- 更新日 : 2025年2月6日
個人事業主におすすめのPL保険とは?補償内容・保険料・選ぶポイントを解説
個人事業主も加入できるPL保険は、自社で製造・販売した商品が消費者に損害を与えた場合に、その損害賠償責任を補償するための保険です。事故による損害賠償額は数千万円に及ぶ場合があるため、PL保険で補償リスクに備えることが大切です。
今回は、PL保険の補償内容や保険料、選ぶ際のポイントについて詳しく解説します。
目次
PL保険とは
PL保険は、自社で製造・販売した商品が原因で消費者に損害を与えた場合に、その損害賠償責任を補償するための保険です。
PL保険は、法人だけでなく個人事業主も加入できます。ここでは、PL法の適用対象になる製造物や個人事業主が加入する必要性について確認していきましょう。
PL法の適用対象になる製造物
PL法(製造物責任法)は、製品の欠陥が原因で消費者の身体障害または財産損害が発生した場合に、製造業者等の損害賠償責任を規定する法律です。
従来は消費者が損害を被った場合、消費者自身が企業の「過失」を証明する必要がありました。しかし、1995年のPL法施行後は、製品の「欠陥」を証明すれば企業に損害賠償の請求が可能となり、消費者の証明負担が大幅に軽減されています。
一方で、企業の責任はより一層問われることになりました。製造物責任法では、PL法の適用対象になる製造物を「製造、または加工された動産」と定義しており、人為的な操作や処理が加えられて消費者に引き渡された動産が対象です。
不動産や電気、ソフトウェア、未加工農林畜水産物などはPL法の対象になりません。
個人事業主にPL保険の加入が必要な理由
個人事業主は企業に比べると資金力は低いですが、製品の製造・販売やサービスを提供する場合は企業と同等の責任が問われます。
事故が起こると資金力が低い個人事業主の場合、事業の継続が困難になるだけでなく、高額な損害賠償を請求される可能性も高いです。事故による損害賠償額は数千万円に及ぶ場合もあり、経営を圧迫するほどの金銭的な負担がかかるおそれもあります。
最悪の事態を避けるためにも、PL保険に加入して賠償リスクに備えることが大切です。
PL保険の補償内容
ここからは、PL保険の補償内容について詳しく確認していきましょう。
事故発生後に生じる費用
PL保険では、消費者が損害を受ける事故が発生した場合に生じる費用が補償されます。
補償内容 | 補償対象 |
---|---|
損害防止費用 | 事故が発生した場合に損害の発生・拡大防止のために支出した費用、被保険者の負担した費用全般が補償対象です。 |
緊急措置費用 | 事故が発生した場合の緊急措置費用、またはあらかじめ保険会社の同意を得て支出した費用全般が補償対象です。 |
権利保全行使費用 | 事故が発生した場合、損害賠償の請求に必要な手続きにかかる費用全般が補償対象です。 |
訴訟に発展した際に生じる費用
PL保険では、争訟費用や協力費用など訴訟に発展した際に生じる費用が補償されます。
補償内容 | 補償対象 |
---|---|
争訟費用 | 損害賠償に関する争訟で支出した訴訟費用や弁護士報酬等の費用全般が補償対象です。損害賠償金額が支払限度額を超えるケースでは、限度額が設定される場合があります。 |
協力費用 | 損害賠償事案に協力するための各種費用や被保険者が支出した費用全般が補償対象です。 |
和解・判決による損害賠償金の支払い
PL保険では、損害賠償金の支払いが補償されています。
補償される費用は、賠償事故の種類によって異なります。身体賠償事故・財物賠償事故の補償費用について、以下の表にまとめました。
賠償事故の種類 | 補償費用 |
---|---|
身体賠償事故 | 治療費や医療費、慰謝料など |
財物賠償事故 | 修理費や再調達に要する費用など |
契約した限度額を上限として、合計額から自己負担額を控除した金額が支払われます。
個人事業主にPL法が適用された事例
飲食業やアパレルなどさまざまな業種で、PL法による責任が問われた事例があります。ここからは、PL法が適用された事案を見ていきましょう。
輸入瓶詰めオリーブ食中毒事件
レストランで瓶詰めオリーブを食べてボツリヌス中毒に罹患した客が、レストラン経営者およびオリーブ輸入会社に損害賠償を求めた事案です。
訴訟内容を、以下の表にまとめました。
裁判所 | 東京地裁 |
---|---|
提訴日 | 1999年2月15日(第1事件) |
原告 | レストラン客 |
被告人 | オリーブ輸入会社・レストラン経営者 |
判決結果 | 一部認容 |
請求額 | 1,497,240円 |
和解額 | 997,240円 |
ボツリヌス菌の特徴から、瓶詰めオリーブを開封する前から菌は存在していたと考えるのが相当で、レストランは食品として通常憂慮すべき安全性を欠いていたとの判決が出されました。その結果、約100万円の損害賠償請求が認められています。
フード付きダウンジャケットストッパーによる外傷性白内障傷害事件
フード付きダウンジャケットを着用した際に、ストッパーが左眼に直撃して外傷性白内障を負う事故が発生し、アパレル会社に損害賠償を求めた事案です。
訴訟内容を、以下の表にまとめました。
裁判所 | 東京地裁 |
---|---|
提訴日 | 2014年 |
原告 | ダウンジャケットを使用していた者 |
被告人 | ダウンジャケットの製造会社 |
判決結果 | 一部認容 |
請求額 | 104,542,478円 |
和解額 | 40,524,360円 |
使用者が本件製品を購入した時点でゴム紐が長く伸縮性のある素材であり、意図せずに身体を負傷するおそれがあることが想定できたため、本件商品には構造上の欠陥があるとの判決が出されました。結果的に、約4,000万円の損害賠償請求が認められています。
輸入漢方薬腎不全事件
主婦が冷え性患者に効能があるという漢方薬を服用したところ、使用者が慢性腎不全に罹患したとして、同漢方薬を輸入販売した医薬品等輸入販売業者に損害賠償を求めた事案です。
訴訟内容を、以下の表にまとめました。
裁判所 | 名古屋地裁 |
---|---|
提訴日 | 1998年10月8日 |
原告 | 医薬品等輸入販売業者が輸入した医療用漢方薬を服用した主婦2名 |
被告人 | 医薬品等輸入販売業者 |
判決結果 | 一部認容 |
請求額 | 81,607,773円 |
和解額 | 33,531,644円 |
本件製造物たる漢方薬の投与期間の日数比率が低いことから、腎不全に罹患したことが製造物の服用のみに起因すると決めるのは難しいものの、服用しなければ腎不全に罹患しなかったとも言い難く、製造物の服用と腎不全の罹患との因果関係を認めずに製造物責任法上の責任が否定されました。
結果的に、約3,000万円の損害賠償請求が認められています。
PL保険の保険料の目安
PL保険の保険料は、年間契約と中途加入で計算式が異なります。
保険料の計算式は、以下のとおりです。
【年間契約】
【中途加入】
保険料率は企業の事業内容等で異なりますが、PL事故が起こる可能性が高い業種や高額の賠償金が発生する業種では保険料率が高く設定されています。
【業種別の保険料例】
年間売上高 | 支払限度額 | 年間保険料 | |
---|---|---|---|
レストラン | 1億円 | 1億円 | 94,200円 |
パン・菓子製造小売 | 7,000万円 | 5,000万円 | 59,150円 |
繊維品・革製品製造 | 1.5億円 | 5,000万円 | 29,100円 |
上記はあくまで一例のため、具体的な金額を知りたい方は見積もりを依頼しましょう。
個人事業主がPL保険を選ぶポイントと注意点
PL保険は通常の生命保険等に比べて大きな違いはありませんが、補償内容や保険料等を確認してから加入先を決めることが大切です。
ここでは、PL保険を選ぶポイントや注意点を解説します。
自分の業種が抱えるリスクをカバーしているものを選ぶ
PL保険の補償内容は、加入先によって異なります。
業種によっては不要な補償が含まれている場合や、逆に必要な補償がない場合も多いです。加入先選びで失敗したくないなら、「自分の業種が抱えるリスクに対応できるのか」「保険料に対して補償範囲は適切か」などPL保険の補償内容をしっかり比較検討しましょう。
保険料が無理なく支払えるものを選ぶ
PL保険を選ぶ際は、継続的に無理なく払える保険料かどうかも重要なポイントです。
補償内容が充実する保険でも支払い負担が大きいと払い続けるのが難しくなり、経営に支障が出る可能性があります。自分に必要な補償を受けるには、保険料の費用相場を把握したうえで、補償範囲に対して保険料の額は適切なのかを確認することが大切です。
保険料の費用相場を把握したら、複数社に見積もりを依頼して比較検討してみましょう。
補償対象外のケースを把握しておく
PL保険に加入しても、すべての損害が補償されるわけではありません。
故意によるトラブルや重過失・危険な物を取り扱った際に起きた事故は、補償対象外となります。また、PL保険は国内向け・海外向けが別に用意されていることが多いです。国内PL保険のみに加入している場合、海外で発生した損害は補償されません。
PL保険以外に個人事業主が加入しておくとよい保険
PL保険以外にも、個人事業主が加入しておくとよい保険は多くあります。ここからは、個人事業主におすすめの保険を見ていきましょう。
火災・地震保険
火災保険は火災や風水災等による損害を、地震保険は地震や津波等による損害を補償してくれる保険です。地震による災害や火災等の損害は、火災保険の補償内容に含まれていません。地震による損害リスクに備えたい場合は、地震保険に別途加入する必要があります。
火災・地震保険にはさまざまなプランがあるため、補償内容を確認したうえで最適な保険を選びましょう。
施設賠償責任保険
施設賠償責任保険は、施設管理や仕事の遂行等に伴う賠償事故を補償してくれる保険です。
具体的には、法律上の損害賠償金や賠償責任に関する訴訟費用、事故発生時の応急手当等の緊急措置費用等が保険金の支払い対象となります。施設賠償責任保険は、飲食業や小売業、不動産業など実店舗を構えて営業している個人事業主におすすめの保険です。
個人情報漏洩保険
個人情報漏洩保険は、企業が保有する個人情報が漏洩した場合に、損害賠償金や賠償責任に関する訴訟費用や再発防止費用等を補償してくれる保険です。
近年は、インターネット上の個人情報漏洩の被害件数が増加傾向にあります。個人情報漏洩による損害額は莫大な金額になる可能性があるため、インターネットに関連する事業を運営する個人事業主は個人情報漏洩保険に加入しておくと安心です。
サイバー保険
サイバー保険は、サイバー攻撃で損害が発生した場合に損害賠償費用や争訟費用、システムの復旧費用等を補償する保険です。
個人情報漏洩保険より補償範囲が広く、個人情報漏洩だけでなく、サイバーリスクによるさまざま事故や被害に備えられます。サイバー攻撃を受けて顧客や取引先の機密情報が漏洩した場合は、高額な損害賠償を請求される等のトラブルに発展する可能性があります。
店舗総合保険
店舗総合保険は、PL保険や火災保険など複数の保険を1つにまとめた店舗向け損害保険です。
保険対象は店舗だけではなく、事務所や併用住宅の建物、建物に収容される動産が含まれます。店舗経営の補償を総合的にカバーできるため、個別の保険に契約する必要はありません。飲食業やサロン業など実店舗を運営する個人事業主におすすめの保険です。
個人事業主はPL保険で万が一の事故に備えよう
個人事業主は企業に比べると資金力は劣りますが、製品の製造・販売やサービスを提供する場合は企業と同等の責任が問われます。
事故による損害賠償額は数千万円に及ぶ場合もあるため、事業の継続が困難になるだけでなく、被害者から高額な損害賠償を請求される可能性もあります。万が一の事故や損害賠償リスクに備えたい場合は、PL保険への加入を検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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