- 作成日 : 2023年4月21日
デザイン経営とは?効果や具体的な方法、中小企業の導入事例まで解説!
デザイン経営とは、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活⽤する経営手法です。ブランド力向上やイノベーションの実現といった効果があります。デザイン経営の定義やデザイン思考を理解し、デザイナーや専門人材を確保して実践しましょう。今回は、デザイン経営とは何か、効果や実現方法、中小企業の事例などを解説します。
目次
デザイン経営とは?
デザイン経営とは、デザインの力を活用して、企業価値を向上させる経営手法です。顧客のニーズにあった商品・サービスを開発し、ブランド⼒を向上させたりイノベーションを実現したりします。
従来の経営では、会社の技術や思想などを起点に商品やサービスの開発を行うケースが多く見られました。一方のデザイン経営では、商品やサービスを利用する側の立場から考えて、新しい価値を作り出そうとします。
単にデザイン性の高い商品やサービスを開発し、販売することがデザイン経営ではありません。顧客起点で考えるデザイナーの思考様式を活用し、製品・サービス・事業について根本的な課題を発見し、必要なものを生み出していきます。
経済産業省と特許庁は、日本企業のデザイン力による競争力強化に向けて「産業競争力とデザインを考える研究会」を発足し、報告書として「デザイン経営」宣言をまとめています。
つまり、デザイン経営は国をあげて推進されている経営手法なのです。
デザイン経営の定義
特許庁は、デザイン経営を「デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法」と定義しています。
また経済産業省と特許庁が発表した「デザイン経営」宣⾔によると、デザイン経営とは「デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活⽤する経営」です。
このように、デザイン経営とは、デザインを経営資源とみなし企業価値を向上させる取り組みに活用することを指します。
引用:特許庁 特許庁はデザイン経営を推進しています
引用:経済産業省・特許庁 産業競争⼒とデザインを考える研究会 「デザイン経営」宣言
デザイン思考との違い
デザイン思考は、デザイン経営のもとになっている考え方です。デザイン思考とは、もともとデザイナーが制作過程で用いる思考プロセスのことを指します。デザイナーは、「ユーザーの目にどう映るか」を重視し、ユーザーにとってのわかりやすさや使いやすさなどを考えながらアイデアを具体化していきます。こうした方法論を課題解決のフレームワークとして落とし込んだものが、現在よく使われる、デザイン思考という概念です。
1987年にはピーター・ロウ氏によって「デザインの思考過程」が刊行されていることから、デザイン思考という概念が、決して新しい考え方ではないことがわかります。
デザイン経営の効果は?
デザイン経営の効果として「デザイン経営」宣⾔では、欧⽶で実施されたデザインへの投資を⾏う企業パフォーマンスについての研究結果を紹介しています。たとえばBritish Design Councilは、デザインに投資することにより、その4倍の利益を得られるという結果を発表しています。ほかにも、さまざまな調査でデザイン経営を実施する企業が成長していることや⾼い競争⼒を保っていることが明らかにされています。
デザイン経営には、具体的に以下のような効果があります。
- ブランド力が向上する
- イノベーションを創出する
経済産業省と特許庁の「デザイン経営」宣⾔によると、デザインは「企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意思を表現する営み」です。つまり、顧客と企業が接点を持つあらゆる場面において、企業の価値観や意思を一貫して伝えることも、デザインだといえます。
デザインを活用して商品やサービスを作り、企業のメッセージを顧客に発信することで、企業のブランド価値が生まれるのです。このように、デザイン経営にはブランド力が向上する効果も期待できます。
さらにデザイン経営によって、イノベーションの創出も可能です。新しい技術を開発するだけでは、イノベーションは起こりません。発明が実用化し、社会を変えることがイノベーションです。
デザイン経営では、顧客起点で考えることにより、根本的な課題を明らかにします。結果、課題を解決する商品やサービスを生み出すことにつながり、イノベーションが創出されるのです。
参考:経済産業省・特許庁 産業競争⼒とデザインを考える研究会 「デザイン経営」宣言
デザイン経営を実現する具体的な方法は?
「デザイン経営」宣⾔では、デザイン経営と呼ぶための必要条件として、以下の2点を掲げています。
- 経営チームにデザイン責任者がいること
- 事業戦略構築の最上流からデザイン起点であること
これらを満たすために具体的にすべきことは、以下の4点です。
- 経営チームにデザイナーを配置する
- デザイン経営専門の部署を設置する
- アジャイル開発を採用する
- デザインに強い人材の採用・育成を強化する
ここでは、デザイン経営を実現する具体的な方法について解説します。
経営チームにデザイナーを配置する
経営チームにデザイナーを配置することは、デザイン経営と呼ぶための必要条件の1つです。デザイン経営を推進するために、デザインを経営戦略の中核に位置づけましょう。
経営チームのデザイナーは、経営メンバーと密にコミュニケーションをとりながら、デザイン経営を全社浸透させていく重要なポジションです。デザイン経営の責任者として、製品やサービスが顧客のニーズに沿ったものであるか、ブランディングに役立つものであるかなどを判断します。
デザイン経営専門の部署を設置する
デザイン経営を推進するために、専門の部署を設置しましょう。そして、デザイン経営専門の部署を重要なポジションに位置づけることで、部署を横断して全社的にデザイン経営を進めやすくなります。
デザイン経営の専門部署は、事業戦略の構築段階から関与することが必要です。これは、デザイン経営と呼ぶための必要条件の1つであり、上流からデザイナーが関与することで、一貫したデザイン経営を実施できます。
アジャイル開発を採用する
デザイン経営を実現するために、アジャイル開発を採用するのも効果的です。
アジャイル開発とは、「計画→設計→実装→テスト」という製造工程を機能単位の小さい1つのサイクルとして繰り返す開発手法のことを指します。
プロジェクトを上から1つずつ進めていくウォーターフォール開発と異なり、顧客ニーズの分析や仮説の立案・設計・改善といったプロセスを素早く繰り返せます。アジャイル開発を実践することによって、スピーディーに開発を推進でき、かつ顧客のニーズにあった質の高いプロダクトを作れるのがポイントです。
デザインに強い人材の採用・育成を強化する
デザイン経営を企業全体で推進するためには、デザインに強い人材の確保が必要です。デザイン経営専門部署の人材には、もちろん高いデザインスキルや経験が求められます。しかし、企業全体でデザイン経営を推進するためには、部署の人材のみがデザインに強い、という状態では不十分です。
外部の人材を活用するという方法もありますが、採用や人材育成の強化も重視しましょう。
デザイン以外にも、IT・テクノロジーに関する知識やスキルを持った人材や、優れたビジネスマインドを持った人材の確保も大切です。
デザイン経営に取り組む中小企業の事例は?
最後に、実際にデザイン経営に取り組んでいる中小企業の事例を3つ紹介します。
- 株式会社ソーキ
- モリタ株式会社
- 株式会社ファミリア
株式会社ソーキは、大阪で測量機器のレンタル業を手がける企業です。デザイン経営を全社的に推進し、ロゴのデザインやコーポレートカラー、企業理念を一新しました。デザイン思考を活かして自社の強みの再定義を行い、企業価値の向上や収益力強化を実現した事例です。
参考:MTRL 変化の時代に臨むSOOKIのリブランディング 組織の意識改革を進め、ワンチームに導く
北海道の紙箱メーカーであるモリタ株式会社は、経営者が自らデザインを学び、デザイン経営を推進した企業です。パッケージにデザイン性を取り入れ、自社の技術とデザインを組み合わせてオリジナルブランドを生み出しました。その結果、多くの企業から支持を獲得し、販路拡大を実現した事例です。
子ども用のアパレル用品製造・販売を手がける株式会社ファミリアは、デザイン経営を取り入れて「子どもの可能性をクリエイトする」を企業理念として掲げています。具体的には、売り場をアート空間に刷新したり、レストランやカフェ、アトリエなどを併設してコミュニケーションスペースに変化させたりと、さまざまな取り組みを推進しています。
参考:事業構想 5代目社長はデザイナー 老舗子供服のファミリア、脱アパレルへ
デザイン経営で競争力を強化しよう
今回は、デザイン経営とは何か、効果や実現のための方法、デザイン経営を取り入れている中小企業の事例などを紹介しました。デザイン経営は、デザインを経営資源として企業価値を向上させる経営手法です。ブランド力の向上やイノベーションの実現といった効果が期待できます。
デザイン経営を推進するためには、経営チームにデザイン責任者を配置し、事業戦略構築からデザイン経営を取り入れることが必要です。競争力を強化するために、デザイン経営の事例を参考にしながら、ぜひデザイン経営に取り組んでみてください。
よくある質問
デザイン経営とは?
デザイン経営とは、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活⽤し、ブランド力の向上やイノベーションを実現する経営手法のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
デザイン経営を実現する具体的な方法は?
デザイン経営実現のためには、経営チームにデザイナーを配置して上流からデザインに関与する体制を整え、専門部署の設置やアジャイル開発の採用、デザインに強い人材の採用・育成強化を行うことが大切です。詳しくはこちらをご覧ください。
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