- 作成日 : 2025年7月23日
保健師の起業アイデア10選!起業成功のポイントや手続きも解説
保健師としての豊富な知識や経験を活かして、「もっと自由に、自分らしい働き方を実現したい」「組織の枠を超えて、人々の健康にもっと深く貢献したい」と考えたことはありませんか?
少子高齢化や働き方の多様化が進む現代社会において、一人ひとりの健康課題はますます複雑化しています。そのような中で、予防医療のエキスパートである保健師の専門性は、行政や企業といった枠組みの中だけに限らず、よりパーソナルな領域で求められるようになっています。
この記事では、そんなあなたの想いを形にするための「保健師の起業アイデア10選」をご紹介します。さらに、事業計画の立て方から資金調達、必要な手続きまで、起業への道のりを解説します。
保健師の起業が注目される理由
保健師の専門性を活かした起業に対する注目や支援が高まっています。社会構造の変化と人々の健康意識の高まりが、新たなビジネスチャンスを生み出しているからです。
ヘルスケア市場の動向を把握する
日本のヘルスケア市場は、大きな転換期にあります。特に「2040年問題」に象徴される超高齢社会の到来は、医療・介護の需要を質的に変化させています。
従来の疾病治療中心の医療システムだけでは対応しきれない、予防や地域包括ケア、健康経営といった分野の関心と需要は増加傾向にあります。この、既存の仕組みが満たしきれない「価値の空白地帯」こそ、保健師が専門性を発揮できる事業領域です。既存の医療機関と競合するのではなく、補完する役割を担うところに、成功できる可能性があります。
働き方の多様化に対応する
社会全体でフリーランスやギグエコノミーといった柔軟な働き方が浸透し、保健師の世界も例外ではありません。特に、育児とキャリアの両立を目指す保健師にとって、自身の裁量で仕事のペースや場所を決められる起業は魅力的な選択肢です。
また、IT技術の進化は、オンライン相談やコンテンツ配信といった低コストでのスモールビジネスを可能にし、起業への物理的な障壁を大きく引き下げています。これにより、個人のライフステージに合わせたキャリア設計が現実的になりました。
予防医療への需要を理解する
高騰する医療費の抑制は国家的課題であり、予防医療への注目が高まっています。これは、自治体が推進する「介護予防事業」や、企業が取り組む「健康経営」といった具体的な動きに表れています。
個人レベルでも健康意識は向上し、ヘルスコーチングや健康料理教室といったサービスへの関心が高まっています。保健師はまさにこの予防医療の専門家であり、その知識と技術に対する社会的な需要は増す一方です。
自身の専門性を再評価する
保健師の専門性は、単なる医学知識にとどまりません。対象者の生活背景や価値観を深く理解し、信頼関係を築きながら支援するプロセスそのものに本質があります。対人支援分野においては、深い人間理解に基づくアプローチこそ、AIや情報検索では代替できない、保健師ならではの付加価値となります。
保健師の経験を活かす起業アイデア10選
保健師の資格と経験は、多岐にわたるビジネスの種となります。ここでは、具体的な10の起業アイデアを、成功のポイントと共に紹介します。
ヘルスコーチング事業
ヘルスコーチングは、クライアントが自律的に健康習慣を築くための支援を行う、予防医療の中核的サービスです。保健師の強みは、単に知識を教えるのではなく、「ケアリング論」や「ナラティブ・ベースド・メディスン」に基づき、クライアント一人ひとりの物語や価値観を深く理解し、伴走者として関係性を築くプロセスにあります。
このように、「パートナーシップ」を前面に出すことで、高単価でも選ばれる独自の価値を提供できます。収益モデルは個人セッションのほか、グループコーチングや法人契約など多様な展開が可能です。
中小企業向け健康経営支援サービス
従業員50人未満の事業場には産業医の選任義務がなく、多くの中小企業では産業保健サービスが手薄なのが現状です。一方で、経済産業省が創設した「健康経営優良法人認定制度」や各種助成金は、中小企業が健康投資を行う強い動機付けとなっています。
ストレスチェック後の職場環境改善、メンタルヘルス研修、健康セミナーの企画・実施など、保健師の専門知識を活かせる場面は無数にあります。企業の生産性向上という経営課題に直結する提案が成功の鍵です。
オンライン健康相談サロン
専門家による健康相談への需要はとても高いです。月額課金制のオンラインサロンは、継続的な収益が見込めるビジネスモデルです。
定期的なライブ配信でのQ&A、専門テーマに関するコラム提供、会員限定の個別相談などを組み合わせ、コミュニティを活性化させることが重要です。成功の秘訣は、会員が孤独を感じないよう配慮し、常に価値ある情報と交流の場を提供し続け、高い継続率を維持することです。
産後ケア専門サービス
出産後の母親の心身の不調や育児不安に対応する産後ケアは、社会的に極めて重要な分野です。新生児訪問や乳房ケアといった身体的支援から、産後うつの予防・早期発見といった精神的支援まで、保健師の包括的なスキルが直接活かせます。自治体の産後ケア事業の委託を受ける、地域の産科や助産院と連携する、父親を含めた家族全体のサポートプログラムを開発するなど、多様な事業展開が考えられます。
介護予防・フレイル対策教室
超高齢社会において、高齢者が要介護状態になるのを防ぐ「介護予防」は重大な課題です。運動、栄養、社会参加を三本柱とした教室運営は、保健師の専門性を活かせる有望な事業となります。
簡単な体操や健康料理、認知機能トレーニングなどを組み合わせたプログラムを提供します。多くの自治体は介護予防事業を外部委託しているため、地域包括支援センターや市町村の介護保険担当課への営業が、安定した顧客獲得の有効な手段となります。
医療・健康分野専門のWebライター
健康情報は、読者の生命や健康に重大な影響を与えるため、Googleなどの検索エンジンは情報の正確性や信頼性を極めて重視します。このため、保健師という専門資格を持つライターへの需要は非常に高く、高単価な案件を獲得しやすい状況です。
薬機法や医療広告ガイドラインに関する知識を身につければ、さらに市場価値は高まります。場所や時間に縛られず、低コストで始められるため、副業からのスタートにも適したアイデアです。
地域密着型コミュニティカフェ
カフェという誰もが気軽に立ち寄れる空間を、「まちの保健室」として機能させるビジネスモデルです。健康に配慮したメニューを提供しながら、店主である保健師が客の何気ない健康上の不安や悩みに耳を傾けます。
これにより、病院に行くほどではないと感じている潜在的な健康課題を持つ人々を早期に発見し、適切な支援につなげることができます。社会的孤立が問題となる現代において、地域のつながりを育む拠点としての役割も期待できます。
男性向け専門の相談サービス
男性は、心身の不調を感じても相談をためらう傾向が強いと言われています。特にメンタルヘルス、育児参加(男性育休)、生活習慣病といったテーマでは、男性に特化したアプローチが有効です。
男性保健師であれば、同性ならではの共感や理解に基づいた信頼関係を築きやすく、独自の強みを発揮できます。企業向けに男性育休取得者へのフォローアップ研修を提供するなど、BtoBでの展開も有望です。
美容医療と連携したサポート事業
美容医療市場は拡大していますが、一方で無資格者による施術や、十分な説明がないまま契約を迫るといった問題も指摘されています。
保健師が美容クリニックと連携し、施術前のカウンセリングで中立的な情報提供を行ったり、施術後の心身のケアを担ったりすることで、患者の安全と満足度を高めることができます。これは、美容と健康を包括的に捉え、倫理性の高いサービスを提供するという新しい価値創造につながります。
保健師向け教育・研修事業
保健師の起業への関心が高まるにつれ、ビジネススキルを学びたいという需要も生まれています。自身の起業経験や成功ノウハウを体系化し、これから独立を目指す保健師を対象としたセミナーやオンライン講座、個別コンサルティングを提供する事業です。
事業計画の立て方から集客方法、法務・税務知識まで、実践的な内容が求められます。この事業を手掛けるには、まず自らが事業者として十分な実績と信頼を築くことが前提となります。
保健師として起業を成功させるポイント
優れたアイデアも、それを実現するための戦略がなければ成功には至りません。ここでは、成功確率を高めるための戦略的思考のフレームワークを解説します。
自身の強みを分析する
事業の核となるのは、自分自身の「強み」です。まずはSWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)やWill-Can-Must(やりたいこと・できること・すべきこと)といったフレームワークを活用し、客観的に自己を分析しましょう。これまでの経験やスキル、価値観を徹底的に「棚卸し」することで、自分が情熱を注げる分野と、他者に提供できる独自の価値が見えてきます。
ターゲット顧客を明確に設定する
「誰にでも」向けたサービスは、結果的に「誰にも」響きません。パーソナルブランディングの基本は、価値を届けたい相手、すなわちターゲット顧客を具体的に定めることです。
例えば「育児と仕事の両立に悩む30代の女性管理職」「生活習慣病のリスクを抱える中小企業勤務の50代男性」のように、顧客像を鮮明に描くことで、その人たちが抱える真の課題やニーズに寄り添った、的確なサービス設計が可能になります。
独自の提供価値を定義する
成功している開業保健師は、単に時間を切り売りするのではなく、独自の「付加価値」を提供しています。これは「Unique Value Proposition(UVP)」と呼ばれ、「ターゲット顧客の特定の課題を、競合にはない独自の方法で解決する」という約束を意味します。自身の強みとターゲットのニーズが交差する点に、あなたの事業が提供すべき独自の価値が存在します。
パーソナルブランディングを構築する
個人事業主にとって、自分自身が最大の「商品」であり「ブランド」です。提供するサービスの質はもちろん、ウェブサイト、SNS、名刺、服装、話し方まで、すべての接点において一貫したメッセージを発信し、専門家としての信頼と共感を醸成することが求められます。例えば、ある開業保健師は、親しみやすさと専門性を両立させるため、屋号を「保健師事務所」とし、企業の保健室のような存在を目指すことでブランディングに成功しています。
競合との差別化戦略を立案する
市場にはすでに他のプレイヤーが存在します。レジェンド級の実績を持つ先輩保健師と「肩書バトル」をしても勝ち目はありません。重要なのは、競合を分析し、まだ満たされていないニッチな市場や、独自のアプローチで価値を提供できる領域を見つけ出すことです。
しかし、この差別化戦略は机上で完成するものではありません。リーンスタートアップの考え方に基づき、まずは最小限の実行可能なサービス(MVP)で市場の反応を見ることが賢明です。
保健師による起業の手続き
アイデアと戦略が固まったら、次に行うべきは法的手続きです。ここでは、独立開業に必須の行政手続きと準備について解説します。
事業計画書を作成する
事業計画書は、事業の設計図であり、金融機関から融資を受ける際や協力者を得る際に不可欠な書類です。事業コンセプト、サービス内容、ターゲット市場、マーケティング戦略、人員計画、そして具体的な収支予測などを盛り込みます。この計画書を作成するプロセス自体が、自身のビジネスモデルを客観的に見つめ直し、成功への可能性を高めることにつながります。
開業届を税務署へ提出する
個人事業主として活動を開始するには、事業開始から原則1ヶ月以内に、管轄の税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出する必要があります。この書類の「職業」欄には「保健師」と記入することで、専門職としての事業であることを明示できます。
青色申告承認申請書を提出する
開業届と同時に「所得税の青色申告承認申請書」も提出しましょう。個人事業主が確定申告で青色申告を選択すると、最大65万円の特別控除が受けられるなど、税制上の大きな優遇措置があります。会計ソフトを利用すれば、日々の経理作業を効率的かつスムーズに行えます。記帳代行を税理士に依頼する場合でも、自身の事業の財務状況を把握する意識を持つことが重要です。
資金調達の方法を検討する
事業内容によっては初期投資が必要になります。自己資金で賄うのが理想ですが、不足する場合は資金調達を検討します。まずは公的な支援制度を調べましょう。日本政策金融公庫の創業融資は、民間金融機関に比べて低利で借りやすい選択肢です。。まずは低コストで始められるスモールスタートを心がけるのが賢明です。
賠償責任保険に加入する
万が一の医療過誤や事故に備え、専門職賠償責任保険への加入は必須です。保健師の業務に起因する対人・対物賠償を補償し、自身の資産と事業を守ります。日本看護協会が提供する保険のほか、民間の保険会社も様々なプランを提供しており、補償内容や保険料は異なります。自身の事業リスクを想定し、最適な保険を選択しましょう。
経験や資格を活かした保健師として起業を成功させよう
今回は、保健師の専門性を活かせる10の起業アイデアをはじめ、事業を成功に導くためのポイントや具体的な手続きについて詳しく解説しました。
健康相談室の開設から、専門分野に特化したコンサルティング、法人向けの健康経営サポートまで、保健師の活躍の場は無限に広がっています。大切なのは、ご自身の経験や情熱を注げる分野を見つけ、明確なビジョンを持って一歩を踏み出すことです。
もちろん、起業には不安や困難が伴うかもしれません。しかし、あなたの持つ「人々の健康を守りたい」という想いと専門知識は、何にも代えがたい強力な武器となります。一人で抱え込まず、必要であれば専門家の力も借りながら、着実に準備を進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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