- 作成日 : 2025年6月20日
法人登記は何年ごと?役員任期の数え方や変更登記の必要書類・費用まで解説
法人登記は、会社を設立した時だけに必要なものではありません。会社の重要な情報に変更があった場合はもちろんのこと、「何年ごと」という周期で必ず見直しと手続きが必要になるケースが存在するのです。これを「法人登記の更新期間」と捉え、計画的に対応していくことが、安定した会社運営で求められます。
この記事では、多くの株式会社に関わる「役員の任期満了に伴う変更登記」を中心に、何年ごとに法人登記が必要になるのか、役員任期10年の場合の数え方、手続きに必要な費用や必要書類、そして万が一登記を忘れた場合の罰金や会社解散のリスクに至るまで、具体的に解説します。
目次
そもそも法人登記とは
法人登記は、会社の商号、本店所在地、代表者の氏名などの重要事項を法務局の登記簿に記録・公開する制度です。主な目的は以下の2点です。
- 法人の実態を公示し、取引の安全を保護する
会社の情報を公表することで、取引先等が安心して取引を行えるようにします。 - 法人の権利能力を明確にする
登記により法人格を取得し、会社名義での契約や財産所有が可能になります。
法人登記とは、公的に会社や法人が存在することを証明する登記手続きであり、登記簿に記録されることによって社会的信用を得られ、法的な活動の基盤となります。
登記事項とは
登記簿に記載される会社の情報を「登記事項」と呼びます。代表的な登記事項には以下のようなものがあります。
これらの登記事項は、会社の基本的なプロフィールを示すものであり、常に最新かつ正確な状態に保っておく必要があります。
法人登記のタイミング
法人登記の基本ルールとして、登記事項に変更が生じた場合、その変更が生じた日から原則として2週間以内に、管轄の法務局に変更登記の申請をしなければならないと会社法で定められています(会社法第915条第1項)。
株式会社の法人登記は何年ごとに必要?
多くの株式会社にとって重要なのが、「役員の任期満了」に伴う変更登記です。
株式会社の役員の任期
株式会社の役員(取締役や監査役など)には、その職務に就いていられる期間、つまり「任期」が法律で定められています。そして、この任期が満了するたびに、たとえ同じ人が引き続き役員を務める(これを「重任」といいます)場合であっても、役員が改選されたものとして、その旨の変更登記を法務局に申請しなければなりません。
取締役の任期:原則2年
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法第332条第1項)。
定款に定めることにより、非公開会社の取締役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(会社法第332条第2項)。
監査役の任期:原則4年
監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法第336条第1項)。
こちらも取締役と同様に、定款に定めることにより、非公開会社の場合の監査役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(会社法第336条第2項)。
役員の任期の数え方
役員の任期は、「選任後X年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と計算します。単純に就任日から年数を加算するわけではありません。
例えば、3月決算の会社で2025年5月25日の定時株主総会で選任され、任期が定款で10年とされている取締役の場合、その任期満了は2035年3月期に関する定時株主総会(通常2035年5~6月開催)の終結時となります。就任日からピッタリ10年後ではない点に注意が必要です。会社の事業年度や総会開催時期により変動します。
役員の任期満了時の手続き
任期満了時には株主総会で役員を選任し、その結果(重任・退任・就任)を登記します。
- 重任: 任期満了した役員が、引き続き同じ役職に就く場合
- 退任: 任期満了をもって役員を辞める場合
- 就任: 新しい人を役員として選任する場合
役員の顔ぶれが変わらない「重任」でも、法的には一度退任し再選された扱いのため、役員変更登記は必ず必要です。なお、任期途中での辞任・解任・死亡した場合も、その都度退任登記や就任登記が必要となります。
役員変更登記の必要書類
必要書類は会社の機関設計(取締役会の有無、監査役の有無など)で異なりますが、一般的なものは以下の通りです。
- 役員変更登記申請書:共通して必要
- 株主総会議事録:役員選任を決議したもの
- 株主リスト:議決権上位株主等を記載した書面
- 就任承諾書:役員の就任意思を示すもの(重任の場合、一定条件下で省略可の場合あり)
- 印鑑証明書:新任代表取締役の印鑑届出時などに必要
- 本人確認証明書:新任役員(監査役除く)に必要となる場合あり
- 定款:役員の資格・員数・任期等の確認のため
- 取締役会議事録:代表取締役選定時など
- 委任状:司法書士が代理人として申請する場合
これらの必要書類を正確に作成し、不備なく揃えることがスムーズな登記手続きには欠かせません。
役員変更登記の費用
役員変更登記を申請する際には、登録免許税を納める必要があります。
登録免許税の金額は、以下の通りです。
- 資本金1億円以下の会社:1万円
- 資本金1億円超の会社:3万円
役員変更登記の手続きを司法書士に依頼する場合、上記の登録免許税に加えて、司法書士への報酬が発生します。報酬額は事務所や依頼内容の複雑さによって異なりますが、一般的には数万円程度が目安となることが多いでしょう。
役員変更登記を怠るとどうなる?
役員変更登記を怠ると、様々な不利益やペナルティが科されます。
登記懈怠による過料
会社法第976条第1号では、登記すべき事項について、その登記を怠った者(通常は代表取締役)に対し、100万円以下の過料に処すると定められています。これが、いわゆる「登記懈怠(とうきけたい)」による罰則です。
「役員重任登記忘れ」は過料の典型例です。実際の代表者個人への過料としては、数万円から十数万円程度が多いようですが、期間が長ければ高額になる可能性もあります。
社会的信用の失墜
登記事項証明書(登記簿謄本)は、誰でも取得して内容を確認することができます。登記が長期間更新されていない会社は、「法令遵守の意識が低いのではないか」「会社の管理体制がずさんなのではないか」「本当に事業活動を行っているのだろうか」といったネガティブな印象を与えかねません。これは、金融機関からの融資審査、新規取引先との契約、許認可の取得・更新など、様々な場面で不利に働く可能性があります。
みなし解散のリスク
株式会社が最後に登記をしてから12年経過すると「休眠会社」とされ、法務局からの催告に応じないと解散したものとみなされます(会社法第472条)。
役員変更登記を怠り続けると、この12年の期間が進行し、みなし解散に該当するリスクが高まります。みなし解散が成立すると、清算会社として事業活動が停止し、清算手続きに入ります。ただし、3年以内なら株主総会の特別決議で会社を継続できますが、手続きは煩雑です。
株式会社以外の法人登記は何年ごとに必要?
ここまで主に株式会社について解説してきましたが、法人には他にも様々な種類があり、何年ごとの対応が必要になるかどうかも異なります。
合同会社(LLC)
合同会社には、株式会社のような法律上の厳密な役員の「任期」は定められていません。社員の任期は定款で任意に定めることができます。もし定款で任期を定めた場合は、その期間ごとに社員の変更(再任や退任)に関する手続きや登記が必要になることがあります。また、株式会社のような「最後の登記から12年経過によるみなし解散」の制度は適用されません。
ただし、代表社員の変更や本店移転など、登記事項に変更があった場合は、株式会社と同様に2週間以内に変更登記が必要です。代表社員の自宅住所の変更も、変更登記手続きの対象です。長期間登記を放置すると、実態と登記が乖離し、対外的な信用問題や手続きの煩雑化を招く可能性があります。
一般社団法人・一般財団法人
一般社団法人・一般財団法人の役員の任期は以下の通りです。
- 理事:選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会(または評議員会)の終結時まで(定款で短縮可)
- 監事:選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会(または評議員会)の終結時まで(定款で2年以内に短縮可) これらの任期が満了すれば、役員変更の登記が必要です。
一般社団法人・一般財団法人も、最後の登記から5年を経過すると「休眠一般法人」となります。法務局からみなし解散の通知が届く場合があり、2ヶ月以内に事業を廃止していない旨の届出等をしないと、解散したものとみなされる制度があります。
NPO法人(特定非営利活動法人)
NPO法人の役員任期は2年以内です。再任も可能ですが、その都度、社員総会での選任と所轄庁への届出、そして法務局への役員変更登記が必要です。事業年度終了後3ヶ月以内に、事業報告書等を所轄庁に提出する義務があります。3年以上にわたって所轄庁へ事業報告書等の提出がない場合、設立の認証を取り消されることがあります。認証が取り消されると、解散の手続きに進むことになります。
法人登記の更新期間を管理し、スムーズに進めるコツ
「何年ごと」の登記手続きを忘れず、かつスムーズに進めるためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
定款と登記事項証明書を定期的に確認する
法人登記の適切な管理のため、まずは自社の定款で役員の任期が何年と定められているかを改めて確認することが基本です。その上で、例えば事業年度終了後など定期的に会社の登記事項証明書を取得し、現在の会社の状況と登記内容に相違がないかを確認する習慣をつけましょう。これにより、変更点や必要な登記手続きを早期に把握できます。
専門家(司法書士)に相談する
司法書士に法人登記を依頼すると、専門知識に基づき正確かつ迅速に手続きが進み、ミスのリスクが減ります。経営者や担当者は煩雑な作業から解放され本業に専念でき、定款変更や将来リスクに関する助言も得られます。また、顧問契約により任期管理や登記忘れ防止のリマインドも期待できます。費用はかかりますが、過料やトラブルを未然に防ぐため、有効な選択肢です。
役員任期管理リストを活用する
「何年ごと」の登記忘れを防ぐには日頃の管理体制が重要です。役員の氏名、就任日、正確な任期満了日、次回手続き時期をまとめた「役員任期管理リスト」を作成し、定期的に確認しましょう。スケジュール管理ソフトやカレンダーにリマインダーを設定するのも有効な手段です。これにより、「うっかり役員重任登記忘れ」のような事態を効果的に防ぎ、計画的な手続きが可能になります。
自社で登記手続きを行う場合の注意点
自社で法人登記を行う際は、法務局のウェブサイトや手引きを熟読し、必要書類や記載例を確認することが不可欠です。不明点は事前に法務局へ相談しましょう。書類の不備は手続き遅延の原因となるため、内容、日付、押印、添付書類などを慎重にチェックし、2週間以内の申請期限を厳守してください。登録免許税の準備も忘れず、時間と手間をかけて丁寧に進める必要があります。
法人登記は何年ごとかを意識しましょう
本記事では、法人登記が何年ごとに必要となるか、特に株式会社の役員任期(原則2年~最長10年)と変更登記を中心に、その正確な任期の数え方、必要書類、登録免許税などの費用、そして登記懈怠が招く過料(罰金)や「みなし解散」といったリスクを具体的に解説しました。
法人登記は会社の信用情報であり経済活動を行う基盤です。この記事で得た知識を活かし、役員任期管理リストの活用や専門家への相談を通じて、計画的な登記管理を実践していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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