果的な活用をアピールします。

また、ここでも企業価値が過大評価されないよう注意が必要です。現実的な評価を行うことで、次のラウンドでの資金調達がスムーズになります。

さらに、競合優位性を強化し、差別化戦略や知的財産権の保護を着実に進めることが求められます。

最後に、投資家間の調整も重要なポイントです。初期の投資家との意見や利害が衝突しないように調整を図り、関係者間での円滑な資金調達プロセスを確保する必要があります。

シリーズCラウンドの資金調達方法

シリーズCラウンドは、スタートアップ企業が事業の成熟度を高め、新市場への進出やIPO準備、またはM&Aを視野に入れる段階の資金調達です。このフェーズでは、既に成長が安定している企業がさらにスケールアップを図るため、大規模な資金を確保することを目的とします。

資金調達手法

まず、このラウンドでは、PEファンドが主要な投資家として関与するケースが多く、大規模な資金を提供するだけでなく、事業戦略や市場拡大の実行をサポートする役割も果たします。

次に、銀行・保険会社・年金基金などの機関投資家からの出資です。このラウンドから参加することが一般的で、特にIPO前の調整や市場価値の向上において重要な役割を担います。

また、CVCと提携し、大企業との協力体制によって販路拡大や技術支援をさらに強化できます。特に海外市場への進出を目指す企業にとって、CVCは効果的なパートナーです。

さらに、メザニンファイナンスやデットファイナンスも活用されます。資本の希薄化を避けつつ、リスクとリターンを調整して必要な成長資金を確保できる手法で、シリーズCでは追加投資の一環として利用されるケースが多くみられます。

最後に、IPO前資金調達(Pre-IPO)です。株式上場を目指す企業にとって、投資家や市場に企業価値を示しながら、IPO準備を加速する重要な手段です。

注意点

このラウンドでは、明確な市場拡大戦略を示すことが不可欠です。成長市場での競争力や新規市場への進出計画を投資家に提示し、実現可能性を納得させる必要があります。

次に、資金使途の明示です。調達した資金をM&Aや新規製品の開発、IPO準備といった具体的な用途に割り当て、調達効果が最大化する計画を策定します。

また、IPO準備の強化も注意点の1つです。財務報告の整備や法的リスクの軽減、内部統制の強化など、上場に向けた透明性の向上を図り、投資家の信頼を得ます。

競争優位性の維持も、欠かせません。成熟市場では競争が激化するため、知的財産の保護やブランド戦略の強化などの施策で、自社製品やサービスの差別化を維持することが重要です。

最後に、既存投資家との調整です。既存の投資家と新たに参加する投資家との間で意見や利害が衝突しないように調整を行うことが、このラウンドでの資金調達プロセスの成功につながります。

スタートアップの成長を支える:資金調達のシリーズとラウンドという枠組み

資金調達における「シリーズ」や「ラウンド」は、スタートアップ企業の成長段階ごとに明確な目標を設定し、適切な資金を調達するための枠組みです。本記事では、シードからシリーズCまでの各段階での資金調達手法や注意点を詳しく解説しました。

各段階において、企業は自社の成長フェーズに合わせた戦略的な資金調達を行い、競争優位性を確立しながら持続的な成長を目指します。一方、投資家にとっては、シリーズやラウンドの枠組みを通じて、企業の成長状況を把握し、リスクとリターンを適切に管理することが可能です。

特に、事業の進展に応じた投資家との関係構築や、資金用途の明確化、そして競争優位性の確保は、成功する資金調達の鍵となります。これから起業を目指す方や、事業拡大を考えている企業経営者にとって、本記事が戦略的な資金調達の実現に向けた一助となれば何よりです。


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