- 作成日 : 2025年3月27日
少人数私募債とは?資金調達するメリット・デメリットや発行方法を解説
少人数私募債とは、企業が特定の少数の投資家に向けて発行する社債です。金融機関を介さずに直接市場から資金調達できる仕組みとなっています。
本記事では、少人数私募債の概要や、これを活用した資金調達のメリット・デメリット、さらには発行方法について詳しく解説していきましょう。
目次
少人数私募債とは?
少人数私募債は企業が発行する社債の一つです。社債とは、企業が資金調達のために発行する債券であり、投資家から資金を借入れる際に満期まで利息を支払い、償還期限には元本を返済する金融商品です。これにより、企業は金融機関を介さず、市場から直接資金を調達することができます。
公募社債と少人数私募債の違い
社債には「公募社債」と「私募債」の2つがあります。公募社債とは、広く不特定多数の投資家から資金調達を行う社債です。金融商品の扱いとなるため、金融商品取引法に基づく規制が適用されます。例えば、金融商品取引業の登録、有価証券届出書の提出、さらには社債管理者の設置などの要件を満たす必要があるため、主に大企業向けの資金調達手段と言えるでしょう。
一方、私募債は、特定の相手に限定して発行される社債です。募集対象者は機関投資家、すなわちプロの投資家に限られます。一定の条件を満たせば発行手続きが簡略化されるのが、メリットの一つです。その中で、募集人数を49人以下に限定したものが少人数私募債と呼ばれます。募集人数に制限があるものの、機関投資家に限定される縛りはなく、かつ公募債のような複雑な手続きは不要である点が特徴です。
公募債 | 私募債 | 少人数私募債 | |
---|---|---|---|
募集対象者 | 一般投資家 | 機関投資家 | 一般投資家(縁故者や関係者など) |
募集人数 | なし | なし | 49人以下 |
手続き | 煩雑 | 簡素 | 簡素 |
向いている企業 | 大企業 | 中小企業 | 中小企業 |
少人数私募債で資金調達を行うケース
少人数私募債をはじめとする社債の大きな特徴は、金融機関を介さずに資金調達が行える点にあります。融資枠を利用したくない、柔軟な条件での借入を実現したい場合に選ばれるケースが一般的です。特に、中小企業が親族や従業員、取引先、知人などに対して社債を発行する際には、少人数私募債が活用される事例が見受けられます。
少人数私募債で資金調達するメリット
少人数私募債を用いた資金調達には、以下のようなメリットがあります。
融資の審査がない
金融機関から融資を受ける際は、各種書類の提出や手続きが求められ、審査を通過する必要があります。そのため、申込みから実際の借入までに数週間から1カ月程度かかることもあり、保証人や担保の準備が求められるケースもあります。
一方、少人数私募債では融資と異なり、審査がなく、保証人や担保の用意も不要となるため、金融機関の審査に通過できなかった場合でも資金調達が可能です。
必ずしも毎月の返済をしなくともよい
金融機関からの借入では、毎月の返済が求められるため、資金繰りの負担が大きくなる可能性があります。また、返済期間や利率なども金融機関が決めるため、融資条件の自由度が低い点を考慮しなくてはなりません。
少人数私募債の場合、毎月の利息支払いは必要なものの、元本は償還日にまとめて返済できるため、資金繰りが安定しやすくなります。さらに、償還期限、償還方法、利率などの条件は発行者が自由に設定できる点が魅力です。
低コストで資金調達ができる
金融機関からの融資は、保証料の支払いが必要です。また、公募債による資金調達の場合は、有価証券届出書や有価証券報告書の提出が求められるため、コストや手間がかかります。特に中小企業や資金繰りが厳しい企業にとっては大きな負担となる場合があるでしょう。
一方、少人数私募債ではこれらのコストや手続きの負担が大幅に軽減され、比較的容易に資金調達が実現できる点がメリットです。
経営権が保持できる
株式会社は、株式を発行して市場から資金調達を行うことが可能ですが、株主総会における議決権は保有株式数に応じて決まります。そのため、過半数の議決権を有する株主が実質的な経営権を握るため、経営権の希薄化に注意が必要です。一方、少人数私募債は株式を発行しないため、社債発行によっても経営者は引き続き経営権を保持できるメリットがあります。
少人数私募債で資金調達する際の注意点
先述では、少人数私募債を用いた資金調達のメリットについて触れましたが、注意点も知っておく必要があります。ここでは主な注意点について、以下の通り、まとめています。
元本の一括償還が必要となる
社債は、償還期限の到来時に債権者へ一括で債務を返済しなければならないため、まとまった資金の準備が求められます。一方で、融資の場合は毎月の返済負担があるものの、償還時期に一括で大きな負担がかかることはありません。自社の資金繰りや事業計画に応じ、適切な資金調達方法を選択する必要があります。
財政状態が悪い場合は発行ができない可能性がある
少人数私募債は、融資のような厳しい審査や公募債に必要な情報開示を省略できる点が魅力ですが、利息の支払いおよび償還期限に元本を返済する義務が伴います。たとえ少数の関係者に対して社債を発行する場合でも、利息や元本の支払いが滞ると、引受人が社債を引き受けなくなるリスクが考えられます。
少人数私募債の発行方法
少人数私募債は以下のような流れで発行します。
①募集の準備
まず、少人数私募債を発行する目的や事業計画を明確にしたうえで、株主総会や投資家に提示する事業計画書、募集要項、勧誘書類を作成しましょう。誰に対して社債の引受けを依頼するのか、償還期間や利率の設定など、各条件を細かく決めておくことが大切です。
②株主総会や取締役会での決議
少人数私募債は経営者の独断では発行できません。株主総会や取締役会などの集まりで事業計画や募集要項、勧誘書類の内容が適切かどうかを議論し、合意を形成する必要があります。
③社債引受人の募集
引受候補者(少人数私募債の場合、親族や従業員、取引先など)を対象とした説明会の開催、または個別交渉の実施で、少人数私募債の引受人を募集しましょう。たとえ親族であっても出資を依頼する以上、事業計画や償還計画を説明することが重要です。
④申込み受付・審査
少人数私募債の引受希望者と条件を擦り合わせ、合意が得られたら、購入希望者に対して社債取得に関する審査を実施し、社債の発行総額を決定します。双方の認識に相違が生じないよう、特に条件については入念に話し合うことが望まれます。
⑤募集決定通知の送付
少人数私募債の発行総額が決定したタイミングで、引受人あてに募集決定通知書を送付しましょう。
⑥申込金額の受領
少人数私募債の発行が決定すると、引受人から申込証拠金が振り込まれます。振込確認をしたあとに、引受人あてに申込証拠金預証を交付しましょう。
⑦社債原簿の作成
社債原簿とは、引受人の氏名や住所、少人数私募債の数量や金額、発行日、償還期間などの情報を正確に記録しましょう。
⑧利息の支払いと元本の償還
少人数私募債の引受人へ定期的に利息を支払い、償還期限を迎えた際に元本を返済する手続きを行います。
資金調達の一つとして少人数私募債も検討してみよう
資金調達には、融資や社債発行、株式発行などと、さまざまな方法があります。少数の一般投資家を対象に社債を発行する少人数私募債は、審査が不要で手続きが比較的容易です。しかも、低コストで、発行者が償還条件を自由に設定できるため、特に中小企業にとって有効な資金調達手段と言えるでしょう。
ただし、償還期限に一括で元本を返済しなければならない点や、財務状況の悪化、または償還計画が不十分な場合、引受人が確保できないケースもあります。メリットと注意点を十分に検討したうえで、資金調達として採用するかどうか判断しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
開業の創業融資にプロパー融資は難しい?メリット・デメリット、審査基準を解説
プロパー融資は、銀行が独自に審査し保証なしで貸し出す融資です。信用力が重視されるため創業期の活用は難しいものの、事業が安定すれば有力な選択肢となります。本記事では、プロパー融資の特徴や審査基準、他の融資制度との違いを解説し、創業者に適した資…
詳しくみる創業融資が減額される理由は?満額融資を受けるポイントも解説
日本政策金融公庫の創業融資の申込みを行ったものの、希望額の融資を受けられず、減額となるケースがあります。減額されるのには特別な理由はあるのでしょうか。 本記事では、日本政策金融公庫の考えられる減額の理由や満額融資を受けるためのポイントを解説…
詳しくみるレンタルオフィスでの創業融資は可能?審査のコツや補助金も解説
レンタルオフィスでも創業融資を受けることは可能です。ただし、金融機関の信頼を得るためにきちんとした創業計画書を準備しなければなりません。 本記事では、レンタルオフィスでの創業融資が可能かどうかについて解説します。レンタルオフィスで利用できる…
詳しくみる農業を始めるなら資金調達から!必要金額や調達方法を解説
農業を始めるには、適切な資金調達が欠かせません。新規就農から収穫までの無収入期間や天候不順による収穫量の変動など、農業特有のリスクに備えるためにも、十分な資金計画を立てる必要があります。 しかし、実際にどの程度の資金が必要なのか悩んでいる人…
詳しくみる訪問介護事業の立ち上げに使える創業融資制度は?事業計画書の書き方も解説
訪問介護事業の立ち上げを考えている方にとって、資金調達は大きな課題のひとつです。 本記事では、訪問介護事業の創業に活用できる融資制度や必要な開業資金、融資を受けるための手順、事業計画書の作成方法などについて、詳しく解説します。創業融資を上手…
詳しくみる銀行融資による資金調達がおすすめなケースは?メリット・デメリットや審査通過のポイントを解説
銀行融資は金利が低く、大型の資金調達が可能な手段です。ただし、審査基準が厳しく、時間もかかるため、資金調達の時期や目的に応じて判断する必要があります。 本記事では、銀行融資の基礎知識から審査のポイント、代替となる資金調達方法まで、実務に役立…
詳しくみる