• 更新日 : 2024年4月12日

創業期の事業を「早く」「大きく」する『財務』のチカラ 2.資金調達って、どんな方法があるの?

起業家は、「財務」を知ることで、もっと事業を発展させることができます。この連載では、起業家が創業期からもつべき「財務」の視点・考え方について、シリーズでお伝えしていきます。
第1回目では、「財務」とは何か。なぜ、「財務」が起業家にとって必要なのかについてお伝えしましたが、多くの反響をいただきました。今回、第2回目のテーマは、「事業資金の調達について」です。(執筆者:公認会計士・税理士 萩口義治)

(1)創業期の財務は、運用よりも、調達が先

第1回のブログでは、財務を以下のように定義しました。
財務とは、事業資金の「調達」と「運用」のことである。

起業当初においては、潤沢な資金が最初からあるというのはとても稀です。さらに、起業当初においては、創業期にかかる初期費用が諸々かかってきます。
ですから創業時の「財務」としては、「運用」よりも先にまず、限りある自己資金に加えて、何らかの資金の「調達」を考えることになるのが通常です。

創業当初に起こる2つの誤算~なぜ創業時に資金調達が必要なのか

創業資金がある程度あるから、とりあえず、この資金の範囲で始めるから資金調達は不要だと考える方が多いです。しかし、創業期の起業家に起こる2つの誤算があります。

誤算① 予定していたより、売上が上がらない。当初想定していたよりも、売上が上がらない。
ex)半年後には黒字化する予定で、半年分の運転資金500万円を準備して起業したが、売上が思ったように上がらず、開業9か月目にして資金が底をつきそう。

 

誤算② 広告や人件費など、事業投資で失敗する
ex)広告投資をしたが思ったように集客できない。すでに結構支出したが、有効な広告投資がまだ見つかっていない。また、起業家の時間を確保するために、人を雇ってみたがいろいろ教えてやっと戦力として期待できると思っていた3か月目に退職してしまった。
退職者のセリフ:「創業期の熱い思いに感化されて入社しましたが、売上もなかなか上がってないようですし、タイムカードもないし、有給休暇とか社会保険とかも整備されていないですし、こんな会社にいていいのかな~って不安になってしまいました。もう少し、ちゃんとしたところで自分のキャリアを積みたいと思います…」

以上のような誤算が、創業期にはでてきます。なぜかといえば、

  1. 創業経営者が、売上獲得や事業投資の経験が乏しく、下手であること
  2. 創業事業は実績もないことから、それだけで、お客さんとしては依頼することに不安があり、働く人としても創業期の会社で働くことに不安がある。

“創業経営者は、お客さんの獲得も人材採用も、どの事業者よりも、最もハードルが高く難しいのです。”
よくよく考えれば、当たり前のことなのですが、このことを明確に理解して、折り込んでおく必要があります。
そして、当初用意した創業資金が底をつきそうになった頃には、銀行はお金を貸してはくれません。創業当初に余分になると思っても、事業資金を「調達」しておくことで、廃業率は大きく下げることができます。また、事業が想定よりもうまくいった場合でも、資金が多くて困るということはありません。残高500万円の起業家がイメージできる選択肢と、残高1000万円の起業家がイメージできる選択肢は、変わってきます。起業家のイメージが変わるということは、その後の事業の成長スピードも大きく変わってくると考えてよいと思います。
弊社にも、多くの創業者が相談にいらしますが、創業時に「資金調達」についてひととおり検討をしてもらうことになるので、創業数年での廃業率は世の中の平均よりもずっと低い状況を実現できています。一方で、創業時に自己資金だけで事業をはじめ、上記のような誤算を経験して、資金が底をつきそうになった状態で相談に来られる起業家さんももいらっしゃいますが、その時点では手遅れになってしまっているケースもしばしばあります。

事業資金の「調達」が、生み出す2つのゆとり

経営者が「資金調達」について、勉強しなくてはならないと私がいうのは、経営に以下の2つのゆとりを生み出すためです。

ゆとり①:事業資金がゼロになると、事業が終わってしまいます。「資金調達」することで、事業を継続するための資金が増え、事業継続に対して、ゆとりがでてきます。ゆとり②:事業資金は、事業を「早く」「大きく」するための、事業投資の源泉になります。「資金調達」することで、事業投資の幅も広がりますし、その投資金額についても選択肢が広がり、ゆとりのある事業投資が可能となります。

実際に、事業を立ち上げたばかりの時期などは、黒字化するまでは、事業資金が毎月減っていくということも珍しくはないですし、立ち上げでなくてもそういうこともあるかと思います。
そんなときに、例えば残高50万円の状態ですと、残高が全くないかの如く不安ですし、必要な事業投資があったとしても、残高を一時的に減らすという事業投資が怖くてできません。また、その精神的な不安が、顔にでて、それをお客さんが察することで会社やお店の雰囲気が悪くなってしまっているかもしれません。そして、それらのことが、黒字化をさらに遅らせてしまっているのかもしれません。
もし、ここに+300万円の事業資金という「ゆとり」があったなら、必要な広告投資を行うことで売上の獲得を早めることができますし、お客さんにももう少し余裕をもった表情で対することができるはずです。
事業資金の残高があるということで、

  1. 事業継続について、不安を抱かないで済む。
  2. 事業投資について、多くの選択肢から選び、積極的な投資が可能となる。

ということになり、経営に「ゆとり」が生まれるわけです。

(2)創業時の資金調達方法とその特徴

では、「資金調達」を考えるときに、どのような選択肢があるでしょうか。「資金調達」方法としては、以下の選択肢が挙げられます。

  • 【融資】
  • 【出資】
  • 【補助金・助成金】
  • 【リース】
  • 【クラウドファンディング】

これらの資金調達には、それぞれ一長一短があり、事業内容や自己資金の状況、タイミングなどによって、適切な資金調達方法を選択していく必要があります。

【融資】

概要融資は、「資金調達」の中でも一般的で、頻度の高い資金調達方法であるといえます。金融機関から資金を借りて、毎月元本と利息を支払いながら、返済していくというのが通常です。
長所・出資に比べて、(基本的に)調達しやすい
・相対的に「早く」資金が手に入る
短所・元本返済と、利子の支払いが必要

※創業時の融資制度について
金融機関にとって、数%の金利で、実績のない創業当初の起業家に資金を貸し出すことは、リスクが高く、ビジネスとしては成立しないのが実情です。しかしそれでは、国内の創業がかなり困難になることから、国や自治体が設けた創業支援の制度として、「創業融資」の制度があります。

具体的には、創業時は、下記の2つの方法のどちらかになることがほとんどです。

    1. 日本政策金融公庫

無担保・無保証で借りられる創業融資や、私も含めた認定支援機関の支援付き融資で、金利等も優遇されるなど、創業融資について手厚い制度をもっています。

  1. 信用保証協会に保証をもらって、民間金融機関で融資を受ける

信用保証協会から保証をもらうことで、民間金融機関は融資してくれます。その際に支払う信用保証協会への保証料や、融資の金利の一部を自治体が負担してくれる制度などもあります。(自治体により、異なります)
創業時は、実績がないことから、これらの創業融資制度に頼るしかありませんが、創業時から実績を積んでいくことで、民間金融機関が国の保証無しでもプロパー融資という形で貸してくれるようになっていくという流れになります。

【出資】

概要出資というのは、株式会社の株式を発行することで株式会社に投資してもらうことを意味します。基本的に返済不要ですが、出資者は、株式会社の株主(※)となり、株主総会での議決に加わったり、配当や残余財産を受ける権利を有することになります。
(※)ここでは、株式会社の出資を前提として、記載しています。
長所・返済不要である
・個別条件なので、出資者次第で、様々な条件での調達が可能である
短所・出資者は、株式会社の持ち主(=株主)になる

【リース】

概要リースは、手元にお金がなくても、設備が手元に届いて利用可能となり、その後一定期間でリース料を支払っていきます。これは融資して、設備投資をして、毎月返済していくのと同じキャッシュフロー効果を創出できるので、資金調達方法の一つとして考えることが可能です。
長所・設備資金について、融資の代替策・追加枠となりうる(※)
・リース会社が多数あるため、条件の選択肢が広い
(※)例えば、創業時に、1,500万円(運転資金1000万円、設備資金500万円)必要といった場合に、融資可能額が1,000万円までであったとすれば、融資は運転資金に充当し、設備投資の500万円はリースを利用することによって、融資枠が増加されたのと同様の効果を作ることができます。
短所・金利にあたるリース料率は、融資よりも通常高い。
・返済する必要がある
・設備資金に限定される

【補助金・助成金】

概要国や地方自治体から、起業家の支援のために支給される資金。何らかの政策的趣旨に基づいて、一定の要件を満たすものに支給されるもの。基本的には返済不要だが、支給されるまでに時間がかかることが多い。また、受給するためには手続きが必要で、煩雑である。
長所・返済不要
・要件を満たせば、もらえる(主に、助成金の場合)
短所・先に資金を使って、その証拠をもって、後から補助される。
・先に資金を使う必要があるため、他の調達が必要なこともある
・事業計画を作っても、通らないこともしばしばある(主に、補助金の場合)
課税所得になる
・政策によって、予算や条件が毎年変わったり、なくなったりする可能性がある。

【クラウドファンディング】

概要群衆(=クラウド)による資金調達という意味で、例えば一人あたり3,000円などの小口資金の寄せ集めによって為される。寄付型・購入型・投資型などの種類がある。事業の確実性や収益性というよりは、共感や感動など感情的な面からの資金調達であり、マーケティング効果もある点で、特徴的である。
長所・返済不要
・資金調達と同時に、ファン獲得や、マーケティング効果も得られる
・何回でも使える
短所・支援者をある程度、自分で募っていく必要がある。
・比較的少額なことが多い。

事業内容や、フェーズ、タイミングに適合した資金調達をしよう

資金調達は、資金の出し手の性質や目的によって、調達するための要件が異なります。ですから、事業内容、事業フェーズ、タイミング、財務状況などによって、適切な資金調達方法は変わってきます

  • その時々で、適切な資金調達方法を選ぶこと
  • 資金調達の順番を決めること

が起業家に求められる「財務」の力ということになってきます。

もう一つの資金調達=内部留保

第1回目にも述べましたが、内部留保(※)も、資金調達の一環であるということができるのですが、こちらは、外部からの資金調達ではないため、今回は詳細は触れないことにします。
ただ、この内容もとても重要な部分ですので、次回以降のどこかで取り扱いますので、お楽しみに。
(※)簡単に言うと、利益のうち会社に残す部分のこと

まとめ

    1. 創業者は、事業立ち上げが想定通りにいかないことも多いので、創業時に「資金調達」について、ひととおり検討し、事業資金を思ったよりも余分に確保するのが望ましい。
    2. 資金調達することの意義として、以下の2つのゆとりが生まれる。

① 資金調達することで、事業継続にゆとりができる。
② また、事業成長を促進するための事業投資に対するゆとりもできる。

  1. 資金調達方法としては、「融資」「出資」「リース」「補助金・助成金」「クラウドファンディング」等がある。
  2. 様々な資金調達方法がある中で、事業の内容やタイミング財務状況などによって、適切な資金調達方法は変わってくるため、適切に判断する必要がある。

私はこの「財務」の考え方をしっかりと起業家に伝えたいと思いながら、日々の事業を行っています。「財務」があれば、開業できる事業は増えます。継続できる事業も増えます。もっと拡大できる事業が増えます。そして、ひいては起業家の皆様の頑張りが、世の中を便利にし、世の中の需要と雇用を生み出し、日本や世界の人々を豊かにすることができると考えております。
そのために、私たちは起業家の皆様に「財務」の考え方を伝えていくことが使命だと思っております。このブログもその活動の一環として考えており、このブログが起業家の皆様にとって、「財務」と出会い、「財務」の力を事業存続・事業成長に生かしていただける一助となれば、大変嬉しいです。

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