- 作成日 : 2025年5月1日
創業融資の現地調査とは?日本政策金融公庫によるチェックポイントを解説
創業融資の申請にあたっては、日本政策金融公庫による現地調査が行われることがあります。これは、提出された事業計画が実際の営業実態と整合しているかどうかを確認するための重要なプロセスです。
本記事では、創業融資における現地調査の目的やチェック項目、事前に備えておくべきポイントについて詳しく解説します。
目次
創業融資の現地調査とは
創業融資における現地調査とは、日本政策金融公庫の担当者が、申込者の事業予定地や店舗、事務所を実際に訪れて確認を行う審査の一環です。調査の目的は、事業の実態や、提出された書類と現場の内容に食い違いがないかを見極めることにあります。また、周辺環境や立地条件、設備の状況なども、事業の見通しを判断するうえで重要な要素とされています。
とりわけ立地や設備面は、事業の継続性や収益性に直結するため、日本政策金融公庫の担当者は現地で慎重に確認を行うのが一般的です。
なお、創業融資全体の流れやポイントについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
創業融資の現地調査の流れ
創業融資の現地調査の一般的な流れは、以下のとおりです。
日程調整
まず、日本政策金融公庫の担当者から申込者に連絡が入り、現地調査の日程を調整します。通常は事前連絡が行われますが、まれにアポイントなしで訪問されることもあるため、いつでも対応できるよう準備しておくとより安心でしょう。
現地への訪問
調整した日時に、日本政策金融公庫の担当者が実際の店舗や事業所を訪れます。案件によっては複数名で訪問する場合もありますが、基本的には1名で行われることがほとんどです。
外観確認
到着後は、まず看板や表札などの有無、建物の外観・形態、周辺の立地条件を確認します。実態と申請内容が一致しているかどうかが、最初のポイントです。加えて周辺環境、業態に合った立地条件化なども確認されます。
内部確認
必要に応じて内装や設備、在庫状況などを確認します。とくに飲食店など設備が重要な業種の場合は、実際に使われる厨房機器や内装工事の進捗状況も注視されます。
ヒアリング
申込者が現地に立ち会う場合、事業内容や準備状況について質問を受けることがあります。事業計画書との整合性を見られるため、書類との食い違いがないよう注意しましょう。
記録作成・調査終了
必要な写真撮影やメモを取った後、日本政策金融公庫の担当者は審査資料として持ち帰ります。ここまでの流れで明らかな問題がなければ現地調査は終了です。
日本政策金融公庫による現地調査のチェックポイント
日本政策金融公庫の融資審査では、書類審査に加えて現地調査が重要な位置づけを占めます。実際に訪問することで、書類からでは分からない事業の実態や周辺環境を把握できるためです。
特に、以下のポイントが注目されます。
店舗や事務所の実態
日本政策金融公庫の担当者は、申請者が提出した住所や間取り図をもとに実際に現地へ赴き、店舗や事務所が実在するか、また提出書類と内容が一致しているかを確認します。
申請書類に記載された住所に店舗や事務所が存在しない場合、または申請内容と実態が異なる場合は融資審査に落ちる可能性が高くなるため、注意しましょう。
業種が合っているか
日本政策金融公庫の担当者は、申請者の事業計画が選択した業種に適しているかを評価します。一般飲食店として申請しながら風俗営業的な要素がある場合など、申請した業種と異なる業態の特徴が見られる場合は、虚偽申請の疑いが生じ、融資審査に悪影響を及ぼす可能性があるでしょう。
どのような周辺環境か
事業の収益性を判断するうえで、周辺環境とのマッチングも大きな要素です。周辺にどのような顧客層が住んでいるか、競合店が多いか少ないか、交通アクセスは良好かなどがチェックされます。
事業計画書で「客単価の高い高級路線」を想定していても、周辺が低所得層の多い地域や、ターゲットがほぼ存在しない環境であれば、計画の実現性が低いとみなされるかもしれません。反対に、想定顧客層と立地条件が合致していれば、審査上プラスに働くことがあります。
創業融資の現地調査でよくある質問
創業融資の現地調査に関して生じやすい疑問について、Q&A形式で紹介します。実際の現地調査で慌てないよう、疑問点は事前に解消しておきましょう。
現地調査はすべての事業者が対象?
日本政策金融公庫の創業融資を利用する場合、原則としてすべての事業者が現地調査の対象です。ただし、実際には書類審査で十分と判断されるなど、状況によっては実地訪問が行われないケースもあります。
しかし、すべての業者が対象である以上、いつ調査が入っても問題ないように準備しておくのが賢明です。
自宅兼事務所も現地調査が実施される?
自宅兼事務所を開業拠点とする場合でも、原則として現地調査の対象です。看板や表札がなくても、名刺や書類上の住所と合致しているか、業務スペースがあるかなどを確認されます。
特に自宅兼事務所の場合は、「本当にビジネスを行える環境が整っているのか」を重視される傾向があります。
現地調査の事前連絡はある?
多くの場合、融資担当者から電話やメールなどで事前に日程調整の連絡があります。しかし、中にはアポイントなしで突然訪問されるケースも報告されています。日本政策金融公庫の担当者によって対応が異なるため、常に「訪問があるかもしれない」という前提で準備しておくと安心でしょう。
現地調査は事前準備が必要?
現地調査は、本来特別な準備が必要なものではありません。順調に開業に向けて準備を進めていれば、問題ないケースがほとんどです。店舗や事務所の設備は一通り揃っているか、内装工事のスケジュールをきちんと管理しているかなど、計画の進捗がしっかりわかる形で整備しておきましょう。
また、店舗や事務所があることがわかるように、可能な限り看板等を出しておくことが望ましいでしょう。まだ看板を出していない場合でも、簡易的なものやシールで社名や店舗名を表示するなど、「ここが事業拠点である」ことがわかる工夫をしておくとスムーズです。
現地調査の対応は必要?
多くの場合、日本政策金融公庫の担当者が外観などを一通りチェックして終了するため基本的には対応は必要ないとされています。しかし、事業の実態が外からでは把握しにくいと判断された場合、内部の様子を確認したり、現地でヒアリングが行われたりすることもあります。
また、店舗型ビジネスであれば工事の進捗状況や設備の状況を確認される場合もあるため、調査当日は柔軟に対応できるようにしておくとよいでしょう。
賃貸借契約を締結する前でも現地調査は実施される?
賃貸借契約の締結前でも、予定地として申請した場所に対して現地調査が実施されるケースがあります。この場合、建物内部には立ち入れないため、日本政策金融公庫の担当者は外観や周辺の立地状況を確認し、事業計画との整合性を判断します。
もし契約前で設備がない状態でも「契約予定がある」「この物件で具体的に開業する意志がある」ことが伝わるように説明できれば、大きな問題にはなりません。
事務所や店舗の改装工事中でも現地調査は実施される?
改装工事の途中段階でも、現地調査が行われる場合があります。工事中であるということ自体が、融資審査で問題視されることはありません。むしろ、実際に工事が進んでいることは開業への本気度を示す証拠になるため、融資審査にはプラスに働くことが多い傾向です。
ただし、工事の進捗状況と事業計画が大きく矛盾していると「計画がずさん」だと見なされかねないため、工程の説明ができるようにしておきましょう。
創業融資の実行後も現地調査は実施される?
融資実行後に改めて現地調査が行われることは、通常ありません。ただし、設備資金として大きめの融資を受けた際や、申請時の書類と実態に乖離が疑われるケースなどでは、追加の現地調査が行われる可能性があります。
その場合の現地調査では、設備導入の有無や開業後の営業状況を確認したいという意図があるため、融資後も計画どおりに事業を進めていることを示せるようにしておきましょう。
追加融資の場合も現地調査は実施される?
初回の融資で現地調査を受けた場合は、基本的にその後の追加融資において現地調査は実施されません。ただし、業態変更や事業拡張で大きく設備を追加するなど、前回の融資時と状況が大幅に変わった場合には、再度現地調査が行われる可能性もゼロではないでしょう。
取引先の現地調査も実施される?
融資における現地調査では、基本的に融資の対象は申請者本人(またはその法人)であるためで、取引先まで現地調査が行われることはありません。あくまでも融資申込者の「事業を行う拠点」の実態を把握することが目的であるためです。
創業融資の現地調査で注意すべきこと
創業融資の現地調査で大切なのは、日本政策金融公庫の担当者に「事業をきちんと行う準備が整っている」という印象を与えることです。
以下の点を押さえておきましょう。
創業計画書に虚偽の内容を記載しない
創業計画書や事業計画書に虚偽の内容や必要以上に過大な表現を盛り込むと、現地調査で露見するリスクが高まります。業種や設備、売上見込みなどを実態とかけ離れた数字で提出すると、現場を確認された際に矛盾が目立つことになりかねません。
虚偽の記載が疑われると融資審査が通りにくくなるだけでなく、今後の追加融資にも悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
開業・創業に向けて準備を進めておく
日本政策金融公庫の担当者は「融資金をきちんと申請したとおりに事業に活用するか」を見極めたいと考えています。したがって、設備導入や内装工事、物件契約など、開業準備を具体的に進めているほど信頼度は高まります。
まだ工事の途中や書類の段階でも、「準備が着々と進んでいる」「融資を受けてからスムーズに開業できる見込みがある」と示すことが大切です。看板や表札が出せるのであれば、簡易的なものでも掲示しておくと説得力が増します。
創業融資の現地調査を成功させるために
創業融資の現地調査は、あくまでも日本政策金融公庫の担当者が「事業の実態と計画が合致しているか」を確認する場です。
つまり、正直かつ具体的な計画を立て、開業に向けた準備を着実に進めていれば、過度に心配する必要はありません。しっかりと事業内容を示し、現地調査に対応できるよう着実に開業準備を進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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