• 作成日 : 2017年8月4日

私的整理における主な3つの借金返済の減額手法ってどんなもの?

個人事業主や中小企業が借金の返済に困り、再建する場合において、法的整理は民事再生や会社更生などの裁判所が関与した上で法律に基づいて行われる手続きであり、私的整理はそれ以外の手続きを言います。私的整理の場合、主に以下の3つの方法により借金返済の減額を行います。

  1. リスケジュール
  2. デッド・デッド・スワップ(以下、DDS)
  3. 債権放棄又は債務免除(以下、債権放棄)

この記事では、各手法がどれぐらい実施されているのか、また資金繰りへの影響などを簡単にご紹介します。なお、借金を株式化するデッド・エクイティ・スワップ(DES)という方法もありますが、利用されるケースは稀であるため、この記事では記載していません。(執筆者:株式会社ナレッジラボ 取締役 山邊泰匡 )

どれぐらいの借金返済の減額件数があるの?

金融庁は、中小企業金融円滑化法が施行された平成21年12月4日以降、「金融機関における貸付条件の変更等の状況(中小企業者向け)」という情報を公表しています。平成29年6月28日付の公表資料によると、個人事業主や中小企業に対する貸付条件の変更実施件数(なんらかの借金返済の減額を行った件数)は以下の通り推移しています。

平成21年12月~平成22年3月末まで:  375,905件
平成22年4月~平成23年3月末まで : 1,281,954件
平成23年4月~平成24年3月末まで : 1,234,264件
平成24年4月~平成25年3月末まで : 1,181,503件
平成25年4月~平成26年3月末まで : 1,132,943件
平成26年4月~平成27年3月末まで : 1,041,624件
平成27年4月~平成28年3月末まで :  960,339件
平成28年4月~平成29年3月末まで :  872,949件
(出典:平成29年6月28日金融庁公表「金融機関における貸付条件の変更等の状況(中小企業者向け)」)

これらの実施件数は、リスケジュール、DDS、債権放棄など全て包含されている数値と考えられます。
また、DDSと債権放棄の実施件数が網羅的に集計されている統計データは見当たりませんでしたが、中小企業庁が公表した平成28年7月1日付「中小企業の経営改善・事業再生について」という資料の中で、中小企業再生支援協議会という中小企業の再生支援を行う公的機関が実施した件数が以下の通り記されています。

平成21年4月~平成22年3月末まで:DDS 43件、債権放棄 51件
平成22年4月~平成23年3月末まで:DDS 12件、債権放棄 48件
平成23年4月~平成24年3月末まで:DDS 12件、債権放棄 30件
平成24年4月~平成25年3月末まで:DDS 112件、債権放棄 55件
平成25年4月~平成26年3月末まで:DDS 114件、債権放棄 48件
平成26年4月~平成27年3月末まで:DDS 126件、債権放棄 69件
(出典:平成28年7月1日中小企業庁公表「中小企業の経営改善・事業再生について」)

中小企業再生支援協議会が実施した件数以外に、仮に日本中で数倍のDDSや債権放棄が実施されていると仮定しても、実施件数で合計で1,000件にも及ばないものと推測されます。
このため、上記2つの公表資料から、3つの手法のうちリスケジュールが大半を占めていることが覗えます。

リスケジュールってなに?

では、借金返済の減額手法として用いられるリスケジュールとはいったいどのようなものなのでしょうか?

リスケジュールの具体例

リスケジュールは、当初の借入条件の変更を行い、返済期間の延長や一時的な返済額の減額をするものです。
借金の返済をリスケジュールした場合のイメージ図は以下のようなものです。

リスケジュール実施前は、毎年3百万円を10年間、総額30百万円返済しています。一方で、総額30百万円を15年間で返済する形にリスケジュールした場合は、毎年の返済額が2百万円に減少します。
なお、リスケジュールする際の年数や金額などは、その事業者の資金繰り状況によって異なるため、数値はあくまでも一例となります。

リスケジュールの資金繰りへの効果は?

リスケジュールを行った場合には、返済期間の延長等により一時的に借金の返済額は減額されますが、借金の返済総額は減額されません。リスケジュールは、借金の元本返済を将来に繰延べることを通じて、資金繰りを改善させる効果があります。
また、金融機関に対して、リスケジュールを依頼する場合には、同時に現状の金利水準を据え置くことも併せて依頼するケースが多いです。金利自体はリスケジュール前と同水準が維持されたとしても、借金の元本返済が当初より後倒しになるため、支払利息の負担も当初より増加することとなります。
元金返済が減少する効果と、支払利息が増加する影響がありますが、基本的には元本返済が減少する効果の方が大きいため、トータルでは資金繰りを改善させる効果があります。

DDSってなに?

次にDDSとは一体どのようなものなのでしょうか?

DDSの具体例

DDSは、既存の借入金よりも返済順位の低い借入金(劣後ローンと言われます)に契約の切り替えを行うものです。金融機関にとっては、貸出金をより条件の悪いものに変えるものであり、資金繰りに困った事業者に対する相当な金融面での支援となります。
DDSを活用して、借金返済の減額を行った際のイメージ図は以下のようなものです。

DDS実施前は、毎年3百万円を10年間、総額30百万円返済しています。一方で、借金30百万円のうち半分の15百万円をDDSに切り替えを行い、15年目に一括返済すると仮定した場合には、1~14年目の返済額が1百万円、15年目は16百万円となります。
なお、このようなケースでは、15年目のDDSの返済期限が到来する段階で、DDSの返済資金を新たな借金(DDSではない)で調達し、15年目以降の返済を緩やかにすることが実務的には行われています。

DDSの資金繰りへの効果は?

DDSは、長期間(10年や15年など)の元本返済の据え置き期間があるため、一時的に借金の返済額は減額されますが、借金の返済総額は減額されません。このためDDSは、リスケジュールと同様に借金の元本返済を将来に繰延べることで、資金繰りを改善させる効果があります。
また、借金の返済に困った場合に活用されるDDSは、事業者の抜本的な業績改善を目的としているため、年利1%以下の低金利が適用されることが多いです。このため、DDS実施前の借金よりも金利が低下し、一般的に支払利息の負担は減少することとなります。
元金返済と支払利息の負担が減少する効果により、資金繰りを改善させる効果があります。

債権放棄ってなに?

債権放棄は、金融支援策の一つとして、金融機関が経営の悪化した事業者に対して借金元本の一部を免除するものです。資金繰りに困った事業者に対して、金融機関が行う最大の支援であるため、債権放棄を実施するに際しては、事業者側に債権放棄をする経済的な合理性や理由の説明がより厳密に求められます。

債権放棄の具体例

債権放棄を活用して、借金返済の減額を行った際のイメージ図は以下のようなものです。

債権放棄実施前は、毎年3百万円を10年間、総額30百万円返済しています。一方で、金融機関から借金30百万円のうち半分の15百万円の債権放棄を受け、残りを15年間の返済に組み替えたと仮定した場合には、毎年の返済額が1百万円に減少します。

資金繰りへの影響

債権放棄は、借金の元本自体が減額されるため、資金繰りの改善効果は大きいです。これは、借金の元本自体は減額されないリスケジュールやDDSとの一番の違いになります。
また、債権放棄を受けた場合には、債権放棄後の借金に対して支払利息が発生するため、債権放棄実施前よりも支払利息の負担が減少することが一般的です。
元金返済と支払利息の負担が減少する効果により、資金繰りを改善させる効果があります。特に債権放棄は、将来返済する借金の元本自体が減少するため、リスケジュール、DDSと比べて、資金繰りの改善効果が大きいのが通常です。

まとめ

私的整理における借金の主な減額手法は、リスケジュール、DDS、債権放棄の主に3つとなりますが、実施件数から見ても圧倒的に多いのはリスケジュールと考えられます。
DDSや債権放棄は資金繰りの改善効果が大きいですが、金融機関側の負担が非常に大きいため、その事業者を支援する相当の理由がなければ実施できません。
一方で、借金の返済に困った際には、リスケジュールであれば金融機関に受け入れてもらえる余地が大きいということを覚えておきましょう。


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