- 作成日 : 2025年2月20日
養豚場を経営するには?業界の現状や年収、経営方法、必要な資格・費用も解説
養豚業は、日本の食文化を支える重要な産業のひとつです。しかし、近年の社会情勢や環境の変化により、養豚業界はさまざまな経営の課題に直面しています。
本記事では、養豚場を経営するにあたって把握しておきたい知識を紹介します。養豚業の現状から経営に必要な資格、初期費用や運転資金まで、詳しく見ていきましょう。
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養豚業界の現状
日本の農業総産出額の約4割は、畜産で構成されています。養豚はその畜産において約2割のシェアを占め、日本の畜産業の中でも重要な位置にあるといえますが、飼養戸数は減少傾向にあるなどいくつかの経営課題に直面しているのが現状です。
養豚業界における課題を理解し、適切に対応することが、これからの時代に成功する養豚経営には不可欠といえます。
近年の養豚業界の課題
近年の養豚業界が直面している主な課題には、飼料価格の高騰、環境規制の強化、労働力不足、疾病対策、国際競争の激化などが挙げられます。特に飼料費は養豚経営費の約60%を占めており、その削減が大きな課題です。
また、養豚場から排出される糞尿や臭気に対する規制が厳しくなっており、これに対応するための設備投資や運営コストの増加が経営者の負担となっています。養豚業者の高齢化に伴う後継者不足も無視できません。
さらに、豚熱(CSF)やアフリカ豚熱(ASF)などの感染症の発生も深刻な問題であり、り、徹底した防疫対策が求められています。TPPなどの経済連携協定の進展により、海外からの安価な豚肉の輸入が増加していることも、国内の養豚業者にとって頭が痛い問題といえるでしょう。
養豚農家の平均年収
農林水産省の「令和5年 農業経営体の経営収支」によれば、養豚経営を含む主業経営体(個人経営体のうち、農業所得が主で、自営農業に60日以上従事している65歳未満の者がいる経営体)の平均農業所得は404.2万円です。
それに対し、養豚農家の個人経営体の農業所得は約378.2万円で、農業全体平均を26万円下回ります。ただしこれはあくまでも平均であり、養豚農家の年収は経営規模や経営形態、地域などによって異なります。
参考:農林水産省 農業経営統計調査 令和5年 農業経営体の経営収支
養豚場の経営方法
養豚場の経営方法には、主に以下の4つの形態があります。
- 繁殖豚経営
- 種豚経営
- 肥育豚経営
- 一貫経営
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
繁殖豚経営
繁殖豚経営は、母豚を飼育し、子豚を生産して販売する経営方法です。この方法では、母豚の管理、交配、分娩管理、子豚の哺育が主な作業になります。生後約2~3ヶ月(体重30kg前後)の子豚を主な販売対象とします。
種豚経営
豚の繁殖や改良のための種豚を生産する経営方式は種豚経営です。いわゆるブリーダーとしての役割を担い、優良な遺伝形質を持つ豚の生産・供給を行います。主な作業は優良種豚の選抜・育成、遺伝的改良で、大規模経営向けの種豚供給や、ブランド豚向けの純粋種の生産が主流です。
肥育豚経営
肥育豚経営は子豚を購入し、出荷体重まで肥育して販売する経営方法を指します。子豚の育成、肥育管理が主な作業となり、繁殖管理の手間がなく比較的短期間で収益が得られるメリットがあります。
一貫経営
一貫経営は、繁殖から肥育まですべての工程をひとつの経営体で行う方法で、現在の日本の養豚業では主流となっています。「繁殖(分娩)舎」「育成舎」「肥育舎」の3つの施設に分けて飼育を行うため初期投資が大きく、多岐にわたる技術が求められます。
養豚場経営の始め方
養豚場経営を始めるには、さまざまな準備が必要です。以下で、養豚場経営をはじめる流れを紹介します。
養豚に必要な土地や設備を準備する
養豚場の設立には、適切な土地と設備の確保が不可欠です。以下の点に注意して準備を進めましょう。
土地の選定
養豚場の立地は非常に重要です。周辺住民への配慮や環境規制を考慮し、できるだけ住宅地から離れた場所を選びます。また、飼料や豚の搬入出が容易な場所であることも重要です。
法的手続き
養豚場の設立には、農地法に基づく農業委員会の許可が必要です。また、環境アセスメントや地域住民への説明会なども必要になる場合があります.
豚舎の設計
経営方式に応じた豚舎の設計も大切です。日本の養豚経営で一般的な一貫経営の場合、豚の分娩舎、育成舎、肥育舎の3種類の豚舎が必要になります。各豚舎には、適切な換気システム、給餌・給水設備、温度管理システムなどを備えなければなりません。
糞尿処理施設
環境規制に対応するため、適切な糞尿処理施設の設置が不可欠です。近年では、バイオガスプラントなど、糞尿を資源として活用する施設の導入も増えています。
その他の設備
飼料タンク、飼料配合設備(自家配合を行う場合)、出荷用の施設、事務所などの付帯設備も必要です。
繁殖用の親豚を調達する
養豚経営を始める際、高品質な親豚の調達は重要な点といえます。親豚の遺伝的能力が、将来の生産性に大きな影響を与えるためです。一般的には、大手の種豚生産企業や信頼できるブリーダーから親豚を購入します。選定の際は、繁殖能力(産子数、哺乳能力など)、発育能力、肉質などを考慮します。
品種の選択も重要で、日本における一般的な純粋品種としては、ランドレース種、大ヨークシャー種、デュロック種などがあります。多くの場合、これらの品種を交配させた交雑種が用いられます。
新たに導入する親豚は、既存の豚群に病気を持ち込む可能性を考慮し、導入後は一定期間隔離し、健康状態を確認しなければなりません。また、導入した若い親豚(未経産豚)は、初回交配までの飼養管理が、その後の繁殖成績に大きく影響するため、適切な管理下に置く必要があります。
飼料を調達する
飼料は養豚農家における経費の多くを占め、経営に与える影響が大きいため、調達方法も含め慎重に選定する必要があります。
近年は食品残渣を利用したエコフィードの活用も進んでいます。これは、食品製造過程で発生する副産物や、流通過程で発生する売れ残りなどを飼料化したものです。飼料コストの削減と食品リサイクルの推進に貢献するため、近年の飼料高騰におけるひとつの対策として注目されています。
養豚場経営に必要な資格・スキル
養豚場経営においては、さまざまな知識やスキルが求められます。中でも重要度が高いのが以下の資格です。
- 家畜人工授精師免許
- 家畜商
- 農場HACCP
家畜人工授精師免許
家畜人工授精師免許は豚の繁殖管理において必須資格であり、この資格を取得することで、人工授精技術を用いての効率的な繁殖管理が可能になります。
取得するには、農林水産大臣指定の大学、もしくは都道府県が開催する講習会を受講し、課程を修了したうえで修業試験に合格しなければなりません。合格後は、都道府県知事への免許申請が必要です。
家畜商
家畜商は、豚の売買や取引を行うために必須となる国家資格です。都道府県が実施する家畜商講習会を受講し、講習会修了証明書を取得したのちに、供託金の納付をもって資格が付与されます。この資格がないと、家畜の売買を業として行えません。
農場HACCP
農場HACCPは、食品安全、家畜衛生、環境保全、労働安全の向上のための認証制度です。危害要因の分析と重要管理点の設定を行い、継続的な監視・記録システムを構築することが求められます。
農場HACCPの認証を受けるには、文書審査と現地審査をクリアしなければなりません。また、認証を受けた後も一定期間ごとに基準を満たしているかの審査を受ける必要があります。
養豚場経営にかかる費用
養豚場の経営を始める際には、初期投資と当面の運営費用が必要ですが、設備投資が多いため初期費用は高額になりがちです。
以下で詳しく見ていきましょう。
養豚場の初期費用
規模や地域によって初期費用の金額は異なりますが、土地をすでに所有している場合であっても豚舎や飼料倉庫、糞尿処理施設などの建設費・設備費は、3,000万円程度から、規模によっては億単位になるケースもあります。
飼育する豚の購入や資料などでも数千万円が必要でしょう。そのほかにも衛生管理費や行政手続きのための費用、また起業にあたって専門家の力を借りるならそのための費用もかかります。
少なくとも5,000万円程度、ある程度の規模であれば億単位になることを視野に入れておく必要があるでしょう。
養豚場の運営費用
初期費用だけではなく、当面の運転資金も必要です。飼料代をはじめ光熱費や従業員の給与・社会保険料、ワクチンなどの医療費、輸送費や保険費なども発生します。
規模や経営方法によっても異なるため一概にいくらとはいえませんが、500頭前後の規模で200万~300万程度は月々の運転資金として必要です。イレギュラーな出費や飼料の高騰などへの備えも考慮すると、1年程度先までの運営資金が確保できているのが望ましいでしょう。
養豚場経営の資金調達に活用できる制度
助成金や補助金を活用するのも、養豚場をうまく経営していくための手段です。ここでは、養豚場経営の資金調達手段として活用できる主な助成金・補助金を紹介します。
養豚経営安定対策補完事業
養豚経営安定対策補完事業は、養豚経営の安定を図るため、地域における種豚などの能力向上に必要な純粋種豚の導入や人工授精の普及など、生産性向上や生産コスト削減の取組みを支援するものです。
主な支援内容として、純粋種豚または人工授精用精液、一代雑種雌豚の導入支援、遺伝子検査の支援、飼養管理技術の向上のための研修会の実施などが挙げられます。
畜産クラスター関連事業
畜産クラスター関連事業は、地域ぐるみで高収益型の畜産を実現するための支援制度です。畜産農家をはじめ、地域の関係事業者が連携・集結して形成する「畜産クラスター」の取り組みを推進するために、必要な機械や施設の整備等を支援します。
強い農業づくりの支援
強い農業づくりの支援は、農業の競争力強化と持続的発展を図るための総合的な支援制度です。この制度の中には、養豚経営者も活用できる「強い農業づくり総合支援交付金」があります。
この交付金は、都道府県や市町村、農業者団体等が実施主体となり、地域の農業の競争力強化や農業支援サービスの育成などに活用されます。養豚経営者は、地域の取り組みに参画することで、施設整備や新技術導入などの支援を受けられます。
農業近代化資金
農業近代化資金は、農業者が経営改善を図るために必要な資金を長期かつ低利で融資する制度です。認定農業者、認定新規就農者、主業農業者、集落営農組織、農業を営む任意団体などが対象になります。
借入限度額は個人1,800万円(知事特認2億円)、法人(任意団体含む)2億円で、認定農業者は貸付利率の特例によって利率の優遇措置が受けられます。この優遇措置を受ける場合、法人(任意団体含む)の限度額は3,600万円になります。個人においては1,800万円で変わりありません。
青年等就農資金
新たに農業を始めようとする方向けの無利子融資制度で、機械や施設の購入等に必要な資金を支援します。貸付限度額は3,700万円(特認の場合、1億円)で、返済期間は17年以内です。
消費・安全対策交付金
消費・安全対策交付金は、食品の安全と消費者の信頼の確保、食料安全保障の確立、国内農林水産業及び食品関連産業等の健全な発展を目的とした支援制度です。畜水産物の安全性向上、伝染性疾病・病害虫の発生予防・まん延防止、地域での食育の推進など、幅広い分野をカバーしています。
令和7年度の予算概算要求にもこの交付金が含まれており、事業実施主体は都道府県、市町村、農業協同組合、農業協同組合中央会、営農集団などです。
家畜防疫互助基金支援事業
家畜防疫互助基金支援事業は、アフリカ豚熱、豚熱などの家畜伝染病発生時の経営への影響を緩和するための支援制度です。
生産者自身による積立と国からの補助を組み合わせ、発生農場の経営再開に必要な経費等を相互に支援する仕組みで、3年ごとの事業対策期間の開始前に申込みをする必要があります。
養豚場経営に失敗しないためのポイント
養豚場の経営は資金面においても、そして経営スキルにおいても難易度が高いといえますが、以下のポイントを押さえ、安定経営を目指しましょう。
- 農業大学校や別の養豚場で知識と経験を身につける
- 養豚に最適な豚舎を選ぶ
- 豚舎の衛生管理を徹底する
農業大学校や別の養豚場で知識と経験を身につける
養豚場の経営の成功には、さまざまな知識や技術が求められます。そのため、経営を始める前に専門的な知識と実践的な経験を積むことが非常に重要です。農業大学校の養豚科などで学ぶことで、基礎から応用までの幅広い知識を習得できるでしょう。
さらに、既存の養豚場でインターンシップや研修を行い、実際の現場での経験を積むのもおすすめです。理論と実践の両面から、養豚経営に必要なスキルを身につけられるでしょう。
養豚に最適な豚舎を選ぶ
豚舎の設備は、養豚経営の成功に大きな影響を与えます。適切な広さや換気システム、温度管理、給餌・給水設備を備えた豚舎を選ぶことが重要です。耐久性やメンテナンス性などにも考慮しましょう。
また、将来の拡張性も考慮に入れた設計を行うことで、経営の成長に合わせて柔軟に対応できるようになります。
豚舎の衛生管理を徹底する
衛生管理は、養豚経営において重要な要素のひとつです。豚の健康を維持し疾病の発生を防ぐために、徹底した対策が必要です。
定期的な清掃と消毒、適切な糞尿処理システムの導入、外部からの病原体侵入を防ぐためのバイオセキュリティ対策、そして定期的な健康チェックとワクチン接種などが重要な施策になります。特に、アフリカ豚熱や豚熱などの感染症対策は非常に重要で、これらの対策を怠ると大規模な損失につながる可能性があります。
衛生管理は日々の努力の積み重ねであり、一貫した取り組みが求められます。
豚の生育ステージごとに餌や飼育方法を最適化する
養豚では、豚の成長段階に応じて適切な空間を提供し、ストレスを最小限に抑えることが求められます。
また、適切な温度管理や換気、採光といった生活環境への配慮も欠かせません。餌も離乳直後の子豚と成長期、肥育期でその都度最適なものを用意するなど、生育ステージごとに最適化した環境を整えられるようにしましょう。
養豚場の経営にはさまざまな資格や多くの資金が求められる
養豚場の経営には多くの資金と専門的な知識、そして適切な資格が必要です。思い立ってすぐにできるものではないため、養豚経営を志すなら農業大学校への入学なども視野に入れた入念な計画を早い段階から立てましょう。
養豚場の経営は決して容易ではありませんが、適切な準備と継続的な努力によって、安定した経営を実現することは可能です。助成金や補助金もうまく活用し、スムーズな経営を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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