- 作成日 : 2024年12月27日
飲食業におすすめの顧問契約先は?相談できる内容や費用について解説
飲食店経営において、社会保険労務士(社労士)や弁護士、税理士との顧問契約は大きな意味を持ちます。各分野の専門家とつながることで経営判断の質も上がりますし、トラブルの予防や解決にも効果的です。
ただし、専門家によって相談できる内容は異なりますし、費用も異なります。そこで事業の規模など成長フェーズに応じた活用がポイントとなります。費用なども併せてここで確認しておきましょう。
目次
顧問契約とは
顧問契約とは、特定の専門家から継続的にアドバイスや支援を受けられる契約形態のことです。
例えば飲食店経営においても労務管理や法務、税務などで専門的な知識が必要な場面は数多くあります。これらの課題に対応するために、専門家と顧問契約を交わすことになります。
企業経営において必須の契約ではありませんが、多くの企業が専門家のサポートを受けながら運営を行っているという事実は認識しておくとよいでしょう。
なお、飲食店経営では特に社労士、弁護士、税理士との顧問契約が一般的です。
顧問契約とコンサルタント契約の違い
「顧問契約」と呼ばれる契約に似た「コンサルタント契約」と呼ばれるものもあります。似ているように見えますが、その目的や役割には次のような違いがあります。
- コンサルタント契約は特定のプロジェクトや課題に対する支援を目的としているのに対し、顧問契約はより継続的・長期的な関係性構築を前提としている。
- コンサルタント契約では具体的な成果物を提供することが多いが、顧問契約では定期的な相談や助言が中心となる。
- コンサルタント契約ではプロジェクト単位の料金設定となることが多いが、顧問契約では月額で固定となるのが一般的。
顧問契約を結ぶメリット
飲食店経営者が顧問契約を結ぶことには、次のようなメリットがあります。
予防法務の実現 | 専門家に定期的に相談することで、問題が大きくなる前に対処できる。特に労務トラブルや法的リスクの予防に効果的。 |
---|---|
迅速に対処できる | 急な相談、緊急時にもスムーズに対応してもらえる。クレーム対応や労務問題など素早く決断をしたい場面で心強い味方となる。 |
コストが予測しやすい | 基本的に毎月固定の料金が発生するため、予算管理がしやすい。都度契約と比べて突発的な高額な費用の発生を抑えられる。 |
正しい知識を身に付けられる | 定期的な相談を通じて、経営者自身も専門知識に触れることができ、正しい知識を身に付けることができる。 |
開業初期や事業拡大を狙う時期には、特に専門家の支援が経営の安定性を左右する可能性が高いため、顧問契約による恩恵も大きくなるでしょう。
飲食業におすすめの顧問契約先
飲食業の経営においては、社労士・弁護士・税理士との顧問契約が一般的といえます。異なる専門分野を担当し、それぞれの側面から経営をサポートしてくれるでしょう。
社労士
社労士は、労働・社会保険に関する実務家です。企業の人事労務管理全般をサポートし、従業員が安心して働ける職場環境づくりを支援します。主な業務としては「労働保険や社会保険の手続き」「就業規則の作成・見直し」「給与計算」「人事制度の構築」などが挙げられます。
また、近年では「働き方改革関連法への対応」や「ハラスメント防止対策」など、多岐にわたる人事課題にも対応。「従業員とのトラブル予防や解決」においても重要な役割を果たします。
弁護士
弁護士は、企業活動に関わるあらゆる法的問題に対応可能な法律の実務家です。「契約書の作成・チェック」から「各種法的トラブルの解決」、さらには「事業に関連するさまざまな法規制への対応」まで幅広い法務分野をカバーします。
予防法務の観点から、問題が発生する前の段階で適切なアドバイスを提供し、企業をリスクから守る役割も担っています。顧問先によって得意分野や主な対応分野は異なりますが、ルール上、弁護士なら広範な法律問題に対処できます。
税理士
税理士は、税務・会計のプロフェッショナルとして、企業の財務面を支える実務家です。「記帳代行」「税務申告」「経理体制の構築」「財務分析」「経営計画の策定支援」なども行います。また、事業承継や組織再編といった重要な局面でも、税務・会計の視点から適切なアドバイスを提供することが可能です。
開業時の事業計画策定や資金繰りの改善、補助金の活用などに関するサポートにも対応してくれるでしょう。
飲食業の経営者が社労士に相談できる内容
飲食業では深夜営業やシフト制勤務が一般的なため、労務管理が複雑になりやすいです。従業員が多くなるほど、多様な働き方を取り入れるほど、社労士との顧問契約は大きな効果を発揮することでしょう。
従業員雇用時の給与計算や保険手続き
従業員を雇用する際は、労働条件の設定から各種保険の手続きまで、多くの実務が発生します。このとき顧問社労士は、以下のような手続きを代行し、適切なアドバイスを提供します。
給与計算については、基本給の設定から残業代の計算方法、深夜割増賃金の適用まで、労働基準法に則った制度設計をサポート。特に飲食業特有の変形労働時間制の導入や、アルバイトスタッフの勤務時間管理について、法令に準拠した体制づくりを支援します。
また、社会保険や労働保険の加入手続きも重要な業務です。パートタイマーの社会保険適用拡大への対応や、労災保険の特別加入制度の活用など、事業形態に応じた最適な保険の選択と手続きを行います。
労務トラブル
労務トラブルが発生した際の対応も、顧問社労士の重要な役割です。具体的には、従業員との間で発生した労働時間や賃金に関するトラブルについて、法令に基づいた適切な対応方法を提案。また、労働基準監督署による調査が入った際の対応支援や、是正勧告を受けた場合の改善計画の策定もサポートしてくれます。
ハラスメント問題への対応も重要です。防止規定の整備から実際に問題が発生した際の調査、解決に向けた手続きまで、包括的に顧問社労士が支援してくれます。
人事制度や就業規則の作成
従業員が安心して働ける職場を作るための人事制度の整備や就業規則の作成も顧問社労士の重要な業務です。
就業規則については、労働基準法に則った基本的な内容から、飲食業特有の勤務シフトや休憩時間の取り方、衛生管理規定まで、現場の実態に即した規則の作成を支援します。
また、従業員の増加や事業拡大に応じた規則の見直しにも対応します。
人事評価制度を設けることも大事で、時給の昇給基準や正社員登用制度の設計、職能資格制度の導入など従業員のモチベーション向上につながる制度づくりをサポートしてくれます。これらの制度設計においては、同業他社の動向や業界特有の課題を踏まえた提案が行われます。
顧問社労士がいることで経営者は日々の業務に専念しながら、適切な労務管理体制を整備することができるでしょう。
飲食業の経営者が弁護士に相談できる内容
飲食業では、顧客との直接的なトラブルから従業員との労務問題まで、さまざまな法的問題が発生する可能性があります。弁護士と顧問契約を交わすことで、これらの問題を適切に解決、また予防をすることができます。
顧客からのクレームや無断キャンセルへの対応
飲食店では日々さまざまな顧客対応が発生します。特に深刻なクレームや賠償請求、無断キャンセルなどの問題については、法的な観点からの対応が重要です。
例えば食中毒や異物混入の疑いがある場合には、事実関係の調査から賠償責任の範囲判断、保健所への対応まで求められます。弁護士がついていれば包括的に対応してくれ、事務的な作業については代行してもらうこともできます。
また、SNSでの誹謗中傷や風評被害への対処方法についても、適切な法的対応を提案してくれるでしょう。
各種契約に関する確認や相談
飲食店の運営には多くの契約が関わります。これらの契約内容の確認や交渉において、顧問弁護士のサポートは大きな効果を発揮します。
店舗の賃貸借契約なら契約条件の確認や交渉に対応し、保証金や敷金の取り扱い、中途解約時の条件など重要な項目をチェックしてくれます。
また、取引先との契約において、食材の仕入れ契約や機器のリース契約、メンテナンス契約などが発生することもあるでしょう。これらさまざまな契約書の作成・確認を依頼できます。
労務トラブル
従業員とのトラブルにおいて対応を誤ると、事業継続に大きな影響を及ぼす危険性があります。そこで経営者だけの判断で対処するのではなく、顧問弁護士にもサポートを求めることが大事です。
例えば解雇などの懲戒処分を検討する場合、その妥当性や手続きの適法性について確認をしてもらいます。パワハラやセクハラの報告があったときには事実関係を調査し、当該行為をした従業員に対する適切な処分の検討、再発防止策の策定までが必要となりますが、これら総合的な対応について顧問弁護士に相談することができます。
また、労働時間の管理や残業代請求への対応、労働基準監督署からの是正勧告への対応なども、弁護士に相談できる重要な事柄です。特にシフト制を採用する飲食店では、適切な労働時間管理が重要な課題となります。
飲食業では食品衛生法や景品表示法など業態特有の法規制も多いため、コンプライアンス体制の構築においても顧問弁護士の支援が有効といえるでしょう。
飲食業の経営者が税理士に相談できる内容
飲食業では、日々の現金取引や食材の仕入れ管理、人件費の変動など多種多様な会計処理が必要となります。そのような場合でも、顧問税理士がついていれば、税務・会計の専門家としてさまざまなサポートを受けることができます。
税務・会計に関する相談
税務申告は税理士に求められる基本的かつ重要な業務です。特に飲食業では、売上や仕入れの管理が複雑になりがちなため、日々の正確な記帳が欠かせません。顧問税理士が仕訳を対応すれば、経理業務の負担が軽減され、精度も向上するでしょう。加えて、必要な情報が顧問先に蓄えられるためスムーズな税務申告が実現されることでしょう。
また、POSレジやクラウド会計の導入のことなど多方面で相談することができます。
開業支援や事業計画の立案
開業前の事業計画策定も顧問税理士に相談できる重要な事柄です。市場の分析や競合調査に基づく売上予測、必要な設備投資、人件費の見積もりまで、現実的な事業計画の立案について相談することができます。
創業融資の獲得が欠かせない場面もあるかと思いますが、顧問税理士が事業計画書や資金計画書の作成支援をしてくれます。金融機関との交渉に役立つ財務資料の準備、プレゼンテーションのアドバイスまで、開業資金の調達を総合的に支援してもらえるでしょう。
資金繰りのサポート
飲食業では、人件費や仕入れコストの管理が収益性に大きく影響します。顧問税理士は財務分析に基づき、これらコストの適正化、原価率の改善など具体的な提案をしてくれます。
資金繰り改善に向けては、キャッシュフロー計算書の作成や運転資金の調達方法の見直しに関する相談ができます。また、季節変動の大きい飲食業特有の資金需要に対応するためにはどうすればいいのか、といった点についてもサポートが得られるでしょう。
このように、顧問税理士は単に税務申告を代行する存在ではなく、飲食店経営における財務面での重要なアドバイザーとしての役割も果たします。特に開業初期や事業拡大期には財務計画と適切な税務戦略が重要となるため、早期からの相談・顧問契約が推奨されます。
飲食業の経営者が顧問契約を検討すべきタイミング
どの専門家と、いつ顧問契約を交わしても構いません。決められたタイミングはありませんが、目安として次の3つのフェーズに分けることができます。
第1に「開業準備の段階」が挙げられます。
このフェーズから税理士との顧問契約を結ぶことで、現実的な事業計画の策定や開業資金の調達、適切な会計体制の構築が可能となります。特に創業融資の獲得においては、税理士のサポートが大きな助けとなるでしょう。
第2に「従業員を雇用し始める段階」が挙げられます。
このフェーズから社労士との顧問契約を検討します。給与計算や社会保険の手続き、就業規則の作成など、適切な労務管理体制の構築が必要となるためです。特にアルバイトやパートを多く雇う飲食店では早めの対応が重要といえます。
第3に「事業が軌道に乗り、売上や従業員が増加してきた段階」が挙げられます。
このフェーズに達すると法的リスクも高まりますので、弁護士との顧問契約も検討します。契約書の確認や労務トラブルへの対応、クレーム対策など大きな法的問題にも対処できるように備えておくと安心です。
飲食業の顧問契約の費用相場
顧問契約の費用は、店舗規模や相談内容、サービス内容によって大きく異なります。また、同じ事業者が同じ依頼をしたとしても、依頼先の専門家によって料金体系が異なるため同じ結果とはなりません。
以上の内容を留意する必要がありますが、広めに捉えた費用相場としては、顧問先1つにつき「月額1~10万円」と説明することができます。
金額を左右する要因にもいろいろあります。例えば顧問社労士であれば従業員数が重要な指標となります。10人以下なのかそれを超えるのか、それによって数万円程度変わってくるものと思われます。
顧問弁護士なら、特許関連など特殊な法律分野の取り扱いの有無、相談頻度などで変わる傾向にあります。また、他の専門家と比べて費用相場は高額になる傾向にあり、10万円近く発生することも珍しくありません。
顧問税理士の場合は売上高の規模が費用に影響する指標となることが多く、いくらを境目に顧問料を増額するのかは依頼先の税理士事務所によっても異なります。
顧問契約は事業の状況に合わせて利用しよう
飲食店において、社労士や弁護士、税理士を顧問先とすることは経営基盤を固める上で重要な意味を持ちます。
全ての専門家と一度に顧問契約を結ぶ必要はありませんが、資金調達であったり、従業員の雇用であったり、経営のフェーズに合わせて専門家活用の幅を広げていくことが重要といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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