- 作成日 : 2024年12月27日
事業承継における株価対策とは?自社株評価を引き下げる方法を解説
事業承継における株価対策とは、自社株式の評価額を引き下げて相続税・贈与税を抑えることです。株価対策しない会社には多額の相続税・贈与税が課される可能性があるため、不動産購入や自社株買い、生命保険の活用などによる対策を講じましょう。この記事では、自社の株価を抑えるメリットや評価方法、有効な株価対策などを解説します。
目次
事業承継における株価対策とは
事業承継における株価対策とは、相続税・贈与税の納税負担に備えて自社株式の評価額を引き下げることです。
株式市場での取引がない非上場企業の株式には明確な株価がなく、経営者が想定する以上に株価評価が高くなるケースが少なくありません。
相続税や贈与税は、自社株式の評価額に対して課せられます。そのため、評価額が高いままなにも対策を講じなければ、事業承継にあたって後継者の負担になる可能性があります。
事業承継の際は、自社株式の評価額を引き下げる株価対策が有効です。
事業承継における自社株の評価方法
事業承継における非上場企業の株価評価は、「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」のどちらか、または両方を使って算出されます。
評価方法は、原則として以下のように分かれています。
- 大会社の場合:類似業種比準方式による評価
- 中会社の場合:大会社・小会社の評価方法の併用による評価
- 小会社の場合:純資産価額方式による評価
会社の規模が大きいほど、「類似業種比準方式」による評価割合が高くなることが一般的です。
ここでは、類似業種比準方式と純資産価額方式の特徴や計算式について解説します。
類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、上場している同業他社の株価をもとに評価する方法です。非上場企業には株価がないため、類似した上場企業の基準に当てはめることによって株価の評価を算定します。
【計算式】
【斟酌率】
- 大会社:0.7
- 中会社:0.6
- 小会社:0.5
類似業種比準方式では、基本的に業績がよいほど評価が高まります。
参考:国税庁 類似業種比準価額
純資産価額方式
純資産価額方式とは、純資産の大きさによって株価を評価する方法です。「仮に会社が解散した場合、どのくらいの金額を株主に返還できるか」という観点が用いられます。
同族である中小企業などの非上場会社の場合、純資産価額方式が適用されやすいでしょう。
【計算式】
純資産価額方式では、基本的に保有純資産が大きいほど評価が高まります。
参考:国税庁 1 取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)
事業承継において自社株評価を下げるメリット
事業承継において株価対策を行い、自社株評価を下げることには、主に以下2つのメリットがあります。
- 相続税・贈与税の節税効果がある
- 後継者の株式取得費用を抑えられる
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
相続税・贈与税の節税効果がある
事業承継において自社株評価を下げる1つめのメリットは、相続税・贈与税の節税につながることです。
事業承継の際は、後継者に多額の相続税・贈与税が課される可能性があります。中小企業であっても、数千万円・億単位の税金が課されてしまうケースは少なくありません。
たとえ業績が芳しくなかったとしても、たとえば「保有している土地が値上がりしている」といった状況であれば「含み資産」とみなされるためです。
株価対策を行い自社株の評価額を引き下げておくことによって、相続税・贈与税の節税効果が期待できます。
後継者の株式取得費用を抑えられる
事業承継において自社株評価を下げる2つめのメリットは、後継者の株式取得費用の負担を軽減できることです。
複数の相続人が存在する場合は、相続の際に自社株が分散する恐れがあるため、自社株を買い取って後継者に集約させる必要があります。
株価対策を行い自社株の評価額を引き下げておくことで、後継者の株式取得費用を抑えられるでしょう。
事業承継において自社株評価を下げる方法
事業承継にあたっての株価対策のために自社株評価を引き下げる主な方法は、以下のとおりです。
- 役員報酬を引き上げる
- 役員退職金を支払う
- 株式配当金を低く設定する
- 生命保険に加入する
- 不動産を購入する
- 高収益部門を切り離す
それぞれ詳しく解説します。
役員報酬を引き上げる
事業承継において自社株評価を下げる方法の1つめは、役員報酬の引き上げです。
役員報酬を引き上げることで、会社の利益や純資産を減らせるため、結果的に自社株評価の引き下げにつながります。
ただし、不相当に高額な部分の金額については、損金算入が認められません。適正範囲内で役員報酬を設定する必要があります。
また役員報酬の引き上げは、役員の所得税・社会保険料アップにもつながります。株価対策と所得税対策、社会保険料負担などのバランスを検討しましょう。
役員退職金を支払う
事業承継において自社株評価を下げる2つめの方法は、役員退職金の支払いです。
事業承継のタイミングで先代の経営者や役員に役員退職金を支払うことで、会社の純資産を減らせるため、自社株評価の引き下げにつながります。
ただし、業績や企業規模に見合わない多額の退職金を支払う場合、損金不算入とみなされる恐れがあるため注意が必要です。
株式配当金を低く設定する
事業承継において自社株評価を下げる3つめの方法は、株式配当金を低く設定することです。
株式配当金は、「類似業種比準方式」による株価評価の構成要素に含まれるため、低く設定すれば株価を下げられます。
記念配当・特別配当は株価評価に参入されないため、「実務上は普段の配当を低くしておき、5年に1度などの記念配当で多めに配当する」「特別配当を利用する」などの方法をとれば、配当金総額を変えずに済みます。
生命保険に加入する
生命保険への加入も、株価対策になる可能性があります。損金計上できる生命保険の保険料を活用し、法人税を節税しながら株価評価(類似業種比準価格)を引き下げる方法です。
2019年の通達改正によって、「低解約返戻金型保険」を除き、短期間での株価対策の効果は薄れています。ただし、「純資産価額の引き下げによる株価評価引き下げ」という点においては、一定の効果が期待できます。
不動産を購入する
不動産の購入も、株価対策になるでしょう。土地は時価の7割程度、建物は時価の5〜6割程度と、現金よりも低く評価額が算出される傾向があるためです。
不動産の取得後3年間は通常の取引価格(時価)で評価されるため、事業承継の3年以上前までに不動産を購入しておくことがポイントになります。
高収益部門を切り離す
高収益部門を「子会社化する」「別会社にする」などの方法で親会社から切り離すことも、ひとつの手段です。
類似業種比準方式の場合、子会社化すれば収益部分の要素が低くなります。純資産価額方式で評価額を用いる場合でも、子会社による含み益は37%の控除を利用できるため評価額の上昇を抑えることが可能です。
また、高収益部門を別会社にして事業譲渡すれば、本体会社の株価評価を下げられるでしょう。別会社を後継者に任せることで、後継者育成や後継経営体制の準備ができるというメリットもあります。
事業承継における自社株評価を下げるときの注意点
事業承継における株価対策のために自社株評価を下げる際は、以下の2つのポイントに注意しましょう。
- 自社株評価の計算方式によって株価対策が異なる
- 類似業種比準方式は自社株評価が低くなる傾向にある
それぞれの注意点について、詳しく見ていきましょう。
自社株評価の計算方式によって株価対策が異なる
1つめの注意点は、自社株評価の計算方式によって効果的な株価対策が異なることです。
たとえば類似業種比準方式であれば、「自社株の配当金の引き下げ」などによって純資産を下げる株価対策を講じる必要があるでしょう。
一方、純資産価額方式の場合は「値上がりしている不動産や有価証券の売却」などによって純資産を下げる手法がとられることが一般的です。
類似業種比準方式は自社株評価が低くなる傾向にある
純資産価額方式に比べ、類似業種比準方式のほうが自社株評価は低くなる傾向にある点にも注意しておきましょう。同業の上場会社の株価と比較する類似業種比準方式の場合、会社が所有する資産の影響が少ないためです。
一般的な傾向として、覚えておくとよいでしょう。
事業承継の際は事前に株価対策を講じよう
事業承継において後継者の負担が懸念される場合は、株価対策を講じておきましょう。
事業承継における非上場企業の株価評価には「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」のどちらか、またはその両方が用いられます。
自社株評価を引き下げる方法は多岐に渡るため、自社の状況や、株価評価に用いられる評価方法などをふまえたうえで検討することをおすすめします。
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