- 作成日 : 2024年12月5日
事業承継計画書とは?作成方法や記入例をテンプレートつきで解説
事業承継計画書とは、事業承継の時期や後継者などを示した事業承継に関する書類です。事業承継計画書には、後継者を明確にするなどの作成目的があります。今回は、事業承継計画書の作成の流れやテンプレート、作成例について紹介します。
目次
事業承継計画書とは?
事業承継計画書とは、将来の事業承継に向けて、現在の課題や対策、後継者候補、承継の時期などを記した中長期的な事業承継に関わる書類です。事業承継の指針として作成します。
事業承継計画書に似た書類に、事業承継計画表があります。事業承継計画表は、事業承継までのロードマップのような書類で、承継までの工程を具体的にまとめたものです。
事業承継計画書を作成するケース
事業承継計画書はどのような場合に必要になるのか、作成するケースやタイミングについて紹介します。
後継者を明確にするため
事業承継計画書には、後継者を明らかにし、事業を譲渡する側と譲渡される側との認識をすり合わせる役割があります。
例えば、後継者を明確にしていなかったり、事業承継の方針を示していなかったりすることで、後継者争いなどの問題が将来的に生じる可能性があります。事業承継計画書を作成しておくことで、誰が後継者なのかなど、将来のトラブルに備えることができるでしょう。また、事業承継計画書は経営者が引き継ぎたい理念を明確にする書類でもあるため、後継者との認識のすり合わせにも役立ちます。
取引先等に事業承継の協力を得るため
経営者が変わることによって、取引に影響が生じるとスムーズな事業承継ができません。事業承継計画書は、社内の関係者だけでなく、取引先や取引銀行などの社外の関係者に示すことで、事業承継の方向性を明らかにし、承継後の関係を維持するのに役立ちます。
事業承継税制の利用のため
詳細は後述しますが、事業承継時の税負担を軽減する措置として、事業承継税制があります。事業承継計画書の作成は、事業承継税制の特例を利用する場合の要件の一つです。事業承継税制の利用を想定したタイミングで、事業承継計画書を作成するケースも考えられます。
事業承継計画書のテンプレート
マネーフォワードでは、事業承継計画書として利用できるWord形式のテンプレートを提供しています。詳しい書き方は記入例の項目で説明しますので、必要に応じてご活用ください。
事業承継計画書を作成する流れ
事業承継計画書を作成するために何をすべきか、6つのステップを紹介します。
1.会社の株式や資産の把握
事業承継にあたり、後継者にどのようにして株式や資産を引き継いでいくかの検討が必要になります。そのためにも、前段階として現経営者が保有する会社の株式や資産、負債、契約関係などの経営資源を適切に把握しておくことが重要です。株式や資産の状況を洗い出すことにより、どの財産を引き継がなければならないのかが明確になります。
2.事業承継方法・後継者の検討
事業承継には、現経営者の親族に承継する方法、従業員に承継する方法、M&Aにより第三者に承継する方法がありますが、それぞれメリット・デメリットがあります。
親族への承継であれば、後継者選びがスムーズに進む反面、従業員などから不満の声があがる可能性もあるでしょう。従業員への承継であれば、会社の理念や方向性を深く理解している人材に承継できる可能性がある一方、親族への承継以上に株式の引き継ぎやほかの従業員への説得に時間がかかる可能性があります。第三者への承継は、事業譲渡がうまくいけば事業拡大を期待できる一方、会社の理念や経営方針が変更されるリスクもあります。
それぞれのメリット・デメリットを総合的に勘案し、事業承継の方法や後継者を検討していきましょう。
3.関係者との意見交換
事業承継の方向性をある程度決めた後は、後継者候補や事業譲渡先などの関係者と意見交換を行います。意見交換を行うのは、後継者などの意向を確認するためです。また、事業承継を円滑に進めるために、従業員などの後継者以外の関係者へのヒアリングも実施します。
4.後継者や事業譲渡先の確定
意見交換やヒアリングにより、後継者候補や従業員の事業承継に関する考えなどを把握できた後は、後継者や事業譲渡先を確定させます。後継者や譲渡先を明確にすることにより、事業承継の計画を具体的に立てられるようになるでしょう。
5.事業承継計画書の作成
関係者との意見交換や確定した事業承継先の情報をもとに、事業承継の概要を事業承継計画書に落とし込んでいきます。事業承継計画書で明らかにするのは、どの程度のスパンで事業承継をするのかだけでなく、事業承継で考えられる課題や今後の方向性です。事業承継計画書には、事業承継の流れや課題を可視化するメリットがあります。
6.事業承継計画表の作成
事業承継計画書を作成した後に、事業承継計画表を作成します。事業承継計画表とは、事業承継計画書をベースに、事業承継をどのように行っていくかを可視化した工程表のようなものです。事業承継の時期に円滑に承継できるように、どの時期に何をすべきかを明確にします。
事業承継計画書の書き方や記入例
事業承継計画書には決まった様式はありません。ここでは、一例として、テンプレートとして紹介した事業承継計画書をベースに、事業承継計画書の書き方や入れておきたい要素について解説します。
1.事業承継の概要
事業承継について端的に示す項目です。現経営者の氏名や後継者の氏名、事業承継の時期を記載します。また、親族への承継なのか、従業員への承継なのか、誰に対する事業承継かを明確にするために、現経営者と後継者との関係性も記載しましょう。
2.事業承継の基本方針
事業承継のための取り組みについて記載する項目です。「事業承継の方向性」には後継者への承継を見据えた会社の指針、「株式・資産の承継」には最終的な株式や持分の配分割合などについて、「後継者教育」には後継者への指導の在り方などを記載します。「その他」には、関係者への理解を深めるために、どのタイミングで社内において後継者の公表をするのか、取引先などにどのように説明を行っていくのかなどを記載するとよいでしょう。
3.会社の現状
現経営者と後継者の共有事項として、会社の現状を記録しておくことも重要です。業界の成長性、競合他社の状況、外部環境などを分析して、競争力や将来性、経営リスクなどを記載します。
4.事業承継の課題
事業承継にあたり検討しなくてはならない課題や対策を、会社、現経営者、後継者に分けて整理する項目です。例えば、相続により発生する相続税についての対策などを記載します。事業承継計画書作成の時点で把握できる課題を明確にすることで、円滑な事業承継に役立ちます。
5.事業承継の必要資金
事業承継にあたり、生産性向上のための設備投資を充実させる場合などに関係する項目です。事業承継に伴い、資金調達が必要な場合、必要な資金や資金の用途、調達方法などを記載します。
6.事業承継計画
事業承継計画表の骨子として、基本的な項目を記載するものです。事業承継時期までに、会社の年商や経常利益、現経営者と後継者の役職や持株割合がどのように変化していく予定なのかを記載します。
事業承継計画書を作成する際のポイント
事業承継計画書を作成する際に意識したいポイントを5つ紹介します。
経営資源や資産状況を正確に把握する
事業承継を円滑に行うには、会社の経営資源や資産状況を把握しておくことが重要です。経営資源には、事業用の資産や事業資金、従業員、顧客基盤、取引先との関係などが含まれます。事業承継は将来にわたって行われるので、現在の価値だけでなく、将来の見込みについても把握するようにします。
知的財産といった目に見えにくいものについても整理しておくことが重要です。目に見えにくい経営資源には、許認可や特許のほか、経営者自身の信用や従業員の人脈やスキル、顧客情報などが含まれます。目に見えにくいからこそ、しっかり整理して後継者に引き継いでいくことが重要です。
後継者について十分に検討する
事業承継計画書を作成する前に、後継者についてもさまざまな観点から十分に検討することが重要です。後継者候補については、年齢や経歴、適性や事業承継に対する意欲についてヒアリングを行い、後継者として適切か分析をしたうえで決めましょう。
事業承継方法については、それぞれにメリット・デメリットがあるため、関係者との意思疎通を図りながら決めていきましょう。
相続時の問題点を検討する
事業承継で経営が後継者に移行することにより、さまざまな問題が発生する可能性があります。問題が発生した場合に適切に対処できるよう、以下のように、直面する可能性のある課題や対策を検討し、事業承継計画書に落とし込んでおきましょう。
事業承継で直面する可能性のある課題
- 相続財産をどのように分割するか
- どのくらいの相続税が発生する見込みか
- 相続税をどのように納付するか
- 人間関係により相続トラブルが発生する可能性はあるか
- 社内で後継者に対するマイナスの動きが起きないか
など
具体的な承継の時期を検討する
具体的な承継の時期が明確でないと、具体的な事業承継計画を立てることができません。相続や後継者に関するあらゆる問題について、どのような対策をするか、関係者に理解してもらうためにどのくらいの時間が必要かなども考慮して、具体的な承継の時期を検討します。
中長期的な目標に落とし込む
将来の事業承継に向けて、中長期的な目標を立てて落とし込んでいくことが重要です。将来の見通しを立て、具体的な対策を立てることで、円滑な事業承継を実現できます。事業承継の時期までのスケジュールを細かく立てる際には、事業承継計画表もあわせて作成していきましょう。
事業承継税制(特例)とは?
事業承継に伴い、発生する贈与税や相続税が円滑な事業承継の妨げにならないよう、事業承継税制の制度があります。
法人においては、もともと贈与税や相続税の納付を猶予する制度(一般措置)が設けられていました。これが、2018(平成30)年度税制改正により、2018年(平成30年)1月から2027年(令和9年)12月までの10年限定で、拡充された特例措置の適用に変更されています。
個人においては、2019年(平成31年)4月から2028年(令和8年)12月までの期間で個人版事業承継税制が創設されています。
法人版事業承継税制
法人版事業承継税制は、非上場の会社から株式などの贈与や相続を後継者が受ける場合で、一定の要件を満たすときに適用できる制度です。従来の一般措置と、10年限定で拡充された特例措置には、下記の違いがあります。
一般措置 | 特例措置 | |
---|---|---|
猶予割合(上限) | 80% | 100% |
対象者 | 1人から1人への贈与・相続 | すべての株主から最大3人への贈与・相続 |
雇用要件 | 承継後の5年平均で8割の雇用の維持が必要 | 左記の要件を緩和 |
売却・廃業時の税負担 | – | 将来の売却・廃業時に株価が下落している場合は税負担を再計算し減免 |
特例措置により、猶予できる納税額が100%になったほか、対象者なども大きく緩和されました。法人版事業承継税制(特例措置)の適用を受けるには、2026年3月31日までに事前に都道府県に特例承継計画を提出しなければなりません。また、事業承継後は、贈与税または相続税の申告期限の2カ月前までに都道府県に対して認定申請が必要です。
個人版事業承継税制
個人版事業承継税制は、青色申告を行う個人事業主の後継者が事業資産の贈与や相続を受けた場合で、一定の要件を満たすときに適用できる制度です。事業資産に関わる贈与税や相続税について、100%の納税猶予を受けられます。
個人版事業承継税制を利用するには、2026年3月31日までに、都道府県に書類を提出して認定を受けることが必要です。主な書類は以下の通りです。
- 個人事業承継計画(認定経営革新等支援機関の指導や助言を受けたことが記載されていること)
- 認定経営革新等支援機関の確認を受けたことを証明する書面
- 承継者が3年以上事業に従事していたことを証明する書面
- 性風俗関連特殊営業に該当しない旨の誓約書
事業承継計画書は事業承継の基本事項を示した書類
事業承継計画書は、後継者や会社の事業承継における課題などを示した事業承継の概要がわかる書類です。事業承継計画書を作成することで、後継者との認識のすり合わせができるほか、社内外の関係者に対して事業承継の方針を明確に示すことができます。また、事業承継計画書は事業承継税制の適用を受ける際にも必要な書類です。今回紹介したテンプレートなども活用して、将来の事業承継に向けて準備を進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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