- 更新日 : 2023年10月23日
起業後の企業生存率データ|50年を超える企業の特徴
企業生存率とは、起業した会社が廃業・倒産せずに経営を継続できる割合のことです。日本における企業生存率は起業から5年で81.7%と、諸外国と比較すると高い傾向にありますが、日本は開業率も低いという事情があります。
本記事では起業後の企業生存率を中小企業庁のデータをもとに解説し、50年を超える企業の特徴も紹介します。
目次
起業後の企業生存率の国際比較データ
日本における起業後の企業生存率は、欧米諸国と比較して高い傾向にあります。「中小企業白書2017」のデータによれば、起業後5年間で英国は57.7%、フランスは 55.5%の企業が市場から退出しているのに対し、日本は起業後5年間の退出は18.3%という低い数字です。
国によって統計やデータの性質は異なり、単純に比較はできないものの、日本の企業は高い割合で事業を継続しているといえるでしょう。
この背景には、日本において開業する企業の数が欧米諸国に比べて少ないという事情があります。起業後の生存率について、さらに開業率と廃業率の比較によって考察してみましょう。
参考:中小企業庁「中小企業白書 第2部 中小企業のライフサイクル」
起業後の企業生存率を開業率・廃業率でひも解く
起業に関して、日本は諸外国と比較して開業率・廃業率が低いのは特徴です。2001年から2015年にかけ、日本の開業率は5%前後、廃業率は4%前後と低い水準で推移しています。一方、英国やフランスの開業率はともに13%前後と高い数字です。
ここでは、日本の開業率・廃業率を見ながら起業後の企業生存率を解説します。
開業率・廃業率の推移
我が国の開業率は、1988年度をピークとして低下傾向にあり、2000年代を通じて緩やかな上昇傾向にありました。しかし、2018年度に再び低下傾向に転じ、2020年には5%台に回復しています。
廃業率は、1996年度以降増加傾向にあったものの、2010年度からは低下傾向になり、2020年には3.3%という数字に落ち着いています。
業種別の開廃業率
開業率・廃業率は、業種によって大きく異なります。
開業率は「宿泊業・飲食サービス業」が15%以上と最も高く、「生活関連サービス業・ 娯楽業」「電気・ガス・熱供給・水道業」と続いています。
一方、廃業率は同じく「宿泊業・飲食サービス業」が最も高く、「生活関連サービス業・娯楽業」「金融業、 保険業」と続く状況です。
「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」は 開業率・廃業率がともに高く、事業所の入れ替わりが頻繁な業種といえます。
反対に、開業率・廃業率がともに低い業種は「運輸業・ 郵便業」「鉱業・採石業・砂利採取業」「複合サービス事業」です。
都道府県別開廃業率
開業率・廃業率について、都道府県の違いもみていきましょう。開業率は沖縄県が8.8%と最も高く、それに埼玉県、東京都、福岡県、愛知県が続きます。
廃業率は大分県が最も高く、4.0%という数字です。そこに僅差で島根県、高知県、徳島県、佐賀県が続いています。
このうち青森県や秋田県などは廃業率が開業率を上回っており、対策が必要となる状況といえるでしょう。
国際比較すると日本の開廃業率は低い
日本の開業率・廃業率は、欧米諸国と比較すると低い水準にあります。それぞれの数値を比較してみましょう。
(開業率)
- フランス:12.1%
- 英国:11.9%
- 米国:9.2%
- ドイツ:9.1%
- 日本:5.1%
(廃業率)
- ドイツ:12.5%
- 英国:10.5%
- 米国:8.5%
- フランス:4.6%
- 日本:3.3%
各国ごとにデータの性質や統計の時期などは異なり、単純な比較はできませんが、そのような事情を差し引いても日本の開廃業率は低いといえるでしょう。
参考:中小企業庁「中小企業白書 第2部 中小企業のライフサイクル」
参考:中小企業庁「中小企業白書 小規模企業白書」
企業生存率が50年以上続く会社の特徴・ポイント
日本は諸外国に比べて廃業率が低いとはいえ、業種や地域により偏りがあり、廃業率の高い業種・地域が存在します。生存率を高めるには、長期にわたり経営を続けている企業の特徴を見ることがひとつの方法です。
ここでは、東京都が調査した、都内で創業から50年以上事業を継続している企業の特徴を解説します。
創業当時の製品・サービスを守りつつ、時代のニーズにあわせて改善・改良する
アンケートは、創業から50年以上続く製造業と宿泊・飲食業の合計10,068 社を対象に行われています。
「これまで存続してきた最大の要因」についての質問では、「創業当時の製品・サービスを守りつつ、時代のニーズ等にあわせて改善・改良したから」という回答が65.8%と、最も高い結果となりました。
また、従業員数が1〜3人の会社では、「創業当時の製品・サービス等をほとんど変えずに守ってきたから」という回答が3割程度みられています。
従業員の成長力・創造力の向上が欠かせない
今後、さらに50年継続していくための変革・革新(イノベーション)の必要性は、「必要である」と「ある程度必要である」を合わせた回答が7割以上を占める結果となっています。
重要だと考える今後の変革・革新は、「従業員の成長力・創造力の向上」が 38.1%で最も高くなりました。さらに「トップ・マネジメント能力強化」が 26.6%、「自社での新製品・サービスの開発」と「顧客の求めるものの変化への対応」がともに 25.4%という数字で続いています。
国内市場の縮小に対応していく
「直近10年の間に影響を受けた経営環境の変化」についても質問しています。最も多い回答が「国内市場の縮小」で、45.1%を占めました。次いで「原材料費の変動」が30.9%、「顧客の求めるものの変化」が30.7%と続いています。
このような状況で、現在までに変革したことで効果があったものは、「製造方法・販売方法」が10%で最も高く、次いで「主力商品・サービス」が8.7%、「販売先、顧客」が6.2%と続いています。
一方で、創業から現在まで守ってきたことで効果があったものは、「業種・業態」が9.7%で最も高く、次いで 「本業・中核事業」が9.3%、「経営理念(社是・社訓)」が8.0%という結果になりました。
早めに事業承継について考える
事業承継についても質問しています。後継者に対する事業承継の希望・方針は「子に継がせたい」が35.2%で、最も高い数字です。次いで 「まだ決めていない」が28.2%、「廃業の予定」が8.5%と続きます。
事業承継を希望している企業のうち、「後継者候補がいる」企業が約8割を占めており、後継者育成に必要な期間は、「10~15 年未満」が35.5%で最も高く、次いで「5~10年未満」が27.0%、「5年未満」が19.0%で、8割以上が15年未満での育成を目指しています。
また、「後継者の教育・成長」についてすでに準備・対策を行っているという回答も35.5%あり、早めに事業承継を考えている会社も少なくありません。
100年以上続く企業の年商規模・業種データ
2019年の調査によると、日本で100年以上続く企業は約3万3,000社にのぼります。前回の調査から、3年間で4,000社以上の増加という結果になりました。
これら老舗企業の全体に占める割合は2.27%となり、業種別では 「製造業」が25.1%と最も多く、次いで「小売業」が 23.4%、「卸売業」が 22.1%です。このうち、上場企業は500社以上判明しています。
年商は「1億円未満」が41.5%を占め、「1億〜10億円未満」が39.0%となっています。 都道府県別では、創業100年以上の老舗企業が最も多いのは「京都府」で、 4.73%という数字です。
参考:株式会社帝国データバンク「特別企画: 「老舗企業」の実態調査(2019年) 」
企業生存率を高めた起業をするためには?
日本の廃業率は低いとはいえ、毎年一定数の企業が廃業しているのが実情です。企業が存続できない原因はさまざまで、資金繰りの悪化や人手不足、後継者不足などがあげられます。また、経営者の経営に関する能力不足も廃業の原因のひとつです。
ここでは、これから起業する会社が存続率を高めるために必要なことを紹介します。
資金を確保して起業する
企業の生存率を高めるには、十分な資金を確保してから起業することが大切です。資金を十分に調達できていない段階で、「独立したい」という気持ちが先行することがあるかもしれません。しかし、そのような起業は資金不足に陥るリスクがあります。
起業してからしばらくは事業が安定せず、資金が不足することもありがちです。創業まもない企業は、すぐに資金調達ができるとは限りません。
まずは手堅く十分な資金を確保してから起業することが、企業生存率を高めるポイントです。
社会ニーズの高い事業を展開する
ただ利益を追求するだけの経営では、ニーズが移り変わる市場で生き残ることはできません。社会貢献度やニーズの高い事業を展開することで、取引先や顧客に支持され、企業生存率を高められます。
社会貢献活動を積極的に行う企業はブランドイメージを高め、投資家へのアピールもできます。顧客のファンを増やし、優秀な人材確保にもつながるでしょう。
また、価値観が多様化する現代は、市場のニーズもめまぐるしく変化します。常に新しい情報を捉え、顧客が求めているものを把握していくことが企業の成長・存続につながります。
企業生存率の高い経営を目指そう
日本の廃業率は欧米諸国と比較して低い水準ですが、開業率も低いという事情があります。全体に低い水準とはいえ廃業率の高い業種もあり、長期経営を目指すには十分な資金確保などの準備が欠かせません。社会貢献や市場のニーズを意識した経営も必要です。
これから起業を目指す際は、長期経営を実現している老舗企業の考え方や特徴が参考になります。記事も参考に、生存率の高い会社経営を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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