- 作成日 : 2025年7月18日
女性が農業で起業するには?ビジネスモデル・支援制度・始め方を解説
認定農業者や農業法人経営における女性の参画が増加しており、農業を起業の選択肢として真剣に検討する女性も増えていると考えられます。
自然と向き合いながら、自分の価値観に合った働き方を実現できる農業は、子育てや暮らしと両立しやすく、やりがいも大きい分野です。「未経験だから不安」「体力的に大丈夫?」という声もありますが、今は支援制度や学びの機会が充実し、女性の活躍を後押しする環境が整いつつあります。本記事では、農業起業を目指す女性に向けて、メリット、成功のポイント、支援策、始め方を解説します。
目次
農業で起業する女性が増えている
近年、認定農業者(効率的かつ安定的な農業経営を目指す農業者)に占める女性の割合が増加傾向にあり、農業を起業の選択肢として検討する女性が増えつつあります。
出典:第2節 力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保:農林水産省
女性の働き方が多様化するなかで、農業に魅力を感じて挑戦する動きが広がっており、国も女性の農業参入を支援する制度を拡充しています。ここでは、農業における女性の現状と、起業を目指す背景について解説します。
女性の農業従事割合は?
農林水産省が発表した「令和4年度 食料・農業・農村白書」によると、基幹的農業従事者に占める女性の割合は39.2%となっています。
出典:第2節 力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保:農林水産省
この割合は近年減少傾向にあるものの、依然として全体の約4割を占めており、農業分野における女性の重要な役割を示しています。多くの女性が農作業や経営に携わり、特に家族経営体においてその存在感は大きいと言えます。
働き方や価値観の変化による農業への関心の高まり
近年は、都市部での働き方に疑問を感じ、より自然に寄り添った生活を求めて農業に目を向ける女性が増えています。自分のペースで仕事ができる点や、子育てと両立しやすいといった側面も、農業が注目される理由の一つです。また、食や健康、地域とのつながりといった要素に価値を見出す女性も多く、従来の「力仕事中心」のイメージとは異なる新しい農業スタイルが受け入れられつつあります。
「農業女子プロジェクト」による後押し
こうした女性の活躍を後押しするため、農林水産省は2013年に「農業女子プロジェクト」を発足しました。企業や大学と連携し、女性農業者が使いやすい農機具や作業服の開発、情報発信、イベント開催など、多方面で活動を展開しています。たとえば、アウトドアメーカーと連携した高機能かつおしゃれな作業着の開発や、フリマアプリを活用した農産物・加工品の販路開拓支援が行われています。
2025年1月時点で約1,070名以上の農業女子プロジェクトメンバーが参加しており、女性同士のネットワークづくりや学び合いの場としても活用されています。このように、女性が農業で活躍できる土壌が整いつつある今、起業を目指す女性にとって農業は現実的な選択肢として確実に広がりを見せています。
出典:農業女子PJ
「共同参画」2025年3・4月号 | 内閣府男女共同参画局
女性が農業で起業するメリット
女性が農業で起業することには、柔軟な発想力や消費者視点を活かした商品開発など、多くの可能性があります。さらに働き方の自由度や生活の質向上といった側面でも魅力があり、女性ならではの視点が農業ビジネスに新たな価値を生み出しています。
女性個々のの強みが活かせる場合がある
農作物の加工やブランディングにおいては、丁寧な対応やきめ細やかな配慮を発揮することで、付加価値向上につながる場合があります。消費者目線に立った商品づくりや、シェフ・メーカーとの協業においても、柔軟な発想で対応することで新たな展開が期待できます。流行や新情報への感度を活かすことで、話題性のある商品開発につなげることも可能です。
さらに、コミュニケーション能力を活かすことで地域との連携や農家同士のネットワークづくりを進めやすく、情報交換や共同企画によって事業拡大の機会を広げています。直感力や柔軟な発想はビジネスに活かされやすく、経営判断の場面でもプラスに作用する可能性があります。
働きやすさとやりがいを感じやすい
農業は、工夫次第で自身の裁量で仕事を進められる側面があり、従来の会社員生活とは異なる精神的な満足感を得られると語る人もいます。責任は伴いますが、そのぶん達成感も大きく、日々の仕事にやりがいを感じられるようになるでしょう。自分の判断で事業を進められることは、大きな満足感につながります。
家庭と両立しやすい働き方が可能
農業は作物の生育に応じて農閑期があるため、比較的柔軟なスケジュール調整が可能となる場合もあります。これにより、家庭との時間を確保しやすいと感じる人もいます。
育児や介護と両立したい女性にとって、農業は柔軟な働き方を追求できる選択肢の一つとなり得るでしょう。
実際に、農業への転身後に家族との関係が良好になったという声も聞かれます。
健康的な生活リズムを実現できる
早朝から体を動かす生活は、自然と規則正しい生活リズムにつながります。デスクワークによる運動不足を解消し、適度な身体活動によって心身のリフレッシュにつながることも農業の利点の一つです。生活全体を見直したいという女性にとって、農業は心身の健康と向き合い、ライフスタイルを再構築する働き方として注目されています。
女性の農業起業におすすめのビジネスモデル
女性が農業で起業するにあたり、自身の関心やライフスタイルに合った事業形態を選ぶことが大切です。ここでは、女性ならではの視点や強みを活かしやすい、実現可能性の高いビジネスモデルを5つ紹介します。
直販型マルシェ・オンライン販売事業
農産物を自ら生産し、直販所やマルシェ、オンラインショップで販売するモデルです。近年はECサイトやSNSを活用することで販路の拡大がしやすく、フリマアプリや農産物専門のECモールなどの活用が進んでいます。。梱包の工夫や手書きメッセージを添えるなど、きめ細やかなサービスがリピーターの獲得に効果を発揮します。
農産物加工品の製造・販売事業
地域の農産物や自家栽培の野菜・果物を使ったジャム、ピクルス、焼き菓子などの加工品製造も女性・男性問わず人気の高い分野です。保存性が高く付加価値をつけやすいため、少量生産でも利益を出しやすいのが特徴です。地域資源を活かした商品開発に取り組むことで、観光地や道の駅、ECサイトなど販路も多様化します。
体験型観光農園・アグリツーリズム
いちご狩りや芋掘り体験、農業体験教室などを提供する体験型観光農園は、都市住民や子育て世代に人気があります。きめ細やかなサービス精神や接客力を活かし、顧客満足度の高い施設運営が可能です。季節に応じたイベントの企画、カフェ併設などと組み合わせることで、収益性と集客力の両立が図れます。
カフェ・レストラン併設型の農園経営
自家農園で育てた食材を用いたランチやスイーツを提供する農家カフェも、近年注目を集めています。きめ細やかな料理や盛り付けのセンスを活かし、「安心・安全・おいしい」を体現できる場を提供できます。オーガニック志向や地産地消を重視する消費者に向けた発信も効果的で、ブランディング次第で広域からの集客も見込めます。
ベビーリーフ・ハーブなどの室内栽培ビジネス
農地が少ない、体力的な負担を減らしたいという方には、ベビーリーフやハーブ、マイクログリーンの室内水耕栽培が適しています。狭いスペースでも始められ、収穫サイクルが短いため売上が立ちやすいのが特徴です。飲食店への卸売や、サブスクリプション型の家庭用パッケージ販売など、都市型ビジネスとしても拡張可能です。
女性の農業起業を支援する制度・補助金
女性が農業分野で起業を目指す際には、資金・設備面の支援だけでなく、労働環境や人脈形成を後押しする制度も整備されています。ここでは、農業起業を後押しする補助制度や、女性ならではの支援体制について解説します。
起業準備に活用できる補助金や融資制度
新規就農者への代表的支援として「農業次世代人材投資資金」があります。これは49歳以下の新規就農者に対し、研修段階で年150万円(最長2年)、経営開始後にも年150万円(最長3年)を給付する制度で、未経験者の生活支援を目的としています。
出典:就農準備資金・経営開始資金:農林水産省
さらに、]「強い農業づくり総合支援交付金」は、産地基幹施設等支援タイプ・食料システム構築支援タイプなどがあり、対象者は、都道府県、市町村、農業協同組合、農事組合法人、農業生産法人、民間事業者、その他農業者の組織する団体など、多岐にわたります。
出典:2025年度強い農業づくりの支援に係る関係通知について:農林水産省
また、「農地耕作条件改善事業」では農地整備や農道の改良、高収益作物への転換支援が受けられ、農業の基盤づくりにも活用できます。
加えて、農業分野に限定しない「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」などの中小企業支援制度も法人化した農業経営に利用可能です。融資面では、日本政策金融公庫の「女性・若者/シニア起業家支援資金」が低利で利用でき、資金調達の手段として広く活用されています。
女性の活躍を後押しする就農支援制度
女性農業者の就労環境整備を目的とした「女性が変える未来の農業推進事業」では、トイレ・更衣室・託児スペースの整備、女性リーダーの育成研修、グループ活動の支援などが行われています。現場で働きやすい環境が整うことで、長期的な定着と活躍が可能になります。
また、「女性が変える未来の農業推進事業」では、各地域に応じた支援策が実施されており、育児と農業の両立支援、地域の女性農業者グループの活動推進、リーダー育成など多面的な支援が展開されています。
女性農業者ネットワークと地域の取組
農林水産省が推進する「農業女子プロジェクト」では、女性農業者同士のネットワーク形成や、企業・大学との協働による商品開発、情報発信などを支援しています。たとえば、作業服メーカーと連携した衣類の開発や、フリマアプリでの販売促進など、実践的な取り組みが拡大中です。
さらに、地方自治体も女性による農業起業を地域活性化の柱として積極的に支援しています。
長野県では、「農業女子経営力アップ支援事業に」などの取り組みを通じて、女性が中心となって行う6次産業化や地域ブランドの構築に対して助成金を交付しています。地元の農産物を活用した加工品開発や、道の駅や観光施設等での販売支援にも力を入れています。
出典:長野県農業再生協議会(担い手・農地部会)-支援のご案内
福岡県では、「女性農林漁業者の起業活動支援事業」などを実施しています。起業活動に取り組む女性農林漁業者を対象に、起業に必要な知識を学べる「起業家育成塾」の開催や、個別課題解決のための専門家派遣などを行っています。
出典:農業経営支援策活用ガイドを更新しました(R7.4) – 福岡県庁ホームページ
鹿児島県では、「女性農業者チャレンジ活動」を通じて、女性の就農や新規起業を促すための支援メニューを提供しています。農産物の直売や農家民宿、観光農園といった地域密着型のビジネスに対し、施設整備や商品開発にかかる費用を補助しており、観光業と連携した農業経営モデルの創出に注力しています。
出典:鹿児島県/農村女性の活躍
このように、各地の実情に応じた多様な支援策が展開されており、女性による農業起業が地域に新たな価値をもたらす存在として期待されています。
農業で起業を目指す女性が知識・スキルを身に着ける方法
農業で起業する女性にとって、知識と技術の習得は成功への第一歩です。農業には専門性が求められるため、未経験者であっても計画的に学ぶことで不安を軽減し、実践力を備えたスタートが可能になります。以下に主な学びの方法を紹介します。
農業大学校や公的研修機関で体系的に学ぶ
各都道府県に設置されている農業大学校や農業者研修施設では、栽培技術・経営・農薬の使い方などを総合的に学べます。座学と実習の両方が含まれており、未経験者でも基礎から応用まで段階的にスキルアップできる環境が整っています。コース内容も多様で、通学形式から短期集中講座まで選択肢が豊富です。
農業法人や先進農家での現場研修を活用する
地域の農業法人や意欲的な個人農家では、インターンや研修生として現場経験を積める制度が整っています。農地管理や収穫、出荷作業などを実際に体験することで、書籍や講座では得られない感覚的な学びが身につきます。こうした研修先は、将来的に農地や人脈の紹介を受けるチャンスにもなります。
「農業次世代人材投資資金(準備型)」で生活支援を受けながら学ぶ
農林水産省が実施している「農業次世代人材投資資金(準備型)」は、研修期間中に年間最大150万円の給付金を受けられる制度です。農業法人や認定された先進農家での実地研修が対象となり、仕事を辞めて就農準備を進めたい女性にとって、経済的な不安を軽減する有効な手段となります。
オンライン講座やセミナーで柔軟に学ぶ
近年は、スマート農業や6次産業化、農業経営などをテーマとしたオンライン講座も増えています。育児や仕事との両立を目指す女性にとって、空いた時間で学べるこの方法は非常に有効です。また、全国規模の就農セミナーや女性限定の相談会も開催されており、情報収集とネットワーク形成の場としても活用できます。
女性が農業で起業する際の注意点と準備
農業で起業して安定的に事業を続けていくには、知識・資金・体調管理などの面で入念な準備が求められます。女性の場合、生活との両立や体力の使い方も重要な要素となります。この章では、就農前の計画と、実際に現場に立った後の工夫について解説します。
農業に必要な知識と技術は就農前に身につけておく
農業を始めるには、基礎的な知識と実践的な技術が不可欠です。農業大学校や各都道府県の農業研修制度を活用することで、栽培技術や経営知識を体系的に学ぶことができます。先進農家でのインターン制度もあり、現場でのノウハウを得る場として有効です。農業次世代人材投資資金を使えば、研修期間中の生活費を補填でき、学ぶことに集中できます。
資金計画は初期費用と生活費を数年単位で確保する
農業を始めるには、農地の取得・機械の導入・資材の購入など、初期費用が多くかかります。また、収入が安定するまでの生活費も考慮して、最低でも2〜3年分の資金を確保する計画が必要です。国や自治体の補助金・融資制度を活用することで、資金の負担を軽減しながら準備を進めることができます。
農地探しは農地バンクや地域との連携が重要
農地は一般の不動産のように自由に借りられるものではなく、耕作目的の許可が必要です。都道府県が指定する農地中間管理機構(通称:農地バンク)を通じて情報を集めたり、地域の農家に相談して遊休農地を紹介してもらうなど、早い段階での調査と人脈づくりが欠かせません。また、既存農家の事業を継承する形(M&A)も、設備や販路をそのまま引き継げる点から現実的な選択肢になります。
長く続けるには身体負担を減らす装備と環境づくりが必要
女性が農業を長く続けるためには、日焼けや怪我への対策、作業姿勢への配慮が欠かせません。UVカットの帽子や作業服、アームカバーなどを使い、日々の作業による疲労を防ぎましょう。また、重いものを扱う作業にはアシストスーツや昇降式作業台の導入が効果的で、これらは自治体の補助金対象になる場合もあります。無理なく続けられる作業環境を整えることが、長期的な安定につながります。
孤立を防ぎモチベーションを保つには人とのつながりが大切
農業は一人で抱え込まず、周囲と協力しながら行うことで負担が軽くなります。
農協や普及センター、地域の先輩農家との関係を築き、困ったときに相談できる体制を整えておくことが重要です。また、同じ志を持つ農業女子の仲間と交流することで、情報共有や精神的な支えにもつながります。SNSでの日々の発信も、共感と励みを得られる手段となるでしょう。
女性の農業起業が広がる今、準備と支援で一歩を踏み出そう
自然に寄り添いながら、自分のペースで働ける農業は、子育てや暮らしと両立しながらも、やりがいを感じられる職業です。「農業は難しそう」と感じるかもしれませんが、国や自治体の支援制度、女性向けのネットワーク、学びの場がしっかり整ってきています。
直販、加工品づくり、観光農園やカフェ経営など、女性ならではのアイデアを生かしたビジネスモデルがたくさんあります。知識やスキルがなくても、農業大学校や研修制度、オンライン講座など、ゼロから学べる環境も充実しています。
「何か新しいことに挑戦したい」「自分らしい働き方をしたい」と考えているなら、農業での起業はきっとその答えのひとつになるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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