- 更新日 : 2024年7月17日
少人数私募債とは?公募債や私募債との違い、メリット、デメリット、制限事項、発行の流れを解説
「少人数私募債」とは、少人数の投資家を対象に、特定の条件下で発行手続きが簡素化された社債の一種です。中小企業には銀行からの融資や一般の社債発行が難しく感じられる場合も少なくないため、注目を集めています。
そこでこの記事では、少人数私募債の特徴、メリット・デメリット、そして発行から返済までのプロセスを詳しく解説します。適切に利用すれば資金調達の効果的な手段となり得るので、ぜひこの記事で少人数私募債に関する知識を深めてください。
目次
少人数私募債とは
少人数私募債とは、企業が金融機関を通さずに市場から直接資金を調達する手段の1つであり、企業が資金調達を目的として発行する債権である社債の一種です。
少人数の縁故者などを対象に募集される社債は、一定の制限のもとで発行されます。
このような社債は社債権者の保護に欠ける恐れがないと見なされるため、公募債の手続き義務が免除され、少人数私募債と呼ばれます。少人数私募債の法的要件については後ほど詳しく説明します。
公募債と私募債の違い
社債には大きく分けて「公募債」と「私募債」の2つがあります。
「公募債」とは公開募集を経て勧誘される債券のことです。
一方「私募債」とは、公開募集以外の方法で勧誘される債券を指します。
公募債は不特定多数の投資家を対象に発行されるため一般投資家の保護が必要となり、会社法や証券取引法により厳格な手続きや義務が課されています。しかし、これらの手続きは煩雑でコストも高く、中小企業には適していません。
その一方、私募債に情報開示に関する規定などはなく発行手続きも簡単なため、小規模な会社でも利用しやすいといえます。
私募債と少人数私募債の違い
私募債の中でも、募集対象者を取引先や知人などの縁故者とし、募集人数を50人未満とするのが少人数私募債です。
少人数私募債のメリット
少人数私募債のメリットは以下のとおりです。
- 保証人・担保が不要:私募債は信頼関係に基づく取引であり、保証人や担保が不要です。このため、融資が得られなかったり、担保を用意できなかったりする場合でも利用できます。
- 返済方式の柔軟性:発行者は償還期限や償還方法、利率などを自由に決定できます。条件を柔軟に設定することで、社債引受人(申込者)との取引を円滑に進めることができます。
- 双方が安心して取引可能:私募債は会社法の規定に基づいて発行されるため、取引に関する規則が明確です。これにより、個人間取引で起こりがちなトラブルを回避し、安心して取引を行うことができます。
少人数私募債のデメリット
少人数私募債のデメリットは以下のとおりです。
- 一括償還:少人数私募債の償還時には一括で返済する必要があるため、まとまった資金の準備が必要です。
- 信用力:特定の縁故者に社債を買ってもらうため、発行する会社に信用力が必要です。
- 事業計画書の作成:事業計画書には資金の使途や返済計画を明確に記述し、資金調達の目的や計画を示す必要があります。
- 定期的なフォローアップ:社債引受者と定期的にコミュニケーションをとり、事業計画の進捗・課題・成果を報告しなければなりません。
これらのポイントを押さえた上で、少人数私募債の発行および償還を行うことが重要です。
少人数私募債の制限事項
この章では少人数私募債の制限事項について解説します。
発行人数(金融商品取引法2条3項)
- 募集人数は「少人数」であり、かつ「私的募集」であること。
- 募集人数は最大49名までとし、不特定多数の者を募集勧誘の対象としてはならない。
発行金額の制限
- 発行金額は基本的に1億円未満であること。
なお1億円以上の社債を発行する際には、社債権者に以下の事項を通知する必要がある。
- 有価証券届出書を提出していないこと。
- 譲渡制限があること
譲渡・分譲制限
- 社債を取得した人が他人に譲渡することは、一括でない限り禁止。
- 社債一口の金額は発行総額の1/50以上とする。分割することはできない。
担保制限
- 社債発行の際の担保設定は義務ではない。無担保社債とする。仮に担保設定した場合には、信託会社を設けることが必要で、その信託会社が管理業務を行う必要がある。
投資家制限
- 原則として社債権者の中に適格機関投資家を含めてはならない。
少人数私募債発行の流れ
それでは、具体的に私募債を発行してから、償還までのプロセスを見ていきましょう。
1 事業計画・募集要項・勧誘書類の作成
最初に、なぜ社債を発行するのか、具体的な理由や資金の使途を明確にする必要があります。資金がどのように活用されるかを、事業拡大や設備投資などのように明確にした上で、募集要項や勧誘書などの必要書類を作成しましょう。
2 社内会議や株主総会での決議
私募債を発行する際には、社長だけではなく、取締役会や株主総会など、企業運営の関係者が関与しなければなりません。作成した募集要項や勧誘書が適切かどうかを協議し、決議する必要があります。
もし私募債の発行から資金の受け入れまでを資金繰りのスケジュールに組み込んでいる場合は、この決議にかかる時間をを、自社の規模を踏まえて考慮しておくことが重要です。
3 社債引受人の決定・勧誘
投資家に向けて説明会を開催したり、直接訪問したりして勧誘を行います。この際に重要なのは、私募債では勧誘できる投資家の人数が49人以下に制限されていることです。
つまり、引受を希望しなくても、一度勧誘を受けた人を含めて49人以下とする必要があるため、注意が必要です。
4 申込受付・審査
社債の引き受けに際して、社債引受人との間で誤解や不一致がないか、最終確認を行います。合意が確認された場合は、購入希望者に対して社債の取得に関する審査と申込手続きを行います。
5 発行総額の決定・募集決定通知書の作成
発行総額を確定し、募集決定通知書を作成して社債引受人に送付します。
6 申込金額の受領・申込証拠金預証の送付
社債引受人から申込証拠金を受け取った後、入金されたことを確認し、社債引受人に「申込証拠金預証」を発行します。
7 社債原簿の作成
社債引受人の情報を管理するために、社債原簿を作成します。社債原簿は、社債を管理する際に重要な役割を果たすため、紛失や破損、劣化を防ぐ必要があります。
社債原簿には「社債引受人の住所や氏名などの個人情報」、「社債の数量や金額」、「発行日や償還期間」などを記録しておくことが重要です。
8 社債の償還
償還期間になったら、社債引受人に元本を一括返済します。
まとめ
少人数社債は企業が資金を調達する手段の1つです。中小企業は融資に頼りがちですが、少人数社債も新しい資金調達の選択肢として考えられます。大規模な設備投資が必要な場合や、金融機関からの借入を増やしたくない場合などには、少人数社債の発行を検討してみて下さい。
企業の資金調達方法は多様化しています。それぞれの特徴を理解し、自社にとってのメリットとデメリットを把握しながら活用していくことが、健全な財務状況を築くポイントとなります。
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