- 作成日 : 2025年7月24日
役員変更の法人登記ガイド|必要書類・役員変更登記申請書のテンプレート・費用も解説
会社の運営において、役員の変更は事業の成長や組織体制の変化に伴い、避けて通れない事象の一つです。そして、役員に変更があった場合、法務局への法人登記申請が法律で義務付けられています。この手続きを怠ると、過料の制裁を受ける可能性があるだけでなく、会社の信用にも関わる重要な問題です。
本記事では、経営者や担当者の方がスムーズかつ正確に手続きを進められるよう、役員変更の法人登記に関するあらゆる疑問を解消します。登記の種類から必要書類、申請方法、費用、さらには自分で手続きを行う場合のポイントや注意点まで解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
役員変更の法人登記とは
役員変更とは、株式会社における取締役、監査役、代表取締役などの役員について、その地位や登記事項に変更が生じることを指します。
役員変更の主な種類
- 新任:新たに役員が就任する場合
- 退任:役員が任期満了、辞任、解任、死亡などによりその地位を離れる場合
- 重任:役員が任期満了後も引き続き同じ役職に就任する場合
- 辞任:役員が任期中に何らかの理由で自らの意思により辞任する場合
- 氏名変更:役員の結婚や改名により氏名が変わった場合
- 住所変更:代表取締役の住所が変わった場合(代表取締役以外の役員の住所変更は原則として登記不要ですが、定款で代表取締役の住所を定めている場合は定款変更と登記が必要になることがあります)
- 役職変更:取締役が代表取締役に就任するなど、役職が変わる場合
合同会社では、「業務執行社員」の変更(加入、退社、氏名変更、住所変更など)が登記の対象となります。
これらの変更は、会社の意思決定機関や代表権に影響を与えるため、正確な登記が求められます。
役員変更登記が必要な理由
役員変更の登記は、単なる事務手続きではなく、法律で定められた重要な義務です。
法律上の義務
会社法第915条第1項により、役員変更が生じた日から2週間以内に申請することが義務付けられています。
取引の安全性の確保
登記は、会社の重要な情報を外部に公示することで、取引先や金融機関が会社の状況を正確に把握し、安心して取引を行えるようにする目的があります。登記事項は誰でも手数料を支払えば閲覧可能です。
登記を怠った場合のリスク
- 過料の制裁
正当な理由なく登記を怠った場合、代表取締役は100万円以下の過料が科される可能性があります(会社法第976条)。 - 信用の低下
登記が最新の状態でないと、取引先や金融機関からの信用を失う可能性があります。融資審査などで不利になることも考えられます。 - 事業活動への支障
長期間登記が放置されていると、実態のない「休眠会社」と見なされ、最悪の場合、法務局によって解散させられる「みなし解散」の対象となるリスクもあります。
信頼性の観点からも、速やかな登記手続きが不可欠です。
役員変更登記が必要となる役員の範囲
法人登記が必要となる役員の範囲は、会社形態によって異なります。
- 株式会社の場合
取締役、代表取締役、監査役。指名委員会等設置会社においては、執行役も含まれます。これらの役員の新任、退任、重任、辞任、そして代表取締役の住所変更、役員の氏名変更などが登記の対象となります。 - 合同会社の場合
業務執行社員の加入や退社、氏名変更、住所変更などが該当します。
自社の役員構成と登記事項を正確に把握し、適切な手続きを行いましょう。
役員変更登記の手続きの流れ
役員変更登記の申請方法は、主に「オンライン申請」と「窓口(書面)申請」の2種類があります。
オンライン申請
「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと 供託ねっと)」を利用します。事前に申請者情報の登録や電子証明書の取得が必要ですが、法務局へ出向く手間が省け、一部の登録免許税が軽減されるメリットがあります。操作に慣れが必要な場合もありますが、近年利用者が増加しています。
窓口(書面)申請
作成した申請書と添付書類を、管轄の法務局に直接持参するか、郵送で提出します。書類に不備がなければ、通常1週間から2週間程度で登記が完了します。郵送の場合は、書留郵便で送付し、返信用の封筒と切手を同封することで登記完了後の書類を受け取ることができます。どちらの方法を選ぶにしても、申請期限(変更が生じた日から2週間以内)を遵守することが重要です。
役員変更登記の必要書類一覧
役員変更登記に必要な書類は、変更の種類や取締役会設置会社かどうかなどによって大きく異なります。必ず事前に法務局のウェブサイトで確認するか、司法書士にご相談ください。
全般的に必要となる可能性のあるもの
- 役員変更登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 委任状
新任の場合(取締役・監査役など)
- 株主総会議事録など
- 就任承諾書
- 印鑑証明書
- 本人確認書類
- 定款
退任の場合
- 株主総会議事録など
- 辞任届
- 死亡を証する書面(役員が死亡した旨の記載のある戸籍(除籍)・死亡届など) ※死亡の場合
重任の場合
- 株主総会議事録など
- 就任承諾書
辞任の場合
- 辞任届
氏名・住所変更の場合 ※必要に応じて
- 役員の氏名変更
氏名の変更を証する書面(戸籍謄本、戸籍抄本など) - 代表取締役の住所変更
住所移転の事実を証明する書面(代表取締役の住民票など)
これらの書類は、ご自身で役員変更登記を行う場合でも、司法書士に依頼する場合でも基本的には同じです。法務局のウェブサイトには、各ケースに応じた必要書類の一覧や記載例が掲載されています。
役員変更登記申請書のテンプレート
役員変更登記申請書は、登記手続きの中心となる書類です。法務局のウェブサイトで、各種変更に対応した申請書のひな形(テンプレート)が提供されています。
また、マネーフォワード クラウドでも、役員変更登記申請書のテンプレート・ひな形を無料で提供しています。ぜひダウンロードしてご活用ください。
役員変更登記にかかる費用
役員変更登記を行う際には、いくつかの費用が発生します。
まず、法務局へ支払う登録免許税は申請1件につき基本的に1万円ですが、資本金の額が1億円を超える会社の場合は3万円となります。
その他、印鑑証明書や戸籍謄本、戸籍抄本、住民票といった必要書類の取得費用や、申請を郵送で行う場合の郵送費などの実費も考慮に入れる必要があります。
これらの手続きを司法書士に依頼する場合には、これらの実費とは別に専門家への報酬が必要となります。司法書士への報酬は、役員変更の内容の複雑さや会社の規模などによって異なりますが、一般的には数万円程度からが目安となるでしょう。
役員変更登記は自分で行う?専門家に依頼する?
役員変更の登記手続きは、自分で行うことも、司法書士などの専門家に依頼することも可能です。ここでは、両者の特徴を比較検討してみましょう。
自分で役員変更登記を行う場合
自分で役員変更登記を行う最大のメリットは、専門家への依頼費用を抑えられる点です。登録免許税などの実費はかかりますが、司法書士への報酬は発生しません。また、手続きを自分で行うことで、会社の登記事項や会社法に関する知識が深まるという副次的な効果も期待できます。
しかし、注意点もいくつかあります。まず、必要書類の収集や作成、申請書の記入などに手間と時間がかかります。特に、会社法や商業登記法に関する専門知識がない場合、書類の不備や記載ミスが生じやすく、法務局から補正指示を受けて余計に時間がかかることもあります。登記期限(変更後2週間以内)を徒過するリスクも考慮しなければなりません。
司法書士などの専門家に依頼する場合
司法書士に役員変更登記を依頼する最大のメリットは、手続きの確実性と迅速性です。専門家である司法書士は、最新の法令や実務に精通しているため、書類作成から申請までを正確かつスムーズに進めてくれます。これにより、経営者や担当者は本来の業務に集中できます。
デメリットとしては、司法書士への報酬が発生する点です。費用相場は、役員変更の内容や会社の規模によって異なりますが、一般的には数万円から十数万円程度が目安となります。ただし、手続きの不備によるリスクや時間的コストを考慮すると、結果的にコストパフォーマンスが高い選択となる場合も少なくありません。信頼できる司法書士に相談し、見積もりを取ることをお勧めします。
役員変更登記の法改正などの最新動向
会社法や商業登記法は、社会経済情勢の変化に対応するため、適宜改正が行われます。これらの法改正は、役員変更登記の手続きや必要書類に影響を与える可能性があります。
最新の情報をキャッチアップするためには、法務局のウェブサイトを定期的に確認することが基本です。また、官報や信頼できる法律情報サイト、司法書士などの専門家が発信する情報も参考になります。特に、株主総会の運営方法や役員の責任範囲など、登記手続きの前提となる会社法の内容にも注意を払うことが重要です。法改正の内容を正確に理解し、適切な対応を心がけましょう。
役員変更登記を忘れずに行いましょう
役員変更の登記は、単なる事務手続きではなく、会社の透明性と信頼性を内外に示すための法律上の義務です。登記を怠れば過料の制裁を受けるリスクがあるだけでなく、取引先や金融機関からの信用低下にも繋がりかねません。特に、役員の任期管理を怠り、重任登記を失念するケースは後を絶ちません。
この記事で得た知識を活かし、役員変更が生じた際には、速やかに、そして正確に登記手続きを進めてください。もし手続きに不安を感じる場合や、本業に集中したい場合には、無理をせず司法書士などの専門家に相談することも有効な手段です。適切な対応を行い、健全な会社運営を継続していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
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