• 更新日 : 2023年4月21日

破産手続開始原因である「支払不能」が認められるケースとは?

会社や個人が、債務超過や支払不能に陥ったとき、破産をすれば、債務の負担から解放されます。破産手続は、裁判所に申立てて行いますが、破産開始決定されるには、一定の要件を満たしていなければなりません。

本稿では、要件となる破産手続開始原因の1つである「支払不能」の判断基準等について解説していきます。

支払不能とは?

破産手続では、破産手続開始の要件の1つとして「債務者に破産手続開始原因があること」が必要となります。

この破産手続開始原因となるのが「支払不能」です。法人(合名会社と合資会社を除く)の場合は、支払不能のほか、「債務超過」も認められていますが、個人の破産の場合は債務について無限に責任を負うため、単なる債務超過は破産手続開始原因とはなりません。

破産法上での支払不能の定義

破産法では、「支払不能」とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて、一般的かつ継続的に弁済をすることができない客観的状態にあることをいいます(法2条11項)。

裁判所で支払不能が認められるには、次の3つの要件をすべて満たしている必要があります。

  1. 支払能力を欠いていること
  2. 弁済期にあるものについて債務を弁済できないこと
  3. 債務を一般的かつ継続的に弁済することができないこと

1については、債務者が支払能力を欠いていることを「支払能力の欠如」といいますが、その判断は、債務者の財産だけでなく、信用や、労務(労力・技能)による収入も考慮されます。

2は、すでに弁済期が到来している債務を弁済できるかどうかということです。したがって、まだ弁済期が到来していない将来の債務については弁済ができない見込みであっても、すでに弁済期が到来している債務の弁済ができるのであれば、この要件には該当せず、支払不能とはいえません。

3については、債務者が「弁済の一般性を欠くこと」と「弁済の継続性を欠くこと」の両方が必要です。

「弁済の一般性を欠くこと」とは、すべての債務を弁済するだけの資力がないために、総債務を通常通りに支払うことができないことを意味します。

したがって、一部の債権者には通常の弁済をできても他の債権者には弁済できない場合は、弁済の一般性を欠くことになります。

「弁済の継続性を欠くこと」とは、継続的に弁済期にある債務を弁済できないということです。

突発的な事情による資力の喪失で一時的に弁済できないときがあっても、次月からは通常通りに一般的に弁済できるような場合は弁済の継続性を欠くことにはなりません。

以上の3つの要件を客観的に満たしている状態であることが必要とされています。

債務者本人が主観的には弁済できないと判断しても、客観的にみて支払能力がある場合または一般的・継続的弁済が可能であると判断されれば、支払不能とは認められません。

支払停止と支払不能の関連性

支払不能が認められるには、上記の3つの要件を満たしていることが必要ですが、客観的状態を外部から判断するのは簡単ではありません。自己破産ではなく、申立人が債権者の場合は特にその傾向が顕著になります。

そこで破産法では、破産手続開始の申立てを行う際、支払不能の状態であることの証明を容易にするために「支払停止」があった場合には、支払不能にあるものと推定できるとしています(法15条2項)。

「支払停止」とは、債務者が支払不能であることを明示的または黙示的に外部に表明する行為のことをいいます。支払停止自体は破産手続開始原因ではありませんが、これに基づいて支払不能を推定できます。

支払不能は債務者の客観的状況ですが、支払停止は債務者の行為のことを指しています。また、支払不能は自己破産の必要条件となるのに対し、支払停止は必要条件ではありません。

支払停止について、詳しくは下記記事でも説明しています。

支払不能が認められるケース

支払不能であると判断されるには、①支払能力を欠いていること、②弁済期にある債務を弁済できないこと、③一般的かつ継続的に債務を弁済することができないこと、の3つが客観的状況として認められる必要があると説明しました。

実際には、債務者の弁済能力の有無は諸事情を踏まえて判断されるため、画一的に事例を提示することは困難です。

過去に裁判例で支払不能が認められたものとしては、「債務者が弁済期の到来している債務を現在支払っている場合であっても、債務者が無理算段をしているような場合、すなわち全く返済の見込みの立たない借入や商品の投げ売り等によって資金を調達して延命を図っているような状態にある場合には、糊塗された支払能力に基づいて一時的に支払をしたにすぎない」として支払不能を認めています(高松高裁平成26年5月23日判決)。

別の裁判例でも、「表面上は、弁済期の到来した債務を支払っていたとしても、返済の見込みのない借入等によって資金を調達して延命を図っているような状態にある場合」は支払不能が認められています(東京地裁平成22年9月16日判決)。

支払不能になった後の注意点

支払不能が認められた場合、その後に注意すべきことがあります。

偏頗弁済はしない

「偏頗弁済(へんぱべんさい)」とは、特定の債権者だけを優遇して支払いをしたり、担保を設定したりする不公平な行為のことです。

個人の自己破産の申立ての場合、通常、同時に債務を免除してもらう免責許可も申立てします。

破産法では、偏頗弁済は免責不許可事由となるため、発覚すると免責を受けられない可能性があります。また事後に破産管財人によって弁済等の効力が否定される可能性もあります。

債権者が返さない場合は、破産者自身が返済しなければならない可能性もあります。悪質と判断されれば免責を受けられず負債がそのまま残ってしまうケースもあるため、特に注意が必要です。

ムダづかい、ギャンブルをしない

免責不許可事由には、浪費または射幸行為も該当し、ムダづかいやギャンブルはこれに該当する可能性があります。

免責不許可事由があっても裁量免責の決定がなされる可能性はありますが、やはり注意する必要があるでしょう。

「支払不能」の認定要件について知っておこう!

破産開始決定の要件となる破産手続開始原因の1つである支払不能の判断基準等について解説してきました。

支払不能の状態にあるかどうかは、専門知識がないと容易に判断できません。なるべく早い時点で弁護士などの専門家に相談するのが適切です。

よくある質問

支払不能とは何ですか?

破産法における支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて、一般的かつ継続的に弁済をすることができない客観的状態にあることをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。

支払不能が認められるのはどのようなケースですか?

画一的に事例を提示することは困難ですが、債務者が無理算段をしているような場合が挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。


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