- 更新日 : 2024年8月29日
特許実施許諾契約とは?ひな形をもとに役割や書き方を解説
特許実施許諾契約とは、特許権を取得した発明につき、第三者による実施を許諾する契約のことです。物や方法の発明、および物を生産する方法の発明について使用などを許諾します。
本記事では特許実施許諾契約の概要や契約の記載事項、テンプレートに沿った書き方などを解説します。
目次
特許実施許諾契約とは?
特許実施許諾契約とは、特許権者が第三者による特許発明の使用や特許発明の実施品の譲渡などを許諾する契約のことです。
特許権者はライセンサー、許諾を受ける側はライセンシーと呼ばれます。
特許実施許諾契約により、ライセンシーは許諾を受けた特許発明を活用して新商品を製造・販売できるようになります。
特許権者の許諾を得ずに実施した場合は特許侵害に該当するおそれがあり、必ず許諾を受け、契約を締結しなければなりません。
契約に際しては特許実施許諾契約書を作成し、許諾内容や実施料の支払方法など、さまざまな事項を定めなければなりません。契約書には対象となる特許の内容・範囲などのルールを記載し、契約に関するトラブルが起こらないよう契約内容を明確にする役割をします。
特許実施許諾契約によってライセンシーが保有する権利は実施権といい、専用実施権と通常実施権の2種類があります。
専用実施権とは、独占的・排他的に特許発明を実施できる権利であり、侵害者に対して差止請求等ができます。一方、通常実施権には独占的・排他的な実施権はなく、契約で定めた範囲内で実施できる権利です。
特許権について、詳しくは下記記事で解説しています。
特許実施許諾契約が必要になるケース
特許法上、発明は「物の発明」「方法の発明」「物を生産する方法の発明」の3種類あり、これらの分類における以下の行為が特許実施行為に該当します。これらの行為を行う場合、特許実施許諾契約が必要です。
- 「物の発明」の生産、使用、譲渡等、輸出、輸入、譲渡の申出
- 「方法の発明」の使用
- 「 物を生産する方法の発明」の「方法」を使用
- 「 物を生産する方法の発明」によって生産された「物」を使用、譲渡等、輸出、輸入、譲渡の申出
「物の発明」は、機械・器具・装置といった製品に分類されるものや、化学物質・薬剤など材料に分類されるものがあげられます。
「方法の発明」や「物を生産する方法の発明」は、物を使用する方法や取り扱う方法、制御方法、測定方法といったものがあげられます。
特許実施許諾契約のひな型・テンプレート(ワード)
以下のサイトから、弁護士が監修したワード形式の特許実施許諾契約書を無料でダウンロードできます。所定項目にメールアドレスを入力すれば、テンプレートのURLをお送りします。ぜひご活用ください。
特許実施許諾契約に記載すべき事項
特許実施許諾契約書に記載する主な項目は、以下のとおりです。
- 対象となる特許の内容・範囲
- 特許発明を実施する期間や地域
- 実施許諾料に関する事項
- 実施状況に関する情報
- 不争義務
それぞれの内容をみていきましょう。
対象となる特許の内容・範囲
ライセンシーが具体的にどのようなことができるのかを明確にするため、対象となる実施許諾の内容・範囲を定めます。
対象となる実施特許の特定は、「特許番号」と「発明の名称」を記載する方法が一般的です。特許番号とは、特許を取得したときに特許庁が付与する番号を指します。
特許発明を実施する期間や地域
特許発明を実施する期間や地域を定めます。期間は始期と終期を明確にしなければなりません。
さらに、許諾した特許についての発明を実施して生産・販売する地域を特定します。輸出禁止や、輸出する国を限定することもできます。
実施許諾料に関する事項
ライセンシーが支払う実施許諾料について記載します。
実施許諾料は法律上の特別な定めがなく、金額や計算方法、支払方法については当事者間の合意で定めます。
主な支払い方法は、契約時に一定額を定めて支払う方法と実施の程度に応じて支払う方法の2種類です。定額払いは、特許発明の実施前に一括で支払う場合と分割で支払う場合があります。
経常実施料は、ライセンシーが特許発明の実施により獲得した実績に応じた金額を支払う方法です。販売価格に応じて支払う方法と、製品の譲渡数量に応じて支払う方法の2種類があります。
実施状況に関する情報
特許発明の実施状況について、ライセンサーに報告を義務付ける項目です。一定の期間を区切って、実施が許諾の範囲内で行われているかを確認するために定めます。
実績に基づいて実施許諾料を支払う場合には、金額を正しく算定するためにも実施状況に関する情報が必要です。
不争義務
不争義務とは、ライセンシーが特許の有効性について争わない義務のことです。
対象となっている特許について、無効であることを主張して特許無効審判を申し立てる行為などを禁止することを指します。
実施許諾を与えたことにより特許権を失う事態を避けるため、不争義務を課してライセンシーが特許の無効について探りを入れることを牽制するものです。
特許実施許諾契約を作成する際の注意点
特許実施許諾契約を作成する際は、特許侵害が起きたときの対応について認識しておく必要があります。また、ライセンシーが開発した改良発明の権利に関しても注意しなければなりません。
詳しくみていきましょう。
特許侵害が起きた場合の対応
特許実施許諾契約を締結する際は、特許侵害が起きたときの対処法を把握しておきましょう。特許侵害とは、正当な権原のない者が、事業として特許発明を実施することです。「正当な権原」には、特許実施許諾契約も含まれます。
特許権が侵害されたとき、ライセンサーは許諾した実施権の種類にかかわらず、直ちに侵害行為をやめるよう差止請求ができ、侵害により被った損害賠償の請求が可能です。
一方、特許権侵害に対してライセンシーがとれる対処法は、実施権の種類によって異なります。専用実施権の場合はライセンサーと同じく差止請求権と損害賠償請求権で対応できますが、通常実施権の場合にはどちらの請求もできません。なお、独占的通常実施権の場合には損害賠償請求ができる可能性はあります。
改良発明の取り扱い
ライセンシーが開発した改良発明は、許諾を受けた特許の情報がなければなしえなかった可能性があります。
しかし、ライセンシーが開発した改良発明の権利に対し、次のような義務をライセンシーに課すことは独占禁止法で禁止されている不公正な取引方法に該当する可能性があるため注意が必要です。
- 権利をライセンサーに帰属させる
- 権利をライセンサーと共有する
- ライセンサーの独占的ライセンスとする
不公正な取引方法に該当することを避けるためには、改良技術に関する権利を相応の対価でライセンサーに譲渡するといった方法がとられます。
特許実施許諾契約に印紙は必要?
特許実施許諾契約書には、収入印紙を貼る必要はありません。特許実施許諾契約書をはじめとする知的財産に関する契約書は、印紙税法第1号の1文書の「無体財産権の譲渡に関する契約書」に該当しないためです。
なお、特許実施許諾契約ではなく、特許権等の権利譲渡に関する契約は「無体財産権の譲渡に関する契約書」に該当するため、課税文書になります。譲渡の金額に応じ、収入印紙を貼らなければなりません。
印紙税が課税される文書に該当するかどうかは、契約書の題名ではなく内容で判断されることにも注意しておきましょう。
特許実施許諾契約は対象や目的などを明確に定めよう
特許実施許諾契約とは、特許権者が依頼者に特許発明の使用や譲渡などの行為を許諾する契約のことです。契約により取得するライセンシーの権利は、独占的に特許発明を実施できる権利と契約の範囲内で実施できる権利の2種類があります。
特許実施許諾契約のような複雑な契約の締結には実務上、契約書により締結するのが通常であり、トラブルを防ぐためにも、記載すべき事項について明確なルールを記載しなければなりません。
契約当事者双方は、特許実施許諾契約書に定めた内容を遵守することが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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