• 作成日 : 2024年12月23日

ノウハウ実施権許諾契約とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説

ノウハウ実施権許諾契約とは、企業が営業活動を行ううえで秘密に管理している技術的知識について、他社の利用を許諾する契約です。企業の大切な知的財産であるノウハウを保護し、当事者双方が活用するには、適切な契約書の作成やレビューが欠かせません。

本記事では、ノウハウ実施権許諾契約書の書き方や具体例、ポイントなどを解説します。

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ノウハウ実施権許諾契約とは

ノウハウ実施権許諾契約とは、企業がもつノウハウを第三者がビジネスに活用することを許可する契約です。特許権や著作権といった知的財産権を、第三者に対して許諾するライセンス契約の一種に該当します。

ノウハウとは、営業活動を行ううえで生み出された、社外には秘密にしている独自の情報や手法のことです。技術に関わる知識や経験にもとづく秘訣などが該当します。

ノウハウは特許のように他人の実施を排除できる法的な権利をもちませんが、発明の内容が公開される特許とは異なり、情報を社外に出さずに管理しておけます。ノウハウ実施権許諾契約を締結すると、ノウハウの秘密性を保ったまま他社にノウハウを利用してもらうことが可能です。

契約の当事者であるノウハウの所有者はライセンサー、ノウハウの使用を許可される者はライセンシーと呼ばれます。

参考:独立行政法人工業所有権情報・研修館 知っておきたい知的財産契約の基礎知識 2.知的財産の契約に関する基礎知識 

ノウハウ実施権許諾契約を締結するケース

ノウハウ実施権許諾契約を締結するケースとしては、以下のような例が挙げられます。

  • 市場の拡大を図りたい
  • 効率的にビジネスを展開したい
  • 特許と併せてノウハウも提供したい

ノウハウを提供するライセンサーとしては、ノウハウの秘密性を保ちながら市場の拡大を図りたいときにノウハウ実施権許諾契約が有効です。自社の製造技術を提供して他社に生産してもらうことで、製品市場全体の拡大スピードが早まります。

ライセンシー側としては、自社に経験や技術がない新規事業を効率的に展開したい場合に、ノウハウ実施権許諾契約を結ぶケースがあります。

また特許技術のライセンスとともに、その技術を効果的に利用するためのノウハウも使用許可する場合には、ノウハウ実施権許諾契約も必要です。たとえば、特許対象である製品を低コストで製造するには、特許明細に記載された方法以外のノウハウが必要となるようなケースが該当します。

ノウハウ実施権許諾契約書のひな形

ノウハウ実施権許諾契約を締結するには、契約内容を的確にまとめた契約書を作成しなければなりません。

ノウハウ実施権許諾契約書が曖昧であると、長年の研究や営業活動による貴重なノウハウが流出し、自社の優位性が脅かされるリスクが出てくるでしょう。

ノウハウを使用する側としては、契約書の条件をしっかり確認していなければ、ノウハウを活用することによる恩恵が期待どおりに得られない恐れもあります。

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ノウハウ実施権許諾契約書に記載すべき内容

ノウハウ実施権許諾契約書に記載すべき内容には以下のような項目があります。

  • 前文・定義
  • 実施許諾の内容・範囲
  • 対価
  • 実施状況の報告
  • 帳簿の保管と閲覧
  • 秘密保持
  • 改良技術
  • その他

ここからは、項目ごとに詳しく解説します。

前文・定義

ノウハウ実施権許諾契約書の冒頭には、契約の当事者や契約の概要を明記した前文を入れるのが一般的です。

続いて、契約書で使われる重要な用語の認識を揃えるために、用語の定義を示します。とくにライセンスの対象となるノウハウについては、ノウハウの内容を具体的に言語化したものを別紙として添えるなどして、明確に特定しなければなりません。

文言例
「本件ノウハウ」とは、本契約締結日現在甲が有している別紙1記載の製品に関するノウハウ(本製品の製造に必要なすべての情報であって、本契約締結時点で甲が保有しているもの。)をいう。

実施許諾の内容・範囲

ノウハウの実施が許諾される詳しい内容や範囲について、明確に記載します。具体的には以下のような項目を明記します。

  • 実施権の種類
  • 第三者への再実施許諾の可否
  • 許諾期間
  • 許諾地域

実施権は、独占的実施権と非独占的実施権の2つの種類があります。

  • 独占的実施権:対象ノウハウの実施をライセンサーおよびライセンシーに限定する
  • 非独占的実施権:他のライセンシーに対しても実施許諾する

ノウハウの実施を認める期間や地域(国内全域なのか、特定のエリアに限るのかなど)も、契約時にしっかり定めておきましょう。

対価

ノウハウ実施権許諾契約書には、対価を算出する方法や支払方法についても記載が必要です。ライセンス料を算出する方法としては、以下のような方式があります。

方式概要
継続支払い方式定額法契約期間のあいだ、固定額のライセンス料を支払う
定率法収益額に比例した金額をライセンス料として支払う
一括支払い方式最初に一括でライセンス料を支払う
頭金+継続支払い方式継続支払いと一括支払いを組み合わせたもの。初めに頭金を支払い、契約期間中は実績に比例したライセンス料を支払う。

支払方法として、締め日や支払日、振込手数料の負担なども明記します。

実施状況の報告

ノウハウ実施権許諾契約書には、ライセンシーにおける定期的な実施状況を報告する義務が定められているのが一般的です。

ライセンシーからライセンサーに向けた報告は、ライセンシーによるノウハウの実施が、許諾の範囲を超えて不当に行われるのを防ぐために定められます。また、実績に応じたライセンス料を支払う契約の場合、正確な対価であるかを確認するためにも報告書が必要です。

帳簿の保管と閲覧

実施状況の報告にくわえて、ライセンシーに対する帳簿の保管義務を明記することも必要です。保管している帳簿は、ライセンサーがライセンス料の正当性を確認できるよう、ライセンサーの求めに応じて提出に応じるように定められます。

そのほか、ライセンサーが委託する会計士などによる帳簿の調査に応じるように規定するケースもあります。

秘密保持

ライセンサーから提供されたノウハウについては、ライセンシーの秘密保持義務を明記しておく必要があります。ノウハウや技術的知識といった営業秘密が第三者に流出しないように、以下のような事項を定めましょう。

  • 秘密情報の定義
  • 秘密情報の目的外使用の禁止
  • 秘密情報の漏洩が起きた際の対応
  • 契約終了後の秘密情報の破棄・返還

ノウハウが第三者によって侵害され、不当な競合製品が流通した場合、ライセンサー・ライセンシーともに不利益を被ります。ノウハウの価値を維持するために、秘密保持についてもしっかり契約書に盛り込みましょう。

改良技術について

ノウハウの実施を許諾している期間中、ライセンサー・ライセンシーの双方において、新たに改良した技術を生み出す可能性もあります。その場合、改良された技術をお互いが利用できるように、その際の対応を事前に定めておくことが大切です。

お互いに改良技術を提供し合う場合もあれば、ライセンシーだけに改良技術の提供を義務付けるケースもあります。

その他

ここまで取り上げた項目以外にも、以下のような項目が契約書に盛り込まれます。

  • どちらかの契約違反による損害賠償
  • ライセンシーによるノウハウの実施から生じた損害に対する保証
  • 第三者からのクレームへの対応

トラブルを回避するためには、さまざまな事態を想定して、誰がどのように対応するのかを事前に取り決めておかなければなりません。

ノウハウ実施権許諾契約書を作成する際の注意点

ノウハウ実施権許諾契約書を作成する際には、前章で解説した記載すべき項目を、契約に沿った内容で漏れなく盛り込むことが大切です。そして、契約書に記載する内容は、独占禁止法に抵触しない公正な取引条件にしなければなりません。

独占禁止法とは、企業の自由かつ公正な競争を促進するために定められた規制です。ノウハウは、特定の法律で独占的な排他権が認められていないものですが、独占禁止法の規定が適用される特許や意匠などの技術と同様に取り扱われます。

独占禁止法にもとづいた契約書を作成するには、技術保護制度の趣旨を逸脱するような指示などは避けなければなりません。たとえば、ノウハウの実施による製品の価格や販売数量、販売先などへの規制行為によって、市場の競争が実質的に制限される場合には、独占行為とみなされる可能性があります。

参考:公正取引委員会 知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針

実施許諾と使用許諾の違い

実施許諾とは、特許や実用新案、意匠などの産業財産権をもつ者が、それらの財産権を第三者に活用を許可することです。実施許諾契約を結ぶことで、ライセンシーは他者の産業財産権を自らのビジネスで実施できる権利を得られます。

実施許諾と似た用語として使用許諾があります。これは、産業財産権を保護するそれぞれの法律において、産業財産権の対象である発明等を第三者が活用することを「実施」と表すか、「使用」と表すかの違いによるものです。

特許法や実用新案法、意匠法では、保護される産業財産権が保護する対象である物や方法、プログラムなどを、使用したり生産したりすることを「実施」と定義しています。

たとえば、特許法における「実施」は以下のように定められています。

  • 特許対象となる物の生産や使用、譲渡をする行為
  • 特許対象となる方法を使用もしくは、その方法を使って生産した物の使用、譲渡などの行などの行為

一方商標法では、商標登録された形状やデザインを、商品に付けて譲渡したり、商品や役務の提供に関する広告に付けて提供したりする行為を「使用」と定義しています。

ライセンシーに許可する権利の内容によって、実施許諾と使用許諾を使い分ける必要があります。

参考:e-Gov 特許法第2条第3項

ノウハウが営業秘密と認定される要件

企業のノウハウが営業秘密に該当するとみなされた場合、不正競争防止法による保護対象となります。

不正競争防止法とは、国民経済の健全な発展を目的とし、事業者間の公正な競争の促進や、これに関する国際約束の実施を行うための法律です。不正手段によりノウハウが悪用されて損害が生じた場合、営業秘密と認定されれば不正競争防止法が適用され、損害賠償請求が認められます。

ノウハウが不正競争防止法で保護されるには、以下の3つの要件を満たさなければなりません。

  1. 秘密として管理されていること
  2. 事業活動において有用な情報であること
  3. 公然と知られていないこと

3つの要件のうち認定の争点となることが多いのが、

1.の「秘密として管理されていること」です。

この要件をクリアするには、ノウハウを取り扱う従業員に「この情報は会社の秘密情報だ」と認識させる必要があります。

そのためには以下のような対策例があげられます。

  • 当該情報へのアクセス権を限定する
  • 情報に「マル秘」や「無断持ち出し禁止」などの表示をする
  • ルールを策定し周知する

企業の財産であるノウハウが法的な保護が受けられるように、営業秘密の要件を満たすための対策を講じておきましょう。

参考:経済産業省 不正競争防止法

ノウハウを有効活用するには適切な契約や取り扱いが重要

ノウハウ実施権許諾契約とは、企業がもつ有用な技術や知識といったノウハウを第三者に使用を許可する契約です。

ノウハウは特許や意匠のような独占排他権をもちませんが、企業の大切な知的財産として扱うことで、企業や市場全体に有益な効果をもたらします。

他社の販売力を活かして市場拡大を図りたいケースなど、他社のノウハウ実施を許諾するほうが有益な場合に、ノウハウ実施権許諾契約書を作成してライセンス契約を結びます。

ノウハウ実施権許諾契約には、当事者間での認識のズレが生じないように、対象となるノウハウの定義や許諾範囲、対価など、さまざまな取り決めを明示しなければなりません。

また、ノウハウが不正競争防止法の保護対象とみなされるためには、ノウハウに関わる情報を社内の秘密情報として取り扱うよう周知することが大切です。


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