• 作成日 : 2025年3月21日

法律事務所の事業計画書の書き方は?テンプレートをもとに記入例を解説

法律事務所は弁護士1人で開設するケースが多いため、一見すると簡単そうにみえるかもしれません。しかし、事業を成功させるためには集客方法や収益見通しなどを事前に検討し、しっかりと事業計画書を立てることが重要です。

本記事では、法律事務所開設時の事業計画書の書き方について解説します。テンプレートをもとに具体的な記入例や計画書作成時のポイントも紹介します。

法律事務所の開業時に作る事業計画書とは

法律事務所開設時の事業計画書とは、どの法律分野を中心に活動するのか、どうやって集客して収益を上げていくか、などの事業計画をまとめたものです。

事業計画書によって事業の方向性が明確になり、開業後の業務を円滑に進められます。事業計画に基づいて計画的に業務を進め、遂行状況の定期的なチェックと業務改善を繰り返すことにより、経営効率のアップや早期の収益化も期待できるでしょう。

また、事業計画書で事業の成長性や収益性を示せれば、事業資金の調達が可能となり、対外的な信用力が高まる、などの効果も期待できます。

法律事務所の事業計画書の書き方・記入例

法律事務所の事業計画書の主な記載項目は次の通りです。

  • 創業動機・目的
  • 職歴・事業実績
  • 取扱商品・サービス
  • 取引先・取引関係
  • 従業員
  • 借入の状況
  • 必要な資金と調達方法
  • 事業の見通し

各項目について、記入例も合わせて解説します。

創業動機・目的

最初に、創業動機や目的について記載します。法律事務所の取扱業務は、民事や刑事、企業法務など多岐にわたります。そのため、誰を対象にどのような法律業務を取り扱うのかを明確にしましょう。

創業動機としては、知識や経験を活かしたい、特定分野の問題解決に貢献したい、〇〇で困っている人を助けたい、など、開業後の取扱分野に関連した知識・経験があることや熱意が伝わる内容が考えられます。

(記載例)

法学部を卒業後、大手法律事務所で実務経験を積みました。さまざまな分野を担当する中、法律問題が企業活動に与える影響の大きさを実感し、企業法務を専門とした法律事務所の設立を決めました。企業が成長し日本経済が発展するために、これまで培った知識と経験を活かした起業サポートを実践します。

職歴・事業実績

「職歴・事業実績」欄には、職歴だけでなく大学(法学部)や法科大学院を卒業していること、司法試験の合格、司法修習の終了なども記載します。法律事務所の業務には所定の試験合格と修習の終了が必要条件となるため、条件を満たしていることを明記しましょう。

また、経験や実績をアピールして弁護士としての信頼感を得ることも重要です。

(記載例)

  • 2006年3月:〇〇大学法学部卒業
  • 2008年9月:司法試験合格
  • 2009年12月:司法修習終了(終了番号◯◯◯)
  • 2010年4月~:〇〇法律事務所で民事・刑事・企業法務など幅広い分野で14年勤務
  • 2024年3月:退職

取扱商品・サービス

対応できる法律分野や具体的なサービス内容を記載します。弁護士の業務は、訴訟や紛争解決だけではありません。法律相談や契約書の作成、遺言書の作成などさまざまです。具体的なサービス内容とともに、料金の目安なども記載するといいでしょう。

また、セールスポイントなどを記載し、事業の独自性を明確にしましょう。

(記載例)

取扱サービス

  • 企業法務:平均価格25万円、契約書作成・レビュー・コンプライアンス指導
  • 紛争解決:平均価格30万円、相談・交渉・調停・仲裁・訴訟
  • 労働法務:平均価格20万円、労働契約・労働紛争の対応

セールスポイント

  • 大手法律事務所での豊富な実務経験をもとに安心の企業法務サービスを提供
  • 企業法務に特化することにより企業環境の急速な変化を素早く把握し、迅速・適切な企業サポートを実現

取引先・取引関係

取引先は販売先と仕入先を区分して記載します。販売先は中小企業や個人顧客が中心となるでしょう。仕入先は法務関連のシステム会社や法務関連の定期刊行物(判例や法改正情報など)・判例・法令データベースの提供会社などです。

取引先のシェアや代金の回収(または支払い)条件なども記載しておきましょう。

(記載例)

取引先名シェア掛取引の

割合

回収・支払条件
販売先中小企業80%100%末日締・翌月末日回収
労働組合20%100%末日締・翌月末日回収
仕入先〇〇システム

(法務ソフト)

70%50%当月末日支払
〇〇出版(法務資料)30%50%当月末日支払

従業員

常勤役員や従業員の人数などを記載します。弁護士1人で開業するケースも多いですが、前職から顧客を引き継ぐなどで事業規模の拡大が見込まれ今後採用予定があれば、採用予定人数も記載しましょう。

(記載例)

  • 常勤役員の人数:1人
  • 従業員数:1人(うちパート従業員1人)

借入の状況

借り入れ状況を記載します。記載内容は、借入先や借入目的、借入残高、年間返済額などです。金融機関が融資する際の判断材料にも使用されるため、漏れなく正確に記載しましょう。

(記載例)

  • 借入先:〇〇銀行
  • 目的:住宅ローン
  • 借入残高:3,000万円
  • 年間返済額:200万円

必要な資金と調達方法

開業に必要な資金を見積もり、資金の調達方法とともに記載します。

法律事務所開設に必要な主な設備資金は、事務所の開設費用です。パソコンや事務机・椅子なども含まれます。また、人件費や宣伝広告費などの運転資金も記載します。

必要な資金を調達する主な方法は、自己資金や親戚・知人などからの借入、金融機関からの融資です。金融機関から融資を受ける場合は、資金計画の実現可能性が問われます。

(記載例)

必要な資金金額調達の方法金額
設備資金事務所・オフィス家具・パソコン300万円自己資金200万円
運転資金経費支払資金など100万円銀行からの借入200万円
合計400万円合計400万円

事業の見通し

事業の見通しとは、開業後の売上高や経費、利益の予想のことです。開業後すぐに利益を上げることは難しいため、開業時と一定期間後の事業見通しの両方を記載するといいでしょう。

売上高は、(平均利用単価×利用者数)で予想金額を算出します。経費については、業務に必要な費用を可能な限り洗い出して精緻に計算しましょう。経費の見積もりが甘いと、収益化が遅れたり、経営に支障をきたしたりすることもあります。

(記載例)

創業当初(月)1年後の見通し(月)内容
売上高①100万円200万円

【創業当初】

①平均価格25万円×4企業=100万円

②法務ソフト使用料・資料費15万円

③人件費:月給25万円×1名=25万円

家賃:30万円

支払利息:200万円×3%/12ヵ月=5,000円

販促費など諸経費:25万円

【創業1年後】

①平均価格25万円×8企業=200万円

②法務ソフト使用料・資料費20万円

③従業員と顧客の増加により人件費とその他経費が増加

人件費:月給25万円×2名=50万円

販促費など諸経費:50万円

売上原価15万円20万円
経費人件費25万円50万円
家賃30万円30万円
支払利息5,000円5,000円
その他25万円50万円
合計③80万5,000円130万5,000円
利益

①-②-③

4万5,000円49万5,000円

法律事務所の事業計画書に使える無料テンプレート

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法律事務所の事業計画書を作成するポイント

法律事務所の事業計画書を作成するときの主なポイントは次の3つです。

  • 弁護士としてのキャリアや経歴をアピールする
  • 得意分野や差別化戦略を記載する
  • 店舗を構える場合は資金調達方法を検討する

各ポイントについて解説します。

弁護士としてのキャリアや経歴をアピールする

開業後に一定数の集客を行い、事業を軌道に乗せるために、事業計画書で弁護士としてのキャリアや経歴をうまくアピールしましょう。弁護士としての経験年数や実績を示すことが、顧客の信頼を得るうえで有効であるためです。

弁護士としての能力を正しく判断するのは難しいため、キャリアや経歴は顧客にとって数少ない客観的な判断基準となります。

得意分野や差別化戦略を記載する

司法試験制度の改正によって弁護士の数は年々増加し、同業同士の競争は激化しています。厳しい環境の中で事業を発展させるには、得意分野に特化するなどの差別化戦略が有効です。

事業計画の策定段階で差別化戦略を明確にして、戦略に沿って事業展開することで競争を回避して顧客を確保できます。得意分野で実績を積み重ねれば信用力アップにもつながります。

店舗を構える場合は資金調達方法を検討する

事務所を借りるなどして店舗を構える場合、開業資金が大きくなるためどうやってその資金を調達するかしっかりと検討しましょう。自宅を事務所にする場合と比較すると、事務所の敷金・礼金・賃料や改装費用などが余分にかかります。

自己資金や親戚・知人などからの借入で足りなければ、金融機関からの融資を受けることを前提に事業計画書を作成する必要があります。

法律事務所を開業するときの資金調達方法

自宅を事務所にする場合、一般的な事務機器・用品などがあれば開業可能であるため、自己資金で開業資金を賄えることもあります。

しかし、前述の通り店舗を構える場合は金融機関からの融資が必要になるかもしれません。金融機関から融資を受ける場合、日本政策金融公庫の創業融資を検討してみましょう。長期・無担保の融資を銀行より低い利率で受けられる可能性があります。

ポイントを押さえた事業計画書作成し法律事務所の開設を

法律事務所は事務所とパソコンなどがあれば開設可能ですが、事業を成功させるにはしっかりとした事業計画が必要です。司法制度改革により弁護士数は急増しており、法律事務所間の競争が激しくなっているためです。

競争を勝ち抜くために、キャリアや実績をうまくアピールして顧客の信頼を得る、法律分野の特化や独自サービスの提供により差別化を図るなどの対策が必要になります。開業前にポイントを押さえた事業計画書を作成し、早期に事業を軌道に乗せましょう。


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