- 更新日 : 2024年11月29日
事業承継で活用できる保険とは?種類やメリット、注意点まで解説
事業承継では、保険の活用が可能です。しかし保険といっても種類が多く、どのような保険に加入すべきか悩んでいる方も多いでしょう。
保険は企業ごとの課題に合わせて、必要な保険に加入することが重要です。今回の記事では事業承継での保険の活用方法や、メリット・注意点などを紹介します。
目次
事業承継で活用できる保険の種類
事業承継で保険を活用する際には、それぞれの企業ごとの課題に応じた保険に加入する必要があります。事業承継で活用できる保険の種類についてみていきましょう。
課題に応じて必要な保険が違う
ひとくちに事業承継といっても、課題や取り組むべき内容はそれぞれです。後継者が現在の代表者の親族なのか従業員なのか、また株式を生前贈与するのか相続で引き継ぐのかなど、さまざまな承継方法があります。そもそも後継者が決まっていないという企業も、少なくないでしょう。
企業ごとの課題によって取り組む承継方法も、加入する保険も違います。事業承継で保険を活用する際には、法人で加入する場合と個人で加入する場合があります。どちらも承継をスムーズに行うために加入しますが、重要なのは後継者の経済的な負担を軽くすることです。保険に加入する前に、何が課題か事前に整理しておきましょう。
個人で加入する保険
事業の後継者が法定相続人の場合は、個人で生命保険に加入することで後継者に必要な資金を残してあげられます。後継者は事業を引き継ぐために、ほかの株主から株式を買い取るための資金が必要です。この資金をどう確保するかが事業承継対策の1つですが、保険を活用すればスムーズに行えます。
通常、財産を相続で引き継ぐ際には、遺産分割協議などに基づいて相続人の間で分割します。しかし死亡保険金は遺産分割協議の対象とならず、保険受取人が固有の財産として受け取るため、後継者に資金をしっかりと残してあげられます。
また相続で受け継いだ財産は相続税の課税対象ですが、相続人が受け取る死亡保険金の場合は「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。さらに保険金は遺留分の算定の対象外のため、確実に後継者に資金を残してあげられます。個人での生命保険を活用することで、後継者の株式買取資金をスムーズに引き継げるでしょう。
法人で加入する保険
株式を生前贈与で後継者に引き継ぐ場合は、逓増定期保険・長期平準定期保険を活用する方法があります。会社の株式を後継者に引き継ぐためには、現在の株主から後継者が買い取る必要があります。
非上場の株式であっても、所定のルールに基づいて株価を計算して適正な価格で買い取らなければなりません。仮に適正な価格から大幅に安い価格で買い取ったり、無償で譲渡したりしてしまうと贈与税が課税されてしまいます。
業績のよい会社であれば中小企業であっても、株価は高額になるケースは珍しくありません。そのため後継者が株式を少しでも安く買い取れるように、株価を下げることも事業承継対策の1つです。
法人で保険に加入することで保険料を経費として計上できるため、利益を抑え株価を圧縮する効果があります。しかし2019年に制度が変更されており、損益算入の条件が厳しくなっているため、以前ほど事業承継対策への効果が低くなっている点には注意しましょう。
生前贈与ではなく、相続で後継者に株式を引き継ぐ場合、法人で終身保険・長期平準定期保険に加入する方法もあります。これらの保険に加入しておくことで、経営者に相続が発生した際に会社が保険金を受け取れます。
このように保険を活用することで、会社が受け取った保険金を使って株主から株式を買い取り、後継者の資金負担を軽減できるでしょう。
事業承継に備えて保険を活用するメリットは?
事業承継で保険を活用するメリットは、次の3つです。
- 相続税や贈与税の納税資金にできる
- 自社株の買取資金や事業の運転資金にできる
- 自社株の評価額を引き下げられる
それぞれの内容を見ていきましょう。
相続税や贈与税の納税資金にできる
生命保険を活用することで、後継者の相続税や贈与税の納税資金を確保してあげられます。後継者に事業を引き継ぐ際には、会社の株式を後継者に引き継がなければなりません。しかし相続で引き継いでも、贈与で引き継いでも後継者には税金が課税されます。
株価が高ければ高いほど税金は高くなり、数百万から数千万円になってしまう場合もあるでしょう。後継者が納税のための資金を確保することは簡単ではなく、不動産を売却したり借入をしたりするケースもあります。
しかし不動産の売却は思い通りに売れるとは限らず、また借入も利息がかかってしまいます。保険を活用すれば、後継者にスムーズに資金を残してあげられるでしょう。
自社株の買取資金や事業の運転資金にできる
保険に加入しておけば、保険金を万が一の際の運転資金や自社株の買取資金に利用できます。経営者が病気や事故などで急遽亡くなった場合など、十分に準備ができないまま事業承継を行うケースもあるでしょう。
中小企業では経営者の役割が非常に大きく、経営者がいなくなってしまうと事業に大きな影響を与えてしまう場合があります。売上が大きく減少したり、取引先への支払いが滞ったりするかもしれません。
このような際に備えて保険に加入しておけば、保険金を運転資金に利用できたり自社株式の買取資金に利用できたりします。万が一の際に備えられることも、保険のメリットです。
自社株の評価額を引き下げられる
保険を活用すれば、自社株式の評価を下げられます。非上場企業の株価は、上場企業と違って決められた株価はありません。そのため企業規模などに基づいて株価を算定しますが、この際に利益や純資産額などが大きく影響します。
保険に加入して保険料を払っておけば、利益や純資産額を抑えられます。その結果株価を下げられるため、後継者が株式を買い取る場合や相続で引き継ぐ際の税金を抑えられます。
事業承継に備えて保険を活用する場合の注意点は?
事業承継で保険を活用する際には、次のような点に注意しましょう。
- 生命保険の解約時期を検討する
- 保険料の支払いによるキャッシュフローも考慮する
- 損金の算入ルールに注意する
それぞれの注意点を見ていきましょう。
生命保険の解約時期を検討する
生命保険を中途解約した場合、解約した時期によっては損失になってしまう場合があります。生命保険を解約すると解約返戻金を受け取れますが、解約する時期によって解約返戻率は変わります。解約返戻率が低い時期に解約してしまうと、損失が出てしまうため注意しましょう。
保険料の支払いによるキャッシュフローも考慮する
保険に加入している間は毎年保険料を払う必要があるため、保険料の支払いによるキャッシュフローも考慮しましょう。あまり高額な保険に加入してしまうと、保険料の支払いが資金繰りを圧迫してしまうことにもなりかねません。
損金の算入ルールに注意する
保険に加入する際には、損金の算入ルールをよく確認しましょう。2019年7月に法人保険に関する税制が大きく変わりました。以前は解約返戻率が7割以上と高いだけでなく、損金を全額や半額算入できる保険もありました。
しかし新しい税制では、最高返戻率によって損金算入できる割合が細かく決められています。以前ほど損金として大きく算入できるわけではないため、加入する際には注意しましょう。
事業承継で考慮すべき他のリスク
事業承継で考慮すべきリスクはほかにもあります。代表的なリスクには、次のようなものがあります。
- 後継者不在、もしくは育成に時間がかかる
- 取引先や従業員から反発される
- 事業承継への対策が遅れてしまう
それぞれの内容について、見ていきましょう。
後継者不在、もしくは育成に時間がかかる
事業承継を行いたくても、後継者がいなければ承継できません。多くの企業が後継者不足に直面しており、廃業してしまう企業も少なくありません。また後継者がいた場合でも、教育には時間がかかるため苦戦している経営者も多いです。
経営者は後継者に会社の事業の将来性を見通す能力や、経営者としての資質を身に付けることを期待しています。このような育成にはマニュアルがあるわけではなく、育成に時間がかかる点には注意しましょう。
取引先や従業員から反発される
後継者が事業を引き継いだ際に、取引先や従業員から反発されてしまう可能性があります。とくに前の経営者の子どもが入社と同時に社長に就任すると、長く勤務しているほかの社員から反発されてしまうことが多いです。
従業員から反発されてしまうと社内の連携がうまくいかず、生産性が下がってしまいます。また従業員だけでなく、取引先との関係にも影響することもあります。取引先との関係が悪化すると、最悪は事業の継続にも影響を与えかねません。後継者への承継は周囲への関係も考慮しながら、慎重に行う必要があります。
事業承継への対策が遅れてしまう
経営者の承継に関する意識が薄く、承継対策が遅れてしまう可能性もあります。とくに中小企業では会社の所有者であるオーナーと代表者が同一であることが多く、ワンマン経営の会社がほとんどです。
そのため周囲が意見しにくく、事業承継の話題などが出しにくい場合もあるでしょう。ワンマン経営者で事業承継に関する意識が薄ければ、対策はいつまでたっても進みません。事業承継対策は時間がかかるため、早めに着手することが重要です。
保険を活用してスムーズに事業承継をしよう
事業承継では保険を活用することで、スムーズに対策できます。ひとくちに事業承継といっても会社ごとに課題はさまざまですが、後継者が株式を円滑に承継できることが重要です。そのためには株式の買取資金や、納税資金の確保が欠かせません。
保険を使えば後継者や会社に、スムーズに資金を残せます。また株価を下げる効果も期待できるため、後継者への株式移転を円滑に行えるでしょう。事業承継を行う際は、保険も活用することで効果的に対策できます。
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