- 作成日 : 2025年3月25日
民法555条とは?売買契約の成立要件や効果についてわかりやすく解説
民法555条とは、売買契約が成立する要件を定める条文です。売主がある商品やサービスの所有権を買主に移転することを約束し、買主が売主に代金を支払うことを約束すると売買契約が成立します。民法555条の成立要件や得られる効果、書面作成の必要性についてまとめました。関連する判例についてもわかりやすく紹介します。
目次
民法555条とは
民法555条とは、売買について規定する条文です。売買契約は、売主と買主の双方が意思を表明することによって成立します。
【民法555条】
第555条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
民法555条の概要
民法555条の「当事者」とは、売買契約を締結する「売主」と「買主」を指します。ここでの「一方」とは「売主」、「相手方」は「買主」です。
つまり、売主が有する財産権を買主に移転することを約束し、買主が財産権の受領に対する代金の支払いを約束することで売買契約が成立します。当事者双方の意思が示された時点で契約が成立するため、買主から売主に代金が支払われていない状態でも売買契約の効力が発生している点に注意が必要です。
売買契約の要件と効果について規定する
民法555条では、売買契約が成立する要件として以下のように規定しています。
- 売主が所有する商品・サービスの所有権を買主に移転することを約束する
- 買主が商品・サービスに対する代金を売主に支払うことを約束する
上記の要件すべてが満たされると、売買契約は成立したと判断されます。どちらか一方が契約を破棄する場合は、契約に則ってペナルティを課される可能性があります。
民法555条における「財産権」とは
民法555条では、売買契約成立の要件の一つとして、「当事者の一方がある財産権を相手方に移転すること」を約束することを定めています。
財産権とは、私権の一つであり、経済的利益を目的とする権利です。財産は次の種類に分けられます。
- 有体財産(不動産と動産。「物」と呼ばれる)
- 無体財産(債権や知的財産権といった権利などの「物」ではないもの)
例えば、Aが所有する車をBに100万円で与えると約束し、Bが対価として100万円を支払うことを約束すると、民法555条に則り売買契約が成立します。当事者の片方が一方的に契約を破棄できないため、何らかの事情で契約履行が難しいときは、相手方に理解を求め、なおかつ規定に即したペナルティを負うことが求められます。
他人が所有する財産も売買契約の対象となる
売買契約は一方の財産権を相手方に移転することを約束し、相手方がそれに対する代金の支払いを約束することで成立しますが、財産権の移転を約束できるのは買主が所有する財産だけではありません。
民法561条では「他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う」と定められているため、他人が所有する財産を買主に移転すると約束することも可能です。
他人が所有する財産の移転を約束したときは、売主は約束した財産を取得することから始めなくてはいけません。例えば、Cが所有する土地をDに売却することをEが約束した場合は、期日までにEは、Cから当該土地を購入する、もしくは土地を販売する権利を委託してもらうなどの対応が求められます。
民法555条の売買契約の成立要件は?書面の作成は必須?
民法555条では、売主は買主に財産権を移転することを約束し、買主はそれに対する代金を支払うことを約束すれば売買契約が成立することを定めています。約束の形態は問われないため、書面を作成しても、口約束であっても、いずれも正式な契約とみなされます。
売買契約が成立した後、売主は財産権の移転を実行し、買主は代金の支払いを実行しなくてはいけません。また、契約の対象が不動産の場合は移転登記、債権ならば債務者への通知といった付随する手続きを遂行することも、売主の義務となります。
民法555条の売買契約によって発生する効果
民法555条では、「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と定められています。「効力を生ずる」とは、契約が成立して権利や義務が発生することです。民法555条は売買契約について定める条文のため、「売買契約が成立し、当事者において権利・義務が発生する」ことを指します。
例えば、売主が買主に「土地Aを3,000万円で譲渡する」ことを約束し、買主が3,000万円の代金を支払うと約束したとしましょう。売主と買主の双方が約束をしたため、効力が発生し、売買契約が成立したと考えられます。
しかし、約束をするだけでは売買は実現しません。売主は買主が速やかに土地Aを購入できるように、所有権移転登記の手続きをサポートしたり、代金支払いの場を設けたりすることが必要です。
一方、買主も規定日までに代金を支払うことが求められます。現金を準備できない場合は、ローンを利用したり、分割での支払いが可能か買主と交渉したりする必要も生じます。
民法555条に関連する判例
山林の所有を巡る最高裁判所の判例(昭和47年5月30日判決/民集第26巻4号919頁)を紹介します。AはB等が共有する愛知県内の山林内の立木を500万円で買い受け、即日代金を支払いました。しかし、当該山林はB等が所有するものではなかったことが判明します。本来の持ち主であるCは自身の所有権を主張し、裁判所に山林や立木、伐採木の保管と立木伐採・搬出を禁じる仮処分を申請しました。
Cの申請は認められ、申請通りの仮処分が決定。Cから執行委任を受けた名古屋地方裁判所の執行官は、当該山林と山林内の立木・伐倒木をCの占有物であるとし、売買や伐採、搬出などを禁止する旨を公示しました。
立木の買主による損害賠償の請求
以上の事実は当事者間に争いがないものの、仮処分の執行によりB等が売主としての義務を履行できなくなった結果、Aは損害を被ったと主張し、訴えを起こしました。本来、売買契約において売主は、買主に目的物を引き渡すだけでなく、買主が目的物を完全に享受するために必要な行為すべてを実施しなくてはいけません。
しかし、登記をしていない立木の売買については、買主は立木の引き渡しさえ受ければ、売主の協力がなくとも伐採して利益を享受することが可能です。つまり、本件はAとB等の売買契約が締結した日に完了したと考えられます。そのため、その後の仮処分執行により立木の伐採・搬出が不可能になったとしても、それが理由でB等に債務不履行があったとはいえず、AはB等に損害賠償請求を主張できないと名古屋高等裁判所で判決が下されました。
立木の買主による上告
Aは判決を不服とし、最高裁判所に上告しました。AとB等の売買が伐採を目的としたものであることは、事実関係から明らかです。通常は伐採後、造材や搬出が実施されるため、売主は立木の引き渡しで義務が完了したと判断するのではなく、伐採・造材・搬出の期間を通して山林敷地を買主に使用させる義務があると判断するのが相当と考えられます。
伐採・造材・搬出期間中も当該敷地を使用させる義務があるならば、立木の引き渡しをもって売買契約が完了したとする原判決(名古屋高等裁判所による判決)は、民法555条の解釈・適用を誤っていると判断されます。そのため、原判決は破棄され、本件の売買契約の当事者であるAやB等について再度審理する必要があると最高裁判所で判断され、原審の差し戻しが決定されました。
売買契約は慎重に締結しよう
売買契約は、売主と買主の双方の意思表示によって成立することが民法555条で規定されています。契約書の作成有無、代金の支払い有無に関係なく、口約束だけでも成立する点に注意が必要です。
安易に売り・買いを約束したことで、違約金の支払いなどが求められるリスクも想定されます。民法555条の理解を深め、売買契約に至る行為は慎重に進めるようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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