創業期の事業を「早く」「大きく」する『財務』のチカラ 5.事業投資のリスクをどのように考えるべきか

起業家は、「財務」を知ることで、もっと事業を発展させることができます。この連載では、起業家が創業からもつべき「財務」の視点・考え方について、シリーズでお伝えしていきます。
第4回より、財務の「事業資金の運用」について、お話を開始しはじめ、「お金を使って、お金を増やす」という「事業投資」のお話をしました。
事業投資をするということは、事業を「早く」「大きく」するためのチャンスを拡大させますが、当然ながら、リスクを伴います。
今回は、その事業投資をすることのリスクをどのように取り扱うべきか、というお話をします。(執筆者:税理士・公認会計士 萩口義治)

事業投資にはリスクが伴う

創業経営者にとって、事業が成長し、資金が潤沢になってから事業投資を行うのでは時間がかかりすぎる傾向があります。ですから、創業経営者は、「先に事業投資をする⇒その結果事業が成長する」ということを念頭において、先行で事業投資をすることが必要ですと前回述べました。
一方で、零細な資金しかなく、売上がまだろくに上がらない状況で、事業投資をするというのも、実際にはリスクが伴うことです。
ですから、これを実行するには、「事業投資のリスク」ということに対して十分な準備ができている必要があります。そこで今回は、経営者が「事業投資のリスク」についてどのように考え、どのように取り扱っていくべきかについて、考察したいと思います。

ここで、広告投資を検討しているD社長を想定します。当然、広告を打つことで、自社商品の認知を広げ、売上を増やしたいと考えています。とはいえ、そこまで潤沢な資金があるわけでもなく、この広告投資に踏み切るべきか、悩んでいます。

そんなとき、D社長はこの投資に対して、何を考慮し、意思決定すべきでしょうか。

1.この投資によって、どのくらいリターンが得られるのか

まず、事業投資によって得られるリターンについて想定しておく必要があります。
この広告投資を行うことで、例えば以下の事項について考慮しなくてはなりません。

・最大どのくらいの売上・利益が増加するのか
・その成功確率や回収率の期待値はどの程度か
・金額で測定できないメリットやデメリットはあるか

これらは、問い合わせがきた後の成約率の仕組みが社内でどのくらい整っているかなど他の状況によっても、リターンの期待値は変わってきますので、自社の状況を考慮して現実的なリターンを想定することが、正しい意思決定のためには必要不可欠と考えられます。

2.投資のリスクをどうやったら低減できるか

投資をする際に、そのリスクを低減させることができれば、失敗してもそのダメージを最小限にすることができますし、成功の確率を高められるということにもつながります。

実は事業投資が旺盛な会社の社長は、一方で投資のリスクを最小限にする術を知っていることが多いです。だからこそ、外部から見ると大胆な投資を、何事もなく実行に移すことができるのです。
D社長の場合であれば、ある広告投資をするにあたり、たとえば以下のようなことを考慮し、情報を収集することで、投資のリスクを低減できるのではないでしょうか。

・同業他社はどのように広告、集客しているのか
・よりよい代替的な広告手法はないのか
・実際にどのくらいの投資に対して、どのくらいのリターンがあったか

特に、広告投資については、まず少額で色々やってみて、その中で成果を比較し、効果が高かったものに対して投資額を増額していくなどの仕組みや方針があれば、投資にかかる全体的なリスクをコントロールすることにつながります。

3.その事業投資は、本当に今、必要か

また、事業投資をしない場合にはどうなるかということを考えることも重要です。

・今投資をしないとチャンスを逃してしまうのか、あとでもいいのか
・その投資よりも先にやらなくてはならない投資がないか
・その事業投資は、事業の方向性と整合しているか

広告投資においては、例えば、新電力など比較的新しい市場で、あと数年でマーケットが飽和化する前にシェアを拡大することが勝敗を決するような商品を扱っている場合は、この1年に多少無理をしても事業投資が必要ということになるでしょう。
一方で、まだ、問い合わせを受けた後の商談スキームができていなかったり、ウェブ広告のクリック後のランディングページの準備ができていないのであれば、広告投資よりもそちらへの投資を先にすべきいうことになるでしょう。

4.投資のリスクにどこまで耐えられるのか

事業は、資金がなくなると終了します。
事業投資は、事業資金を投資するわけですから、事業資金の残高や、投資後のキャッシュ・フローを考慮して、投資をする必要があります。先行投資とはいえ、事業資金が尽きることは、絶対に避けなくてはならないのです。

D社長の場合、
・資金残高や既存事業の月々のキャッシュ・フロー等を加味するとどのくらいの追加投資が可能か
・投資が失敗した場合に、資金残高や事業の運転は継続可能かどうか

を踏まえて、広告投資する必要があるかと思います。

事業投資(事業資金の運用)と資金調達との関係

先行投資を行うということは、資金が必ずしも潤沢でない状況で、事業投資を先に実行することになりますから、事業資金の調達が必要となることも多くなります。

財務とは、事業資金の「調達」と「運用」のことである。

と言っておりますが、強い財務を作るために、「調達」と「運用」は両面が切っても切り離せない関係であるということをご理解ください。

事業投資には、現預金残高が必要です。事業が黒字化していなくても、資金調達をすることで、「現預金残高」を作ることは可能です。「現預金残高」が十分にあるということは、事業投資のチャンスがあったときに、投資に踏み切れるということでもありますし、事業投資が予定通りの成果を生み出さなかったときに資金ショートせずに事業を継続できるという意義があります。
積極的な事業投資(運用)を継続するために、十分な資金調達力を育てていくことが必要です。

次回は、「資金調達力の育て方」について、取り扱いたいと思います。

まとめ

・事業投資にはリスクが伴う

・だから、以下のことを考慮しよう
⇒この投資によって、どのくらいリターンが得られるのか
⇒投資のリスクをどうやったら低減できるか
⇒その事業投資は、本当に今、必要か。
⇒投資のリスクにどこまで耐えられるのか

・事業投資を先行で行うためには、資金調達が必要であり、事業投資を継続するためには、資金調達力を育てていく必要がある。

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執筆:萩口 義治 (公認会計士 / 税理士)

株式会社HG&カンパニー / はぎぐち公認会計士・税理士事務所 代表
中小企業から上場企業まで支援するキャリアを経て、大きくなる事業に必要なものは「財務」であるという。「税務」最適は経営最適と一致しないことが多く、税務だけでなく、財務・経営の視点から起業家の事業成長を支援することをミッションとする。本人自らも積極的な事業投資によって、事業を拡大中であり、常時人員を募集中である。



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