• 更新日 : 2025年9月3日

デューデリジェンスとは?M&Aにおける意味や種類を解説

デューデリジェンスとは、企業の経営状況や財務状況などを調査することで、日本語に訳すと「買収監査」です。調査項目は多岐にわたり、「ビジネス」「財務」「法務」「人事」「IT」などが主要項目として挙げられます。デューデリジェンスの意味や種類、実施の流れなどをわかりやすくまとめました。

デューデリジェンスとは?

デューデリジェンスとは、投資家が投資を行う際や金融機関が引受業務を行う際に、投資対象のリスクとリターンを適切に判断するための調査のことです。英語表記は「Due Diligence」で、「Due」は当然行われるべき、「Diligence」は義務・努力をそれぞれ意味します。日本語で直訳すると「適正評価手続き」となります。

M&Aにおいては、主に買い手企業が売り手企業(対象会社)に対して実施する、詳細な企業調査を指します。この調査には、以下のような複数の重要な目的があります。

  • 対象企業の実態把握とリスクの洗い出し
    財務諸表などの資料だけでは見えない、法務・財務・事業上の潜在的なリスクや問題点を詳細に把握します。
  • 最終的な意思決定
    調査で判明したリスクなどを踏まえ、M&Aを実行するか否かの最終的な意思決定を行います。
  • 適正な買収価格の算定
    発見されたリスク(簿外債務など)や、事業の将来性を買収価格に反映させ、適正な金額を算定するための根拠とします。
  • 最終契約書への反映
    売り手が表明した内容が事実と異なる場合に備え、最終契約書に表明保証や補償条項を盛り込むための交渉材料とします。
  • M&A後の統合計画(PMI)の策定
    M&A成立後の円滑な事業統合(Post Merger Integration)を進めるための具体的な計画策定に必要な情報を収集します。

M&Aについての詳細は、こちらの記事をご確認ください。

デューデリジェンスを行うケース

企業を買収したり不動産を購入したりする際に、購入者側の負担で対象の企業や物件の状態の調査、つまりデューデリジェンスを実施することが一般的です。デューデリジェンスを行う理由としては、売却側から提示された情報のみで判断するのは、客観性や信頼性に欠けるためです。また、売却後に大きなリスクが露呈したり、場合によっては売主自身がリスクに無自覚であったりする場合もあるためといわれています。

なお、売主側が自社に対して実施する「セルサイドデューデリジェンス(セルフデューデリジェンスとも)」もあります。セルサイドデューデリジェンスは、自社の問題点を顕在化できるのがメリットといえるでしょう。また、自社の魅力への理解が深まり、相手側企業への売り込みがしやすくなる点も利点です。

デューデリジェンスの主な種類と具体的な内容

各種デューデリジェンスの、具体的な内容を解説します。

事業(ビジネス)デューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスは、M&A対象の企業や事業が、買収に値する企業であるかどうかを判断するために行う調査です。ビジネスモデルや市場・競合・収益性・事業計画などを分析して、買収に見合う企業・事業かどうかを考慮します。

ビジネスデューデリジェンスの具体的な調査内容は大きく「外部環境分析」と「内部環境分析」に分けられます。

ビジネスデューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • 市場分析
    対象事業が属する市場の規模、成長性、特性、規制などを調査します。
  • 競合分析
    競合他社の動向や力関係を分析し、対象企業の市場におけるポジション(強み・弱み)を明らかにします。
  • ビジネスモデルの評価
    製品・サービスの収益構造、販売チャネル、顧客基盤などを分析し、事業の持続可能性を評価します。
  • 事業計画の妥当性検証
    売り手から提示された事業計画が、市場環境や競争力を踏まええて現実的かどうかを客観的に評価します。
  • シナジー効果の分析
    自社事業との連携による売上増加(クロスセルなど)やコスト削減(仕入れの共通化など)の可能性を具体的に検討します。

財務デューデリジェンス

M&A対象企業の財務状況を調査するのが、財務デューデリジェンスです。具体的には、対象会社から提供された財務情報について、買主側が実態を把握し、財務状況を評価した上でリスクを特定します。将来の事業計画の基礎となる損益およびキャッシュ・フローの予測をします。

特に、中小企業の決算書は実態と大きくかけ離れている場合があるため、財務デューデリジェンスの重要性は高いといえるでしょう。

財務デューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • 収益性の分析
    過去3〜5期分の損益計算書(P/L)に基づき、事業セグメントごとの売上や利益率の推移を分析します。
  • 財産の実在性と評価
    貸借対照表(B/S)に記載された資産(売掛金棚卸資産、固定資産など)が実際に存在し、その評価額が妥当かを検証します。
  • 簿外債務・偶発債務の把握
    帳簿に記載されていない債務(未払いの残業代、訴訟リスク、債務保証など)の有無を調査します。
  • 正常収益力の算定
    役員報酬の調整や節税目的の一時的な費用などを除外し、対象会社が本来持っている「稼ぐ力」(EBITDAなど)を明らかにします。
  • 運転資本の分析
    事業を運営していく上で、常に必要となる資金(売上債権+棚卸資産-仕入債務)の増減トレンドや適正水準を分析します。

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスは、買収する企業の株式関係や社内組織の現状、関連企業、資産などの調査のことを指します。取引実行の上で弊害となったり、対象企業の価値の評価や経営判断に影響を及ぼしたりする可能性のある、法律上の問題点を見つけるために実施します。

法務デューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • 組織・株式の状況
    定款、登記簿、株主名簿などを確認し、会社の設立や株式発行が適法に行われているかを確認します。
  • 契約関係
    顧客、取引先、不動産賃貸人などとの重要な契約書を精査し、不利な条項やM&Aによって契約解除されるリスク(チェンジ・オブ・コントロール条項など)の有無を確認します。
  • 許認可
    事業運営に必要な許認可を正しく取得・維持しているかを確認します。
  • 訴訟・紛争
    現在係争中の、または将来発生しうる訴訟や労働審判などの紛争リスクを調査します。
  • 知的財産権
    特許権や商標権などの知的財産が、法的に有効に保護・管理されているかを調査します。
  • コンプライアンス
    独占禁止法、個人情報保護法、環境関連法規などの法令を遵守しているかを確認します。

人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンスは、組織や人材についての調査です。M&Aの方法によっては、2つの会社を1つにまとめます。その際、両社の人事制度などの違いで問題が発生しないよう、調査結果を踏まえて条件のすり合わせを行うことを目的に実施することがほとんどです。

具体的には、現状の組織・人員構成・キーマンの状況と労使関連の問題点を把握するといったことが該当します。

人事デューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • 人員構成と人件費
    従業員の年齢、役職、勤続年数などの構成と、人件費、社会保険料負担の実態を分析します。
  • キーパーソンの特定
    事業の継続に不可欠な役員や従業員を特定し、M&A後の離職リスクを評価します。
  • 人事制度・企業文化
    給与体系、評価制度、労働時間管理、福利厚生、企業風土などを調査し、自社とのギャップを把握します。
  • 労務リスク
    未払い残業代、不当解雇、ハラスメントなどの潜在的な労働紛争リスクの有無を調査します。
  • 退職給付債務
    将来支払うべき退職金の額が、会計上適正に計上されているかを確認します。

ITデューデリジェンス

ITシステム運用やIT資産、IT戦略などを調査する調査は、ITデューデリジェンスです。システム関連の資産査定や、M&A成立後の買主側へのシステム統合に関する障害のリスク、投資費用について予測するための調査を行います。

ITデューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • IT資産の棚卸
    ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク機器などのIT資産をリストアップし、老朽化の度合いやリース契約の内容を確認します。
  • システムの評価
    基幹システム(販売、会計など)の機能、安定性、拡張性を評価します。
  • ITコストの把握
    システムの維持・運用にかかる費用や、ライセンス契約が適正かを調査します。
  • 情報セキュリティ
    サイバーセキュリティ対策や個人情報の管理体制に脆弱性がないかを確認します。

人権デューデリジェンス

人権デューデリジェンスは、自社の事業活動やサプライチェーンにおいて、強制労働、児童労働、差別、ハラスメントといった人権への負の影響を特定・評価し、その防止・軽減を図るための一連の調査プロセスです。企業の社会的責任(CSR)やESG経営の観点から、近年その重要性が世界的に高まっています。

人権デューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • 人権方針と管理体制の確認
    企業として人権を尊重する方針を策定し、それを実行する責任者や部署が設置されているかを確認します。
  • サプライチェーンにおける人権リスクの評価
    特に原材料の調達先や製造委託先など、外部の取引先において強制労働や児童労働、劣悪な労働環境が存在しないかを調査します。
  • 労働環境の確認
    自社および主要な取引先における、労働時間、賃金水準、安全衛生(セーフティ)が、各国の法令や国際基準に照らして適切であるかを評価します。
  • 差別の有無
    採用、昇進、処遇などにおいて、人種、性別、信条などによる不当な差別が行われていないかを確認します。
  • 救済メカニズム(グリーバンスメカニズム)の整備
    従業員や取引先が人権侵害を匿名で通報できる窓口が設置され、実効的に機能しているかを調査します。

不動産デューデリジェンス

不動産デューデリジェンスは、M&Aの対象企業が所有または賃借している土地・建物などの不動産について、その価値やリスクを物理的・法的な側面から調査することです。特に製造業や小売業、不動産業など、事業における不動産の重要性が高い場合に不可欠です。

不動産デューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • 権利関係の調査
    登記簿謄本などを基に、所有権の所在、抵当権や地上権などの権利設定の有無を確認します。
  • 法令上の調査
    都市計画法上の用途地域や、建築基準法上の建ぺい率・容積率などを調査し、現状の建物の適法性や、将来の建て替え・増改築の可否を確認します。
  • 物理的な調査
    建物の構造上の安全性、耐震性、設備の老朽化、アスベスト(石綿)などの有害物質の使用状況を専門家が現地で調査します。
  • 環境面の調査
    土地の利用履歴を調査し、土壌汚染や地下水汚染の可能性の有無を確認します。
  • 経済的な調査
    周辺の取引事例や収益性を基に、対象不動産の市場価値や賃料水準が妥当であるかを評価します。

環境デューデリジェンス

環境デューデリジェンスは、対象企業やその事業拠点が、土壌汚染や大気・水質汚染といった環境問題を引き起こしていないか、また環境関連法規を遵守しているかを調査することです。企業の環境に対する責任が厳しく問われる現代において、製造業や化学工業などを中心に重要視されています。

環境デューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • 土壌・地下水汚染
    工場跡地などにおいて、過去の事業活動に起因する有害物質による土壌や地下水の汚染の有無を、資料調査や現地でのサンプリング調査を通じて確認します。
  • 有害物質の使用・管理状況
    アスベスト、PCB(ポリ塩化ビフェニル)などの法規制対象物質の使用履歴や、保管・廃棄状況が適法であるかを確認します。
  • 環境関連法規の遵守状況
    大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法などに基づき、必要な許認可の取得や行政への報告が適切に行われているかを調査します。
  • 近隣との関係
    騒音、振動、悪臭などに関して、周辺住民との間でトラブルが発生していないかを確認します。
  • 資産除去債務の評価
    将来、工場の解体時などに必要となる、有害物質の除去費用が会計上適切に計上されているかを評価します。

知的財産デューデリジェンス

知的財産デューデリジェンスは、対象企業が保有する特許、商標、著作権、ノウハウなどの知的財産(IP)について、その価値、権利の有効性、そして侵害リスクなどを調査することです。技術、ブランド、コンテンツが企業価値の源泉であるハイテク産業や製造業、エンターテインメント業界などで極めて重要です。

知的財産デューデリジェンスの主な調査項目リスト
  • 知的財産ポートフォリオの評価
    対象企業が保有する特許や商標などをリストアップし、事業への貢献度や、権利が有効に維持されているか(登録料の支払い状況など)を評価します。
  • 権利の有効性と帰属の確認
    特許の新規性・進歩性や、従業員による発明が会社に正しく帰属しているか(職務発明規定など)を確認します。
  • 権利侵害リスク(被侵害)の調査
    第三者が対象企業の知的財産権を無断で使用していないかを調査します。
  • 権利侵害リスク(加害)の調査
    対象企業の製品やサービスが、第三者の特許権などを侵害していないかを調査します。
  • ライセンス契約の確認
    第三者との間で結ばれているライセンス契約の内容を精査し、M&A後も契約が有効か、ロイヤリティの支払条件が妥当かなどを確認します。
  • 営業秘密(ノウハウ)の管理体制
    独自の製造技術や顧客リストといった営業秘密が、社内で適切に管理されているかを調査します。

デューデリジェンスの費用

デューデリジェンスにかかる費用は、調査を依頼する「買い手」が全額負担するのが一般的です。その金額は、対象企業の規模、業種の複雑さ、そして調査範囲の広さによって大きく変動します。

調査範囲を広げれば、より詳細なリスク分析が可能になりますが、その分費用は増加します。例えば、財務・法務といった主要な分野に絞るか、ITや人事、環境など多岐にわたる分野まで調査するかで費用は大きく変わります。

あくまで一般的な目安ですが、比較的小規模なM&A(売上高数億円以下)において、財務と法務のデューデリジェンスに絞って実施した場合、合計で100万円から300万円程度が一つの相場観と言えるでしょう。大企業や海外拠点の調査が加わる場合は、数千万円以上に及ぶこともあります。正確な費用は、依頼する公認会計士や弁護士などの専門家と、調査範囲をすり合わせた上で見積もりを取ることが不可欠です。

デューデリジェンスの実施方法

ここからは、デューデリジェンスの実施フローや費用および期間の目安について、解説します。デューデリジェンスを検討している場合は、ぜひ参考にしてください。

実施フロー

デューデリジェンスは、基本的に以下のようなフローで行います。

  • 資料の確認・分析
  • 現地確認
  • 聞き取り調査
  • 調査結果を踏まえた対応

なお、現地確認は、ホテルや旅館、不動産関係は必須です。また、聞き取り調査は、当該企業の経営者や役員以外にも、例えば施設などの管理担当者などに実施することもあります。

調査結果が出たら、デューデリジェンスの最終結果を報告書にまとめ、M&Aを進めるか中止するかについて、最終的な経営判断を行います。

リスクや問題がない、あるいは許容できる範囲であれば、条件や価格面での交渉に進むのが一般的です。契約書の交渉も、この後に実施します。

一方で、想定外の問題点やリスクが潜んでいることや、想定されるリスクが得られるシナジー効果やリターンなどを上回る可能性が高いこともあるでしょう。その場合は、M&Aの実施そのものを白紙に戻すか、買収価格や契約内容などを見直します。

所要期間の目安

中小規模のM&Aであれば、1~2日の間に集中的に専門家による調査と、聞き取りを実施するのが一般的です。

デューデリジェンスはM&A成約の鍵を握る調査といえます。しかし、譲受企業、譲渡企業双方にとって、M&Aは可能な限り短い期間で終わらせたいものです。必要な資料を事前に揃え、調査自体は速やかに実施するとよいでしょう。

デューデリジェンスを行う上で注意したいポイント

デューデリジェンスを行う上で、注意したいポイントは以下のとおりです。

  • M&Aの規模や内容を考慮して適正な範囲で実施する
  • 自社の各部門の担当者だけで実施しない
  • タイミングを見極めて行う
  • 優先順位をつけて計画的に進める
  • 徹底した情報管理を行う

デューデリジェンスは重要な手続きではあるものの、譲受企業、譲渡企業いずれにもかなりのストレスがかかります。そのため、時間をかけて隅々まで調査するというよりは、あらかじめ対象事業の強みと弱み・資産・負債・実態の収益力を把握し、対象範囲を絞り込むことが推奨されます。

ただし、自社の各部門の担当者だけで実施するのは避けましょう。重大なリスクを見逃す可能性があります。

また、実施するタイミングの見極めも大切です。早すぎると相手側企業から不信感を持たれるリスクがある一方、遅くなるとM&Aを検討している他の企業にチャンスを奪われてしまう可能性があります。そのほか、優先順位をつけて計画的に進めることや、徹底した情報管理を行うことも押さえておくべきポイントといえるでしょう。

デューデリジェンスのポイントを押さえて成功させよう

デューデリジェンスとは、投資家が投資を行う際や金融機関が引受業務を行う際に、投資対象のリスクとリターンを適切に判断するための調査のことです。デューデリジェンスによって判明した問題により、M&Aが破談になることもあるため最後にして最大の難関といえます。

しかし、時間をかけて隅々まで調査し尽くすやり方は、譲受企業、譲渡企業の双方に相当なストレスがかかってしまいおすすめできません。あらかじめ、譲渡企業の強みや弱み、資産などを把握しておき、対象範囲を絞り込んで効率的に実施することが重要です。流れや実施する上でのポイントを押さえて、デューデリジェンスを成功させましょう。


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