- 作成日 : 2025年7月24日
自己破産後も創業融資は可能?日本政策金融公庫の再チャレンジ支援融資についても解説
「自己破産したら、もう二度と事業は起こせないのだろうか…」過去に自己破産を経験された方にとって、再び起業し、創業融資を受けることは非常に高いハードルに感じられるかもしれません。
しかし、自己破産後であっても、創業融資を受けられる可能性はあります。特に、日本政策金融公庫のような公的金融機関は、過去に失敗を経験した方でも再挑戦できる道筋を用意しています。
この記事では、自己破産を経験された方が創業融資を勝ち取り、再び事業を立ち上げるために知っておくべき情報を解説します。
目次
自己破産後の創業融資に関する基礎知識
まず、自己破産が創業融資にどのような影響を与えるのか、正確に理解することがスタートラインです。
信用情報への影響と回復までの期間
自己破産の手続きを行うと、その事実は信用情報機関(CIC、JICC、KSC)に「事故情報」として登録されます。これが、いわゆる「ブラックリストに載る」状態です。
登録期間の目安は、以下の通りです。
- CIC:免責許可決定から5年間
- JICC:契約継続中及び契約終了後5年以内
- KSC(全国銀行個人信用情報センター):破産手続開始決定日から7年を超えない期間
この期間は、新たなクレジットカードの作成やローン契約が困難になります。創業融資の審査においても、この信用情報は極めて重要なチェックポイントです。
事故情報が抹消されれば、理論上は融資の申し込みが可能になります。しかし、金融機関によっては独自のデータベースに過去の履歴が残っている場合があり、その機関での借り入れが依然として難しいケースもあります。
金融機関は自己破産歴をどう見るのか
金融機関は、自己破産という事実だけでなく、その背景や現在の状況を総合的に評価します。
- 自己破産の原因
浪費やギャンブルではなく、事業上のやむを得ない失敗(連鎖倒産、市況の急変など)、病気、リストラといった事情であったかどうかが考慮されます。 - 自己破産後の努力
自己破産後に生活をどう立て直し、経済的・精神的にどう再起しようと努力してきたかが重視されます。安定収入の確保、地道な貯蓄実績などは、評価の対象となり得ます。
自己破産以外の破産との違い
中小企業の経営者が会社の連帯保証人になっている場合、会社の法人破産と同時に経営者個人も自己破産するケースが多く見られます。創業融資の審査では、個人の自己破産であれ、法人破産に伴うものであれ、破産に至った経緯、そこからの学び、そして新たな事業計画の具体性と将来性が重要視される点は共通しています。本記事では、特に個人の自己破産経験者を中心に解説を進めます。
自己破産後に活用できる創業融資制度
「自己破産経験者でも融資してくれるところはあるの?」という切実な問いに、いくつかの選択肢を提示します。
日本政策金融公庫の「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」
政府系金融機関である日本政策金融公庫は、民間では対応が難しい分野への資金供給を使命の一つとしており、「再挑戦支援資金融資(再チャレンジ支援融資)」は、まさに自己破産を含む廃業歴等のある方の再起を資金面からサポートする制度です。
制度の対象者
事業開始後おおむね7年以内の方で、次のすべてに該当する方が対象です。
- 廃業歴等を有する個人または廃業歴などを有する経営者が営む法人であること
- 廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込みなどであること
- 廃業の理由・事情がやむを得ないものなどであること
- 融資限度額
直接貸付:7億2000万円
事業計画や必要な資金に応じて個別に決定されます。 - 利率(金利)
通常の融資制度と比較して若干高く設定される場合がありますが、それでも民間からの調達が困難な状況を考えれば非常に有利です。 - 返済期間
運転資金、設備資金など資金使途に応じて設定されます。 - 担保・保証人
日本政策金融公庫は原則として無担保・無保証の融資制度を拡充しており、場合によっては、経営者保証を求めない「経営者保証免除特例制度」の利用も検討できる可能性があります。
参考:再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)|日本政策金融公庫
その他の融資制度
- 地方自治体の制度融資
都道府県や市区町村が独自に設けている、再挑戦者向けの融資制度が存在する場合があります。金利補助や保証料補助が付くこともあり、有利な条件で借りられる可能性があります。 - 信用保証協会の保証付き融資
自己破産歴があると保証審査は厳しくなりますが、事業計画の実現性が極めて高く、将来性が認められれば可能性はゼロではありません。 - 民間金融機関からの直接融資
信用情報が回復するまでは、民間金融機関からの新規プロパー融資はほぼ不可能に近いのが実情です。回復後も、過去の履歴から慎重な判断がなされるでしょう。
補助金・助成金の活用
融資と並行して必ず検討したいのが、返済不要の補助金や助成金です。小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金、キャリアアップ助成金(雇用時)など、事業内容や目的に応じて様々なものがあります。「J-Net21」「ミラサポplus」といったポータルサイトや、各省庁、自治体のウェブサイトで情報収集しましょう。
自己破産歴は直接的な不採択理由にはなりにくいですが、事業の実現性や継続性は厳しく審査されます。
自己破産後に創業融資の審査を突破するポイント
自己破産という過去を乗り越え、日本政策金融公庫などから融資の判断をしてもらうためには、周到な準備と戦略が不可欠です。
1. 自己破産の理由
過去の自己破産の理由、そこから何を学び、現在どのように生活を立て直しているのかを、正直かつ具体的に説明することが最も重要です。反省の弁と再起への熱意を真摯に伝えましょう。
2. 事業計画書
自己破産経験者の事業計画書は、通常以上に厳しく見られます。単なる思いつきや熱意だけでは通用しません。
- 市場分析・競合分析
客観的データに基づき、市場のニーズと競合の状況を徹底的に分析し、自社の強みと勝算を示します。 - 収益計画・資金繰り計画
現実的かつ詳細な売上予測、経費計算、そして何よりも緻密な資金繰り計画(少なくとも1年先までの月別計画)を作成します。過去の失敗を踏まえたリスク管理策も必須です。 - 自己破産の経験をどう活かすか
過去の反省点をどのように事業運営に反映させるのか、具体的な対策を盛り込みましょう。
3. 自己資金
自己破産後、どれだけ計画的に自己資金を準備できたかは、再起への本気度と生活再建能力を示す重要な指標です。創業資金総額の3分の1程度は最低限用意したいところですが、多ければ多いほど評価は高まります。毎月コツコツ貯めた普通預金通帳のコピーなどが有効です。
4. 面談対策
書類審査を通過すれば面談です。事業計画書の内容を自分の言葉で説明できるよう、想定問答集を作成し、模擬面談を繰り返しましょう。特に深掘りされる点は、自己破産の経緯と反省、事業の具体的な内容、収益の見込み、資金繰り、過去の経験をどう活かすかなどです。誠実さ、熱意、そして冷静な受け答えを心がけましょう。
5. 専門家のサポート
税理士、中小企業診断士、行政書士、商工会議所・商工会など、創業融資や事業計画策定に強い専門家のサポートを受けるのも有効です。客観的なアドバイスは計画の質を高めます。
自己破産後に創業融資を受ける際の注意点
念願の創業融資を得た後こそが本当のスタートです。過去の教訓を活かし、慎重な事業運営を心がけましょう。
- 高金利融資の利用は慎重に判断する
審査が甘いからといって、消費者金融系の高金利なビジネスローンやファクタリングなどに安易に手を出し、事業計画の見積りが甘いと、あっという間に資金繰りが悪化する可能性がありますので注意しましょう。 - 保証人・担保の条件を事前にしっかり確認する
日本政策金融公庫では経営者保証を求めない融資も増えていますが、条件によっては必要となる場合もあります。事前にしっかり確認し、無理のない範囲で準備しましょう。 - 融資実行までの「つなぎ資金」を確保しておく
融資の申込みから実行までには時間がかかります。その間の運転資金や生活費がショートしないよう、自己資金でカバーできる計画を立てておきましょう。 - 徹底した返済計画とリスク管理を行う
無理のない返済計画を立て、常に最悪の事態を想定したリスク管理(例:資金繰り表の定期的な見直し、予備資金の確保)を徹底しましょう。
自己破産後の創業融資についてよくある疑問を解消
最後に、自己破産経験者の創業融資についてよくある疑問とその回答をまとめました。
自己破産後、1年で創業融資は可能?
非常に困難ですが不可能ではありません。日本政策金融公庫の再チャレンジ支援融資がその受け皿となりますが、そのためには、破産理由が極めて同情的であること、短期間で十分な自己資金を形成していること、事業計画が非の打ち所がないほど優れていることなど、多くの好条件が重なる必要があります。1年という期間に固執せず、堅実な準備を優先しましょう。
自己破産から5年経てば、誰でも融資を受けられる?
信用情報機関の事故情報が抹消される目安であり、融資を保証するものではありません。日本政策金融公庫などは個別の状況を総合的に判断しますが、事業計画や自己資金、面談での評価などが重要です。
自己破産したことを隠して申し込んでもバレる?
ほぼ100%判明します。信用情報の照会で発覚しますし、虚偽申告は審査落ちや契約解除、一括返済のリスクを招き、信頼を完全に失います。絶対に正直に申告してください。
自己破産は終わりではなく、新たな挑戦の始まり
自己破産という経験は、確かに人生における大きな試練です。しかし、それは決して終着点ではありません。過去を真摯に受け止め、そこから学びを得て、未来に向けて新たな一歩を踏み出すことは誰にでも可能です。
「自己破産したからもうダメだ」と夢を諦める必要はありません。日本政策金融公庫をはじめとする支援制度を活用し、周到な準備と不屈の精神で臨めば、再び事業を創造する道は開けます。
この記事が、あなたの再挑戦への勇気と具体的な指針となれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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