- 作成日 : 2025年5月1日
債券発行による資金調達の方法は?メリットや流れなどをわかりやすく解説
債券発行は、企業が銀行融資に依存せず、投資家から直接資金を調達できる手段の一つです。本記事では、債券発行の仕組みや、公募債と私募債の違い、発行の流れ、メリット・デメリットを解説します。また、少人数私募債を活用した中小企業の成功事例を紹介し、債券発行を資金調達手段として検討する際のポイントについても詳しく説明します。
目次
債券発行による資金調達とは
債券発行とは、企業が投資家から資金を調達する方法の一つです。 企業は債券を発行し、投資家から資金を集め、一定期間利息を支払いながら、満期時に元本を返済します。 銀行融資とは異なり、市場から直接資金を調達できる点が特徴です。
ここでは、債券の基本概念や資金調達の流れについて解説します。
債券の詳細については、以下の記事もご参照ください。
そもそも債券とは
債券とは、企業や政府が資金を調達するために発行する借用証書のようなものです。
債券を購入した投資家は、定められた利率に基づく利息を定期的に受け取り、満期になると元本が返済されます。一般的に、発行者の信用力に応じた利回りが設定され、市場で取引されることもあります。
株式と債券の違い
株式と債券は、どちらも企業が資金を調達するための手段です。しかし、その仕組みには大きな違いがあります。
- 株式:
企業の所有権の一部を表し、株主は企業の成長による配当や株価上昇の恩恵を受けますが、元本の返済保証はありません。 - 債券:
企業の借入金の一種で、投資家は定期的な利息を受け取り、満期時に元本が返済されるため、リスクが比較的低い資産です。また、株式に比べて市場の価格変動リスクが小さく、万が一企業が破綻した場合でも、債権者として株主より優先的に返済を受けられる点が特徴です。
企業にとって、株式発行は資本の増加につながる一方で、株主への配当負担や経営権の希薄化が課題となることがあります。これに対し、債券発行は経営権を維持しながら資金を調達できる点が大きな違いです。ただし、債券発行では定期的な利払い義務が生じるため、企業は財務状況を踏まえた慎重な判断が必要です。
資金調達に利用できる債券の種類
企業が資金調達のために発行できる債券は、大きく公募債と私募債の2種類に分けられます。この2つは発行手続きの複雑さや資金調達規模、投資家層などが異なる点が特徴です。
ここでは、企業が自社に最適な債券タイプを選択できるよう、それぞれの特徴や仕組みについて詳しく解説します。
公募債
公募債とは、不特定多数の投資家に向けて広く募集・発行される債券です。証券会社などを通じて広く募集され、市場での取引も行われます。
公募債の主な特徴
- 発行手続きが厳格:
有価証券届出書の提出や格付機関による信用格付けの取得を求められることが多いため、一定水準以上の信用力が必要です。 - 流動性が高い:
証券取引所や市場を通じて売買可能なので、投資家にとって満期前でも資産の換金性が高いというメリットがあります。 - 低金利での調達が可能:
信用力の高い企業ほど有利な条件(低金利)で資金を調達できる傾向があります。
公募債は主に信用力の高い大企業や財務基盤が安定している企業によって発行されることが多く、中小企業にとってはハードルの高い資金調達手段となっています。
私募債
私募債とは、特定少数の投資家や金融機関だけを対象に非公開で発行される債券です。公募債と異なり、金融庁への有価証券届出書の提出が不要で、発行手続きが簡略化されているため、中小企業も活用しやすい資金調達手段です。
私募債の主な特徴
- 発行手続きが比較的容易:
公募債と比べて審査基準が緩やかなため、発行にかかる時間やコストを抑えられます。 - 投資家が限定される:
金融機関や特定の機関投資家が対象となるため、市場での流通性はほとんどありません。 - 金利は発行条件によって異なる:
発行企業の信用力や投資家との交渉によって、金利が決まります。
私募債は発行手続きが簡便で条件設定の自由度が高く、公募債発行の要件を満たせない中小企業にとって現実的な資金調達手段となっています。
債券発行による資金調達のメリット
債券発行による資金調達には、企業の成長戦略を支えるさまざまなメリットがあります。特に長期的な事業資金を一度に大規模に調達できることや、銀行借入と比較して柔軟な返済条件を設定できる点は魅力です。また、信用力の高い企業ほど低金利での調達が可能で、資金調達コストの最適化にもつながります。
ここでは、債券発行がもたらす主なメリットについて解説します。
大規模な資金調達ができる
銀行融資など他の資金調達手段と比較して、債券発行は、一度に大規模な資金を確保できる点が大きなメリットです。企業が成長戦略を実行するために多額の資金を必要とする場合などに適した調達手段となります。
大規模な資金調達が可能な理由
- 金融機関の融資枠に依存しない:
銀行融資では与信枠に制約がありますが、債券発行では多様な投資家から広く資金を集められるため、調達可能額が大きくなります。 - 償還期限が長い:
債券の償還期限は数年から数十年と長期に設定できるため、企業の中長期的な事業計画に合わせた安定的な資金調達が実現できます。 - 資金使途に制約が少ない:
調達した資金の使途について比較的制約が少なく、事業拡大、設備投資、既存借入の借り換えなど多様な目的に活用できます。
このように、債券発行は短期的な資金ニーズへの対応にとどまらず、大規模かつ長期的な資金を確保する手段としても活用が可能です。
信用力の高い企業ほど低金利で資金調達できる
債券発行時の金利(クーポンレート)は、発行企業の信用力に基づいて決定されます。信用力の高い企業は元利金の支払いリスクが低いと評価され、投資家からの信頼も厚いため、低い金利でも債券が購入されやすい点が特徴です。また、信用格付け機関から高い評価を得ている企業ほど市場での評価が高まり、金利が低く設定される傾向にあります。
このように、信用力のある企業ほど調達コストを抑えられる可能性が高く、銀行融資と比較しても有利な条件で資金を確保できることが大きな利点です。
債券発行による資金調達のデメリット
債券発行にはさまざまなメリットがありますが、一方でコストや手続きの負担、発行要件の厳しさなどのデメリットも存在します。特に、発行にかかる費用や時間を要する点には注意が必要です。ここでは、債券発行による資金調達の主なデメリットについて解説します。
債券発行の総コストが高くなる場合がある
債券発行には、引受手数料以外にも様々な手数料が発生し、総コストが高くなる可能性がある点もデメリットです。
総コストが高くなる主な理由
- 手数料が多い:
財務代理手数料、当初登録手数料、引受手数料、利金支払手数料、元金償還手数料など、複数の手数料が必要です。 - 手数料が変動する:
発行金額や期間によって手数料が変動し、総コストが増加する可能性があります。 - 保証料の追加負担:
銀行保証付私募債の場合、保証料が別途必要となり、さらにコストが上昇します。
これらの諸費用を考慮すると、債券発行は必ずしも低コストの調達手段とは言えません。企業の状況や市場環境によっては、他の資金調達方法と比較して割高になるケースもあります。
資金調達までに時間がかかる
債券発行は、計画から実施までに相当の期間を要するため、緊急の資金ニーズには適していません。
時間がかかる主な理由
- 発行準備に時間を要する:
債券発行には、社内の財務戦略の策定、法的手続き、目論見書の作成など、多岐にわたる準備作業が必要です。 - 投資家募集や審査手続きも時間を要する:
特に公募債の場合、投資家向けのプロモーション活動や信用格付け機関による評価を経る必要があり、数ヶ月単位の時間を要することがあります。 - 市場の状況に左右される:
金利動向や投資家需要などの市場環境を見極めて発行タイミングを決定するため、計画通りに進まないことがあります。
このような時間的制約があるため、資金需要の緊急性が高い場合は、銀行融資など即時性の高い調達手段を優先的に検討することになります。
債券発行できない会社もある
債券発行はすべての企業が利用できる手段ではなく、一定の要件を満たさない企業には発行が難しい場合があります。
債券発行が難しい主な理由
- 信用力が低い企業は発行できない場合がある:
債券は投資家からの信頼が不可欠であり、信用格付けの低い企業や財務基盤が脆弱な企業は、発行が難しくなります。 - 公募債の審査基準が厳しく、要件を満たさない企業は発行不可:
公募債を発行するには、証券取引所や金融機関の審査をクリアする必要があり、一定の財務基準を満たしていない企業は審査を通過できません。 - 私募債も規模や財務状況によって発行が制限される:
私募債は公募債より基準が緩やかですが、それでも引受金融機関の審査基準をクリアする必要があり、全ての中小企業が発行できるわけではありません。
このような制約により、債券発行は主に一定規模以上の企業や財務状況が健全な企業に限定される資金調達手段となっています。
債券発行による資金調達の流れ
公募債は主に上場企業が発行するもので、中小企業が利用することはほとんどありません。そのため、債券を活用した資金調達を検討する中小企業にとっては、私募債が現実的な選択肢となります。
私募債は、公募債に比べて発行手続きが簡略化されているものの、一定の信用力が求められるため、事前の準備が重要です。スムーズな発行を実現するためには、金融機関との調整や適切な計画も欠かせません。
ここでは、中小企業が私募債を発行する際の具体的な流れを解説します。
発行条件の決定と金融機関との調整
私募債を発行するためには、まず金融機関や投資家との調整を行い、発行条件を決定します。ここで資金調達の目的や必要額、返済期間を明確にし、金融機関と相談しながら金利や発行額を決めていきます。銀行や証券会社が引受先となることも多く、企業の信用力や業績が審査されるため、財務状況の開示や事業計画の説明が必要です。
契約締結と債券の発行
発行条件の合意後、企業と引受先の間で正式な契約を締結します。私募債の場合、公募債のように市場で広く募集されるのではなく、特定の金融機関や機関投資家が直接引き受ける形式となるため、手続きが比較的簡潔です。契約締結後、投資家から企業へ資金が振り込まれ、債券証書の発行により資金調達が完了します。
利払いと元本の返済
債券発行後は、契約条件に定められたスケジュールに従って、投資家への利息支払いと満期時の元本返済義務が生じます。利息は通常、半年ごとまたは年1回の頻度で支払われ、元本は満期日に一括返済するのが一般的です。私募債は公募債と異なり流通市場での売買が行われないため、原則として投資家は満期まで保有します。このため、企業は計画的な資金繰りを行い、返済原資を着実に確保することが重要です。
債券発行による資金調達の成功事例
債券発行は、銀行融資以外の資金調達手段として中小企業にも活用されています。特に、少人数私募債は、特定の投資家を対象に発行することで、手続きを簡素化しつつ安定した資金調達を実現できる方法の一つです。ここでは、実際に少人数私募債を活用して資金調達を成功させた2社の事例を紹介します。
事例1:蔵前産業株式会社(群馬県前橋市)
蔵前産業株式会社は、医療用機器部品を製造する群馬県の中小企業です。新製品開発や設備更新資金を柔軟に確保するため、少人数私募債を活用しました。同社は、2004年1月に4,000万円の少人数私募債を発行し、取引先や従業員、親族など40名から資金を調達しました。
発行条件は、1口100万円、金利3%(県の利子補給1.5%含む)、5年満期一括償還で、投資家には安定収益が期待できる内容です。この私募債発行により、同社は銀行融資に頼らず、関係者との信頼関係を基盤とした資金調達を実現し、研究開発の促進や設備投資の迅速化を達成しました。
参考:全国商工会連合会 直接金融による 資金調達事例集(第2版):蔵前産業株式会社
事例2:宝製作所(埼玉県入間市)
宝製作所は埼玉県入間市に拠点を置く精密部品製造・販売企業です。同社は事業拡大に伴う生産能力向上のための設備投資資金を確保するため、少人数私募債の活用を決断しました。2003年に総額2,500万円の私募債を発行し、親族や従業員、協力工場など身近な関係者から資金を集めることに成功しています。
発行条件は1口100万円、利率3%、3年満期一括償還で、投資家にも安定したリターンを提供できる内容となっています。この私募債発行により同社は、金融機関の審査なしで迅速な資金調達を実現し、生産設備の拡充を進めることができました。
参考:全国商工会連合会 直接金融による 資金調達事例集(第2版):株式会社宝製作所
少人数私募債についてはこちらも参照ください
債券発行による資金調達を成功させるポイント
債券発行を成功させるためには、信用力を高め、投資家を的確に選定し、発行条件を市場環境に合わせて最適化することが重要です。特に、公募債と私募債では投資家層や発行条件が異なるため、企業の財務状況や市場の動向を考慮した準備と戦略的な発行計画が欠かせません。
信用力の向上と投資家の選定
債券発行の条件は、企業の信用力に大きく左右されます。特に、公募債の場合、信用格付けが低い企業は低金利での発行が難しく、投資家の関心を得るためには金利を引き上げる必要があるため、事前に財務状況を強化することが不可欠です。
一方、私募債では、特定の投資家(金融機関や取引先)を対象とするため、信頼関係を構築し、柔軟な条件交渉を行うことが可能です。そのため、積極的な情報開示や社債の厳格な管理を通じて、投資家と強固な信頼関係を構築していきます。
発行条件と市場環境の見極め
債券の発行金利や償還期間は投資家の需要に大きく影響するため、最適な条件設定が不可欠です。市場金利と適切なバランスのとれたクーポンレート(利率)を設定することで、投資家の関心を効果的に引くことができます。
発行タイミングも成功の鍵です。市場金利が低下している局面での発行は調達コストの削減につながり、投資家の需要が高い時期に発行すれば有利な条件での資金確保が可能になります。このため、市場動向や金利環境を綿密に分析し、戦略的な発行時期を選択することが重要です。
将来の金利動向を予測しながら最適な期間構成を決定することは、企業の長期的な財務戦略において重要な意義を持ちます。
債券発行を資金調達の選択肢に
債券発行は、企業が銀行融資への依存度を下げつつ、長期的な資金調達を可能にする手段として注目されています。公募債は主に上場企業が発行し、広範な投資家から資金を集められる一方、発行には厳格な審査と複雑な手続きが必要です。これに対して私募債は、特定の投資家や金融機関を対象とすることで、中小企業でも比較的利用しやすい資金調達手法となっています。
本記事で紹介した2つの事例のように、企業の目的に応じた債券発行を実施することで、設備投資や事業拡大に必要な資金を効果的に確保し、企業成長の可能性を拡大することが可能です。ただし、債券発行には一定のコストと労力を要するため、企業の財務状況や資金需要に応じて、債券発行と銀行借入をバランス良く組み合わせた資金調達戦略を構築する必要があります。
是非、本記事で紹介したポイントを参考に、債券発行の特性と自社の状況を照らし合わせ、最適な資金調達方法をご検討ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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