- 作成日 : 2025年3月27日
観光協会の法人化とは?DMOの概要や法人化の事例を解説
観光協会の法人化とは、任意団体である観光協会が一般社団法人などの法人格を取得することです。インバウンド需要の拡大に伴い、観光業に注力する自治体が相次いでいるなか、観光協会の法人化が進んでいます。
本記事では、観光協会の法人化やDMO(観光地域づくり法人)の概要、法人化した事例、そして今後の課題についてご紹介します。
観光協会の法人化とは
観光協会の法人化とは、地域の観光協会を法人として設立・運営することを意味します。法人化は義務ではありませんが、法人格を取得することで、以下のような利点が生まれます。
- 旅行業者としての事業展開:観光協会が旅行業者としてパッケージツアーの企画・販売が可能となる
- 自治体補助金などの直接申請:協会自らが自治体の補助金などを申請できるため、資金調達がスムーズになる
- 観光イベントの主催:観光事業者と連携し、観光イベントの企画や主催が可能となる
- ガバナンスの強化:法的要件を満たすことで、組織運営における透明性と信頼性が向上
従来は、一般社団法人や公益社団法人として法人化するか、または自治体の観光課内に協会を設置するケースが一般的でした。近年はDMO(観光地域づくり法人)制度の活用を選ぶという例も見られます。
観光協会の法人化を後押しするDMOの登録制度
DMO(観光地域づくり法人)とは、「Destination Management Organization/Destination Marketing Organization」の頭文字を取った略称で、観光地へ集客し、観光を通じた地域経済の活性化を目的としています。なお、似た団体としてDMC(Destination Management Company)も存在し、こちらはマーケティングよりも実際に観光地を訪れる方の体験をマネジメントすることを目的としています。
もともと欧米で始まった制度ですが、日本では2015年からDMOの登録制度が開始しました。DMOとして登録するためには、以下の5つの要件を満たす必要があります。
- 多様な関係者との合意形成:DMOを中心に観光地域づくりを実施するため、多様な関係者との合意が形成されていること
- データ収集・戦略策定とPDCAサイクルの確立:データを継続的に収集し、戦略を策定したうえで、KPIの設定やPDCAサイクルが確立されていること
- 観光関連事業との整合性とプロモーション:関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性を調整する仕組みづくりおよびプロモーションが行われていること
- 法人格取得と責任体制の明確化:法人格を取得し、最終的な責任者の明確化や CMO、CFO を置く体制が整っていること
- 安定的な運営資金の確保:運営資金が安定的に確保されていること
これら5つの要件をすでに満たしている法人は、申請書を提出し観光庁の審査を通過すると「登録DMO」として認定されます。なお、今後認定を目指す法人は「候補DMO」と分類されます。また、DMOはターゲットエリアの規模によって、以下3つに分類されます。
- 広域連携DMO:地方ブロック全体を統合して、観光地域としてマーケティングなどを実施する
- 地域連携DMO:複数の地方公共団体が連携し、観光地域としてのマーケティングなどを推進する
- 地域DMO:基礎自治体(単独市町村)の枠内で、観光地域としてのマーケティングなどを展開する。
観光協会が法人化した主な事例
過去数十年の間に、全国各地で観光協会の法人化が進み、地域の観光業の振興に寄与してきました。ここでは、法人化した事例をご紹介します。
ニセコ町
国際的な観光地として知られる北海道のニセコ町では、2003年に自治体と住民が50%ずつ出資して観光協会を株式会社として立ち上げました。法人化前は、宿泊客が最盛期の半分以下にまで減少し、年間数千万円を投じた観光施策も十分な成果を上げられず、責任の所在も不明瞭でした。
法人化後は、効果的な観光施策が打ち出され、全国でもいち早く外国人旅行者を呼び込む取り組みを実施することで、ニセコを現在の世界的リゾート地へと成長させました。
尾道市
広島県尾道市は、江戸時代には北前船で栄華を誇った歴史ある港町です。しかし、時代の流れとともに人口減少が進み、多くの空き家が発生していました。
そこで「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」が立ち上がり、古民家などの空き家をゲストハウスなどに再生した結果、100軒以上の空き家が有効活用され、150人以上が移住するなど地域活性化に大きく寄与しました。
観光協会が法人化した影響
観光協会の法人化推進は現在も進行中です。コロナ禍後のインバウンド需要の増加に伴い、DMOに登録する観光協会も増え続けています。一方で、法人化の課題として以下のような点が挙げられます。
- 人材不足
- 予算や財源の確保
- マーケティング施策やDXの推進
- インバウンドおよびオーバーツーリズム対策の強化
特に、人材確保や各種施策に関するノウハウが不足しているケースが目立ち、今後はマーケティング分野の人材登用や、民間のマーケティング会社との連携強化が求められるでしょう。
観光協会の法人化は地域経済の活性化の鍵の一つ
国内外から多くの観光客が各地の観光地を訪れるなか、地方の人口減少は深刻な課題となっています。任意団体として運営されてきた観光協会は、法人格を持たないため、契約の主体となることができず、資金調達や組織運営の面で課題を抱えていました。
観光協会を法人化することで、より主体的な事業展開が可能となり、地域経済の活性化にもつながる可能性があります。今後は、法人化によるメリットを最大限に活かしながら、地域ごとの課題に応じた観光施策の強化が求められるでしょう。
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