- 作成日 : 2024年12月19日
有限会社の事業承継とは?株式の有無による違いや節税方法を解説
有限会社で事業承継を行う場合、株式発行の有無によって手続きが異なります。また、承継の方法により相続税や贈与税などの税金が発生しますが、事業承継税制の適用で免除を受けることが可能です。
本記事では、有限会社が事業承継を行う方法や手続きの流れ、税金を安く抑える制度について解説します。
目次
有限会社において事業承継を行うケース
有限会社とは、有限責任社員のみが出資している会社のことです。2006年に施行された会社法で有限会社の新規設立はなくなり、既存の有限会社についても、2006年以降は株式会社か特例有限会社への変更を求められています。
そのため、現在有限会社として存続している会社は、厳密にいえば特例有限会社ということです。法的には株式会社の一種であり、出資持分の代わりに株式(譲渡制限株式)を発行できます。その場合は、社員総会が株主総会として扱われます。
有限会社も、ほかの形態の会社と同じく、経営者の引退や亡くなったときに事業承継が行われます。
有限会社を事業承継する方法
有限会社を事業承継する方法には、次の3つがあげられます。
- 親族への承継
- 社内での承継(役員や従業員)
- 第三者への承継(M&A)
それぞれの内容や特徴をみていきましょう。
親族への承継
現経営者の子どもや配偶者など、親族に経営権を譲る方法です。親族への承継は、相続や贈与といった手法で行われます。親族への承継は事業承継をスムーズに行いやすく、早くから後継者の教育に着手できる点がメリットです。従業員や取引先も承継しやすいでしょう。
ただし、親族承継では親族間のトラブルも起こりやすいデメリットがあります。特に相続で承継する場合にほかにも相続人がいる場合は、遺産分割を適切に行わなければなりません。話し合いがこじれて遺留分減殺請求を出された場合、株式が分散して後継者の経営権が弱まる可能性があります。
社内での承継(役員や従業員)
社内の役員や従業員から承継者候補を探す方法です。主に、親族内に後継者が見つからなかった場合に行われます。会社について精通している役員や従業員であれば、事業の承継がスムーズに進みやすいでしょう。従業員や取引先との関係も維持しやすくなります。
ただし、社内に後継者となる人材がいるとは限らず、いても経営方針が引き継がれるとは限りません。
また、事業を引き継ぐ場合はある程度まとまった資金が必要であり、後継者候補が資金を用意できない可能性もあります。
第三者への譲渡(M&A)
親族や社内に後継者がいない場合、第三者に譲渡する方法もあります。M&Aによる手法で、後継者不在に悩む会社が多い現代では、M&Aによる承継が一般化しつつあるのが現状です。
M&Aでは、買い手となる企業を探し、交渉を経て売却するという流れになります。
第三者への譲渡は後継者不在でも廃業することなく承継ができ、経営者にまとまった資金が入る点がメリットです。
ただし、適切な買い手が見つかるとは限りません。M&Aが成立するまでには、時間がかかる場合もあります。また、M&Aの手続きには専門知識が必要であり、専門家・専門機関のサポートが欠かせません。
有限会社の事業承継の流れや手続き
有限会社における事業承継は、株式発行の有無によって流れが変わります。
それぞれに分けて手続きをみていきましょう。
株式発行をしている有限会社
株式を発行している有限会社が事業承継する場合、株式会社と同じく株式を後継者に譲渡し、経営権を移転する手続きを行います。 有限会社が発行する株式は譲渡制限株式であり、株主総会を開催して承認手続きを行わなければなりません。
株式は経営者以外の株主に承継されると経営に影響するため、できる限り後継者に株式を集める必要があります。100%の経営権を取得するためには、すべての株式を承継することが望ましいでしょう。
株式発行をしていない有限会社
株式を発行していない場合は、出資した金額に応じた出資持分がまだある状態です。出資持分は、株式会社における株式にあたります。
株式を発行していない有限会社の事業承継は、次の流れで行います。
- 現経営者の出資持分を後継者の名義に書き換える
- 社員総会を開催し、後継者を取締役に選任する
相続の場合は、出資持分の評価が必要です。評価は会社の規模によって異なるため、自社がどれだけの規模なのかを確認し、適切な手法で評価を行います。専門知識が必要であり、正しく評価するためには専門家に依頼するのもよいでしょう。
有限会社の事業承継にかかる費用の目安
有限会社の事業承継では、承継の手法により相続税や贈与税がかかります。
それぞれの仕組みや支払いの目安をみていきましょう。
相続税
現経営者が亡くなって親族が相続により承継する場合、相続税が発生します。相続税には基礎控除があり、「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算した金額を下回る場合、相続税の申告や納税は必要ありません。
たとえば、2人で相続する場合の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 ×2=4,200万円」です。相続した金額が8,000万円の場合は「8,000万円−4,200万円=3,800万円」が相続税の対象です。
3,800万円の税率は20%で控除額が200万円であるため、「3,800万円×20%−200万円=560万円」の納税が必要です。
贈与税
生前贈与で事業承継する場合は、後継者に贈与税が発生します。1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた金額に所定の税率をかけて計算します。
たとえば、5,000万円の生前贈与を受けた場合、5,000万円−110万円=4,890万円が贈与税の対象です。税率は55%、640万円の控除になるため、「4,890万円×55%−640万円=2,049万5,000円」の納税が必要です。
有限会社の事業承継で税金を安く抑えるには?
有限会社の事業承継を相続や生前贈与で行う場合、高額な相続税や贈与税が発生します。これら事業承継に伴う相続税や贈与税については、猶予や免除をする制度が設けられています。
内容をみていきましょう。
事業承継税制による特例措置を受ける
事業承継税制は、相続税や贈与税で経営が圧迫され、円滑な事業承継が難しくなるという問題を解決するため、2009年度の税制改正で創設された制度です。会社や個人事業の円滑な事業承継を支援するという目的があります。
さらに、2018年度の税制改正では、2027年12月末までの期間限定で、新たに特例措置が設けられました。対象株式数上限等の撤廃や対象者の拡充など、さらに利用しやすい条件になっています。
事業承継税制の仕組み
事業承継税制を活用して一定の要件を満たした場合、後継者が取得した自社株式(非上場株式)にかかる相続税や贈与税の納税猶予を受けられます。その後、一定期間にわたって要件を満たした場合、猶予された税額は免除されるという仕組みです。
事業承継税制を適用するには多くの要件を満たさなければならず、特例承継計画の作成・提出と審査に通過することが必要です。適用を受けるためには、早めに準備をしたほうがよいでしょう。
有限会社における事業承継の注意点
有限会社における事業承継では、いくつか注意したい点があります。
まず、有限会社に限らず、事業承継には費用と時間がかかります。後継者がいる場合は、経営者としての資質を身につけるために十分な実務経験や時間をかけた教育が必要です。後継者がいない場合、適任者を見つけるには一定の時間を要するでしょう。いずれの場合も計画を立て、早めに着手することが大切です。
また、事業承継では経営方針がそのまま受け継がれるとは限らず、方向転換によって経営が不安定になるリスクもあります。継続的に安定的な事業運営ができるよう、承継後も見据えた計画を立て、後期者と話し合いながら進めていく必要があるでしょう。
有限会社の事業承継を円滑に進めよう
有限会社の事業承継は、ほかの形態の会社と同じく親族内承継や社内承継、M&Aによる方法で行われます。有限会社では株式を発行している場合としていない場合で事業承継の手続きは異なるため、どのように進めていくか、あらかじめ確認しておいてください。
事業承継を相続や贈与で行うときは、高額な相続税や贈与税がかかる場合があることを把握しておきましょう。事業承継税制の適用により、支払いの猶予・免除を受けられる場合もあります。
事業承継は時間がかかるため、長期的な視点で早めに計画を立て、取り組むようにしましょう。
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