- 作成日 : 2023年11月2日
デューデリジェンスとは?具体的なチェック項目と実施方法を解説
デューデリジェンスとは、企業の経営状況や財務状況などを調査することで、日本語に訳すと「適正評価手続き」です。調査項目は多岐にわたり、「ビジネス」「財務」「法務」「人事」「IT」などが主要項目として挙げられます。デューデリジェンスの意味や種類、実施の流れなどをわかりやすくまとめました。
目次
デューデリジェンスとは?
デューデリジェンスとは、投資家が投資を行う際や金融機関が引受業務を行う際に、投資対象のリスクとリターンを適切に判断するための調査のことです。英語表記は「Due Diligence」で、「Due」は当然行われるべき、「Diligence」は義務・努力をそれぞれ意味します。日本語で直訳すると「適正評価手続き」となります。
デューデリジェンスを行うケース
欧米では、企業を買収したり不動産を購入したりする際に、購入者側の負担で対象の企業や物件の状態の調査、つまりデューデリジェンスを実施することが一般的です。デューデリジェンスを行う理由としては、売却側から提示された情報のみで判断するのは、客観性や信頼性に欠けるためです。また、売却後に大きなリスクが露呈したり、場合によっては売主自身がリスクに無自覚であったりする場合もあるためといわれています。
日本の中小企業のM&Aでも、対象企業に関するデューデリジェンスが実施されています。M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略語で、日本語では「合併と買収」のことを意味する言葉です。
M&Aについての詳細は、こちらの記事をご確認ください。
なお、売主側が自社に対して実施する「セルサイドデューデリジェンス(セルフデューデリジェンスとも)」もあります。セルサイドデューデリジェンスは、自社の問題点を顕在化できるのがメリットといえるでしょう。また、自社の魅力への理解が深まり、相手側企業への売り込みがしやすくなる点も利点です。
デューデリジェンスの主な種類と具体的な内容
デューデリジェンスの種類は、主に次の5点です。
- ビジネスデューデリジェンス
- 財務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- 人事デューデリジェンス
- ITデューデリジェンス
各種デューデリジェンスの、具体的な内容を解説します。
ビジネスデューデリジェンス
ビジネスデューデリジェンスは、M&A対象の企業や事業が、買収に値する企業であるかどうかを判断するために行う調査です。ビジネスモデルや市場・競合・収益性・事業計画などを分析して、買収に見合う企業・事業かどうかを考慮します。
ビジネスデューデリジェンスの具体的な調査内容は大きく「外部環境分析」と「内部環境分析」に分けられます。
財務デューデリジェンス
M&A対象企業の財務状況を調査するのが、財務デューデリジェンスです。具体的には、対象会社から提供された財務情報について、買主側が実態を把握し、財務状況を評価した上でリスクを特定します。将来の事業計画の基礎となる損益およびキャッシュ・フローの予測をします。
特に、中小企業の決算書は実態と大きくかけ離れている場合があるため、財務デューデリジェンスの重要性は高いといえるでしょう。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスは、買収する企業の株式関係や社内組織の現状、関連企業、資産などの調査のことを指します。
取引実行の上で弊害となったり、対象企業の価値の評価や経営判断に影響を及ぼしたりする可能性のある、法律上の問題点を見つけるために実施します。
人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスは、組織や人材についての調査です。M&Aの方法によっては、2つの会社を1つにまとめます。その際、両社の人事制度などの違いで問題が発生しないよう、調査結果を踏まえて条件のすり合わせを行うことを目的に実施することがほとんどです。
具体的には、現状の組織・人員構成・キーマンの状況と労使関連の問題点を把握するといったことが該当します。
ITデューデリジェンス
ITシステム運用やIT資産、IT戦略などを調査する調査は、ITデューデリジェンスです。システム関連の資産査定や、M&A成立後の買主側へのシステム統合に関する障害のリスク、投資費用について予測するための調査を行います。
デューデリジェンスの実施方法
ここからは、デューデリジェンスの実施フローや費用および期間の目安について、解説します。デューデリジェンスを検討している場合は、ぜひ参考にしてください。
実施フロー
デューデリジェンスは、基本的に以下のようなフローで行います。
- 資料の確認・分析
- 現地確認
- 聞き取り調査
- 調査結果を踏まえた対応
なお、現地確認は、ホテルや旅館、不動産関係は必須です。また、聞き取り調査は、当該企業の経営者や役員以外にも、例えば施設などの管理担当者などに実施することもあります。
調査結果が出たら、デューデリジェンスの最終結果を報告書にまとめ、M&Aを進めるか中止するかについて、最終的な経営判断を行います。
リスクや問題がない、あるいは許容できる範囲であれば、条件や価格面での交渉に進むのが一般的です。契約書の交渉も、この後に実施します。
一方で、想定外の問題点やリスクが潜んでいることや、想定されるリスクが得られるシナジー効果やリターンなどを上回る可能性が高いこともあるでしょう。その場合は、M&Aの実施そのものを白紙に戻すか、買収価格や契約内容などを見直します。
費用の目安
デューデリジェンスにかかる費用の目安は、以下のとおりです。
1時間あたり | 総額 | |
---|---|---|
ビジネスデューデリジェンス | 2〜10万円 | 30〜300万円 |
財務デューデリジェンス | 2〜5万円 | 100〜500万円 |
法務デューデリジェンス | 2〜5万円 | 70〜200万円 |
人事デューデリジェンス | 2〜5万円 | 44万円〜 |
ITデューデリジェンス | ※依頼数やシステム数により大きく異なる |
所要期間の目安
中小規模のM&Aであれば、1~2日の間に集中的に専門家による調査と、聞き取りを実施するのが一般的です。
デューデリジェンスはM&A成約の鍵を握る調査といえます。しかし、譲受企業、譲渡企業双方にとって、M&Aは可能な限り短い期間で終わらせたいものです。必要な資料を事前に揃え、調査自体は速やかに実施するとよいでしょう。
デューデリジェンスを行う上で注意したいポイント
デューデリジェンスを行う上で、注意したいポイントは以下のとおりです。
- M&Aの規模や内容を考慮して適正な範囲で実施する
- 自社の各部門の担当者だけで実施しない
- タイミングを見極めて行う
- 優先順位をつけて計画的に進める
- 徹底した情報管理を行う
デューデリジェンスは重要な手続きではあるものの、譲受企業、譲渡企業いずれにもかなりのストレスがかかります。そのため、時間をかけて隅々まで調査するというよりは、あらかじめ対象事業の強みと弱み・資産・負債・実態の収益力を把握し、対象範囲を絞り込むことが推奨されます。
ただし、自社の各部門の担当者だけで実施するのは避けましょう。重大なリスクを見逃す可能性があります。
また、実施するタイミングの見極めも大切です。早すぎると相手側企業から不信感を持たれるリスクがある一方、遅くなるとM&Aを検討している他の企業にチャンスを奪われてしまう可能性があります。そのほか、優先順位をつけて計画的に進めることや、徹底した情報管理を行うことも押さえておくべきポイントといえるでしょう。
デューデリジェンスのポイントを押さえて成功させよう
デューデリジェンスとは、投資家が投資を行う際や金融機関が引受業務を行う際に、投資対象のリスクとリターンを適切に判断するための調査のことです。デューデリジェンスによって判明した問題により、M&Aが破談になることもあるため最後にして最大の難関といえます。
しかし、時間をかけて隅々まで調査し尽くすやり方は、譲受企業、譲渡企業の双方に相当なストレスがかかってしまいおすすめできません。あらかじめ、譲渡企業の強みや弱み、資産などを把握しておき、対象範囲を絞り込んで効率的に実施することが重要です。流れや実施する上でのポイントを押さえて、デューデリジェンスを成功させましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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