- 更新日 : 2024年4月19日
ステマ規制とは?対象となる行為の具体例や事業者の注意点、違反リスクを解説
ステマ規制とは「PRであることを隠してする広告への規制」を意味します。景品表示法で規制されている不当表示に新たにステマが加わりましたので、事業者は注意しなくてはなりません。
具体的にどのような行為がステマ規制に引っかかるのか、注意点や違反リスクなども当記事で解説していますのでぜひご参照ください。
目次
【2023年10月施行】景表法によるステマ規制とは
ステマ規制とは、景品表示法に基づく、事業者がするステマへの規制のことです。広告であることを認識できずそのままの意味で受け取ってしまうと、消費者による自主的・合理的な選定ができなくなるおそれがあることから同法で規制されることになりました。
広告であるとわかっているかどうかは、商品・サービスの選択において重要です。広告という認識を持っていれば、「広告だから当然、自分たちの商品がよいということを強調しているのだろう」という内心を持ちつつ商品などの選択ができます。そこで多少の誇張が含まれていることを消費者は加味している、という事実を理解し、ステマ規制に配慮した広告を事業者は作っていかないといけません。
なお、厳密には景品表示法の内容が改正されたわけではありません。告示によって「細かな運用方法が変わった」という表現の方が適しているといえますが、同法の適用を受ける企業としては、法改正があった場合と同様に自社の営業方法などを見直す必要があります。
景品表示法の全体像から知りたいという方はこちらの記事も参考にしてください。
ステマ規制の対象
景品表示法では、「企業自ら提供する商品やサービスについて、次のいずれかにあたる表示はしてはいけない」としていくつか不当表示を列挙しています。そのうちの1つがこちらの規定です。
商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
同法で列挙する表示のほか、別途指定を受けた行為を規制する旨が法定されており、今回新たに追加指定されたのがステマになります。
その告示では、規制対象となるステマを次のように定義しています。
一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示
不当表示にあたるステマの要件 | |
---|---|
①事業者の表示であること | ・「事業者の表示」とは、消費者に対して商品やサービスを知らせる表示全般を指し、一般用語としての「広告」とほとんど同じように捉えることができる。 ・「事業者の表示」に該当するのは、企業自身が広告内容の決定に関わったと認められるケース。宣伝を行ったのが第三者であってもその内容の決定を企業が行っていたのであれば「事業者の表示」にあたる。 |
②消費者が広告であることを認識できない | ・事業者の表示であると明らかかどうかがポイント。表示内容を総合的に見て判断する。 ・「広告」や「宣伝」などの文言が使われているかどうかだけでなく、全体として受ける印象や認識が基準となる。 |
一般用語として使われている「ステマ」との区別が必要です。少なくとも不当表示として規制されるステマは、次の2点を満たす行為に限られます。
ステマ規制の対象となる行為の具体例
企業自身が第三者になりすまして宣伝をする
企業が自社ホームページなどで商品の宣伝をする場合、当然「事業者の表示」であるといえます。しかし、この場合は自社媒体を使っていますので、広告であることが通常は明らかです。
そこで、ステマとして問題になり得るのは、例えば「企業自身が第三者になりすまして宣伝をする行為」が挙げられます。販売促進のため、自社商品などの認知度向上を図って次のような行為をはたらくと不当表示にあたる可能性が高いです。
例1)一般消費者のふりをしてSNSアカウントを作成し、当該アカウントで商品画像や文章をSNSに投稿。自社商品の優良さについてアピールを行う。
例2)一般消費者のふりをして、自社製品と競合製品を比較し、競合製品が劣っていることを口コミサイトに投稿する。
インフルエンサーなどにステマを指示する
インフルエンサーや芸能人などがステマをすることで炎上するケースがありますが、これら第三者のするステマは景品表示法による規制の対象ではなく、違法な行為でもありません。
ただし、発信したのがインフルエンサーなどの第三者であっても、企業がステマの指示を出していたのであれば不当表示にあたります。ステマの指示が明示的に行われたときはもちろん、暗に伝えたりそのように仕向けたりしたときも不当表示にあたるステマとなり得ます。
例1)企業がインフルエンサーに対し「プロモーションであることは言わずに商品について投稿してください」とお願いした。
例2)ECサイトにて、自社製品の購入者に「高評価のレビューを付けてください」とお願いした。
例3)企業がブログ運営者に対し「自社商品と競合商品を比較して、競合商品について酷評してください」とお願いした。
例4)企業がタレントに対し、無償で商品提供をしたり、その他経済上の利益があると思わせるそぶりを見せたりして、企業の意向に沿った商品に関する投稿を行わせた。
ステマ規制の対象ではない行為の具体例
第三者に自主性が認められる投稿
次のように「第三者が自主的にした表示」と認められる投稿なら、事業者による表示とはならずステマ規制の対象にもなりません。
「商品のレビューを書いていただければ割引クーポンを配布します」と伝えた結果、商品の購入者が自主的にPRとなるようなレビューを投稿した。試供品を渡した相手が自主的にその商品のPRとなるような投稿を行った。
ただし、表示内容に関するやり取り、対価の内容によっては規制対象になる可能性もありますので要注意です。暗にステマを促す行為があってはいけません。
商品などの供給をしていない事業者による表示
「広告の制作に関与しただけの広告代理店」「表示を掲載しただけの新聞社」「商品を陳列しているだけの小売業者」などは基本的にステマ規制の対象外です。
ステマ規制は商品やサービスの供給を行っている事業者を対象としているためです。
ただし、商品などの供給を行っている事業者が表示について関与したと思われる場合は規制対象となるため注意してください。その判断においては、金銭のやり取りの有無、その金額の大きさなどがチェックされます。正常な商慣習との乖離があるときは要注意です。
ステマ規制について事業者が注意すべきこと
今回景品表示法の運用が改正されたことに伴い、一般消費者向けに商品やサービスを展開している企業は表示の在り方について一度見直す必要があるでしょう。「広告であることが伝わる表示になっているかどうかのチェック」だけでなく、「インフルエンサーなどの第三者に対する周知・啓発と表示内容のチェック」も重要なポイントです。
自社で行う表示でも広告であることを明示する
自社で行う宣伝であっても、当然に「消費者にも、企業自らしている宣伝であることはわかっているだろう」と考えてはいけません。意図せず同法で規制されるステマに該当するおそれがあります。そこで、企業自身がしている表示であることをわかりやすく示す必要があります。
「プロモーション」「PR」「広告」「宣伝」といった文字の記載はステマとなることを防ぐために有効ですが、小さい文字で記載されていたり消費者が認識しづらい箇所に記載されていたりすると対策として機能しません。
動画における宣伝においては画面上に「プロモーション」などと出力する時間や文字サイズ、色も重要になってきます。ごく短時間、画面隅に出力をしたところでステマと評価されるのを回避することは難しいでしょう。
SNS上の投稿においては、文中に「PR」などの文字を載せることも有効といえますが、大量の文章やハッシュタグに埋もれさせて表示させることのないようにしましょう。どの媒体で表示を行うにしても、実際に発信をする前に、一般消費者の目線に立って「この内容を見たときに広告としての印象を受けるだろうか」と考えることが大事です。特定の記載があるかどうかではなく、全体として広告に思えるかどうかに着目してみましょう。
インフルエンサーなどに対する周知・啓発と表示内容のチェック
インフルエンサーなどの第三者に直接ステマの指示を出さないことはもちろんですが、ステマをお願いしたかのような依頼の出し方をしないようにも注意が必要です。明示的なお願いをしていないときでも、メールや口頭でのやり取り、対価の内容、当該第三者と企業の関係性などを総合評価して不当表示かどうかが判定されます。
適切な運用をしていきたいと考える企業の方としては、第三者との窓口になる従業員、および第三者に対する周知・啓発を行うとよいでしょう。景品表示法で規制がかけられていること、どのような行為が不当表示になるのか、違反を犯したときのリスクなどを理解してもらうことで予防しやすくなります。
また、企業が一切指示をしていなくてもインフルエンサーなどが勝手にステマをしてしまうケースもあります。この場合、企業が違法になることはありませんが、一般消費者からの印象が悪くなる危険性があります。そこで、第三者に宣伝を依頼したときはその内容をチェックすることも大切です。
ステマ規制に違反するリスク
措置命令の一環としてステマ規制に反したという事実を公表されてしまい、これによって商品などへの評価、企業そのものへの信用は大きく落ちてしまうかもしれません。ステマ規制への違反で課徴金は発生しないのですが、対外的な評価が落ちてしまうことで今後の売上に大きな悪影響がおよぶ可能性があります。
なお、ステマとして行った表示内容にさらに「優良誤認」や「有利誤認」といった不当表示が含まれているときは、措置命令に加えて罰則(100万円以下の罰金)が適用されることもあります。
今後施行が予定されている景品表示法の内容
景品表示法は今回の告示以外についても改正が何度も行われており、今後もすでにその予定が組まれています。2023年5月17日に公布された改正法があり、これは公布日から1年6カ月を超える前に施行されることが決まっています。改正内容については、下の表に整理しています。
改正の趣旨 | 改正内容の概要 |
---|---|
事業者による自主的な取組を促進する | 景品表示法に違反してしまった企業が自ら是正措置に向けた手続きを行うことで、行政処分を受けずに済む制度を導入する。 |
消費者に対する返金措置を講ずることで課徴金額は減額される運用になっているが、その際の返金方法に電子マネー等も加わる。 | |
違反に対する抑止力を強める | 過去10年以内に課徴金納付命令を下されたことがある企業が違反行為をはたらいた場合、課徴金の額を1.5倍に増額する。 |
「優良誤認表示」や「有利誤認表示」に対して100万円以下の罰金刑を設ける。 | |
法執行の円滑化を図る | 国際化に対応した送達制度の整備、外国執行当局への情報提供制度の創設。 |
適格消費者団体が、表示に関して合理的な根拠を示す資料を開示するよう求められるようになる。 |
近年改正された景品表示法の内容
景品表示法について近年改正された点としては「課徴金制度の導入」が挙げられます(2016年4月1日施行)。
不当な表示を防ぐため、優良誤認表示や有利誤認表示をした企業に対して課徴金納付命令が出せるようにし、「対象商品やサービスの売上額の3%」を賦課金額とするように定められました。
あわせて、課徴金額を減額する措置も設けられています。違反行為について自主申告した場合は「課徴金額を50%減額できる」とする措置です。
この課徴金額の減額措置に関連して、さらに2023年3月14日にも改正法が施行されています。大きな変化ではありませんが、減額措置を受けるための自主報告方法が変更されています。
従来、ファクシミリによる提出が認められていたのですが、これが報告方法から除外されて①直接の持参、②書留郵便などによる送付、③メールを用いた送信のいずれかの手段によることとなりました。
インフルエンサーなどにも景品表示法の改正点を知ってもらおう
景品表示法については、ここ数年以内で何度も改正法が施行され、今後も施行予定があります。
2023年10月からの変更点については告示によるものですが、ステマが規制されるなど比較的影響の大きな変化であると思われます。今後の広告・宣伝方法について見直して、インフルエンサーなどを起用している場合はその第三者にもステマに関する注意喚起を行うとともに、チェック体制を整えるなどして不当表示をしてしまわないように注意しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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